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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
六之譚 一夜神隠シ

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〜第四話 天狗の術〜

 ドーモ、政岡三郎です。六之譚第四話、始まります。結奈を連れ去った犯人がいると思われる山にたどり着いた直也。そこで待ち受けていたものは___。

 住宅エリアを抜け、全速力で結奈が連れ去られたと思しき山へとやってきた直也。


「……この山だな」


 眼前の山は、この周辺一帯の山々と比較しても然程標高が高い山でもないが、それでもこんな暗い時間に入るのは些か危険が伴う。それが女子供ともなれば尚更だ。


 だが、そんなことで尻込みするような直也ではない。


 二、三深呼吸して呼吸を整え、直也は山に入る。


 鬱蒼と木々が茂る不気味な夜の山の獣道を、直也は一切躊躇うことも、怯むこともなく進んでいく。


「結奈さーーん!!どこだーー!!」


 結奈を呼ぶ直也の大声が、色鮮やかな山の紅葉すらも覆い隠す夜の暗闇にこだまする。


 直也は結奈の名前を呼び続けながら、暗くて視界の悪い山の斜面を上へ上へと登っていく。


 直也の手元に灯りは無い。


 光源といえば、振り返った時に見える街灯などの街明かりと、夜空から差し込む月明かりのみ。


 けれど、こんな田舎町の街明かりなど微々たるものだし、月明かりは山を覆うもみじに阻まれ、ほとんど差し込まない。


 故にどちらも、光源としては心許無い。


(チッ、こんなことならせめて、懐中電灯くらい持って来ればよかったぜ……)


 何度も暗闇に足を取られそうになりながら、直也は舌打ちする。


 結奈が山に連れ去られたと判っていれば、懐中電灯くらいは持ってきていたのだが、今更言ってもどうにもならない。


 頭上を覆うもみじの隙間から僅かに差し込む月明かりを頼りに、大声で結奈の名前を呼びながら山を登る直也。


 そうして歩き続け、直也が山の中腹辺りを過ぎた、その時だった。


 直也の周囲が、急に明るくなった。


「……あ?」


 周囲に起きた異変に、直也は思わず足を止める。


 ___山の紅葉が、輝いている。


 よく紅に染まる紅葉の山を『山が燃えているようだ』と表現するが、まるでその比喩が現実になったかのように、紅葉そのものが蝋燭の灯火のような淡い輝きを放っているのだ。


「……へッ、向こうからお出ましか」


 直也は神経を研ぎ澄まし、周辺の気配を警戒しながら、L字ガードスタイルの構えを取る。


 大通連が手元に無い以上、たとえ如何なる妖魔が相手でも、徒手空拳で戦う以外、道はない。


「上等だぜ。元から俺は、この道で最強を目指してんだ。……どっからでも来やがれ!」


 直也が拳を構えて待ち構えていると、直也の眼の前……山の斜面の上から、一陣の風が直也に吹き付ける。


 山の落ち葉を巻き上げながら吹き抜ける風に、直也は思わず顔をしかめる。


「___フフフ___クックック___」


 風で落ち葉が擦れる音に混じって、不気味な笑い声が聴こえてくる。


 落ち葉を巻き上げた風は直也の周りをぐるりと旋回し、やがて直也の正面で大きなつむじを巻く。


「フーッハッハッハッ!!」


 つむじ風によって作られた落ち葉のベールが、男の高笑いと共に勢いよく弾け飛ぶ。


 落ち葉のベールと共に弾け飛んだつむじ風の中から現れたのは、修行僧のような装束を着込んだ、黒い翼の生えたお面の男だった。


「我が名は鴉天狗!!其処な小童よ、かような刻限に、我が住処に何用だ?」


 訊いてもいないのに名乗り出した、鴉天狗ことお面の変人。


 変人といっても、翼は生えているし妙な妖術?は使うし、天狗と名乗ったことからも、人間ではなく妖魔の類いなのだろう。


「……一年前は河童がいたかと思ったら、今度は天狗かよ。マジでこの町の周り、こういうのが多いのな」


 直也は一旦拳を下ろし、声を張り上げて鴉天狗に抗議する。


「テメェさっき、町から女連れ去っただろ。返せよ!」


 直也の言葉に、鴉天狗は首を傾げてこう言う。


「何故だ?」


 鴉天狗の問い返しに直也は「否定はしねえんだな?」と言ってから、こう続ける。


「そもそも、人攫いなんてするやつの気が知れねえけど……お前が攫った結奈さんは、俺らにとって大事な人なんだよ!」


「………なんだと?」


 直也の言葉を聞いた瞬間、鴉天狗の声のトーンがより一層低くなる。


「……おい、小童。貴様今、”結奈殿”の名を口にし………あまつさえ、”大事な人”と言ったな?」


「……あん?だったらなんだよ?」


 直也が訊き返すと、鴉天狗は俯いてプルプルと体を震わせる。


「……そうか、小童……貴様が………貴様が………」


「……?」


 様子がおかしい鴉天狗に直也が疑問符を浮かべた、次の瞬間___。




「貴様が結奈殿の”夫”かぁあああああああ!!!」




「___あ"??」


 予想の斜め上の鴉天狗の叫びに、直也は思わず呆気に取られる。


 呆然とする直也を差し置いて、鴉天狗は続ける。


「そうと判れば話が早い!貴様をここで斃せば、結奈殿を我が妻として迎えることができる!貴様にはここで、我が山の露と消えてもらおう!!」


 鴉天狗の述べた口上に、直也は頭を掻く。


「あ〜……おめぇなんか、色々と勘違いしてるみてぇだから、言わせてもらうがよ?……まず、結奈さんの旦那は俺じゃ___」


「問答無用!!通力自在の天狗の秘術、その身で思い知れぇええい!!」


 そう叫ぶなり、鴉天狗は手に持った羽団扇を、直也目掛けて振り下ろす。


 その瞬間、先程よりも更に強い強風が、先程と同様に落ち葉を巻き上げて直也に吹き付ける。


「ッ!?」


 気を抜けば体ごと吹き飛ばされてしまいそうな強風に、直也は両足で踏ん張りつつ両腕を顔の前でクロスする。


 風によって巻き上げられた落ち葉が、まるで剃刀のように鋭く直也の頬と手を切りつける。


「チッ……!!」


 踏ん張って耐えていた強風がようやく止んだ、次の瞬間。


 直也のボディに、鴉天狗の高下駄の底による飛び蹴りが突き刺さる。


「ガッ……ハ…!?」


 肺の空気が一気に吐き出され、直也の体が吹き飛び、山の斜面を転がっていく。


 直也の体は斜面の遙か下の木にぶつかったところで止まり、ヨロヨロと立ち上がる。


「クッ……この程度……!?」


 立ち上がった直也の眼前に、再び鴉天狗の高下駄の裏が映り込み、直也は咄嗟に右真横に転がる。


 今しがた直也の頭のあった場所を鴉天狗の高下駄が通り過ぎ、高下駄の突出した底の部分が、直也の体を受け止めた木の幹に突き刺さる。


 直也が反撃に転じる前に、鴉天狗は木の幹を蹴って跳躍し、翼を広げて舞い上がり、木の枝の上に着地する。


「野郎ォ……!」


 枝の上から腕を組んでこちらを見下ろす鴉天狗を睨みつつ、直也はズキズキと痛む肋を片手で押さえる。


 ついさっきの一撃で、肋骨が一、二本イカれてしまったかもしれない。


 正直、このダメージはデカい。


 たとえ不意打ちであっても、さっきの一撃は絶対に避けるべきであったと、直也は自身の迂闊さを反省する。


「とうっ!」


 鴉天狗は枝の上から跳び上がり、宙返りをしながら直也の背後に着地する。


「この……!」


 振り返りざまに、直也は振りかぶった右拳を鴉天狗のボディ目掛けて放つ。


 しかし、鴉天狗はあっさりとその拳を左掌で受け止めたかと思うと、次の瞬間には直也の右手の上から左手を重ねるように掴む。


 直也の小手を取った鴉天狗は、擦り足で直也の背後に回り込むように動いて、左手で取った直也の小手に自身のもう片方の手を重ね、小手を捻る。


 これは合気道で云うところの《小手返し》と呼ばれる投げ技だ。


 鴉天狗の《小手返し》によって、あえなく地面に叩きつけられる直也。


「グッ……!?」


 投げられた衝撃が、折れた肋骨に響く。


 直也は倒れた状態から左足を振り上げ、鴉天狗の左腕を蹴りつける。


「ヌ……!?」


 腕を蹴られた鴉天狗が咄嗟に直也の小手を放した瞬間、直也は左に転がって素早く立ち上がり、鴉天狗のボディに右ストレートをブチ込む。


「……ほう。歳の割に、中々に重みのある拳……だが!効かぬわぁあ!!」


 直也と鴉天狗の体格差は明白。


 直也の体重から繰り出される拳では、鴉天狗にはほとんどダメージを与えられなかった。


 鴉天狗は自身の腹に突き刺さる直也の拳を払い除け、羽団扇を横薙ぎに振るう。


 巻き起こる疾風が、直也の体を吹き飛ばす。


 7、8m程吹き飛ばされるが、それでも直也はどうにか受け身を取って立ち上がる。


 今いる辺りは山の中でも傾斜が比較的緩やかで、戦いやすい。


(……ムカつく話だが、ただ拳を打ち込んだだけじゃあ、ほとんどダメージを与えられねえ。……なら!!)


 直也はすかさず鴉天狗のもとまで走り、拳を振りかぶってもう一度鴉天狗のボディに右足ストレートを繰り出す。


 しかし、鴉天狗はこれを跳躍して躱し、宙返りしながら直也の頭上を飛び越える。


 直也の背後に着地した鴉天狗が、直也のボディに左掌底をかまそうとする。


 しかし直也は、持ち前の運動能力による跳躍で鴉天狗の掌底を躱しつつ、オーバーヘッドで鴉天狗の頭頂部を蹴りつける。


「ヌゥウッ!?」


 直也の蹴りを脳天に受け、これにはさすがの鴉天狗も足元がぐらつく。


 着地した直也は、地面に両手をついての両足後ろ蹴り、《馬後穿(まこうが)ち》で鴉天狗を突き飛ばす。


 突き飛ばされた鴉天狗は、ふらふらとよろめいて後ずさる。


「___あ〜、クソッ……今のはぜってぇダウン奪えたと思ったんだがな……」


 鴉天狗に向き直り、拳を構えながらニヤリと笑う直也。


「……()めぇんだよ。俺が何にも考えずに殴りにいってるとでも思ったかよ?」


 そう。直也は考え無しに殴りかかったわけではなかった。


 自分が殴りかかってみせた時の鴉天狗の行動を、直也は予め何パターンか予測していた。


 先程のように拳を掴むか、風を起こして牽制するか、或いは背後へ回り込むか……。


 直也の予想がドンピシャで当たったが故に決まったカウンターであった。


「……やるな、小童。流石は結奈殿の夫といったところか……」


 鴉天狗の言葉に、直也はため息をついて頭を押さえる。


「だぁかぁらぁ……そもそも俺には、他に好きな子がいるっての」


 直也のその一言に、鴉天狗はピクリと反応する。


「……待て。貴様……好きなおなごがいるのか?」


「いるよ。世界で一番大好きな子がな」


「………結奈殿以外に?」


「そうだよ」


 直也の口にした答えに、鴉天狗はわなわなと肩を震わせたのち、叫ぶ。


「不貞かぁアアアアアアアアア!!貴様ァアアアアアアア!!結奈殿というものがありながらァアアアアアアアアアアアアア!!!」


(ちげ)ぇよ!!?なんでそうな___」


 直也が言い終わる前に、鴉天狗が飛び掛かり、飛び蹴りを繰り出す。


 直也は咄嗟に両腕をクロスして眼前に迫る高下駄の底をガードするが、ガタイの良い鴉天狗の飛び蹴りをそれで止められるわけもなく、直也の体が後方へ吹き飛ぶ。


「ぐぁあッ!?」


 両腕が衝撃で痺れ、折れた肋骨が痛む。


 ヨロヨロと立ち上がる直也に、更に鴉天狗の起こす風が襲いかかる。


 咄嗟のことに踏ん張ることもできず、直也の体が更に吹き飛び、木の幹に背中をぶつける。


「がはッ!?」


 肺の酸素が一気に吐き出され、直也の視界が霞む。


「………クソ……が……!!」


「不埒者がァアアアアアアア!!死に晒せェエエエエエエエ!!!」


 飛び掛かってきた鴉天狗が木にもたれかかる直也を踏み殺そうと、高く足を上げる。


 絶体絶命かに思われた、その時___。




「やめてーーーーー!!」




 直也と鴉天狗の間に、ある人物が割って入った。




__第五話へ続く__

 六之譚第四話、いかがでしたでしょうか?ここからは裏設定のお話になります。


 直也はこと戦いにおいては、デカいほうが強くてカッケーという価値観を持っています。


 そのため、将来はヘビー級のファイターを目指し、身長200cm以上体重120kgを目標にしています。


 ちなみに直也の今の身長は149cmです。


 一之譚でやった登場人物紹介其の一の直也の紹介で、直也の身長を144cmと記載しましたので、その時から5cmUPしています。


 現状既に、母の珠稀よりも背は高くなっています。

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