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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
八之譚 聖ナル月ノ落シ物

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〜第二話 はじめての贈り物〜

 ドーモ。直也之草子八之譚第二話です。直也と鹿乃子の喫茶店デートから数日後……。

 ___数日後。



 百円ショップで購入した土台に、8cmにカットしたひむろ杉とクジャクヒバを2本ずつ、一纏めにしたパーツをリースワイヤーで巻き付ける。


 ひむろ杉とクジャクヒバのパーツで全体を覆ったら、秋に近所の山で拾って熱処理をし、冷凍庫で保存していたどんぐりや松ぼっくりを接着剤とリースワイヤーで飾り付ける。


 最後にピンクのリボンを結んで完成だ。


 言葉にすれば簡単な作業のように思えるかもしれないが、鹿乃子の場合はこれらを全て片手で行わなければならないのだ。


 はじめは母の桜子が手伝おうとしたが、鹿乃子は大切なプレゼントだからひとりでやると言って譲らなかった。


 初心者には両手でも手間のかかる作業を、鹿乃子は片手で試行錯誤しながら進めていく。


 その努力の甲斐あって、数日掛かった手作りリースも、もうすぐ完成だ。


「ふぅ……」


 ひむろ杉とクジャクヒバのパーツを半分ほど括り付けたところで、鹿乃子は未完成のリースをまじまじと見る。


(う〜ん……やっぱり、野ばらの実とスターリンジャーも欲しいなぁ……)


 今のままだと、少し色合いが単調すぎるかもしれない。


 野ばらの実の赤とスターリンジャーの白が加われば、ぐっと見栄えが良くなるはずだ。


 直也への……大切な人へのプレゼントだからこそ、鹿乃子は妥協したくないのだ。


(……)


 不意に鹿乃子は、初めて直也と出会った日のことを思い出した。



________

____

__




 ___あれは、ちょうど三年前の十二月。鹿乃子がこの町に引っ越してきた初日の夕暮れ。


 半年前の事故で片腕と”大切な人”を失った鹿乃子は、月日が経っても拭えぬ喪失感に苛まれ、独り近所の公園のブランコに腰掛け、俯いていた。


 そんな時、不意に横から誰かの視線を感じた。


 鹿乃子がそちらを向くと、同い年くらいの一人の少年が、こちらを見つめていた。


 それが直也だった。


 鹿乃子は戸惑いつつも愛想笑いを浮かべ、まだ名も知らぬ少年に挨拶をした


 その瞬間___。


『好きだあああああーーーーー!!!!』


 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔とは、この時の鹿乃子の表情をいうのだろう。


 鹿乃子がきょとんとしていると、少年がずいと近づいてきて、捲し立てるように言う。


『おれ、直也ってんだ!お前、名前なんてーの!?』


『え………か………かのこ……』


 直也と名乗った少年のあまりの勢いに若干気圧されつつ、名を名乗る鹿乃子。


『かのこ!!おいおいなんてかわいい名前なんだ!!天使か!?』


 直也は鼻の下を伸ばしながら鹿乃子の名前を褒めると、次の瞬間頭を90度下げて右手を差し出してきた。


『ひとめぼれしました!かのこさん、おれと付き合ってください!!』


『え、ええ……?』


 今しがた出会ったばかりの少年に唐突に告白をされ、困惑する鹿乃子。


『え、ええと…………ごめんなさい?』


 幼い鹿乃子にとって異性から告白されるなどこれが初めてで、どう返したらいいのかわからずに返事が疑問形になる。


『グハァッッ!!?』


 その返事を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちる直也。


『………お、おち、おちち、おちつけ、おれ……。まだかのこと出逢って30秒しか経ってねえんだ。そりゃあ断られんのなんて、当たり前だ……』


 ブツブツと呟く直也。


 鹿乃子が様子を伺っていると、直也はゆっくりと立ち上がる。


『……す、すまねぇ。いきなりびっくりさせたよな?』


 そう言うと直也は、服で手汗を拭いたのち、再び頭を下げて右手を差し出した。


『改めてまずはおともだちから、よろしくお願いします!!!』



__

____

________





(あの時はびっくりしたなぁ……)


 直也との出逢いを思い出し、くすくすと笑う鹿乃子。


 あの翌日、鹿乃子は転校手続きを済ませた今の学校への初登校で直也と再会し、偶然同じクラスの隣の席になった。


 はじめ、右腕の無い鹿乃子はクラスの人達から距離を置かれていたが、直也が気さくに鹿乃子と接しているのを見て、次第にクラスメイト達も声をかけてくれるようになった。


 思えば直也は初めから、右腕の無い鹿乃子に好奇の目を向けたり、色眼鏡で見るような真似はしなかった。


 直也と一緒に下校した際、鹿乃子は彼に訊ねた。


 わたしといっしょにいて、なおやくんは気にならないの?と。


 はじめ直也は、周りから恋人と間違われることが気になるのかとデレデレしていた。


 鹿乃子は改めて、右腕の無いわたしと一緒にいて、気にならないの?と言い直すと、直也は不思議そうにこう聞き返した。


 それがなんで気になるんだ?


 右腕が無くても、かのこはかのこだろ?と。


 他人からすれば月並みな台詞かもしれないが、他人から向けられる好奇の目にまだ慣れていなかった当時の鹿乃子にとって、直也の屈託の無いその言葉が嬉しかった。


(……あ、そうだ)


 鹿乃子はふと思い出したように机の引き出しを開け、奥に仕舞っていたあるものを取り出す。


 取り出したのは、薄桃色の毛糸の手袋だった。



________

____

__





 あれは鹿乃子が直也と出会って数日後の、クリスマスイブの夜。


 彼が突然鹿乃子の家を訪ねてきたのだ。


 時刻は6時20分近く。夏場であればまだかろうじて日が出ているかもしれないが、冬場では既に辺りは真っ暗だ。


『こんな時間にごめんな、かのこ』


 そう切り出す直也は、少し息を切らしていた。


 おそらくここまで走ってやってきたのだろう。


『えっと……こんな時間に、どうしたの?』


 鹿乃子が訊ねると、直也は呼吸を整えながら鹿乃子にある物を差し出した。


 それは、薄桃色の毛糸の手袋だった。


『これ、クリスマスプレゼント』


 そう言って差し出された手袋を受け取り、鹿乃子は少し戸惑う。


 まだ知り合ったばかりなのに、クリスマスプレゼントを渡されるとは思ってもみなかったのだ。


『もっと時間があればプレゼントもちゃんと選べたんだが、いかんせん急だったからよ……。けど、せっかくこうして友達になれたしるしに、どうしてもプレゼント贈りたくてさ。……メーワクだったか?』


 少しばつの悪そうな顔をする直也。


『めいわくとかじゃないけど……ただわたし、なんのお返しのじゅんびもしてないから……』


『お返しなんていんだよ、おれがかってにプレゼント用意したんだからよ。メリークリスマス、かのこ!』


 そう言ってニッと笑う直也。


 それにつられて、鹿乃子も笑う。


『ありがとう、なおやくん。でも……わたし左手しかないから、片方余っちゃうね』


 何気なく言った鹿乃子だったが、直也はしまったと言わんばかりに頭を抱える。


『す、すまねぇかのこ!そこまで考えてなかった……!』


『ふふ、あやまらなくていいよ。急いで用意してくれたんだもんね。ねぇ、なおやくん。この手袋はめてみたいんだけど、手伝ってくれる?』


『お、おう』


 鹿乃子にお願いされ、直也は彼女の左手に手袋をはめる。


『えっと……ちょっと大きいかも?』


 直也が買ってきた手袋は子供用だが、もう少し高学年の子供を想定して作られた物で、二年生の鹿乃子の手には少しだけ大きかった。


『うぐぅっっっ!!?』


 左手しかない鹿乃子に両手分の手袋を渡した挙句、大きさもブカブカだった直也は、己の迂闊さにガックリと項垂れるのだった。




__

____

________





 直也から一番最初に貰った手袋を見ながら、鹿乃子はくすりと笑う。


(あの時はまだブカブカだったけど、今なら……)


 鹿乃子はかつて直也からもらったそれを、改めて左手にはめる。


 片手なのではめるのに少し手間取ったが、はめてみれば鹿乃子の思った通り、手袋は鹿乃子の左手にピッタリの大きさになっていた。


 鹿乃子はもう片方の手袋をポケットに仕舞い、再び出かける支度をする。


 もう一時間も経てば、フラワーショップが閉まってしまう。リースに使う追加の花材を買いに行くなら、今のうちだ。


 白いボアコートに身を包み、鹿乃子は階段を下りる。


「お母さん、ちょっとお買い物に行ってくるね?」


 キッチンにいる桜子にそう告げ、鹿乃子は玄関へと向かう。


「あら、こんな時間に?もうすぐ暗くなっちゃうわよ?」


 桜子が心配そうに玄関まで見送りに来る。


「心配しないで。お花屋さんでリースに使うお花を買ったら、真っ直ぐ帰ってくるから。行ってきます」


 そう言って鹿乃子は再び家を出た。







―――――――――――――――――――――――――――――







『ご覧ください!神宮橋の袂から続く、煌びやかなイルミネーションを!!今年も表参道に、クリスマスのシーズンがやってまいりました!!』


 テレビの向こうでレポーターが、イルミネーションひしめく東京表参道の様子をレポートする。


 レポーターからのインタビューに、スーツ姿の若い男性が応える。


『ええ、南青山のフレンチレストランを予約してます。クリスマス当日は彼女と表参道を少しぶらついてから、その店で彼女と食事をする予定です』


 テレビの向こうの若い男性の鼻持ちならないインタビューを見て、ソファーに寝そべる直也は煎餅をつまむ手を止める。


「……表参道のイルミネーションかぁ〜〜。そういやぁ、かのこもクリスマスの街の雰囲気が好きだっつってたな」


 数日前、喫茶店で嬉しそうに語っていた鹿乃子の顔を思い出し、頬が緩む直也。


「クリスマスに表参道連れてったら、かのこ喜ぶだろーな〜〜。かのこと表参道のイルミネーションを見て、その後は南青山の高級フレンチのフルコースで、かのこと二人、オシャンティーなディナーを……ムフフ♪」


「10年早()ぇえわ小僧」


 妄想に耽る直也を、在宅ワークが一段落した珠稀が鼻で笑う。


「ヒトのデートプランに横から水差してんじゃねーぞババア!シッシッ!」


 直也はキッと珠稀を睨み、あっちいけのジェスチャーをする。


「はいはい、言われずともあっちいきますよーだ」


 珠稀は直ぐ様夕飯の支度をしにキッチンへと向かう。


「そういえばナオ、もうかのこちゃんへのプレゼントは用意できたのか〜?」


 冷蔵庫から食材を取り出しながら、珠稀が訊ねる。


「フッフッフ、お袋に言われずとも、かのこへのプレゼントに抜かりはねえぜ!もう既に九割がた完成してるからな!」


 得意気に言う直也に、珠稀は呆れて一言。


「……その熱意を勉強にも向けられないもんかね、あんたは……」


「あーあー聞こえね〜聞こえね〜〜」


 露骨に耳を塞ぐ直也に、珠稀は野菜の皮を剥きながらため息をつく。


「まったく……。で、何をプレゼントする気なん?」


 珠稀の問いにニンマリと笑って答える。


「くまのぬいぐるみ……それも、ただのぬいぐるみじゃないぜ?直径1メートルの巨大くまさん!その名も【くま田村】!」


「い、1メートル……」


 邪魔クセェ……と思いつつも、声には出さない珠稀。


「今年のクリスマスに備えて月男ン家で結奈さんに手芸を教わりながら、少しずつ仕上げたんだ。マジで結奈さんには、頭が上がんねえぜ」


「お前また月男ママに迷惑かけたんか!?まったく、手芸のやり方くらい私に聞けよな〜?」


 珠稀がそう言うと、直也はじぃ〜っと珠稀を見た後、やれやれといった様子で吐き捨てるように答える。


「かのこへのプレゼント作んだぜ?お袋のレクチャーが信用できるかよ」


「て、てンめぇ……!!」


 珠稀は今すぐ息子のこめかみに《ウメボシ》を喰らわせたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢する。


「はぁ、ったく……月男ママにお礼しなきゃな……。ってなわけでナオ、こっち来い」


 珠稀はリビングでくつろぐ直也を呼ぶ。


 珠稀はキッチンに置いてあった段ボール箱からリンゴを数個取り出し、手早くラッピングする。


「これ、ふるさと納税で青森から届いたリンゴ。沢山あるから、月男くんちにお裾分けしてこい」


 そう言って珠稀は、お裾分け用にラッピングしたリンゴの入った袋を直也に渡す。


「おっ!これ前にお袋が申し込んでたやつか。もう届いてたんだな」


 直也はリンゴの入った袋を受け取ると、玄関へと向かう。


「りょーかい。そンじゃあ、飯できるまでにパパっと行ってくるぜ」


 リビングからでる直前、直也は思い出したように踵を返し、返礼品の入った段ボール箱からリンゴを一個取り出す。


「腹ぁ減ってるから一個貰ってくぜ」


 そう言い残し、直也はリンゴを齧りながらリビングを後にした。

 





__第三話へ続く__

 八之譚第二話、いかがでしたでしょうか?


 前回の後書きで話したことの続きですが、私が八之譚の投稿が遅れた理由に、気分転換に他の作品を制作していたからという理由を挙げました。


 実は、某YouTuber様の不動産ミステリー動画の影響で、私の中でミステリー熱が沸き起こりまして……。


 更に、今期春アニメの某青春ミステリー作品がその熱に拍車をかけまして……。


 衝動的にミステリージャンルの制作に手を出してしまいました。


 今、直也之草子と並行してそちらの作成も進めております。


 某YouTuber様にも、某青春ミステリーにも及ばない、駄作ミステリーになるやもしれませんが、作品を上げたら是非ともそちらの方もご一読頂けましたら幸いです。

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