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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
七之譚 悪意ノ爪痕

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〜第一話 豊崎ふれあい祭り〜

 お久しぶりです、政岡三郎です。お待たせ致しました。直也之草子七之譚、開幕です。今回の物語は、学校生活の定番、学園祭イベントに関するクラス会議から端を発します。

 11月10日。


 豊崎(とよさき)小学校に今年も、"豊崎ふれあい祭り"の季節がやってきた。


 この行事は簡単に言えば、豊崎小学校で行われる文化祭のようなものだ。


 この行事は11月の20日から22日までの三日間行われ、この間学校は生徒達の保護者のみならず、地元の地域住民達にも開放される。


 何かと閉鎖的なこの世の中でそのようなことができるのも、ひとえに町内会並びに地域住民と築き上げてきた信頼関係あってのものだ。


 そんなわけで、11月に入れば豊崎小学校の生徒達は準備に大忙しとなるのだ。


 出し物はそれぞれの学年ごとにある程度決まっていて、一、二年生は展示物系の出し物、三、四年生はレクリエーション系の出し物、そして年長の五、六年生は、PTA監修の下喫茶店等の飲食物系の出し物を行う。


 けれど、五、六年生の行う出し物はそれだけではない。彼らには飲食系の出し物と並行してもう一つ、重大な出し物があるのだ___。







―――――――――――――――――――――――――――――








「___と、いうことで……今から五年二組の演劇、"白雪姫"の配役を決めます。基本は立候補した人を優先しますが、候補者が被った場合、または候補者がいない場合は、クラス投票で決めます」


 白雪姫配役と書かれた黒板の前で、二組の学級委員長である里田(さとだ)(なぎさ)がクラス会議を進行する。


 五、六年生のもう一つの出し物。それはずばり、"演劇"だった。


 五、六年生の演劇は毎年の恒例で、ある意味この豊崎ふれあい祭りのメインイベントと言える。


 ちなみに、劇の上演は各クラス一回のみで、ふれあい祭りの二日目が五年生の部、最終日が六年生の部となっている。


「それじゃあまずは、主役の白雪姫の役ね。誰か、白雪姫をやりたいって人……もしくは、白雪姫はこの人がいいって推薦したい人は挙手をしてください」


 職員会議で担任が不在の中、渚は毅然とした態度でクラス会議を取り仕切る。


 渚の言葉に真っ先に手を上げたのは、"一組の"直也だった。


「はい!白雪姫の役は、柚澄原鹿乃子さんがいいと思います!!」


 黒板側の扉を開け放ち、目を輝かせながらそう主張する直也。


「いやアンタは隣のクラスの人間でしょうが!!部外者は引っ込んでなさい!!」


 渚が声を荒げながらツッコむが……。


「いいんじゃない、委員長?アタシも田村くんの言う通り、白雪姫はかのこちゃんが適任だと思うな」


「かのこちゃん、二組の中で一番お姫さまっぽいもんね〜?」


 以外にも、二組の面々が直也の意見に乗っかってくる。


「だよな!?やっぱお前らもそう思うよな!?お姫さまの役なんて、かのこ以外に適任なんていねえって!」


「な、なおくん!!もう!みんなも乗らないで!!」


 鹿乃子が直也を諌めながら、恥ずかしそうに赤面した頬を膨らませる。


「……はぁ。まぁこの配役決めは他薦も有りだから、クラスのみんなが鹿乃子ちゃんを推すならもちろん候補には入れるけど……。では次に、王子様の役は誰が___」


 渚が言い終わる前に、またも直也が手を挙げる。


「もちろん、オ・レ♥」


「いやだからアンタは隣のクラスの人間でしょうが!!さっさと帰れ!!」


 渚が堪らずツッコミを入れる。


 至極当然のツッコミではあるが、直也は問答無用で食い下がる。


「アア"!?かのこがお姫さまやるんなら、それに見合う王子様役は俺以外いねえだろうが!!むしろ俺以外でかのこの王子様に相応しい野郎がこの学校にいるなら、言ってみやがれ!!」


「いや、だから見合う見合わないの問題じゃなくて!!これは二組の劇であなたは部外者!!分かる!?」


 渚の正論を、直也は鼻で笑う。


「そんなの些細な問題じゃねえか!なぁ、おめえら?」


 二組の人間に同意を求める直也。


 渚はもちろん同意する人間なんていないだろうと思っていたが、渚が思う以上に二組の人間は適当な性格であったため……。


「いいんじゃない?田村くんで」


「柚澄原の相手役っていったら、田村のイメージだしな〜」


「むしろ他に、かのこちゃんに相応しい相手役も特に思いつかないというか……」


 まさかの直也肯定派が多数という事態に、渚は愕然とする。


「あ、アンタら……!!」


 二組(このクラス)のあまりの適当ぶりに、学級委員長としての立場を放棄したくなる渚。


 彼女が頭を抱えているところに、当のお姫さま役に推薦された鹿乃子がフォローに入る。


「も、もう、みんな!なおくんに流されないで!なおくんも、自分のクラスに帰って!」


「ええ〜〜や〜だぁ〜!なおくん帰りたくな〜い〜!もっとかのこと一緒にいたい〜〜!」


 頬を膨らませる鹿乃子に対して、駄々をこねる直也。


 そこへ一組から、このカオスな状況を終わらせる救世主が現れる。


「おい直也!なに勝手にクラス会議抜けてんだよ」


「そうだぞ直也。二組を困らせてないで、帰ってこい!」


 田口健悟と箕輪享が、直也を引っ張っていく。


「あぁん!かのこぉぉ〜〜〜!!」


 名残惜しそうに引っ張っられていく直也を見送りながら、鹿乃子は「もう……」と恥ずかしそうに俯くのだった。








―――――――――――――――――――――――――――――







「………」


 一組の教室に戻ってから、直也はずっと膨れていた。


「直也〜、いつまでもムッツリしてないで、何か案出してよ」


 月男が直也に声を掛ける。


「人をスケベ野郎みてえに言ってんじゃねぇ、タコッ!!」


 八つ当たり気味に、月男に頭にゲンコツを落とす直也。


 ちなみに、一組の行う劇も既に決まっている。


 一組の劇は、プロの作家である月男の父、一男が脚本を書いたオリジナル作品で、『ファイナル太郎』という劇だ。


 冗談みたいな題名だが、この題名の理由は村に住む(きよ)兵衛(べえ)という百姓の家に生まれた四兄弟の末っ子、ファイナル太郎の目線で描かれる、長男一太郎、次男二太郎、三男三太郎との絆の物語だそうだ。


 名前が一太郎、二太郎、三太郎と来れば、末っ子も普通に四太郎でいいのでは?という気もするが、脚本を作った一男曰く、「格差と貧困が渦巻くこの世の中において、絶対にこれ以上子供を作ってなるものか」という清兵衛とその妻、みるくの強い意思の現れ、とのことだ。


 なんかもう、一々ツッコむのも修正するのもめんどくさいし、これでいっか……というのが、一組生徒の総意だ。


 多少投げやりだが、配役もクジ引きとジャンケンで決めたので、劇の方は問題無い。


 問題なのはもう一つの出し物、飲食系の方だ。


 もう30分以上経つが、いまだに何をするか意見が纏まらない。


 ある者は粉物屋を提案して注文の幅が広すぎると却下され、ある者はクレープ屋を提案して六年生の出し物と被ると却下され、ある者はノーパンメイド喫茶を提案して女子から袋叩きにされた。


 ちなみにノーパンメイド喫茶を提案したのは月男だ。


 適当に決められれば良いのだが、PTAが監修するとはいえ初の責任重大な飲食系の出し物ということで、皆それぞれやりたいものに一家言あるようで中々決まらないのだ。


 このまま今日中に決まらなければ、それだけ出し物の準備期間が切迫することになるし、演劇の方の練習にも差し障る。


「お茶屋さんなんてどうかな?お団子数種類にお抹茶をセットにしてさ?」


「う〜ん、悪くはないけどさ?それって去年の六年生もやってなかったっけ?」




「ハンバーグとエビフライと……あと、チキンライス!おれハンバーグエビフライチキンライスプレートの店がいい!」


「いや、それほぼお子様ランチじゃん……お前が食べたいだけだろ、それ」




「ノーパンメイド喫茶がダメなら、スク水ネコミミ喫茶はどう?」


「おめえはちったぁコンプライアンスってモンを考えろや、だアホ」




 飛び交う意見に、各々ツッコミを入れる享と健悟と直也。


「そんなん言うんなら、直也も何か名案出してよ」


 直也の冷たいツッコミに対して、月男が言い返す。


「名案……名案ねぇ……」


 椅子にふんぞり返り、腕を組んで天井を見上げる直也。


 ふと、ポケットの中で直也のスマートフォンがブルブルと振動する。


 直也は何気なくポケットからスマートフォンを取り出して画面を見ると、届いてきたのは地元の地域ネットニュースのタイムラインだった。


 画面をタップしてニュースを開くと、このような記事が乗っていた。



『___H県某市付近の山で熊の目撃情報。アーバンベアを警戒する県警は地元猟友会と協力し、町の見廻りを強化。』



 ニュースに乗っていたのは、この町のことだった。


 どうやら、近くの山で冬眠していない熊……いわゆる”穴持たず”と呼ばれる熊が出没しているらしい。


「どうしたよ、直也?」


 冷めた目でスマートフォンを見つめる直也に気付いた健悟が、直也に話しかける。


 直也は黙って健悟と月男の二人にスマートフォンの画面を見せる。


「え?この近くで熊出たの??」


 月男のその一言で、クラス会議に集中していた。周りのクラスメイトまで、なんだなんだと直也のスマートフォンの画面を覗き込む。


「マジで!?この近くに熊が出たの!?すげー!」


「やだ……怖い……」


 直也のスマホ画面を見て、危機感の薄い男子はちょっとした非日常に興奮したり、怖がりな女子は不安を口にしたりと、クラスメイトは三者三様のリアクションを見せる。


「アーバンベアってあれだろ?人間への警戒心が薄くなって、市街地に餌を探しに行くのを躊躇わなくなった最近の熊。今年は熊の数が増えたせいか、全国規模で冬眠してないアーバンベアが出没してるらしいし、怖ぇえよなぁ〜……」


 怯える女子に同調するように、健悟がそう言う。


 健悟の言う通り、近年全国的に熊の数が増えたことにより自然界の餌が足りなくなり、餌を求めて冬眠せずに人里に降りてくる熊が各地で目撃されているらしい。


 それがとうとう、この町の近くにも現れたのだ。


「ほらみんな。今は熊よりも出し物だろ?」


 享が手を叩いて注目を集め、逸れた話題を修正する。


「………出し物……」


 享の言葉を聞いた直也は、再びスマホ画面を見て考え込む。


「………熊……」


 ふれあい祭りの出し物と熊。


 直也の中で、本来繋がるはずのなかった二つのワードが交わる。


「直也。いつまでもスマホばっか見てないで、お前も考え___」


「なぁ、おめえら」


 享の声を遮り、直也が声を張り上げる。


 教室中の視線が直也に集まる。


「ど、どうした直也……?」


 急に声を張り上げた直也に少しビックリしながら、享が訊ねる。


「ふれあい祭りの出し物だけどよぉ………”ジビエ料理”なんてどうだ?」


 ニヤリと笑いながら、直也は言った。




__第二話へ続く__

 直也之草子七之譚第一話、いかがでしたでしょうか?


 投稿に時間がかかってしまい、申し訳ありません……。


 いかんせん話の大筋ができていても、細かな構成ができていなかったもので、話を仕上げるのに時間がかかってしまいました。


 最初は一話ずつできた順に投稿すればいいかなと思っていたのですが、それだと内容を微調整しづらいと思い、七之譚が丸々完成してからの投稿に相成りました。


 その代わり、七之譚の終わりまでは毎日投稿できますので、どうか御容赦ください。

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