〜第二話 初詣〜
お待たせしました。九之譚第二話、始まります。一月一日、直也と祝斗は友人達と初詣へ向かうため、バス停を訪れる。そこでは引率として同行する田中家の結奈が、息子の年男と先にバス停に着いていて___。
1月1日、正月。
朝の早い時間、直也と祝斗がバス停を訪れると、そこには既に田中結奈と末っ子の年男の姿があった。
「ども、結奈さん。あけおめっす。年男もあけおめ」
結奈と年男に新年の挨拶をする直也。
「あけましておめでとうございます、直也くん。それと、その子が直也くんの遠縁の子?」
新年の挨拶もそこそこに、結奈は祝斗に視線を移す。
「はじめまして、坂上祝斗です。今日はお世話になります」
恭しく一礼する祝斗。
「まぁ、礼儀正しいんだね。よろしくね、祝斗くん!」
結奈がそう言うと、年男も結奈に倣って「よぉちく」と舌っ足らずな挨拶をする。
「ところでさ、結奈さん。おやっさんと月男と幸子は?」
直也が訊ねると、結奈は困ったような笑みを浮かべる。
「それが、配信があるから先に行っててって。月くんとさっちゃんも、そのお手伝い」
「配信?おやっさん、ストリーマーでもやってんの?」
直也の問いに、結奈は「よく分からないけど」と前置きをしてから答える。
「一男さん、最近Vチューバー?っていうの始めたみたいで…」
結奈の返答に、直也は溜め息をつく。
「マジかよ……この前の脚本作りといい、よくやるぜ、まったく。まぁ今更、おやっさんが何やろうが驚かねえけど……こうなるといよいよ本業がなんだかわからねえな、あの人……」
呆れながらそう呟く直也。結奈は力なく「あはは……」と笑う。
「月男君のお父さんって、色々な副業をやっているのかい?」
祝斗が直也に訊ねる。
「ああ。本業は確か建築デザイナーのはずなんだが、狩猟やったり、カメラマンやったり……トンチキなペンネームで本まで出してるんだぜ?」
「へぇ……多才な方なんだね?」
「多才っつーか、節操無しっつーか……まぁ何やっても金にはなってる辺り、多才っちゃあ多才なんだろうな」
そんな会話をしていると、バス停にもう一人、見知った顔がやってくる。
直也と月男の幼馴染の健悟だ。
「よぉ健悟、来たか」
「おっす、直也。結奈さん、明けましておめでとうございます。それと……」
直也と結奈に挨拶したのち、健悟は祝斗に視線を移す。
「はじめまして。直也の親戚の坂上祝斗です。よろしく、健悟君」
「ど、どうも、はじめまして……」
直也と血縁関係があるとは思えない程の爽やかな自己紹介に、思わず面食らう健悟。電話で聞いた一つ年上であるという前情報もあって、否応にもよそよそしい態度になってしまう。
「ああ、そんなに緊張しないで大丈夫だよ?俺達、歳もそう変わらないし……」
「いや、つっても一つ先輩ですし……」
そんなやり取りをする祝斗と健悟に、直也はため息をつく。
「たかが一つだけじゃねえか。細けえこと気にしてんじゃねえよ、健悟」
直也の言葉に、祝斗も頷く。
「直也もこう言ってるし、俺に対してはタメ口で大丈夫だから」
「そ、そう……?なら、遠慮なく……」
こうして二人が打ち解けたのち、五人は人数が揃うまでの間、しばし雑談に耽る。
そうしている内に、一男と月男達がやって来る。
「あけおメントス〜〜♪今年もよろ四股どすこい不倫の愛憎劇〜〜〜☆」
「「LOVE&QUATTROPIECE!!」」
ガニ股状態で両手でハートを作る一男。そして、一男の股下と背後から両手でピースサインを作りながら顔を出す月男と幸子。ちなみに幸子は黄色い子供用の着物を着ている。
((………何言ってんだこいつら?))
冷めた目で一男らを見つめる直也と健悟。
そして、どうリアクションを取れば良いか判らず困惑する祝斗と、恥ずかしそうに目を伏せて俯く結奈。
「……えっと………はじめまして……」
引き攣った笑顔のまま、取り敢えず挨拶をする祝斗。
「君が直也の親戚の祝斗君かい?僕は田中一男さ☆お近づきの印に”カルロスの指”をどーぞ」
そう言って一男は、カルロスの指と書かれた謎の紙袋を祝斗に手渡す。
「あ、ありがとうございます………カルロスの指……?」
「美味しいよ。ホットコーヒーなんかにちょこっと浸して食べるのがオススメ」
「た、食べ物!?」
まさかの事実に紙袋を二度見する祝斗。
「初対面のやつに得体の知れねぇモン渡すなよ……っつうか、どこで売ってんだ?それ……」
「東京土産だよ。父さんの実家のある青乙女町の銘菓なんだよ」
直也の疑問に、月男がそう答える。
「……まぁ見ての通りかなりの変人だが、おやっさんも月男も幸子も、悪いやつらじゃねえんだ。それだけはわかってやってくれ」
祝斗の肩にポンと手を置き、直也が言う。
「あ、あはは……よろしくお願いします」
そんなこんなで、新年(祝斗は初対面)の挨拶を済ませた直也達。
残るはあと一人。
「さぁ〜て☆かのこはまっだかな〜〜♡」
未だ訪れぬ愛しの人を、まだかまだかと待つ直也。
「あと来てないのは、ゆずみんだけだもんね〜?」
月男の言葉に、健悟が時計を見ながら続ける。
「たぶん、着物の着付けに時間が掛かってるんじゃないか?まだバスが来るまで時間あるし大丈夫だろ」
健悟が言い放った”着物”という一言に、直也の期待がより一層膨らむ。
「着物……かのこの正月着物コーデ………グフフ……♡」
気持ち悪い笑みを浮かべる直也に、苦笑いを浮かべる祝斗。
そうこうしている内に、ようやく待ち人が姿を見せる。
道路橋を挟んだ通りの向こうから、こちらに小さく左手を振って小走りでやってくる、若草色の着物を着た少女……柚澄原鹿乃子だ。
「ごめんなさい!遅くなっちゃいました……!」
呼吸を整えながら、申し訳なさそうに言う鹿乃子。
「あぁん、かのこぉ〜〜♡明けましておめでと〜〜♡ぜぇ〜〜んぜん待ってないから大丈夫だよ〜〜♡♡」
鹿乃子に会えて余程嬉しいのか、くねくねしながら猫撫で声で言う直也。
「皆さま、明けましておめでとうございます。なおくん、明けましておめでとう」
ぺこりとお辞儀して全員に挨拶したのち、直也に微笑む鹿乃子。
「はぁぁもぉぉカワイイ♡♡着物もメチャクチャ似合ってるし、最高すぎだろかのこ〜〜♡♡」
人目も憚らずうっとりする直也に、祝斗と健悟は若干引き気味になる。
「あ、かのこ!紹介するぜ。こいつが、俺の親戚の祝斗だ!祝斗。この子がかのこだ!」
「え?あ、ああ……」
直也に引いていたところで急に紹介され、思わず微妙なリアクションを取る祝斗。
「えっと、はじめまして。柚澄原鹿乃子です」
祝斗にぺこりとお辞儀をする鹿乃子。祝斗のほうも気を取り直し、鹿乃子に自己紹介をする。
「はじめまして、坂上祝斗です。柚澄原さんの話はよく直也から聞いています」
「な、なおくん、変なこと話してないですか…?」
自分の話をしていると聞いて、慌てて訊ねる鹿乃子。
「世界一可愛い、天使のような女の子だって聞いてました。直也の言っていた通りだ」
そう言いながら、祝斗は微笑む。
「も、もう!なおくん!!へんなこと言わないでよぅ……!」
鹿乃子は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、直也に抗議する。
そんな和やかなやり取りをやっている内に、バスがやってくる。
今日初詣に行くのは、今年直也が何度か世話になった、おりつと呼ばれる女性が巫女を務める神社だ。
ここへ初詣に行こうと言い出したのは直也だった。
去年世話になったおりつへの挨拶という意味もあるが、去年何度か彼女の神社を訪れて、直也もすっかりその場所が気に入っていた。故に、一度鹿乃子を連れて行きたかったのだ。
バスの座席は最後尾奥から鹿乃子、直也、祝斗、健悟、月男の順に座り、その手前に幸子、一男、結奈と年男が座る。
「でな?その神社マジでいい場所なんだ。巫女のおりつって姉ちゃんは良い人だし、境内も広くて雰囲気良くてよ。何より、神社の近くにある茶屋の団子がうめぇんだ!」
「そうなんだ?楽しみだなぁ」
神社の話を意気揚々と語る直也と、楽しそうに耳を傾ける鹿乃子。
「健悟君と月男君は、その神社に行ったことはあるのかい?」
祝斗が二人に訊ねる。
「あ、いや。俺らも行ったことないんだ」
「でも直也、ゆずみんや僕たちよりも先に、里ちゃんを先に連れてきたんだよね?」
月男のその一言に、直也は慌てて言い訳をする。
「バッ、おまっ!?それは神社で里田の禊祓をしてもらうためだ!俺の時もそうだっただろ!?」
「なおちゃんうわきだー!」
「女の敵だわ!フケツ!!」
言い訳がましい直也を、幸子と一男がこれでもかと茶化す。
「だから違ぇって!!ウゼェな!!」
そんな微笑ましい?やり取りをしている内に、バスはようやく目的の停留所へ到着する。
バスから降りて少し歩くと、山の木々に囲まれた鳥居と、その手前の茶屋が見えてくる。
「この茶屋、正月でも普通に営業してんだな?」
茶屋の入口横の【商い中】という看板を見ながら、健悟が呟く。
「むしろ正月が稼ぎ時なんだろ。この辺はヘンピな場所だし、こういう時でもなけりゃあ参拝客も疎らだろうしよ。先に参拝行こうぜ?」
「お茶屋さんは後でだね」
直也と鹿乃子に促され、9人は参道を歩く。
都会にある神社程の密度ではないが、参道にはちらほらと直也達以外の参拝客の行き交う姿が見て取れる。
このような山地のド真ん中にあるような神社でも、三が日はやはりそこそこ賑わうらしい。
「春には桜も楽しめるみてぇだからよ、また春に一緒に来ような、かのこ!」
「うん!約束だね♪」
並んで歩き、和やかな雰囲気で約束を交わす直也と鹿乃子。
境内に着くと、おりつはすぐに見つかった。
彼女は神社の授与所でおみくじや御守売りに精を出していた。
「よう、おりつ姉ちゃん!挨拶に来たぜ」
「あら、直也くん」
直也が軽く片手を上げると、直也に気付いたおりつが小さく手を振る。
「あけましておめでとう。また無茶なことやってないでしょうね?」
冗談めかした口調でそう訊ねるおりつに、直也は肩をすくめる。
「俺をなんだと思ってんだよ、ったく……。まぁ、そんなことより紹介するぜ。こいつは俺の親戚で、祝斗ってんだ。それとこっちは結奈さんと年男と幸子、以下三名」
「いや、ちょっと待て!以下三名ってなんだよ!?田口健悟です!」
「僕たちの紹介雑すぎない?月男です」
「おじちゃん凹みんこ……。一男ちゃんでぇ〜す☆」
紹介を省かれた三人が、直也に文句を言いつつそれぞれ勝手に自己紹介する。
「はじめまして。この神社で巫女をやってる、おりつって言います」
「坂上祝斗です。はじめまして」
「田中と申します。ほら、さっちゃん、としくん、ご挨拶は?」
「こんにちはー!」
「こんちゃ!」
「はい、こんにちは♪えっとそれで、その子は___」
おりつがまだ紹介されていない鹿乃子に目を向ける。
「___ッッッ!!?」
「そんでぇ♡この子がMy sweet heartのかのこちゃんでぇ〜す♡」
鼻の下を伸ばしながらそう紹介する直也。
「も、もう!恥ずかしい紹介しないでって言ってるのに……。えっと、はじめまして。柚澄原鹿乃子です」
「……えっ?あ、ああ……はじめまして」
鹿乃子の挨拶に対して、おりつはどこか歯切れの悪い返事を返す。
「おいおい、よりにもよって神社の巫女さんが正月ボケかい?」
呆れたように直也が言う。
「そ、そんなんじゃないわよ……」
「ってか、そもそも正月ボケって休み明けの状態だからな?正月の真っ最中に正月ボケはないだろ」
健悟の冷静なツッコミに、「それもそうか」と呟いて笑う直也。
「そんじゃあ、おみくじ買う前に先に参拝してくるぜ。手水舎はあっちだよな?」
「え、ええ……」
手水舎の位置を確認し、直也達は一旦授与所を離れていく。
「………あの子……いったい……」
おりつは何故か冷や汗をかきながら、手水舎へ向かう鹿乃子の後ろ姿を見送った。
__第三話へ続く__
九之譚第二話、いかがでしたでしょうか?と言っても祝斗と登場人物のただの顔合わせ回なんで、ぶっちゃけいかがもクソもないですよね。(汗)
正直ここ最近、直也之草子以外にも書きたい作品が多すぎて、未投稿一覧がとっ散らかってる状態です……。
ただでさえ直也之草子とゴマクソの二作品も投稿してるのに、これ以上書く作品を増やしたら本当にヤバい。(語彙消失)
今現在は、1日最低1000文字を目標に作品を書いてます。
続きがなるべく遅くならないよう、頑張ります!




