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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
七之譚 悪意ノ爪痕

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〜第二話 意外な提案〜

 ドーモ、政岡三郎です。七之譚第二話、始まります。「ジビエ料理なんてどうだ?」という直也の提案に、クラスメイト達は大いに盛り上がる。数日後の土曜日、ふれあい祭りの準備をしていた健悟は直也に電話をし___。

「ふれあい祭りの出し物だけどよぉ………ジビエ料理なんてどうだ?」


 直也のその一言に、教室が一瞬静まり返る。


「………じびえ料理??」


「じびえってなんだっけ?」


「肉料理のことだろ。あれ?でも、普通の肉料理と何が違うんだっけ?」


「鹿とか、野生動物の肉のことじゃなかったっけ?確か」


 どよめくクラスの面々に、直也は椅子の背もたれに肩肘をつき、左手の小指で耳をほじりながらやれやれとため息をつく。


「察しの()りぃ奴らだな……熊だよ、熊肉。熊肉を使った料理出そうぜって言ってんだよ」


 直也のその一言を聞いて、クラスメイト達はギョッとする。


「え……ええ〜〜〜!?」


「熊って美味しいの!?ってゆうか、食べることあるの!?」


「おれ、熊鍋って聞いたことがある。食べたことはないけど……」


「そういえばアタシも、なんかテレビで熊肉料理の話聞いたことあったかも!」


 直也のまさかのアイデアにざわつくクラスメイト一同。


「お、おいおい直也ぁ〜。熊肉ったって……そんなのどこで仕入れんだよ?」


 健悟が疑問を口にする。


 直也は健悟の問いに答える代わりに、月男に訊ねる。


「おい、月男。おやっさん確か、狩猟免許持ってたよな?」


「うん。地元の猟友会にも入ってるよ〜?」


 月男の返事に、直也はニヤリと笑う。


「決まりだな?」


 直也は椅子から立ち上がり、クラスメイト全員が聞こえるように声を張り上げる。


「今俺らの町の近くの山に、冬眠してねえ熊が目撃されてる。そんで、地元の猟友会が警察(サツ)に協力して、近くの山々の見廻りをしてんだ」


 直也は更に、椅子に座る月男の頭にポンと手を置いてこう続ける。


「こいつの親父さんは、地元の猟友会の会員だ。もし猟友会が熊を仕留めたら、そいつの肉を学校(こっち)に安く回してもらえるよう頼んでみる価値はあると思うぜ?」


 直也の言葉に、教室中から「おお〜〜!!」と歓声が上がる。


「面白そう!」


「熊肉料理とか、ふれあい祭りで扱うのって、たぶんオレらが初じゃね!?」


「くまさんはちょっとかわいそうだけど……でもわたしも、ジビエ料理ってどんなのか気になるかも!」


 盛り上がるクラスメイト達。


 今この瞬間、五年一組の出し物に関する意見が纏まった。


 ちょうどその時、職員会議で教室を空けていた一組担任の久谷が教室の扉を開ける。


「はーいみんなー。出し物は決まった?これから帰りのホームルームをするから、ランドセルを机に置いて席について。今日は先生から皆さんに、大事なお話があります」


 久谷の言葉で各々ランドセルを持って席につくクラスメイト達。


「みんな席についたわね?それじゃあ帰りのホームルームを始めます」


 久谷のその一言で、帰りのホームルームが始まる。


 そこで久谷は、クラスの全員にあるニュースについて話す。


「みんな、最近全国で熊の町中での目撃談が増えていることは知っているかしら?実は今日、この付近の山で冬眠をしていない熊が目撃されました。現在は警察の方と地元猟友会の方々が協力して、町に熊が降りてこないように見廻りをしてくれています」


 ですので、と久谷は続ける。


「皆さんがお友達と遊ぶ時は家の中か、もしくは町の中の公園や広場で遊びましょう。用事もなく山に近づいたり、子供だけで山で遊ぶのは、絶対にやってはいけません!いいですね?」


 一瞬久谷がギロリと直也、健悟、月男の三人を睨む。


 はぁ〜い、とクラスメイト全員が返事をする。


「よろしい。それじゃあ、帰りの挨拶を___」


「せんせ〜!」


 そのまま帰りの挨拶に持っていこうとした久谷の言葉を遮り、一人の男子生徒が手を挙げる。


「?なんですか、西君?」


「りょーゆー会が熊を仕留めたら、熊肉ってもらえますか?」


 西君の質問に、久谷はキョトンとする。


「はい?熊肉??」


「話が唐突すぎて理解されてねえぞ、西」


 言葉足らずな西君の質問を、直也が補足する。


「実はさっきクラス会議で、一組の出し物をジビエ料理の店にしようぜって流れになったんすよ。そんで猟友会が熊仕留めたら、学校(こっち)に熊肉流してもらえねえかって話して……」


「じ、ジビエ料理!?」


 久谷がギョッとする。


 予想外の出し物に驚く久谷に、健悟がおずおずと口を開く。


「えっと……クラス会議で何をやるかみんなの意見が纏まらなかったところに、たまたま先程先生の仰った熊のニュースの話題が出たんすよ。そんで、月男の親父さんが猟友会の会員だもんで、上手く行けばほんとに熊肉手に入るかもって、みんな盛り上がっちゃって…」


 健悟の説明を聞いて、久谷は「はぁ……」とため息をつく。


「まったくもう……どうせ田村君でしょう?そんな突拍子もない提案をしたのは……」


「まぁまぁ聞いてくれよ、久谷センセ?」


 呆れる久谷を前に、直也が出し物のプレゼンを始める。


「ふれあい祭りの目的は、地域の人たちとの交流って面もあるんだろ?ならクラスでジビエ料理の店やるのも、この町を獣害から守ってくれてる猟友会の人たちと交流する、良い機会じゃねえか」


「な、なるほど……確かに、そうかもしれないわね」


 直也のそれらしい口車に、久谷は思わず唸る。


 直也が更に畳み掛ける。


「それにさ?野生動物肉(ジビエ)を取り扱うってことは、食育とか社会問題になってる獣害とかに、俺ら豊崎小の生徒が目を向ける良い切っ掛けになるってモンだぜ。な?お前ら」


 直也が同意を求めると、クラス中から拍手が巻き起こる。


「いいぞー田村ー!」


「運動もそうだけど、こういう口先三寸でも田村の右に出るやつはいねーよ!」


「口先三寸じゃなくて、”舌先”三寸な?」


 一部、本当に誉めているのか判らない言葉も混じってはいるが、とりあえずここではツッコまない。


「……はぁ、分かったわ。確かに、ジビエを扱うのも良い教育になるわね。提案を認めます」


 久谷が認めたことにより、またも教室中で拍手が巻き起こる。


「よっしゃー!」


「やったぜ!」


 浮かれる生徒たちを、久谷はいつになく優しい目で見つめるのだった。







―――――――――――――――――――――――――――――








 五、六年生の出し物である演劇と飲食店。


 クラスの生徒は基本、二つの出し物の両方に参加することが義務付けられている。


 しかし演劇と飲食店、それぞれのまとめ役である『演劇委員』と『店舗委員』は例外である。


 この二つの役職は、毎年のふれあい祭りの準備期間から開催日の三日間限定で決められる役職で、教員やPTA等の監督役の大人を除いた各出し物の最高責任者だ。


 そのため、この二つの役職につく生徒は一方の出し物への参加を免除される。


 演劇委員と店舗委員はそれぞれ二名、男女一人ずつ選ばれる。


 意外にも、直也は店舗委員に立候補していた。


「しっかし、直也が店舗委員やるなんてなぁ〜。目立ちたがり屋のお前のことだから、やるとしても演劇委員の方だと思ってたぜ」


 学校の教室で、ダンボールをハサミでカットする手を止めてスマートフォンを耳に当て、健悟が言う。


 今日は学校のない土曜日だが、クラスメイトの多くは休日返上で20日に迫るふれあい祭りの準備に勤しんでいた。健悟もその一人だ。


『演劇っつっても、題目はおやっさんが脚本書いた素頓狂(すっとんきょう)なやつだろ?んなモン誰が出るかよ。劇中でどんな道化やらされるか、分かったもんじゃねえぜ』


 スマートフォンから、ため息混じりの直也の声が聞こえてくる。


 直後、直也は『まぁ……』と呟いて、こう続ける。


『この俺がバッタバッタと敵を薙ぎ倒すアクション演劇に脚本を書き直すってんなら、出てやってもいいぜ?』


 そう言ってスマートフォンの向こうで笑う直也。


「もう脚本の書き直しなんてやってる時間無いって」


 苦笑する健悟。


『……本当はかのこがやる白雪姫の王子様役をやるはずだったんだけどよ………はぁ……』


 通話の向こうで急に直也がショボくれる。


「あのな、二組の劇だぞ?無茶言うなよ。っつーか二組の白雪姫だけど、結局柚澄原は白雪姫役辞退したんだってさ」『ハアアアアアアア!?!?』


 健悟の言葉に直也は食い気味に反応する。


『それはつまりあれか!?二組の白雪姫は、かのこ以外のやつが演じるってことか!?ありえねえ!かのこ以外にお姫さまなんて大役が似合う女が、二組にいるかよ!?』


「いや、知らねえけど……本人がやりたくないって言ったんだから、仕方ないだろ?っつかお前、二組の女子に殺されるよ?」


 直也の失礼極まりない物言いに、健悟は呆れてため息をつく。


「そもそもお前、柚澄原が他の王子様役の男子と、芝居とはいえロマンス繰り広げてもいいのかよ?」


『ヤダアアアア!!』


「じゃあ何が正解だよ!?」


 健悟は思わず声を張り上げてツッコむ。


 直也の鹿乃子ファーストな思考は今に始まったことではないが、毎度その考えを聞かされるたびに妙な疲労感を覚えてしまう。


「……まぁ、二組の演劇の話は置いといて。直也、お前今どこにいんの?」


『あん?』


 ここへ来て健悟はようやく、直也に訊ねたかったことを訊ねる。


 健悟を含め多くの生徒は、休日を返上してふれあい祭りの準備に取り組んでいる。


 しかし今、直也は学校に来ていない。


 一般生徒ならともかく、店舗委員である直也の姿がこの場に無いのはいかがなものか。


「お前仮にも店舗委員だろ?店舗委員が休日返上で店舗の準備しないでどうすんだよ?お前と同じ店舗委員の笹本(ささもと)はちゃんと来てんぞ?」


 小道具の制作や演技の練習が必要な演劇と違い、飲食店は当日の調理環境さえ整っていれば、食材と使い捨ての紙食器以外だと準備するものは存外少ない。


 そのため、現在飲食店の準備をしているのは、直也と同じ店舗委員の笹本という女子と健悟の二人だけだ。


 なので健悟は、店舗委員にも関わらず学校に顔を出していない直也に苦言を呈したのだが……。


『分かってるよ。だからこうして”食材探してんだろ”?』


「……ん?食材を………探してる?」


 直也の言葉に一瞬ポカンとする健悟。


「……お前、マジで今どこにいんの?」


 健悟が改めて訊ねる。


 すると、直也は何でもないことのようにこう告げる。


『学校から少し歩いたところにある、小高い丘だ。町がよく見渡せるぜ』


 直也の言葉に、健悟は思わず目を剥く。


「おまっっ、そこ熊が見つかった山のすぐ傍じゃねーか!?先生に山に近づくなっつわれたろ!?何やってんだそんなとこで!?」


『いやさ……今回適当な思いつきで熊肉を使ったジビエ料理なんて言っちまったが、結果的に俺がクラス全員を焚き付けちまったからよ?』


 どことなくばつが悪そうな様子で直也は続ける。


『もしも猟友会で熊肉が獲れませんでした……なんて話になったら、ばつが悪いだろ?だからこっから双眼鏡で、熊が現れねえか目ェ光らせてんだよ』


 確かに直也の言う通り、ふれあい祭りでジビエ料理の店をやるなんて言っても、肝心の食材(くま)が手に入らなければ話にならない。


 幸い、もし熊を仕留められたら解体した肉を学校に安く回してもらえるよう、一男が猟友会にナシをつけてくれた。


 しかしそれは、必ずしも熊を仕留められるという確約ではないのだ。


「いや、だからって……見つけても仕留められないだろ、猟銃も狩猟免許もないんだし。っつーか怒られんぞ、お前……」


『分かってるって。なにも俺の手で仕留めようってわけじゃねえ。見つけたら、免許持ってるおやっさんに連絡入れるだけだ。多少怒られるかもしれんが、腹は括って……おっ?』


 通話中、直也が何かに気付く。


()りぃ健悟。獲物が見つかったかもしれねえからもう切るぜ』


「見つかったって……直也おま___」


 健悟が言い終わる前に、通話が切れる。


 通話が終わったのを見計らって、店舗委員の一人である笹本が健悟に声をかける。


「田村くん、なんだって〜〜?」


「いや……なんかあいつ、自分で食材になる熊を見つけようと、山を見張ってるらしいぜ?」


 健悟が言うと、笹本はのほほんとしたペースのまま口元に手を当てる。


「ええ〜〜?大丈夫なの?危なくない?」


「正直俺も、ちょっと心配なんだけどさ……直也のやつ、自分がジビエ料理の店をやる方向にクラスを焚き付けたから、責任感じてるみたいでさ……」


 健悟の言葉に、笹本は頬に手を当てて言う。


「田村くん、周りを振り回したりすることもあるけど、なんだかんだで責任感強いところがあるからね〜〜」


「ああ……っていうか、なんか悪いな、笹本。この後俺も劇の打ち合わせに参加しなけりゃならないから、その間結局笹本一人に店舗の準備まかせることになるんだけど……」


 申し訳無さそうな様子の健悟に、笹本はのほほんとした笑みを湛えながら言う。


「いいよぉ〜〜。こっちは劇の方と比べたら、準備するものも少ないし〜〜。田村くんも田村くんで、頑張ってるみたいだしねぇ~~?だから、こっちは任せて〜〜?」


 終始のほほんとした様子のまま、両手でグッと頑張りポーズを取る笹本。


 健悟は苦笑しながら、再びスマートフォンに視線を落とす。


 直也は最後に、獲物が見つかったかもしれないと言っていたが……。


「……大丈夫かな?あいつ……」


 スマートフォンを見ながら、健悟は一抹の不安を感じていた。




__第三話へ続く__

 七之譚第二話、いかがでしたでしょうか?ここからは久々の登場人物紹介、其の三十四になります。


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笹本(ささもと)陽向(ひなた)


・誕生日:4月22日(11歳)


・身長:149cm ・体重:40kg


・直也達のクラスメイトの女子。おっとりした性格で、話す時は非常にゆったりとした独特のペースで会話をする。寝ることが好きで、席替えなどで陽当たりの良い窓際の席になってしまうと、授業中であってもついうたた寝してしまい、授業が手につかなくなってしまう。親戚に県警の刑事がいる。

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