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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
九之譚 正月化カシ

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〜第四話 妹狸〜

 明けましておめでとうございます。九之譚第四話、始まります。突如として直也達の前に現れた少女。その正体は毎年正月の時期になると神社に現れる化け狸らしく___。

「もうちょっとでダマせるところだったのにさ!」


 吐き捨てるようにそう言う、タヌキのような耳と尻尾を持つ少女。


「な、なんだテメェは!?」


「………べぇーだ!」


 直也の問いに答えることなく、少女は直也にあっかんべーをして、神社の方へと走り去っていく。


「あ!テメッ……待ちやがれ!!」


 咄嗟に追いかけようとした瞬間、グニュっとした感触が右足の裏を伝う。


「……あ?」


 直也が足をどけると、そこには先程まで鹿乃子に化けていた少女が持っていたかりんとうが潰れていた。


 しかし、かりんとうにしては踏んだ時の感触がおかしい。


「ま、まさか……」


 直也はおそるおそる靴を脱ぎ、かりんとう?を踏んだ靴の裏の匂いを嗅ぐ。


「………ぐぇえ〜〜〜!!犬の糞だこれ!!」


 鼻がひん曲がりそうなその臭いに、直也はすぐにかりんとうの正体に気付く。


「そうか……どうりで怪しいと思った」


 祝斗が潰れたかりんとうもとい犬の糞を見ながら呟く。


「危なかったね〜直也。危うく犬の糞を食べさせられるところだったよ」


「………」


 月男がそう言うと、直也は何も言わず、おもむろに靴を履き直す。


「………許さねぇ」


 直也は今、激しい怒りに燃えていた。


「かのこの許可も無くかのこの姿に化けるという大罪を犯したうえ……その姿で俺を謀り………挙げ句犬の糞食わせようとしやがって……!!」


 次の瞬間、直也はその場の全員が止める間もなく、薄着のまま少女が逃げていった神社へと鬼の形相で走り出した。


「待ちやがれクソガキィィィィィィィィィ!!」


 砂埃を巻き上げんばかりの勢いで駆ける直也。


「な、なおくん!」


「落ち着け直也!」


 鹿乃子と祝斗が制止するのも聞かず、直也の姿は神社の境内の方へと消えていく。


「あら……ひょっとして、今年も出たかねぇ?」


 表の騒ぎを聞きつけ、茶屋の中から店主の老婆が姿を現す。


「あら、マダム何かご存知?」


 一男が店主に訊ねる。


「毎年人が多い時期になるとね?いっつも現れるのよ〜、狸の女の子。いつも決まって参拝客にいたずらするもんだから、おりつさんも困っちゃっててねぇ……」


「たぬき!!」


 店主の話を聞いて、幸子が目を輝かせる。


「おいおい……新年早々また妖怪かよ……」


「直也らしくていいじゃない」


 健悟が溜め息を吐き、月男が健悟の肩を叩く。


 健悟も月男も、直也と共に幾度も()()()()()()()の存在を目にしてきたため、然程驚くこともなかった。


「と、とにかく、早く直也くんを追いかけないと……!」


 結奈が慌てて言うと、一男は縁台に寝っ転がって団子をしがみながら彼女を宥める。


「まぁまぁ、今回はそんな慌てなくても大丈夫じゃない?」


「で、でも……」


「相手はただのいたずらっ子だし、境内に向かったなら迷子になることもないよ。たっぷり追いかけっこして、疲れたら戻ってくるでしょ。静観静観。ヘイマダム、おしるこ追加ね」


「あいよ!」


 呑気に茶屋の店主に追加の注文をする一男。


「僕面白そうだからおっかけよーっと。行こう、健悟」


 月男はそう言って立ち上がる。


「ちょ、ちょっと待てって!あちち……!」


「ウチも行くーー!!」


 慌てておしるこを流し込んで月男を追う健悟と、その後に続く幸子。


「……えっと……俺達はどうしようか?」


 祝斗と鹿乃子は互いに顔を見合わせる。


「えっと……わたしも、様子を見てこよっかな?なおくんがまた無茶なことしないか、心配だし……。それに、なおくんわたしに上着を貸したまま走って行っちゃったから、早く返さないと風邪を引いちゃう」


 鹿乃子は祝斗と結奈と一男にそう告げて、直也達の後を追う。


「……それじゃあ、俺も一応直也達の様子を見てきます。なるべく直ぐに戻りますので……」


 田中夫妻にそう言い残し、祝斗も後に続いていった。


「子供達は元気だね〜。年男や、おしるこ熱いからフーフーして飲もうな」


「ぅい」


 一男はおしるこを一匙掬って冷ましたのち、年男の口に運ぶ。


「……大丈夫かなぁ…?」


 結奈は直也達が向かった境内の方向を心配そうに見つめていた。








―――――――――――――――――――――――








 境内に足を踏み入れ、直也は怒りに満ちたバキバキの眼で周囲を見回す。


「どこ行きやがった、あのタヌ公……!!ケツ叩き100発喰らわせちゃる!!」


 境内を見回すと、参拝客の寄り付かぬ拝殿の裏手へ逃げていく子供の影を見つける。


「待ぁぁあてぇええええエエエエ!!」


 目にも止まらぬ速さで人影目掛けて走る直也。


 怒りに満ちた叫びに加えて、直也は100メートルを12秒台という、小学生にしては驚異的なスピードで走れることもあって、居合わせた参拝客はさぞ何事かと驚いたことだろう。


 直也はその驚異的な脚力で、すぐに拝殿の裏手へと辿り着く。


 裏手には、拝殿から幣殿へと伸びる渡り廊下があり、タヌキ耳の少女は外側から仕切りをよじ登り、渡り廊下に侵入しようとしていた。


「げげっっ速!?もう来た!?」


「クソガキャァア……逃さねぇぞ……!!」


 ダッシュでタヌキ耳の少女に迫る直也。


 少女は慌てて仕切りをよじ登ろうとするも一足遅く、直也に後ろから羽交い締めにされた。


「はぁ〜〜なぁ〜〜せぇ〜〜〜!!えっち〜〜!!」


「捕まえたぜクソガキィイ……さぁ〜て、どうしてくれようか……!!」


 Vシネマ俳優もびっくりの獰猛な笑みを浮かべ、直也は少女の処遇について考える。


 するとその時___。


「こ、こら……何やってるの……!」


 ()()()()()()()()女性の声が、直也が今しがた走ってきた方向から聴こえてきた。


「あ"!?」


 直也がそちらに目を向けると、そこにはこの神社で働くおりつが立っていた。


「な、直也くん……小さい女の子をいじめちゃダメでしょ……!」


「止めるなおりつ姉ちゃん!!コイツは畏れ多くもかのこの姿に化けた挙げ句、俺に犬の糞を食わせようとしやがった悪ダヌキだ!!アンタも手ぇ焼いてんだろ!?」


 直也の言葉に、おりつは然程驚いた様子も見せずに直也に問う。


「ほ、ほんとうにその子なの……?ちょっとそっちに行って、顔を確認してもいい……?」


「おうよ!来てみな!」


 直也の返事を受け、おりつが直也に近付いていく。


 直也が冷静であったなら、この時点で違和感に気付いたかもしれない。


 しかし、今の直也は頭に血が昇り冷静さを欠いている。


 加えて……まさか化け狸が()()()()()()とは夢にも思わなかったのだ。


「どーよ!?コイツが毎年イタズラしてやがるタヌ___」


「えいっ!」


 ボフン!!


 おりつ?を中心に煙が巻き起こり、直也は煙に巻かれる。


「うおッ!!?」


 先程と同じ展開に驚いて、思わず少女を拘束する手を放す直也。


 一度少女を拘束してしまえば、同じ煙に巻く手は使えまいと高を括っていたのだ。


 煙が晴れ視界が開けた瞬間、直也の目の前には今しがた逃がした少女と、もう一人別の少女がいた。


 一人目とは色違いの和装で、前髪で少し目元が隠れたおかっぱ頭の少女。頭と尻には当然のように狸の耳と尻尾がある。


「だ、大丈夫……だった?手鞠(てまり)お姉ちゃん……」


「でかした小鞠(こまり)ぃ♪」


 手鞠と呼ばれた少女が、小鞠と呼んだ少女の頭を撫でる。


「テメッ……仲間がいたのか!!」


 直也は再度手鞠と呼ばれた少女を捕まえようと手を伸ばす。


 が……。


「………アン?」


 これ以上前に進めない。それに、腰の辺りに違和感を感じる。


 まるで、何かに締め付けられているかのような圧迫感。


 直也は自身の腰の辺りに視線を落とす。


 腰には、太めの縄が巻き付いていた。


 その縄の先を視線で追うと、縄は渡り廊下の柱にキツく巻き付いている。


「やーい間抜けザル!あはは♪」


 瞬間。


 ブチィッと、何かが切れる音がした。


「テメェ待てコラクソダヌキ!!」


 手を伸ばすが届かない。


 腰の縄を解こうにも、結び目は背中側にあり、しかもキツく固結びされてしまっている。


「グッ……小癪なマネしやがって……!!」


「べぇーだ!ここまでおいでー!!」


 最初の少女……手鞠は、先程のようにあっかんべーをしながら、片手で二人目の少女……小鞠の手を引いて走り去っていく。


 直也が縄を解こうと悪戦苦闘している内に、少女達の姿は幣殿の更に裏手にある本殿のある方向へと消えていった。










―――――――――――――――――――――――









 ___一方、月男達は境内の手前で相談をしていた。


「直也とあの子、どこ行ったんだろうね?」


 直也と少女を見失い、月男が首を傾げる。


「取り敢えず、二手に別れて探そう。結構広い神社だけど、そうやって探す分にはそこまでの敷地面積でもないはずだ」


 この神社は山中にある、所謂知る人ぞ知る穴場的な場所であるが、その割に拝殿と本殿が分かれていたり(小さい神社では一緒くたにされることも多い)、幣殿や社務所のみならず、池や神楽殿や摂社、やや幅が大きめの物置蔵などもあり、そこそこ広い敷地なのだ。


「分かった。じゃあ俺と月男と幸子は、向こうの蔵の方見てくるよ」


「ありがとう、健悟くん。それじゃあ、柚澄原さんは俺と摂社の方を探そう」


「は、はい!」


 こうして五人は二手に別れて直也と少女を探す。


 別れてすぐ、月男はふと、先程まで授与所でおみくじを売っていたはずのおりつの姿が見当たらないことに気付く。


「あらら?おりつ姐さんは?」


 月男のその一言で健悟もおりつがいないことに気付き、健悟は授与所の近くにいた老婦人に訊ねる。


「あのーすみません。先程までここでおみくじを売っていた巫女の方は、どこへ……?」


「ああ、おりつさんね?彼女ならさっき、『またいたずら狸が出たー』って言って、蔵の方へ走っていったわよ?お正月になるといつも現れるのよ」


 いたずら狸……そのワードを聞いて、健悟は更に訊ねる。


「あの、それじゃあ……俺と同い年くらいの薄着の小学生も、その狸を追っていきませんでしたか?」


「あの男の子ね?おりつさんが蔵の方へ行った少し後から、やって来たわ。ものすごい速さで拝殿の裏手の方へ走っていったから、よく覚えてるわ。ふふ。あの子もきっと、狸に化かされたのね」


 老婦人はそう言って楽しそうに笑う。


 健悟は老婦人にお礼を告げて、月男と幸子の元へ戻ってくる。


「直也は拝殿の裏手に行ったらしいぜ。あと、おばあさんが気になること言ってたんだけど……直也が来る前にもおりつさんがタヌキを追っかけて蔵の方に向かったらしい。ひょっとしたら化けダヌキって、何に……いや、何匹かいるんかな?」


 人の姿だったから何()と思わず言いかけて訂正する健悟。


「タヌキは1回の出産で2〜6頭くらい産むって、こないだ夕方のニュースでやってたよ。たぶん、兄弟か姉妹がいるんでしょ」


「たぬちゃんいっぱいいるの!?」


 月男の言葉に目を輝かせる幸子。


「それじゃあ、拝殿の裏手に回ってみる?」


「それなんだけどさ?月男、蔵の方見てきてくれね?おばあさんの話だとそっちにおりつさんがいるはずだから、探して直也がタヌキを追ってきたこと伝えといてほしいんだけど。ほら、直也って頭に血が昇ると、何しでかすか分かんねぇだろ?」


 健悟のその言葉に、月男は深く頷く。


「確かに。最悪神社のあちこちをぶっ壊しかねないね」


「だろ?まぁ、流石に見境無く神社をぶっ壊したりはしないだろうけど……万が一、謝らなきゃならない事態になるかもしれないだろ?」


 健悟の意図を理解し、月男は右手でOKサインを作る。


「OK、分かった。じゃあ僕は、蔵の方行ってくるね。さっちゃんもおいで」


「はーい!」


 月男は幸子を連れて、蔵へと向かっていく。


 健悟もまた、直也の目撃情報のあった拝殿の裏手へと向かった。




__第五話へ続く__

 九之譚第四話、いかがでしたでしょうか?今回も登場人物紹介、其の四十一です。


――――――――――――――――――――――――


手鞠(てまり)


・誕生日:5月1日(1歳と8ヶ月)


・身長:132cm(人型時) ・体重:30kg(人型時)


・化け狸の一族の子供。狸は通常1歳で人間の新成人程度の成長をするが、化け狸の1歳は他の狸の1歳よりもやや幼く、寿命も長い。手鞠は姉妹の長女で、いたずらっ子な半面おませさんなところがある。実は、直也のことを前から知っている___?

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