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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
六之譚 一夜神隠シ

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〜第三話 犯人〜

 ドーモ、政岡三郎です。六之譚第三話、始まります。消えた結奈を探して夜の町を走る直也。そこで彼が見つけたのは___。

 自宅から田中家までの道中を走る直也。


 直也に夕飯のおかずを届けた結奈は真っ直ぐに家まで帰ったであろうから、それまでの道中で何か痕跡があればと思っていた矢先、直也は十字路の真ん中にある物が落ちているのを見つける。


「あれは……!」


 直也は落ちているそれを拾い上げる。


 それは、結奈が直也の家を訪れた時に羽織っていた薄紅色のカーディガンだった。


 間違いない。ここで結奈に何かがあったのだ。


 直也がカーディガンを見ていると、カーディガンからもう一つ、何か軽いものがひらりと落ちる。


 それに気づいた直也が、カーディガンから落ちたそれを拾い上げる。


「……羽?」


 拾い上げたそれは、黒い鳥の羽だった。


 一体何故、こんなものが……?


(烏の羽みてえだが……結奈さんが消えたことと、なんか関係があんのか?)


 直也は羽とカーディガンを一旦その場に置いて、辺りを見回す。すると……。


「……!」


 右側の路地の先に、またしても黒い羽が落ちている。


 直也がそこまで行って羽を拾い上げると、羽にはおそらく結奈の物と思われている髪留めが巻き付いていた。


 間違いない。この羽は、結奈の失踪と何か関係している。


 この羽を辿っていけば、結奈が見つかるかもしれない。


 直也は直ぐ様、スマホで月男に電話をかける。


『___もうし?』


「月男、結奈さんのカーディガンと髪留めを見つけた。お前んちから俺んちに真っ直ぐ向かう途中の十字路だ」


『……やっぱり、じっとしてなかったね』


 半ば分かっていたと云わんばかりの様子で月男が呟く。


「ああ。お前もおやっさんもああは言ってくれたが、やっぱりこいつは俺の責任だ。じっとしてなんていられねえよ」


 それより、と直也は続ける。


「カーディガンと髪留めには、黒い羽が付いてた。おそらく、結奈さんを攫った犯人のものだ。こいつを辿れば、結奈さんを見つけられるかもしれねえ」


 直也は羽が落ちていた路地の先へと歩きながら、月男に告げる。


「俺は一足先に、この羽を辿ってみる。お前はこの事を、おやっさんに伝えてくれ」


『OK。……できれば僕も、母さんを探しに行きたいけど……』


「幸子と年男を家に置いてけねえんだろ?分かってるよ、俺に任せろ」


 そう言って直也は通話を切り、走り出す。


 攫われた結奈が、この羽を意図的に落としているとしたら、更にこの先にも羽が落ちているかもしれない。


 案の定、直也が走り出してからまた直ぐに羽が見つかった。


 この調子で羽を辿れば、その先に結奈がいるはずだ。


 ある程度走ったところで、直也はT字路に差し掛かる。


(どっちへ曲がった……?)


 直也は左右に伸びる道を交互に見るが、羽はどこにも落ちていない。


 おかしい。結奈が自分を見つけられるように羽を落としているとすれば、間隔的にはそろそろ羽が落ちているはずだ。曲がり角の二択となれば、尚更だ。


(どこにも落ちてねえ……クソッ……)


 もしかしたら、目印に羽を落としていたことが犯人にバレて、羽を落とせなくなったのかもしれない。


 そうであったなら大変だ。なにせ、結奈の行方の手掛かりはこれしかなかったのだ。


 直也は必死に辺りを見回す。この際、羽でなくとも何かヒントになるような物はないか……。


(…………ん?)


 必死に思考を働かせて、ふと直也は思う。


 何故”羽”なのか?


 考えてみればおかしな話だ。自分の攫われた先を教えるために目印を落としていったにしても、何故それが鳥の羽などというものなのか……?


 犯人が羽毛のついた衣服を纏っていたとか?


 或いは、そもそも犯人は___。


(………まさか)


 そんなまさかと思いつつ、直也は正面のコンクリートブロックの壁をよじ登る。


 登った先には二階建ての家があり、ブロック塀の上からなら、ジャンプすればギリギリ二階の屋根に手が届きそうだ。


「失礼……っと!」


 直也はブロック塀を蹴って二階の屋根に手をかける。


 こんなところを家主に見つかれば間違いなく怒られるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 屋根を素早くよじ登ると、そこには___。


「ビンゴ!」


 直也の予想通り、黒い鳥の羽が屋根のアンテナに引っ掛かっていた。


 それを見た瞬間、直也の中で二つの事実が確定した。


 結奈と犯人は、”空を移動している”。


 普通に考えれば信じ難いことではある。


 しかし、直也はこれまで妖魔や悪霊といった、この世のモノとは思えない存在を何度も目の当たりにしている。


 それを考えれば、目印の羽が一般住宅の屋根の上にあることにも、合点がいく。


 結奈を連れ去ったのは妖魔の類で、それは空を飛ぶのだ。


 それが判れば、もう一つあることが判る。


 空を飛べるということは、壁や建物に道を遮られたり、回り道をする必要がない。


 つまり、結奈が連れ去られた(カーディガンが落ちていた)場所から結奈を連れ去った先までの動線は真っ直ぐだ。


 そして更に、妖魔が根城にする場所といえば、当然町中などではないだろう。


 導き出される結論は一つ。


「___あの山か!」


 結奈が連れ去られた場所から、真っ直ぐ北へ向かった先の山。


 一年以上前に直也達が河童と遭遇した渓谷の、右隣にある山だ。


 そこに、結奈はいる。


 直也がそう結論付けたその時、直也の持っているスマホが鳴る。


 直也は屋根の上から北の山を見据えたまま、するにかかってきた通話に出る。


『___すぐに家に戻りなさーい』


 聴こえてきたのは一男の声だった。


 声の調子はいつもと同じだが、おそらく怒っている。


 直也は一男の言葉を無視して、彼に告げる。


「おやっさん、結奈さんの居場所が判った。結奈さんが連れ去られた十字路から、真っ直ぐ北にある山だ。そんでたぶん、結奈さんを連れ去ったのは人間じゃねえ」


『ええ?本当かい?そうかそうか。よくぞうちのママの居場所を突き止めてくれたね、愛弟子よ。それじゃあ僕はすぐにその山まで向かうから、君はさっさと家に戻りなさーい』


 一男は分からず屋な大人とは違い、直也の言葉を信じてくれはするものの、それでも尚、直也に帰るように促す。


「おやっさん、頼みがある。俺は真っ直ぐ山へ向かうが、あんたは一旦俺らが通ってる学校の裏山へ向かってくれ。その奥にある朽木の下に、刀を一本隠してある。そいつを取ってきてくれ」


 一男に、コバヤシから貰った大通連のありかを伝える直也。


 妖魔の類いが相手となれば、大通連が必要になるかもしれない。


 本当なら自分で取りに行きたいところだが、結奈が連れ去られている現状、寄り道をしている時間が惜しい。


 結果的に、これまで秘密にしていた大通連のことを明かす羽目になってしまったが、今はそんなことを言っている場合ではないだろう。


『ええ?刀ー?なんでそんなものを持っているんだい?まぁそれについては後日改めて問い詰めるとして、今は危ないから家に戻りなさーい』


 刀のことに驚き(?)つつも、尚も帰るように促す一男。


「わりぃが問答してる時間が惜しい。刀の詳しい場所については、月男に聞けば判るはずだ。頼んだぜ、おやっさん」


 そう告げて通話を切ると、直也は結奈が連れ去られたと思しき山の方向に向かって、屋根から飛び降りる。


 道路に四点着地した直也は、北の山までの道のりを最短距離で突っ走った。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 ___数時間前。


「ふんふふ〜ん♪」


 直也の家に夕飯のおかずを届けた帰り道、結奈は鼻歌交じりに通りを歩いていた。


 夜道は気味が悪いけれど、この季節になるとどこからともなく香る金木犀が、結奈の心を和ませてくれる。


 金木犀を香りを愉しめる期間は、春の桜の見頃と同じくらい短い。


 春の桜も秋の金木犀も、どうしてこんなに短いのだろうと、結奈は思う。


(春も秋も三ヶ月くらいあるんだし、もうちょっと長くてもいいのになぁ……)


 もっとも今年は例年よりも残暑が続いたため、秋を感じられる期間も短いのだけれど。


 そんなことを考えながら歩いているうちに、結奈は十字路までたどり着く。


 ここを左へ曲がれば、家までの道のりは後半分くらいだ。


(あっ、そういえば……)


 ここへ来て結奈は唐突に、冷蔵庫に牛乳のストックがなかったことを思い出す。


(いけない……お財布持って出ればよかったなぁ)


 ここを真っ直ぐいけばちょうどコンビニがあるし、財布を持って出ていれば、帰りに寄って買っていくこともできたが、仕方がない。


 諦めて十字路を左へ曲がろうとした、その時。


 ニャアァ……という鳴き声が背後から聴こえ、結奈は後ろを振り返る。


 視線の先にはカーブミラーがあり、その根本の陰に、一匹の黒猫がいる。


「あっ、黒猫」


 夜道で黒猫に遭遇することを不吉だという者もいるが、基本動物好きな結奈にとっては所詮、根も葉もない俗説に過ぎない。


(黒猫が不吉だなんて、誰が言ったんだろう?)


 こんなことをしている場合ではないとは思いつつ、結奈はしゃがみ込んで黒猫に「おいで〜」と手招きする。


 猫に対して、高い目線でこちらから撫でに行くなど、もってのほかだ。そんなことをしては、猫は怖がってあっさりと逃げてしまう。


 結奈が手招きすると、黒猫は警戒しながらゆっくりと彼女の方へと近づいていく。


 黒猫が結奈の指先に鼻を近付けようとした、その瞬間___。


 ピクリ、と黒猫は”何か”に反応して顔を上げる。


 結奈が直前で動いたわけではない。黒猫は結奈以外の”何か”に反応して、結奈の正面を横切るようにその場から逃げ出してしまった。


「あっ___」


 結奈は、逃げてしまった猫を名残惜しそうに見送る。


(行っちゃった……どうしたんだろう)


 首を傾げる結奈。


 今にして思えば、この時彼女はもっと考えるべきだった。猫が突然逃げ出した、その意味を……。


 黒猫が横切ると不吉だというのは確かに迷信だが、勘の鋭い野良猫が突然逃げ出すのは、そこに”何か”が迫っているからなのだ。


 結奈が立ち上がった、その直後___。


 十字路にブワッと、一陣の風が吹き抜ける。


「きゃっ!?」


 突然吹き付けた風に驚き、結奈は身を強張らせる。


 風が止んだ、次の瞬間___。





「ハァーーッハッハッハッ!!」





 結奈の耳に聴こえてきたのは、男性の尊大な高笑いだった。


 その高笑いは、結奈の背後……それも、”上”の方から聴こえてきた。


「な、なに!?」


 結奈がびっくりしながら声のした方を見ると、そこには___。


 ___月明かりを背に電柱の上に佇む、黒く大きい翼の生えた人影があった。


 結奈がその姿を確認すると、翼の生えた人影は「とうっ!」と大仰に電柱の上から飛び降りる。


 結奈の行く手を遮るように、その人物は道の真ん中に着地する。


 先程まで逆光になっていた月明かりが、改めてその人物の風貌を照らし出す。


 身の丈はかなり大きい、長身の男。古風な高下駄を履いているが、それを差し引いても背が高い。


 服装も古風で、一言で喩えるなら仏教の修行僧の装束だ。


 手には珍しい羽団扇を持ち、顔の上半分は烏のお面のようなもので隠している。


 明らかな不審者だった。


「え………えぇっと〜………どちら様、でしょうか?」


 結奈が恐る恐る訊ねると、その不審者はこう名乗った。


「我が名は鴉天狗!!汝に問う!そなたの名は何と申す!?」


「た……田中結奈……です……」


 鴉天狗と名乗る不審者の勢いに圧され、思わず名乗る結奈。


「田中結奈、か……うむ!美しき、良い名前だ!!」


「あ……ありがとう………ございます…?」


 結奈が困惑しながらそう返すと、鴉天狗は次の瞬間こんなぶっ飛んだことを言ってのけた。


「田中結奈よ!我は…………そなたを”(めと)りにきた”!!」




__第四話へ続く__

 六之譚第三話、いかがでしたでしょうか?今回は制作裏話です。


 直也之草子……というか、小説全体を通して私が一番難しいと感じるのは、戦闘時における投げ技や寝技の描写です。


 私は格闘描写は好きなのですが、格闘自体はズブの素人のため、関節を極める表現において”どこの関節をどこに引っ掛けてどう曲げるか”等の詳細な技の解説を、どう分かりやすく伝えるかにいつも苦心します。


 打撃はそこまで難しくはないんです。寝技関節技が難しいんです。


 それが顕著に出たのは、『幕間譚其の二』の総合格闘技の試合と、『二之譚 執着ノ轍』での葛西君枝との序盤の投げ合戦だったと思います。


 正直、いったい何人の方にあの時の戦闘描写が伝わるか……。(格闘技に明るい方なら技名だけで伝わるかもしれませんが)


 現実世界の某水曜日のバラエティー番組でもいつだったか、プロレスの寝技を電話口で伝えるの難しい説的な話をやっていましたが、正にそれです。


 私が小説を書く理由の一つに、”漫画を描ける画力が無いから”というしょうもない理由がありますが、小説内で投げ技や寝技を描写する時、小説というものの表現力の限界を感じてしまいます……。

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