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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
八之譚 聖ナル月ノ落シ物

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〜第一話 冬の商店街〜

 ドーモ、政岡三郎です。大ッッッ変お待たせ致しました!!直也之草子八之譚、始まります!


 

 十二月十七日。


 商店街に設置されたスピーカーから、流行りのクリスマスソングが流れる時期。


 柚澄原鹿乃子は片方しかない左手に買い物袋を提げて、商店街を歩いていた。


 鹿乃子は今、とても上機嫌だ。


 先程おつかいで訪れた八百屋で、店主のおじさんにりんごを一個おまけで貰えたことも理由の一つだが、一番の理由はこの時期の商店街そのものだ。


 鹿乃子はクリスマスを目前に控えた時期の商店街が好きだ。


 都会ほど人が沢山いるわけではないけれど、この時期の商店街はいつもより少しだけ活気づいて、立ち並ぶ店舗や行き交う人々から、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。


 右腕の無い鹿乃子は、たまにすれ違う人から好奇の眼差しを向けられることもあるが、今日はそれも然程気にならない。


 だが、足取り軽やかなおつかいも、買い物が終われば後は家へと帰るだけ。


 やがて商店街の出口へと差し掛かった鹿乃子。


 クリスマスの装飾に彩られたこの場を離れるのが、ほんの少しだけ名残惜しい。


 そう思っていた、ちょうどその時。


「かぁ〜〜のぉ〜〜こぉ〜〜〜♥♥」


 不意に通りの向こうから、耳慣れた猫なで声が聞こえてきた。


 鹿乃子がそちらに目を向けると、やってきたのは顔馴染の少年。


「なおくん、こんにちは」


 鹿乃子は、目の前の少年……田村直也に挨拶する。


「まさかこんなところでかのこと出逢えるなんて……♥やっぱり俺たちは、運命の赤い糸で結ばれてんだな♪」


 そう言って、ニヤけながらくねくねと体をくねらせる直也。


「もぉ、おおげさだよ。同じ町で暮らしてるんだから、こうやって偶然会うことだってあるよ」


「!!?今俺と一緒にひとつ屋根の下で暮らしたいって言った!!?」


「い、言ってないよ!もう!」


 直也の都合の良い聞き間違いを、慌てて否定する鹿乃子。いったいどこをどう聞き間違えればそうなるのか……。


「なぁなぁかのこ、これから時間あるか?俺と一緒にそこの茶店(サテン)でお茶しようぜ♪」


「えっ?」


 直也の突然の提案に、鹿乃子は少し戸惑う。


「えっと……でも、子供だけでそういうお店に入っていいのかな?それにわたし、お金もあんまりないし……」


「なぁぁん、問題無い問題無い。大丈夫だって!それにもちろん、代金だって俺が払うからよ。好きな女の子に金を出させたりしねえって!だからさ、な、行こうぜ♪」


 押しの強い直也に、鹿乃子はくすりと笑って答える。


「……じゃあ、ちょっとだけなら…」


「イィイヤッターー!!かのことデート♪かのことデート♪」


 鹿乃子の返事に浮かれる直也。


「あ、でもお金は自分で払うね。なおくんにわたしの分まで負担させちゃ、悪いから……」


「あぁん、もぉ〜かのこはやさすぃ〜なぁ〜!けど、そんなこと気にしなくていいんだぜ?俺がお願いして誘ってんだしよ」


 直也の言葉に、鹿乃子は首を横に振る。


「だめだよなおくん。だってそんなの、対等じゃないもん。それに、子供のうちから相手にお金を奢ったりしちゃいけませんって、お母さん言ってたもん。だから、ね?」


 そう言って、にこっと笑う鹿乃子。


「う、うぅむ……そういうしっかりしたところもかのこの魅力だけどよ?そうなるとカッコつかねえな、俺……」


「わたしたちまだ子供だもん。かっこつけなくていいよ。それじゃあ、行こ?なおくん」


 鹿乃子はそう言うと買い物袋を肩に掛け、未だ複雑な表情を浮かべる直也の手を引いて喫茶店へと向かった。








―――――――――――――――――――――――――――――







 商店街の一角にある喫茶店で、鹿乃子はミルクティーを、直也はカッコつけてブラックコーヒーを注文する。


 最初鹿乃子は、子供だけで喫茶店に入店していることをお店の人に咎められないかと少しドキドキしていたが、店員がすんなりと席へ通してくれたことで、その心配も杞憂に終わった。


「なおくん、ミルクもお砂糖も入れないの?すごく苦そうだけど……」


「フッ、心配はいらねえぜ、かのこ。俺のようなシブい男にとっては、ブラックコーヒーなんざ水みたいなものだぜ…………ブフォッ!?」


 カッコつけて濃いめのブラックコーヒーに口をつけ、その苦さに勢いよく咽る、自称シブい男。


「だ、大丈夫!?なおくん……」


「グフッ……え?なに?全然問題ねえぜ?っつうか、こんなのいつも飲んでるし?」


 そんなふうに強がる直也を見て、飲み物を運んできた店員のお姉さんがクスクスと笑う。


「……ふふ」


 尚も強がって、引き攣った顔でブラックコーヒーを口に含む直也に、鹿乃子も思わず笑ってしまう。


「なおくんってば……無理しなくていいのに」


「む、無理なんてしてねえぜ!?いや、マジで!なんならおかわりもいけるって!」


 そう言うと直也は、ブラックコーヒーを一気に飲み干し、苦い顔を押し殺しながら店員を呼ぶ。


「お姉さ〜ん、コーヒーおかわり!」


 直也が呼ぶと、店員の女性は微笑ましげなものを見るような穏やかな笑みを湛えてオーダーを取る。


 鹿乃子はミルクティーを一口飲み、ほうと息をつく。


「……もうすぐ、クリスマスだねぇ」


 カップをソーサーに置いて窓の外を見ながら、鹿乃子が呟く。


 直也と鹿乃子の通う学校は、六日後から冬休みに入る。


 そして、その翌日にはもうクリスマスイブだ。


「そうだなぁ〜。なぁかのこ。今年のクリスマスプレゼントは、かのこがアッと驚くモン用意したからよ?楽しみにしててくれよな!」


 そう言ってニカッと笑う直也。


 直也は毎年、クリスマスになると鹿乃子にプレゼントを贈っている。


 去年はクリスマスをモチーフにした手作りのフラワーアレンジメント。一昨年は手作りのブッシュドノエルケーキ。


 鹿乃子と出会ってから毎年直也は凝ったクリスマスプレゼントを用意していた。


 もちろん鹿乃子も貰ってばかりではなく、直也にプレゼントを贈り返している。


「ありがとう。なおくん、いつも素敵なクリスマスプレゼントくれるもんね?」


 鹿乃子がそう言うと、直也は申し訳なさそうな顔をする。


「毎年安モンばかりですまねぇ、かのこ……。本当ならもっと、高価なモンプレゼントしてぇんだけどよ……」


「そんな……充分嬉しいよ?なおくん。むしろ、あんまり高い物貰っちゃったら、こっちがお返しに困っちゃうよ」


 慌てて答える鹿乃子。


「お返しなんて、かのこが喜んでくれるだけで充分すぎるぜ。俺がバイトできる歳になったら、今よりもっと良いモンプレゼントすっからな!」


 そう言って笑う直也に、鹿乃子は困ったような笑みを浮かべる。


「もう、なおくんってば……」


 鹿乃子はミルクティーをもう一口飲んで、再びカップをソーサーに置く。


「……ありがとうね、なおくん」


 鹿乃子から不意に感謝を述べられ、きょとんとする直也。


「ん?クリスマスプレゼントのことか?それなら礼なんて……」


「ううん、それもあるけど……わたしをここに誘ってくれたこと」


 鹿乃子は窓の外……人の行き交う商店街を眺めながら続ける。


「わたしね?クリスマスの時期の商店街が好きなんだ。通りがいろんな飾りで彩られてて、お店の人たちも、お買い物にきた人たちも、楽しそうで……」


「わかるぜ。夏祭りの人だかりとも違う、この時期ならではの空気感だよな」


 直也は笑顔で同調し、運ばれてきた二杯目のコーヒーに口をつける。


「うん、それでね?なおくんに声をかけられた時、わたしはお買い物が終わって帰るところだったんだけど……」


 鹿乃子はカップのミルクティーに視線を落とし、続けて言う。


「本当は、あのまま帰っちゃうのが少しだけ、もったいなかったんだ。もう用事はないけど、もう少しだけここにいたいなって」


 だから、と鹿乃子は顔を上げ、直也の顔を見て満面の笑みを浮かべる。


「喫茶店に誘ってくれて、ありがとう、なおくん♪」


「ッッッ!!!」


 鹿乃子の笑顔に、ズキュンと胸を撃ち抜かれる直也。あまりの嬉しさに涙が出る。


「……い……生ぎででよがっだ……!!」


「だ、だからおおげさだってば!もう……」


 そう言いながら、鹿乃子は微笑んでいた。


 それから二人は一時間近く他愛もない話をした後、店を出た。


 帰り道は、直也が鹿乃子を家まで送っていった。


「それじゃあな、かのこ!また明日学校でな!」


「うん。送ってくれてありがとう、なおくん。また明日ね」


 去っていく直也を見送る鹿乃子。


 直也は終始後ろ歩きで、通りの角を曲がるまで鹿乃子に手を振ったり投げキッスを繰り返した。


 通りの角を曲がったところで、直也は呟く。


「……さぁて。んじゃ、また商店街まで戻るか」


 実のところ、直也もまたおつかいの途中であった。


 母親の珠稀から夕飯の食材を買ってくるように言われていたのだが……。


 先程の喫茶店でその代金を少し使ってしまったため、やむなく現状の手持ちで買える分だけの食材を買う。


 結果、買い物リストに乗った食材の半分も買えずに帰り、案の定珠稀からゲンコツをお見舞いされた。


 それでも、鹿乃子と喫茶店デートができた直也は、その日一日幸せ気分であった。







―――――――――――――――――――――――――――――







 家に帰ってきた鹿乃子は、母に買い物袋を手渡す。


 その際母の桜子から、「ずいぶん時間がかかったみたいだけど、何かあったの?」と訊ねられた。


「えっと……帰りになおくんと会って、お話ししてた」


 そう答える鹿乃子。


 子供だけで喫茶店に行ったことは黙っていたが、桜子は鹿乃子の言葉を聞くや否や……。


「そっか、直也くんとデートしてたのね♪」


 と言った。


「で、デートじゃないよ!?ただちょっと、お喋りしてただけで……もう、お母さん!からかわないでよ!」


 そう言って頬を膨らませる鹿乃子。


「ふふ、ごめんなさい。それじゃあお夕飯の準備しちゃおうかな?」


「もう……。お夕飯の準備手伝うね」


 そう言って鹿乃子が台所へ向かおうとしたところを、桜子が止める。


「いいのよ、かのちゃん。今はそれよりも、やることがあるんでしょう?」


 そう言うと桜子は、鹿乃子に意味深にウインクしてみせる。


 実は今、鹿乃子はクリスマスのリースを手作りしていた。


 来週のクリスマスイブに、直也にプレゼントする予定のものだ。


「う、うん、わかった……」


 そう告げて自室へと戻る鹿乃子。


「お夕飯ができたら呼ぶからね」


 自室へ戻る鹿乃子に、桜子はそう声をかけた。



__第二話へ続く__

 八之譚第一話、いかがでしたでしょうか?


 本っっっ当に申し訳ありませんでした。


 遅れた理由は色々あって、一つは単純に筆が乗らなかったこと。


 なろうはスマートフォンを使っての投稿なんで、筆が乗らないという表現が正しいのかは分かりませんが、とにかくなんか、書けなかった……orz


 この作品を待ってくださっている方がおられましたら、まことに申し訳ないかぎりです……。


 正直、いつかはこんな日が来ると思っていました。


 もちろん、直也之草子は最後まで投稿するつもりですが、筆が遅い自分はいつか、投稿が滞ってしまう……この10ヶ月という投稿の遅れは、正に恐れていたことが起きたな、と……。


 ちなみに二つ目の理由は、他の作品をいくつか作成していたためです。


 小説を書いたことがある方は分かると思うのですが、一つの作品の筆が乗らずに気分転換で別の作品の執筆に取り掛かったら、そっちの方が筆が乗ってしまう現象、あるあるだと思います。


 別作品は三つ程作成しているのですが、そちらの方も折を見て投稿する予定です。


 兎にも角にも、長らくお待たせして本当に申し訳ありませんでした。


 八之譚はたったの五話しかありませんが(たった五話に10ヶ月もかけて申し訳ない……)また直也之草子を読んで頂けましたら幸いです。

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