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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
十之譚 雪銀ノ迷ヒ家

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〜第一話 大雪の失踪〜

 ドーモ。直也之草子十之譚第一話、始まります。2月3日の節分の日、月男宅にて直也は、降り出した雪に1年前のとある出来事を思い出す___。

 2月3日。田中家の庭先。


 石鹸を入れるネットの中に節分の豆をしこたま入れ、田中月男とその父、田中一男が向き合う。


 両者共鬼のお面代わりの般若の面を被り、豆の入ったネットをまるで鎖鎌のようにぶんぶんと回し、ジリジリとにじり寄る。


 先に月男が動く。


「鬼はぁぁあ外おおおおお!」


 踏み込み、豆入りネットを袈裟に振りかぶる月男。


「福はぁぁあ内いいいいい!」


 対して一男は、豆入りネットを逆袈裟に振り上げる。


 互いの豆入りネットがぶつかり、乾いた豆の音が響き渡る。


「鬼は外おおおおお!」


 月男が一回転して豆入りネットで一男の顔面を狙う。


「甘い!福は内ぃいいいい!」


 一男はそれを回転しながら屈んで避け、鋭角から豆入りネットで月男の顎を狙う。


「オニィッ!!?」


 月男は咄嗟に身体を反らして豆入りネットを躱し、距離を取る。


「福内ぃいいいいい!!」


 しかし、一男はすかさず接近し、豆入りネットを月男の頭に振り下ろす。


 パァァアアン!!


 一男の豆入りネットが、月男の脳天を揺らす。


「………オ………ニ……」


 ガクン、と膝を折り、庭に沈む月男。


「しょーぶありー!」


 月男の妹の幸子が、左手に持った赤い旗を上げ、決着を告げる。


「ったく、(あめ)ぇぜ月男。あそこで引いたら踏み込んでくるって分かんだろ?」


 縁側に寝っ転がりながら、田村直也はそう言って節分の豆をヒョイと口に放り込む。


「………あのさぁ……毎年言ってるけど、いい加減普通の豆撒きしねぇ?」


 直也の隣で一部始終を見ていた健悟が、そう提案する。


 すると、勝負を終えた一男が言う。


「何を言うんだね健悟、”豆チャンバラ”は毎年掃除が大変かつ落ちた豆を拾って食べるのは衛生的に良くないという、節分の問題点を解決する画期的なスポーツじゃないか」


「いや、痛えんすよ!豆を大量に入れた石鹸ネットで遠心力つけて思っきしぶん殴られんのが!」


 健悟のそんな文句に対して、直也はゲラゲラと笑う。


「おめぇマジで(よえ)ぇもんな。総当たり戦やって毎年のように全戦全敗なの、健悟だけだべ?」


 そう。この豆撒き(?)は直也、健悟、月男、そして一男の四人で毎年のように総当たり戦をやっているのだが、健悟だけ一度も勝てていないのである。


「大体、今更普通の豆撒きなんざやってもつまらんだろ。なぁ、幸子、年男?」


「うん!ウチ豆チャンバラ好きー♪」


「おもしろーい」


 幸子と末っ子の年男が同意する。


 ちなみに二人は特別枠で、終始防御のみに徹する直也に二人がかりで一発入れられたら勝利というルールで参加している。


「はーいみんなー。恵方巻きできたよー♪」


 健悟がうだうだ言っていると、丁度田中家母である結奈が恵方巻きを大皿に乗せて居間までやってくる。


「「「「わーい!」」」」


 田中家の面々が一斉に居間に上がる。


「ほら、直也くんに健悟くんも」


「あざます。ゴチになります」


 そう言って立ち上がり、自身も居間へ移動する健悟。


 直也もそれに続こうと立ち上がった、その時。


「……お?」


 はらり。と、白い寒波の便りが田中家の庭先に一粒、また一粒と振り注ぐ。


「わぁ!雪だぁ〜♪」


 食べかけの恵方巻きを皿に置き、幸子が再び庭先へ出る。


「おいおい、居間に戻ったと思ったらまた庭に出んのかよ。忙しいやつだな」


 幸子の無邪気さに、直也はそう呟いて笑う。


「天気予報で午後から雪マークだったからね。たぶん、これから本降りになって明日には積もってるんじゃないかな?」


 直也の隣に恵方巻きを持った月男が来て、そう告げる。


「そうか……積もるのか」


 振り注ぐ雪を見て、直也はどこか遠い目をする。


 こんな雪の日は、否応にも()()()を思い出す___。










―――――――――――――――――――――――










 ___あれは今から、おおよそ1年前の2月。


 その日、直也達の住む地方に大雪警戒予報が出ていた。


 その日は正に、数十年に一度の大吹雪であった。


「ひっでぇ雪。明日玄関前雪で埋まったりしねぇだろうな?」


 自宅のカーテンの隙間から大雪を眺め、直也はそう独りごちる。


 想い人である鹿乃子をデートに誘うこともできないこんな日は、家でダラダラと過ごすほかない。


 直也は窓際から離れ、リビングのソファーに寝そべる。


 直也の母の珠稀は今、自室のパソコンで在宅ワークに勤しんでいた。


 なんでも、急ぎで片付けなければならない仕事があるとかで、当分は部屋に籠りきりだろう。


 テレビでも観るか、と直也がローテーブルにあるリモコンに手を伸ばした、ちょうどその時___。


 ブー、ブー、と台所のスペースから音が鳴った。


(……また台所にスマホ置きっぱなしにしやがったな、お袋)


 珠稀は台所で飯の準備をする際、スマートフォンをダイニングに置きっぱなしにすることがある。


 先程まで台所で夕飯の仕込みをしていたから、その時に忘れていったのだろう。


 本人は調理中に職場や学校からの通知が来た時に、手が汚れててもパッと見で確認できるようにしているらしいが、それで置き忘れたまま自室に戻っていては元も子もない。


 それで後々、「スマホどこ置いたっけ〜?」と探し回る羽目になるのだ。


(仕方ねぇ。面倒くせぇが、持ってってやるか)


 直也はソファーから立ち上がり、台所へ向かう。


 スマホは台所の傍のダイニングテーブルのド真ん中に置いてあるので、すぐに目につく。


「っつうか、こんな分かりやすい場所に置いといて、逆になんでいつも忘れられ……ん?」


 直也がスマホを手に取ろうとしたその時、今しがた届いたばかりの通知が直也の目に留まる。


 それは町内会からのメッセージで、見出しは()()()()()()()()についてという、なんとも穏やかではないものであった。


 なんとなく内容が気になり、直也はスマホの通知をタップしてメッセージを開く。


 内容は以下の通りだ。


『昨日の午後より、小学一年生の宮前(みやまえ)(すぐる)君と、同学年の楢崎(ならさき)(じゅん)君、同じく同学年の鎌田(かまた)春花(はるか)さんの三人が行方不明になっています。現在町内会の有志が県警と協力して捜索を行っていますが、万が一事件の可能性を考慮し、お子様のいるご家庭は決して子供を一人で外出させないように努めてください。そして、上記の三人を目撃した方は県警、もしくは町内会の電話番号へご一報くださいますよう、よろしくお願いします。』




「マジかよ……!!」


 メッセージを読んだ直也は、思わず目を見開く。


 直也は、この三人のことを知っていた。


 直也が彼らと知ったのは三学期に入ってすぐの頃___。


 直也の学年全体の学活の一環として、一年生の子供達との交流会が行われたのだ。


 この年の一年生は少子化の影響か、四年生よりもやや人数が少ないため、直也達四年生は一班につき3、4人の面倒を見ることになっていた。


 一緒に校庭で遊んだり、給食時間を共にしたり、四年生の手作りの紙芝居を読んだりと、簡単なレクリエーションがメインの内容であった。


 四年生の直也は鹿乃子と同じクラスで、この頃は(直也にとっては)運良く同じ班であった。


 鹿乃子はこの交流会で特に張り切っていて、直也と共にオリジナルの紙芝居を作成したり、当日のレクリエーション内容の打ち合わせに勤しんだりと、その日をとても心待ちにしていた。


 迎えた交流会当日。その日直也と鹿乃子の班が担当した一年生三人が、宮前卓、楢崎准、鎌田春花の三人であった。


 はじめ三人は片腕の無い鹿乃子を見て、どこか緊張した面持ちだったが、彼女の優しさに触れるうちにいつしか緊張も解け、交流会が終わる頃には三人とも鹿乃子にとても懐いていたのを憶えている。


 直也はスマートフォンを置き、リビングのハンガーラックに掛けてあった防寒ジャケットを手に取った。


 警察や自治体の有志はアテにならない。外のこの吹雪では、捜索もロクに進んでいないだろう。


 だが直也にとってはこの程度の吹雪など、彼らを探しに行かない理由にはならなかった。


 自分が一度でも関わった人間のピンチを、放っておくことなどできない。


 何より、彼らが行方不明だと知れば、鹿乃子が悲しむ。


 或いは既に、鹿乃子もこの事を知って気を病んでいるかもしれない。


 最早自分が探しに行かない理由など、直也には無いのだ。


 防寒ジャケットのファスナーを限界まで上げ、長靴を履き、直也は玄関の扉を開け放った。


 瞬間、強烈な雪のつぶてが直也の顔面に吹き付ける。


 このような大雪、常人であればまず外に出ようとは考えないだろう。


 しかし、このような大雪だからこそ、行かなければならない。


 あの三人が今頃どうしているのかは分からないが、万が一暖房設備が整っていない空間にいた場合、最悪命に関わる。


「まってろよ、スグル、ジュン、ハルカ……!」


 直也は普段の町と違う白銀の世界へと踏み出した。






 猛烈な吹雪の中、直也は雪に足を取られながらも一歩一歩、着実に進んでいく。


 直也はなにも、闇雲に町を歩いているわけではなかった。


 直也には一つだけ、彼らの向かった場所に心当たりがあった。


 それは交流会が終わりに差し掛かった時のこと。


 直也と鹿乃子らが卓、准、春花の三人と何気ない雑談をしていた時、春花が唐突にこんな話を切り出した。


『ねぇお姉ちゃん、お兄ちゃん、知ってる?よつばのクローバーを見つけると、しあわせになれるんだって!』


 そう楽しそうに語る春花。


 なんでも、一学期に一年生で近場の山へ遠足に行った時に、担任がそのような話をして、みんなで探したらしい。


 有名な迷信だが、一年生達には新鮮な話題だったようだ。


『へぇー、そうなんだ!はるかちゃんたちは、四葉のクローバー見つかったの?』


 あえて知らなかったようなリアクションを取りながら、鹿乃子がそう訊ねた。


『わたし、みつからなかった……』


『ぼくも……』


 肩を落としながら言う春花と卓。


『おれみつけたぜ!』


 一方の准は、得意げにそう言った。


『じゅんくん、すごいね!はるかちゃんとすぐるくんも、来年はきっと見つかるから元気出して!ね?』


 准を褒め称えながら、春花と卓を慰める鹿乃子。


『そうだ!じゃあじゃあ、かのこ姉ちゃんたちにはおれがよつばのクローバー、プレゼントするよ!』


 准がとん、と自身の胸を拳で叩きながらそう告げる。


『じゅんくんズルーい!はるかがプレゼントするの〜!』


『ぼ、ぼくも!お姉ちゃんたちに、よつばのクローバー見つけてプレゼントするよ!』


 准に乗せられて、春花と卓もそう口にする。


『ふふ、みんなありがとう!楽しみにしてるね♪』


 鹿乃子が嬉しそうにそう言ったのを、今でも鮮明に憶えている。


 もしかしたら三人は、四葉のクローバーを探しに行ったのではないだろうか?


 直也達程の年齢にもなれば、冬のこの時期にクローバーは見つからないと分かるが、まだ幼い三人にはそれが判らなかったのだとしたら?


 三人の話によれば、彼らが遠足に行ったのは町からほど近い、子供でもすぐに行ける山だ。


 可能性は充分にある。


「お前ら……無事でいろよ!」


 歩みを阻む大雪に抗いながら、直也は山へ向かうのだった___。




__第二話へ続く__

 十之譚第一話、いかがでしたでしょうか?直也之草子もついに、ここまで来ました。早速ですが、十之譚最初の後書きは登場人物紹介其の四十四です。



――――――――――――――――――――――――


宮前(みやまえ)(すぐる)


・誕生日:6月6日(失踪当時7歳)


・身長:130cm ・体重:25kg


・直也と同じ学校に通う小学一年生。内向的で、自分の意見を口にするのが苦手な性格。母親が教育熱心で、近々中学受験のための塾に通う予定。失踪当時は、珍しく自らの意思で四葉のクローバーを探しに行った。

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