〜第三話 茶屋騒動〜
ドーモ。九之譚第三話、始まります。お詣りを済ませおみくじを引いた一行は、参道手前にあった茶屋へと向かう___。
手水舎で手を清めた後、お詣りを済ませた直也達は、おりつのいる授与所でおみくじを引く。
「おっ、中吉だ」
「チェー。僕末吉だ」
そこそこ良い結果の健悟と、微妙な結果を引き当てた月男。
「テメェは吉凶関係なく年がら年中幸せそうなツラしてるじゃねえか。おみくじの結果なんて一々気にするタマじゃねえだろ?」
直也の物言いに、月男はいつもの無表情のまま頬だけ膨らませる。
「失敬な。そういう直也だって、おみくじの結果なんか普段気にしないじゃないか」
「良い結果なら、多少は気にするぜ?悪い結果はすぐ忘れるけど」
そう言いながら、直也は自分のおみくじの結果を確認する。
「………ハッ」
数秒程無言でおみくじに目を通した後、直也は乾いた笑みを浮かべる。
「どうだったよ、直也?」
健悟がおみくじの結果を訊ねる。
「大凶だとよ」
直也は指で摘んだおみくじを裏返して二人に見せる。
「ぉお!?マジか……俺、大凶って初めて見たかも」
「はは、俺もだ。ある意味、大吉より運が良いんじゃねぇの?」
さして結果を気にもしていない様子で笑う直也。
「でも、大凶なのに待ち人は来たるって書いてあるね?」
大凶という運勢でありながら、どこかポジティブな内容が書かれているおみくじに、月男は興味を示す。
「適当に書いたんじゃねえの?っつうか、待ち人なんてずっと前から傍にいるしな♡」
そう言って直也は、同じくおみくじを引いた鹿乃子の元へと軽やかにスキップする。
「か〜のこ☆おみくじの結果どうだった?」
直也が訊ねると、鹿乃子は困ったように笑いながらおみくじを見せる。
「あはは……大凶だって」
おみくじには、大凶の文字の横に【想い人遠のく】という文字が記されていた。
「アア"!?かのこが大凶だと!!?ふざけんな!!」
鹿乃子のおみくじの結果に納得のいかなかった直也は、授与所にいるおりつにクレームをつけに行く。
「ちょっとちょっと!おりつ姉ちゃん!生きてるだけでこの世の全ての福に愛されるべきかのこが大凶とか、この神社のおみくじおかしいんじゃねえか!?大吉のやつに変えてくれよ!」
「……長いことこの神社にいるけど、あんたみたいなクレーム言うやつは初めてよ……」
モンスタークレーマーも真っ青な直也の要望に、おりつは引き攣った笑みを浮かべる。
「なおくん!わたしはいいから、無茶なことを言って神社の人を困らせないで!」
「柚澄原さんの言う通りだ、直也。あまり無茶を言っちゃだめだ」
鹿乃子とその傍にいた祝斗の二人が、慌てて直也を咎める。
「じゃあいいよ!かのこ、俺が金出すから、かのこは大吉が出るまで好きなだけおみくじ引いてくれ!」
そう言って財布を取り出す直也。
「そ、それじゃあおみくじの意味がないような……」
半ば呆れたような顔で祝斗はそう呟く。
「でもいいのかい直也?」
一足先に幸子と年男のおみくじを結び処に結んでいた一男が、やって来るなり直也に訊ねる。
「アン?いいって何が?」
「だって、直也も大凶なんだしょ?かのちゃんとおソロじゃない」
その言葉を聞いた瞬間、直也は固まる。「その発想は無かった!」と言いたげな顔をしている。
「………い、いやダメだ!いくらお揃いだからって、かのこの運勢を大凶のまま見過ごすわけには……!!」
「なおくん!いちばんついてないのを引いたなら、後の運勢は上がるだけだよ!それにわたし、せっかくならなおくんとお揃いがいいな」
鹿乃子はそう言って直也を宥める。
「………え、えへへぇ〜〜〜♡かのこがそう言うなら、大凶も悪くねぇな〜〜♡」
直也、あっさりと手のひらを返す。
そんなこんなでおみくじを結び終えた一行は、参道手前にある茶屋を訪れる。
「あ、俺抹茶とお汁粉で」
「じゃあ僕甘酒と紅白饅頭」
各々が注文を終え、直也達は店先にいくつか設置された縁台に腰掛ける。
店内スペースは満席で、全員で座れる場所がここしかなかったのだ。
「寒くねぇか、かのこ?ったく、どいつもこいつもこんな日ばっか店内の席使いやがって……」
茶屋に限らず、冬場に飲食店のテラス席の需要が低くなるのは、ある種自然の摂理とも言えるだろう。
「仕方ないよ、お外は寒いから。でもわたし、お外の風景を見ながらお茶するのも好きだよ」
そう言って笑う鹿乃子。
「くぅぅ……!かのこはなんて前向きな子なんだ!!寒かったらいつでも言えよ?俺が店内に空き作るように交渉してやるから!」
一片の曇りもない笑みを湛え、直也が言う。
「そ、そんなことしなくて大丈夫だから………へくちゅっ!」
先程のおみくじの一件のように店に迷惑をかけかねないと思い直也を窘めようとした矢先、鹿乃子はうっかりくしゃみをしてしまう。
「交渉してきます!!」
立ち上がって店内へ向かおうとする直也を、祝斗が慌てて止める。
「やめないか直也。柚澄原さんも困ってるじゃないか。彼女には、俺が上着を貸すから……」
そう言うと祝斗は、アウターを脱いで鹿乃子に差し出す。
「はい、柚澄原さん。よければこれ羽織って」
「え?でも……」
少し申し訳なさそうな鹿乃子に、「俺は大丈夫だから」と言って祝斗が上着を掛けようとした、その瞬間。
「俺の使って!!」
直也がすかさず割り込み、自身のアウターを鹿乃子に羽織らせる。
そんな直也を見て、祝斗はやれやれと苦笑するのだった。
各々に注文した品が運ばれてきて、皆がお汁粉や甘酒などの温かな甘味にほっと一息つく。
「その……わたし、ちょっとお花摘みに行ってくるね?」
鹿乃子が少し気恥ずかしそうにそう告げて、席を立つ。
「おう!待ってるからな、かのこ!」
そう言って、店内に入っていく鹿乃子をニコニコと見送る直也。
「……直也は本当に、柚澄原さんが好きなんだね。ここまでとは思ってなかったから、少しびっくりした」
どこか微笑ましげにそう呟く祝斗。
「いっぱい好き♡結婚したい♡」
ウットリとした表情で直也はそう答える。
「直也は柚澄原のことになると、周りが見えなくなるからなぁ〜」
そう言うと健悟は、田中夫妻の視線を気にしながらコソコソと祝斗に耳打ちする。
「……去年なんか、町に凶悪犯がいるかもしれないって噂になって、それでしばらくの間集団下校って話になったんだけどさ?その時直也、『かのことの二人きりの下校時間がなくなる』っつって、凶悪犯を捕まえようとしたんだぜ?そのために中学校の旧校舎に忍び込んだりしてさ」
「ええ!?そんなことを……」
耳打ちされた話の内容に、祝斗は驚いたように目を見開く。
「ゆずみんの友達の里ちゃんが体調悪くした時は、幽霊退治なんかもやったよね。それで最終的に、高級マンションの中に不法侵入することになったり」
今度は月男が祝斗に耳打ちする。
「な、なんでそんなことに……?」
あまりにも破天荒すぎる直也の行動に、開いた口が塞がらない祝斗。
「おい、おめぇら。おやっさんと結奈さんがいるんだぞ?あんま余計な話蒸し返してんじゃ……」
直也が健悟と月男を咎めようとした、その時___。
「なおくん」
鹿乃子が直也に声を掛ける。どうやらトイレから戻ってきたようだ。
「おかえり〜かのこ♪待ってたぜ〜〜♡」
直也がそう言うと、鹿乃子はもじもじしながら何かを差し出す。
「はい、これあげる♪食べて」
鹿乃子が差し出したのは、お盆の上にちょこんと乗った、黒くてゴツゴツした何かだった。
「それ、なんだい?」
横で見ていた祝斗が気になって訊ねる。
「かりんとうだよ♪食べて、なおくん♪」
満面の笑みで、かりんとうらしきものを差し出す鹿乃子。
「ええ〜くれるのぉ〜?なおくんうれぴぃ〜〜♡じゃあじゃあ、あ〜んしてほしいなぁ〜♡」
猫撫で声で直也がそう言うと、鹿乃子は何故か「えっ?」と漏らして困ったように硬直する。
「柚澄原……?」
「どったの??」
どこか様子のおかしい鹿乃子に、健悟と月男は互いに顔を見合わせる。
「えっと……」
6、7秒程戸惑ったのち、鹿乃子は縁台の上にあるお盆に乗った食べ終わった団子の串を見つける。
鹿乃子はかりんとうらしき物の乗ったお盆を一度置き、団子の串を左手に取るとその串の先にかりんとうを刺して、直也に差し出す。
「はい、あ〜ん♪」
「あ〜〜ん♡」
「ちょっと待って!」
なんの疑いも無く口を開ける直也を、祝斗が慌てて止める。
「んだよ祝斗?いくらお前でも、かのこのあ〜んを止めるのは許さねぇぜ?」
「いや……なにかおかしくないか?」
祝斗のその言葉に、直也はまったくピンときていない様子で「あ?」と不機嫌そうに返す。
「だって、かりんとうっていったら外側が固いものだろう?それなのに、串が抵抗もなくスッと刺さるなんて……」
「そうそう。というかそもそも、かりんとうなんて手で持ってあ〜んすればいいんだから。わざわざ団子の串を使ってあ〜んするのもねぇ?」
「というかそもそも、トイレから戻ってきて唐突にかりんとうって……ってか第一に、茶屋のメニューにかりんとうなんてあったか?」
祝斗の疑念に、月男と健悟が同調する。
「なんだなんだテメェら!かのこが俺を謀ろうとしてるってのか!?かのこがそんなことするわけねぇだろ!」
「そうだよ。だからなおくん、あ〜ん♪」
鹿乃子がかりんとう?の刺さった串を差し出す。
「あ〜〜〜ん♡」
直也が微塵も警戒することなく口を開けた、その時___。
「なおくん?」
鹿乃子の声がした。
直也の正面からではなく、茶屋の出入り口付近から。
「……………あ〜〜〜??」
直也が声のした方に顔を向けると、そこには今しがたトイレから戻ってきたばかりの鹿乃子がいた。
「………………あれぇえ〜〜〜〜〜??」
柚澄原鹿乃子が二人いるという現状に、その場の全員が硬直する。
「……えっと………あなた、だれ?」
戻ってきたばかりの鹿乃子が、直也にかりんとうを差し出す鹿乃子に訊ねる。
「わ、わたしはかのこだよ!あなたこそだれ!?」
直也の目の前の鹿乃子が叫ぶ。今茶屋から出てきた鹿乃子は、困ったように指摘する。
「……えっと………でも、あなた右腕あるでしょ?隠してるみたいだけど……」
後から出てきた鹿乃子の指摘に、その場の全員がかりんとう(?)を持つ鹿乃子の右腕辺りに注目する。
振り袖で上手く隠しているが、よく見るとそこには確かに、鹿乃子にあるはずのない右腕が存在している。
「……………ちぇっ!」
その刹那、ボフン!と直也の傍の鹿乃子が煙に包まれる。
「うおっっ!?」
「な、なになに!?」
「クセ者じゃ〜〜!!であえ〜〜〜!!」
健悟、結奈、一男らが三者三様のリアクションをする。
煙が治まると、そこには見知らぬ女の子が立っていた。
歳の頃は幸子と同じか、或いは一つ二つ幼い程度。
茶色いふわっとしたロングヘアーに、真冬だというのに二の腕を出した和装姿の少女。
最も特徴的なのは、その少女にはタヌキのような耳と尻尾が生えているのだ。
「もうちょっとでダマせるところだったのにさ!」
__第四話へ続く__
九之譚第三話、いかがでしたでしょうか?できれば年明け前に投稿したかった……。
今回は久々の登場人物紹介、其の四十です。
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・坂上祝斗
・誕生日:4月25日(12歳)
・身長:158cm 体重:43kg
・田村家の遠縁にあたる坂上家の四男夫妻の一人息子で、直也よりも一つ年上。両親に似て聡明で人柄も良く直也からは兄弟のように慕われている。しかし、坂上家の現当主からはむしろ、その親譲りの人の良さを懸念されている。坂上家は日本の政財界のフィクサーであり、祝斗本人は自らの家柄の重圧に日々耐え忍んでいる。




