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10話 なんか偉い人と聖女

「エザークの栽培に成功したと聞いています」


 いつも通りイキュア・クリアスへ出勤したら、なんだか偉そうな人が待ち構えていましたの。昨日押しかけてきた王宮からの使者ですわね。キコールさんとセネガーが同席の上で、話を聞きます。そしたら開口一番それでした。

 どうしてわたくしの彼氏であるプーが同席していないかと言うと。まだ偉い人の出方がわからないから、とのセネガーからの助言によります。意思を持った土人形だなんてめずらしい存在ですからね。もしかしたら連れて行かれてしまうかも、ですって! そんなの嫌です! 断固反対!

 プーも彼氏としてしっかり同席しようとしてくれたんですけれど、事情を説明しても『ぷううううう!』とぐずったので、事務職員さんといっしょに他のお部屋でかくれんぼしてもらいます。すぐにごきげんになりました。よかったです。


「エザークは、この研究所の方たちがずっと成長を見守ってきたのですわ。わたくしは種を提供し、畑仕事を手伝っただけです」


 うそではありません。今もイキュア・クリアスの敷地内に自力で踏ん張っているエザークがありますし。日夜キラキラした瞳でその花を愛でているのは研究所の方たちですし。わたくしにだってわかりますのよ。ここで王宮関係者へ「わたくしがエザークを芽吹かせましたの~」とのんきに言ったら。……たちまちめんどくさい事態になると決まっているって! ていうか、もうすでにめんどくさい!


「第四妃、ソアー=ミクータ様をご存じか」


 使者さんは三人いるんですけれど、真ん中の一番おヒゲの立派なおじさんがおっしゃいました。わたくしは「もちろん」と答えます。

 ソアー=ミクータ様は、とても遠い南国から五年ほど前にこの国の王様へ嫁いで来たお姫様です。肌が浅黒くて、髪と瞳も黒っていう、とっても異国的に色っぽい女性です。ちょっとだけお姿拝見しましたわ。エロっ! って思いました。王様、いい年してるのに若くて色っぽいお嫁さんに骨抜きってもっぱらのウワサです。親子みたいな年齢差なのにねえ!


「これは内々の情報として考えてほしい。ソアー=ミクータ様は、二年ほど前から赤面熱に臥していらした」

「あらあ、まあ!」

「――ああ、それでなのか。エザークの流通が途絶えたのは」


 キコールさんが納得したようなできないような、複雑な声色でおっしゃいます。そうですわよね。国営企業に独占されちゃって、それでわたくしを頼って来たんだもの。結果的に、いいお薬の開発をじゃまして遅らせたんですから、独占した意味なかったですね、王様。


「このたび『アニーク』によって病状の回復があった。国王陛下はいたくお喜びで、聖女アニ殿に報奨をとおっしゃっている」

「あらー。わたくし、今いただいている恩給で十分なんですけれどもー」

「これを拒否はできぬよ、聖女殿。しかし、ソアー=ミクータ様が病臥にあった事実は公にされていない。よって、エザークの栽培に関連しての表彰が決まった」

「身に余る光栄すぎてーもうなにがなにやらー」


 どうにかのらりくらりとやりたかったんですけれども、どうにもなりません。ずっと黙って聞いていたセネガーが「アニは、正式な聖女の地位に復権すると、いうことか」と低い声で言いました。なんですってえ⁉️


「そうだ。もう『無能』とも『お荷物聖女』とも、呼ばれなくなるだろう。アニ殿は完璧に理力を用いると証明されたのだから」

「うわあ、めんどくさいことになったー!」


 無能でいいんですのよ、わたくし! ぐーたら恩給生活最高! やだやだ、働きたくない!!!!!

 そもそも、キコールさんに誘われて研究員になったのは、それが人助けになると思ったからですし。べつに働きたかったわけではないです。プーを同席させなかったのは正解でした。これでゴーレム……わたくしの理力による存在がバレてしまったら、プーもわたくしも問答無用で王宮にてこき使われます! ぜったいそう! 最悪ですね!

 そして。ざわざわと、お腹の底のあたりから、鳥肌が立つ感覚を覚えます。いやだ。王都も、王宮も。


「――もしアニが、断ると言ったら?」

「あり得ない。その場合は、こちらも少々手荒になってしまう。そうはしたくない」


 部屋の中が、しんと静まり返りました。わたくしは、脇腹あたりが痛くなって体を折りました。キコールさんとセネガーが慌てた様子で声をかけてくれました。


「……聖女の立場には、戻りたくありません。王都にも、王宮にも」


 声をひねり出しました。とりあえずセネガーに言わせるんじゃなくて、自分で言わなきゃと思って。偉い人のうち誰かが「復権のなにが嫌なのか。理解しかねる」と、本当にふしぎそうにおっしゃいました。

 もしわたくしが、もう一度理力を発現できなくなったら? ――この人たちは、また手のひらを返す。

 お手洗いに行きたいって言って、お部屋を出ました。そのまましれっと研究所を出て、豆と麦へ行きました。飲んだくれていたら、夕方ごろにこっそりセネガーがプーを連れて来てくれました。プーが『ぷっぷー!』と、置いて行ったことを怒って来ました。


「ごめんなさい、わたくしも隠れてみたんですのよ! 見つけるの難しかったね!」

「とりあえず、おまえの家には、張り込みされているが。どうするんだ、これから」

「逃げたって、捕まるでしょう?」

「だろうな」


 ダナタークさんが、プーにはちみつを混ぜたお水を。セネガーへいつもの蒸留酒を持って来てくれました。今日のお帽子はつば広なやつです。お似合いです。

 お店の他のお客さんたちが「なんかあったのかい?」と聞いてくれます。あったんです。でもどう説明していいかわからない。――この東町のみなさんは、聖女なんかじゃない、ただの『ぐーたらアニ』を受け入れてくれた人たち。

 ……変わっちゃうのかな。この町も、王都みたいに。


「――おおー、アニちゃん、いるなあ! なんか探してる人がいたから、連れて来たぞー」


 常連さんのひとりが、そう言いながら店に入って来ました。……見つかるの時間の問題だと思ったけれど、連れてきちゃうの予想外なんですが! おヒゲの偉い使者さんが、すんごく怖い顔でわたくしをにらみつけました。


「――逃亡の意志ありとお見受けいたします、聖女アニ殿」

「あらー。わたくし、お腹が痛くなったらこのお店のお酒しか喉を通らないんですのー。ちょっと療養していただけですわー」


 使者さんを連れて来た常連さんは、ただごとではない空気に「えっ、えっ」と動揺しています。店内に居た他の方たちもざわざわします。わたくしはセネガーへ「プーをよろしく」と小声で耳打ちして、席を立ちました。


「ダナタークさん、お会計です」

「……多過ぎるよ、アニちゃん」

「お世話になりましたから。今までありがとう」


 使者さんの前まで行って。わたくしはそのいかめしい顔を見上げました。


「さあ、行きましょう。別れのあいさつは済みましたから」


次の更新は

4月24日(水)7:00~

とみせかけて、もう少し早くする気がします

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