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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
九之譚 正月化カシ

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〜第七話 かくれんぼ〜

 ドーモ。九之譚第七話、始まります。化け狸の少女達を追って本殿の前まで来た直也と健悟。しかしそこに、彼女達の姿は無く___。

「オラァアッ!どこじゃクソガキ共ォオ!!」


 さながら闇金の取り立ての如く、乱暴な口調で本殿の前までやってくる直也。


「おまっっ、直也靴!脱げって!」


 後からやってきた健悟が焦りながら言う。


 直也が現在立っている場所は本殿の扉前の渡り廊下のスペースで、直也は横から仕切りを乗り越えて土足で渡り廊下に踏み込んでいた。


「どうせあの狸共だって土足でここらへん歩いてんだろ?なら今更俺が土足で歩いたって変わらねぇよ。それに、その辺り気にして一々靴脱いでたら後々あいつらを追いかける時にタイムロスしちまうかもしれねぇじゃねえか」


 慌てる健悟に、直也は悪びれもせずに言う。


「おりつ姉ちゃんだって、毎年あの狸共に手ぇ焼いてるらしいって、おめぇもここに来る前に言ってたじゃねえか。なら少しくらい汚そうが、神様だって許してくれるだろ」


 直也は土足のままズカズカと本殿の扉前まで進む。


「……健悟、これ見ろ」


 小声で「すみません、失礼します……」と呟きながら、靴を脱いで渡り廊下の仕切りを乗り越える健悟に、直也はしゃがみ込んである物を見せる。


「ん?それ……錠前か?」


 直也の視線の先にある物は、金具のついた錠前だった。


「扉の金具ごと壊されてやがる。たぶん、中に侵入するためになんかで殴って壊したんだろうよ」


「それじゃあ……その狸達は今、本殿の中に?なんちゅー罰当たりな……」


 呆れ気味に健悟が呟いた次の瞬間、直也は立ち上がり、本殿内部へ繋がる両開きの扉に両手をかける。


「っ!?ちょっっ、直也!?いくらなんでも本殿に無許可で立ち入ったら___」


 健悟の制止も聞かず、直也は本殿の扉を開け放った。


 中は綺麗に掃除が行き届いており、一番奥には厳かに飾られた幅広の台座があり、その上に一つ、桐の木箱が鎮座し、その両脇に燭台が置かれている。


「あ"ぁ"〜〜開けちゃったよぉお〜〜!お前マジで知らねぇからな!?」


「あいつらが侵入してるかもしれねぇなら、今更だろ?日和ってんじゃねえよ」


 直也はそのままズカズカと本殿に侵入し、中を見回す。


 中は精々たたみ十畳程で、そこまで広い空間ではない。


 というより、隠れられる場所などほとんど無いと言っていいだろう。


 直也は本殿の中で唯一隠れられると思われるスペース……台座に近付く。


 台座には全体を覆うように藍染めの布が被せられており、台座の裏には僅かにスペースがある。


 まず直也は、台座の裏を覗き込む。


 ……が、誰も居ない。


 直也は台座に背を向け、1、2歩出口方向へ歩く。


 次の瞬間、直也は振り返り、台座に被せられた藍染めの布をバッとめくる。


 台座の裏に居ないとくれば、考えられる残りの可能性は布の下に隠れられるスペースが存在する可能性だ。


「い、居たか……?」


 本殿の出入り口の辺りから、健悟がおそるおそる訊ねる。


「…………チッ」


 布の下の台座は八脚のテーブル状になっていて、確かに人の隠れられそうなスペースは存在した。


 しかし、結局そこにも誰も居なかった。


「健悟、ここはハズレだ。他探すぞ」


 苦々しそうな顔で本殿を出る直也。


 健悟は少しだけ安堵する。流石の直也でも、御神体があると思われる木箱を開けるような罰当たりな真似はしなかった。


 もっとも、木箱は動物が隠れられる程の大きさには見えないため、探す意味は無いと思っただけかもしれないが……。


「クソッ、ぜってぇここにいると思ったのによ!」


「たぶん、最初はいたずらしようと鍵を開けたんだろうけど、俺らが来るのに気付いて咄嗟にどっか別の場所に逃げたんだろ。行こうぜ?」


 直也にそう言って歩き出した瞬間、健悟は誤って落ちていた金具のついた錠前を蹴り飛ばしてしまう。


「あっヤベ___」




『あいたっ!?』




 声がした。


 健悟がうっかり蹴り飛ばした錠前が、渡り廊下の屋根を支える柱に当たった瞬間。


「……」


「……」


 思わず言葉を失い、顔を見合わせる直也と健悟。


 直也は柱にぶつかった錠前をおもむろに拾い上げ、次の瞬間あらんばかりの握力で錠前を握り締める。




『あだだだだだだだだ!?』




 ボフン!と、錠前から勢い良く煙が立ち込める。


「ぅおうっ!?」


「そういうことかテメェッ!!」


 直也は今しがた錠前を握っていた手で思い切り煙を払いのける。


 煙が晴れると、渡り廊下の仕切りを乗り越えて再び幣殿脇へ逃げていく、人間の少女姿の手鞠がいた。


「見つけたぞおオオ!逃がすかァアア!!」


 渡り廊下の仕切りを乗り越え、手鞠を追う直也。


 化け狸が人間の姿に化けることはこれまでで充分学んでいたが、まさか生物以外の物体にまで化けられるとは、予想外だった。


 直也が手鞠を追う一方、追われる手鞠は幣殿の脇を抜けようとしているところを___。


「あーー!たぬきちゃんいたーー!!」


 幸子、月男、そしておりつの三人が、正面からやってくる。


「ゲゲっ!?」


「いたわね、いたずら狸!!観念しなさい!!」


 ジリジリと手鞠に詰め寄るおりつ。


 正面からはおりつ、後方からは直也が迫っているというこの状況に、手鞠は焦る。


 焦った末、手鞠は___。


「___えいっ!!」


 ボフン!と、再び変化の術を使う。


 煙が晴れると、そこにいる手鞠は茶屋の時と同様に、鹿乃子に瓜二つの姿になっていた。


 丁度その時、直也が幣殿の脇道までやってくる。


「今度こそ逃さ___かのこ!?」


「なおくん、またこの人がたぬきだよ!!」


 鹿乃子に化けた手鞠は、そう言いながらおりつを指差す。


「は?」


 あまりにも白々しい行いに、思わずポカンとするおりつ。


 次の瞬間___。


「二度も同じ手に乗るかテメェエエエエ!!」


 そう言いながら直也は勢い良く助走をつけ___。


 ___おりつに《飛びつき腕ひしぎ逆十字固め》をお見舞いした。


「ぎゃあーーーーーーーー!!?」


 倒れ込み、悲鳴を上げるおりつ。


「オラッ!参ったか、このクソ狸めが!!」


 絶えずおりつに技をかけ続ける直也。


 逃げていく鹿乃子の姿をした手鞠。


「直也直也」


 直也の傍にしゃがみ込む月男。


「おう、月男!!ようやっとこのクソ狸を捕まえ___」


「それ、おりつ姐さん」


「___あ"??」


 ピタリ、と。


 おりつの腕を絞め上げる手を止める直也。


 そして、冗談だよな?とでも言いたげな様子で、おもむろに月男に視線を向ける。


「その人、おりつ姐さん」


「たぬきちゃんはあっち!」


 再び直也似現実を突きつける月男と、逃げていく鹿乃子の姿の手鞠を指差す幸子。


 直也達から充分離れたところで、手鞠は元の少女の姿に戻る。


「やぁ〜〜い!ひっかかってやんの〜〜!バ〜カ!!」


 逃げていく手鞠。


 それを呆然と見送ったのち、ゆっくりとおりつに視線を移す直也。


 そんな直也を渋い顔で睨むおりつ。


「………」


「………」


 直也は技を解き、おもむろに正座をする。


「………エヘヘ☆」


 次の瞬間、直也の頭に巫女の拳骨が振り下ろされた。









「まったく……酷い目に遭ったわ!!」


「いや、マジで済まねぇ……」


 プンプンと怒るおりつと、ションボリと項垂れる直也。


「たぬきちゃん、逃げちゃったね〜……」


 残念そうに呟く幸子。


「直也のせいだよ?一度騙されてるのに、相手がゆずみんの姿してたら無条件に信じちゃうから……」


「グゥッ!?」


 月男の指摘に何も言い返せず、直也は押し黙る。


「ま、まぁまぁ。狸の子には逃げられちゃったけどさ?いたずらなんかの被害は、最小限で済んだんじゃね?」


 健悟の言葉に、おりつは頷く。


「んー、まぁねー。いつもなら建物のあちこちに落書きされたり壊されたり……掃除や修繕が大変な例年に比べれば、確かにマシな方ね」


「でも、直也とおりつ姐さんの話を纏めると、たぬっ()はあと二匹……人型だから二人?いるんでしょ?その子達はどうしたんだろう?」


 月男が首を傾げる。


「さあ?たぶんその子らももう逃げたんじゃね?」


 健悟がそう口にした、その時___。




「はぁ〜〜なぁ〜〜せぇ〜〜〜!!はなせよ〜〜〜!!」


「ひぃぃ……!!」




 直也達から離れた位置……幣殿と本殿を結ぶ渡り廊下の向こう側から、二人の少女の声が聴こえた。


「ア?」


「な、なんだ?」


 互いに顔を見合わせる直也達。


 直也は小走りで渡り廊下まで向かい、渡り廊下の仕切りを乗り越え、反対側を覗き込む。


「あ!ちょっと、土足で……!!」


 おりつが文句を言うが、直也はそれを無視して渡り廊下の反対側にいた人物達に声を掛けた。


「かのこ!祝斗!」


 そこにいたのは、境内の入口で健悟達と二手に別れた祝斗と鹿乃子……更に、直也とおりつが目撃した残り二匹の化け狸の少女、小鞠と伊鞠だった。


 小鞠と伊鞠はそれぞれ、祝斗に手首と首根っこを掴まれている。


「こら。おとなしくするんだ」


「えっと……いたずらしちゃ、ダメだよ?神社のお姉さんに、ちゃんとごめんなさいしようね」


 祝斗と鹿乃子の二人は、小さな子供に言い聞かせるような口調で化け狸の少女達にそう語りかけた。









―――――――――――――――――――――――









(___つい逃げてきちゃったけど……)


 樹木の密集した緩やかな山の傾斜で、手鞠は神社の方を振り返る。


 上手く変化の術で隠れていたつもりが見つかって、妹達を置いてきてしまった。


(まさか、捕まってないよね!?)


 小鞠も伊鞠も、上手く変化していたから問題無いとは思うが、やはり姉としては心配なのだ。


 それに……。


(……)


 今日、偶然にも再会したあの少年。


 1年と少し前、危険を顧みずに自分を助けてくれた勇敢な少年。


 怖がる自分をそっと撫でて、微笑んでくれた優しい少年。


 今を逃せば、もうあの少年に会えないかもしれない。


(……よ、よーし、小鞠と伊鞠を助けに行かなきゃ!)


 あくまでも妹達のため。まるで自分に言い聞かせるようにそう意気込み、手鞠は来た道を引き返そうとする。


 その時___。


「あっ___」


 ポロッと。


 手鞠の懐から、ある物が落ちる。


 それは、手鞠の手のひらに収まるサイズの、丸い青石だった。


 何を隠そう、それは本殿の桐の木箱の中に鎮座していた、神社の御神体だった。


 壊れた錠前に変化する前に、こっそり持ち出していたのだ。


 ……尤も、手鞠はこれが()()()()()()()()()()()であることを知っている。


 それは、手鞠の一族には有名な話だ。だからこそ、手鞠もいたずら感覚で持ち出したのだ。


 とはいえ、まったく意味や価値の無い代物というわけでもない。


 お供え物や池の鯉であれば容赦なく奪っていくつもりだった手鞠も、こればかりはちょっと驚かせたらすぐに返すつもりでいた。


「ま、待って!」


 斜面を転がっていく御神体を必死に追いかける手鞠。


 御神体は、崖の手前の樹の根元に引っ掛かって動きを止めた。


 ほっと胸を撫で下ろし、手鞠は樹の根元に引っ掛かったそれを拾おうとした。


 その刹那___。


 ボロッと、手鞠の足下の土が崩れ、小規模の地滑りが起こる。


 それに巻き込まれるように、手鞠は崖に身を乗り出す。


「あっ!?」


 手鞠は間一髪のところで目の前の樹の根を掴む。


 ギリギリのところで崖から落ちずに持ち堪えたが、手鞠は現状自らの握力のみでには腕力だけで自らの体を引き上げる力は無い。


 更に、この状況になるまで気付かなかったが崖の高さは10メートル程あり、落ちたら無事では済まないだろう。


(こ、これ……ヤバ……!!)


 手鞠は今、絶体絶命の状況に立たされていた。



__第八話へ続く__

 九之譚第七話、いかがでしたでしょうか?


 なろうチアーズプログラムのキャンペーンが始まってから、なんとか週一ペースでの投稿を続けていますが、正直結構キビシイ……。万が一にも話を書く手が止まってしまえばそれで終わりなので、結構ギリギリのところでなんとかやってる感じです(笑)


 さて、おそらくですが、九之譚は次で終わりかなって思ってます。はたして、再び崖から落ちそうになってしまった手鞠の運命はいかに___!?

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