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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
八之譚 聖ナル月ノ落シ物

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〜第四話 すれ違う失くし物〜

 ドーモ、八之譚第四話です。鹿乃子に嫌われて激しく落ち込む直也。その後、直也は関係を修復しようと試みるが……。

「おかえり〜ナオー………って、どした?」


 帰宅早々この世の終わりみたいな顔をしてリビングに入ってきた息子の直也を見て、珠稀は眉をひそめる。


「………ぐすっ……う……ひっぐ…………うえぇえ〜〜〜〜ん!!」


 (せき)を切ったように泣き出す直也。


 突然泣き出した息子に珠稀はギョッとしつつ、直ぐ様理解する。


「お前また鹿乃子ちゃんとなんかあったのかぁ?」


 直也が人目も憚らず号泣するなど、鹿乃子のこと以外ではあり得ない。


「ひぐ……えっぐ………かのこに………ぎら"わ"れ"ぢゃっだよ"おおお〜〜〜〜〜!!」


 直也は鹿乃子との間に何があったのか、べそをかきながら珠稀に話した。




「___ぐすっ………それで俺……頭きちゃってぇ……鹿乃子をイジメてたクソ共、ボコボコにしちゃってぇ………」


「ふむふむ、なるほどな……」


 ひとしきり話を聞いた珠稀は、溜め息を一つついた後、諭すように直也に言い聞かせる。


「いじめっ子から鹿乃子ちゃんを守ったまではいい。……けど、やり過ぎは良くないよな?ナオ」


「だっでぇ……あいつらがかのこをイジメたからぁ……!!」


「だってもヘチマもあるか!!お前はただでさえ無駄に喧嘩強いんだから、ちゃんと手加減しろい!そうやってすぐ頭に血が上るから、鹿乃子ちゃんに嫌われるんだぞ!」


「はぐぅっ!!?」


 フローリングに両手をつき、ガックリと項垂れる直也。


「これに懲りたら、その喧嘩っ早い性格直せ!喧嘩なんか強くても、格好良くもなんともないわ!」


 そう吐き捨てて、さっさと夕飯の準備に戻る珠稀。


「う………ぅぅぅ〜〜……かのこぉ〜〜………」


 直也は床に這った状態のまま、ポケットから鹿乃子が落としていった手袋を取り出し、愛おしそうに両手で掴んではまた泣きじゃくる。


 そんな息子の無様な姿に、珠稀はコンロの火をつけながら溜め息をついた。






―――――――――――――――――――――――――






 その翌日。


 直也は学校で鹿乃子に先日のことを謝るため、話しかけようと試みる。


「か、かのこ!!」


「……!」


 ……が、鹿乃子は直也が声をかける度に、逃げるようにその場を去ってしまう。


 登校時間の校門前に始まり、授業と授業の合間の休み時間、給食後の昼休み、果ては放課後と、直也が会いに行く度鹿乃子はそそくさと身を隠したり、適当な理由をつけてその場を後にしてしまう。


 本当は鹿乃子を追いかけてでも謝りたい直也だが、無理に追いかければ余計に嫌われてしまいそうで、それもできない。


 鹿乃子も鹿乃子で、いじめっ子達から助けてくれた直也に酷い態度をとってしまったこと、出会ってはじめてのクリスマスイブにくれた手袋を失くしてしまったことなどを、謝りたいと思っていた。


 けれどもいざ直也を前にすると、直也が怒りに任せていじめっ子達を傷つけた時の複雑な感情がフラッシュバックしてしまい、言葉が出てこなくなってしまうのだ。


 そんな感じで、二人はロクに話せないまま一日、二日と時間が過ぎて、気付けば二十四日のクリスマスイブ。二学期の修了式の日を迎えてしまった。


 今日までの二日間、鹿乃子は花材を買いに行った日に通った道を何度も往復したり、交番に落とし物が届いていないか尋ねたりして、失くした右の手袋を探し回ったが、結局見つからなかった。


 もっとも、右の手袋は今直也の手元にあるので、見つからないのも当然であった。


 直也自身、すぐにでも手袋を返そうと思っていたのだが、話そうとする度に鹿乃子に逃げられてしまうので、如何せん返すタイミングが無い。


 鹿乃子の自宅に直接返しに行くという手もあるが、この手袋は直也が鹿乃子にプレゼントした物の中でもとりわけ気の利いていない一品で、鹿乃子にとっては全く必要の無い右手の手袋だ。


 このギクシャクした状態で、こんなものを口実に鹿乃子の家に伺っては、却って鹿乃子に不愉快な思いをさせてしまうかもしれないと、二の足を踏んでいるのだ。


(うおぉ"ぉ"〜〜〜結局ロクにかのこと会話出来ねぇまま十二月二十四日(イブ)になっちまったぁ〜〜〜〜〜!!)


 自宅のリビングで頭を抱えて転げ回る直也。


 その時ふと、直也のスマホに着信が入る。


「かのこ!!?」


 画面も確認せずに、0.5秒で素早く通話を繋ぐ直也。


 しかし、スマホから聴こえてきたのは愛しの鹿乃子の声ではなかった。


『僕だよ〜〜ん。ザンネン☆』


 スマホから聴こえてくる月男の煽るような声に、直也は苛立ちを隠しもせずに怒鳴りつける。


「ブチ殺すぞてめえ!!」


『誰からの通話かも確認せずに通話繋げた直也が悪いんじゃん。スマホの画面くらい確認してから出なよ』


「グゥッ!?」


 正論で返され、何も言えなくなる直也。


「……チッ。で、なんの用だよ?」


 直也が要件を訊ねると、月男は呆れながら言う。


『なんの用だじゃないよ。直也、僕んちに作りかけのぬいぐるみ置いたままにしてるじゃないか。今日ゆずみんに渡すんでしょ?』


 月男のその言葉を聞いた瞬間、直也は5秒程固まったのち、「あ"ッッッ!!」とえげつない声を出す。


『やっぱり忘れてたんだ?作りかけのままずっと放置してるから、おかしいと思ったんだ』


「おかしいと思ったならもっと早く電話よこせバカヤロオオオオ!!!」


 直也は家を飛び出し、全速力で田中家へ向かう。


 数日前のあの日以来、どうにか鹿乃子とのわだかまりを解こうと必死になっていた直也は、肝心の鹿乃子に渡すクリスマスプレゼントの仕上げを忘れていた。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!?)


 今日渡す予定の大きなクマのぬいぐるみは、八割がた完成しているものの、まだ右前足の部分だけが未完成のままだった。


 これから急いで仕上げたとして、夕方のメロディーチャイムが鳴るまでに間に合うかどうか……。


 田中家に着いた直也は、呼び鈴のスイッチを押して呼吸を整える。


『___あら。いらっしゃい、直也くん』


 インターホン越しに結奈の声が聴こえる。


「ハァッ……ちわっす、結奈さん!えっと、ぬいぐるみのことなんだけど……!」


 直也がそう言うと、結奈はちょっと待っててと言った後玄関の戸を開け、直也を招き入れる。


「いらっしゃい直也ー。さっそくだけどこれ、今日中に間に合う??」


 月男が未完成の巨大なぬいぐるみを持って、右前足の部分を見ながら訊ねる。


「ごめんね直也くん。出来てないところ私が仕上げちゃっても良かったんだけど、直也くんがかのこちゃんのために一生懸命作ってるぬいぐるみだから、勝手に仕上げちゃうのも悪いかなって思って……」


 申し訳なさそうに言う結奈に、直也は首を横に振る。


「いや、結奈さんはなんも悪くねえよ。悪いのは俺だからさ……。とにかく、速攻で仕上げねえと!!」


 そう言って直也がぬいぐるみの仕上げに取り掛かろうとした時。


「あ、ちょっと待って直也くん」


 結奈が直也に待ったをかける。


「何、結奈さん?出来れば俺、早く仕上げてぇんだけど……」


 作業に待ったをかけられ、直也はソワソワしながら結奈を見る。


「月くんから聞いたんだけど、直也くんかのこちゃんに手袋返せていないんでしょう?」


 結奈の言葉に直也は「う"っ」と言葉を詰まらせる。


「じ、実はそうなんだ……。俺がかのこに初めてプレゼントしたやつなんだけど、返すタイミング逃し続けててさ……」


 直也はガシガシと頭を掻いて、更に続ける。


「っつーか、そもそもかのこにとって意味の()え右手の手袋ってこともあって、返しに行っても迷惑なんじゃねえかって思ってさ。俺に義理立てしてて、かのこも捨てられなかったんだろうし……」


「う〜ん、私は義理立てしてて捨てられなかったとか、そういうわけじゃないと思うな。でも、まだ返せていないのならその手袋、こうしたらどうかな?」


 そう言うと結奈は、直也にある提案をした。








 結奈の教え方が上手かったこともあって、直也の編み物の腕前は確実に良くなっていた。


 そのおかげで、未完成だったクマの右前足はみるみる内に形を成していった。


 しかし、結局夕方のメロディチャイムまでには間に合わず……。


「で………できた……!!」


 完成した頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「やっべぇ……暗くなっちまった!?」


 直也はクマのぬいぐるみに素早くリボンを巻くと、ダッシュで玄関へと向かう。


「サンキュー結奈さん!遅くまで邪魔してごめん!!」


「え!?まさか、これからかのこちゃんにプレゼント渡しに行くの?」


 驚いたように直也を見る結奈。


「ああ!暗くなっちまったけど、まだかのこが眠っちまうまでには間に合いそうだからさ!」


 その言葉を聞いた結奈は、咄嗟に直也を引き留める。


「でも、こんな暗い時間にかのこちゃんのおうちを訪ねたら、かのこちゃんびっくりしちゃうよ?明日じゃダメなの?」


「そーそー。明日だってクリスマスなんだから、別に明日でよくない?」


 月男が弟の年男を抱っこしながら、結奈に同調する。


「いいや、クリスマスのプレゼントは毎年イブに渡すって約束してんだ。かのことの約束だけは、破るわけにはいかねぇ!」


 そう言って直也が制止を振り切ろうとしたその時、田中家の固定電話が鳴る。


「あ、電話……とにかく、もう暗いから子供だけでお外に出ちゃダメ!もうすぐ一男さんが帰ってくるから、今日中に渡すのなら一男さんに直也くんをおうちに送ってもらうついでに、かのこちゃんのおうちに寄っていってもらいましょう?ね?」


 結奈はそう言うと、電話に出る。


「はい、田中です。……あら、かのこちゃんのお母さん。………えっ?かのこちゃんが?」


 電話はどうやら、鹿乃子の母親の桜子からのようで、直也は思わず結奈の方を見る。


「いいえ、うちには来てませんけど……そうなんですか。かのこちゃん、まだ……」


 結奈の会話を聞いた直也は、嫌な胸騒ぎを覚えて結奈から受話器を取り上げる。


「結奈さん、ちょっとごめん!もしもし!かのこのお母様ですか!?直也です!」


『あら、直也くん。月男くんのおうちにいたのね』


 急に電話の相手が結奈から直也に替わり、桜子は少しだけ驚いた様子を見せる。


 直也は構わず続ける。


「かのこに何かあったんですか!?」


 直也が訊ねると、桜子は少し考えてから答える。


『ええと、実はかのちゃんがまだ帰ってきてなくて……でも、きっとどこかお友達のおうちに行ってるだけだと思うから、直也くんは心配しないで___』


 桜子は直也が先走って無茶な真似をしないよう、言葉を選んで鹿乃子が帰っていない旨を伝えたが……。


 直也は桜子の「かのちゃんがまだ帰ってきてなくて」という言葉を聞いた刹那、受話器を放り、血相を変えて田中家を飛び出していた。



__第五話へ続く__

 八之譚第四話、いかがでしたでしょうか?


 今回は第一話後書きの話に関連する、ちょっとした雑談になります。


 実はこの直也之草子、現在小説家になろうで行われている『集英社小説大賞6』に応募させていただいております。


 なんでも応募方法は、作品のキーワード設定に『集英社小説大賞6』というキーワードを追加するだけで良いとのことで。


 しかも、応募条件も作品の総文字数が8万字以上であればジャンルは不問ということで、一応直也之草子も条件を満たしているなと思い、応募するに至りました。


 実は他の作品を制作していた理由もこの事が少し関係していて、なんでも集英社小説大賞6は複数の作品での応募も可能らしく、どうせならもう一作品作って応募したいなーという下心もありました。


 ……とはいえ、さすがに今から新規作品で8万字は、締め切りまでには間に合わないかなぁ〜と……。


 前々回の後書きで語った、ミステリー熱にあてられて書いたミステリー作品も、現状ではまだ1万字ちょっとというところでして……。


 間に合うかどうか分かりませんが、やるだけやってみようかと考えています。


 そのため、九之譚の投稿は更に遅れてしまうかもしれません……。この作品を読んでくださっている方がいらっしゃいましたら、申し訳ない!m(_ _)m

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