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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
六之譚 一夜神隠シ

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〜第二話 消えた結奈〜

 ドーモ、政岡三郎です。六之譚第二話、始まります。直也が電話したのは、夕食中の田中家だった。直也は月男の母親の結奈に油跳ねを防ぐ主婦の知恵がないか訊ねようとしたのだが___。

『___もうし?』


 電話口の向こうから、間の抜けた月男の声が聞こえてくる。


 そう。直也が電話をかけたのは、ちょうど夕食時の田中家だった。


「おう、月男。俺、直也。ちょっと結奈(ゆな)さんに聞きてぇことがあってよ?代わってくれるか?」


『うん、わかったー』


 受話器から耳を離し、月男が母親の結奈を呼ぶ。


『母さーん、直也が聞きたいことあるから代わってくれってー』


 受話器から月男の結奈を呼ぶ声がしてから少しして、結奈の柔らかな声が受話器から聞こえてくる。


『こんばんは、直也君。私になにか用事?』


「ああ、結奈さん。夕飯時の忙しい時に悪いね。ちょっと聞きたいことがあってさ?」


 そう言うと直也は、珠稀が仕事で家に帰れず、夕飯を自分で用意する羽目になったことを簡潔に告げた。


『そっか。それじゃあ直也君、今日は一人でお留守番なんだ。大変だね……。でも、お夕飯を一人で準備するってことは、もしかして火とか包丁を使うの?』


「ん?ああ、まぁ……そんでさ、どうせ自分で用意しなけりゃならねえなら、いっそ思いっきり贅沢してやろうと思ってさ?とんかつ揚げようと思ってんだよ」


『えっ!?揚げ物するの?』


 何故かびっくりしたようなリアクションをする結奈。


「そのつもりなんだけどさ、揚げる時に油跳ねして台所汚すと、掃除面倒じゃん?かといって()っとくと、後々お袋に大目玉食らいそうだしさ?」


 てなわけで、と直也は続ける。


「なんかこう、揚げ物する時に油跳ねしねえ主婦の知恵みたいなモンねえかな?それがなけりゃあ、一番簡単な油跳ねの掃除方法とかでもいいんだけど……」


 直也がそう訊ねると、結奈は慌てて質問への答えとは別のことを言う。


『ダメだよ!大人がいないまま子供が一人で包丁を使うのも危ないのに、揚げ物なんて……火傷したり、火事になっちゃうよ!?』


「は?い、いや、大丈夫だって。それより、油跳ねを防ぐ方法を___」


 直也の言葉を遮るように、結奈が『そうだ!』と言って続ける。


『直也君、よかったら今日は家に泊まっていく?子供が一晩中家に一人きりなんて心配だし……それに、月君や下の子達も喜ぶと思うし』


 結奈から予想外の提案をされる。


「いや、気持ちはありがてえけど、遠慮しとくよ。ここ最近この辺りもなにかと物騒だし、急に家を空けるのもなんだか不用心だしさ」


『そっか……ならせめて、うちのお夕飯のおかずいっぱい余ってるから、これからタッパーに詰めて持っていってあげるね♪』


「は!?いやいや、いいって!色々と悪いし!それに心配しなくても料理くらい……」


『ダーメ!子供が慣れないうちから一人で火とか包丁を使うと、怪我しちゃうから。ね?』


「……いや、あの………俺もう、五年生なんだけど……」


 小学校低学年ならまだ分かるが、五年生相手にこれは、いささか心配しすぎではなかろうか?


 というか、包丁が危ないといっても、直也は包丁どころか大通連(かたな)を使ったことがあるわけで……。もっともそれは、直也と健悟と月男の三人内での秘密なので、ここでは口が裂けても言えないが。


『と・に・か・く!おかず、これから持っていってあげるからね。ご飯はある?』


「あ、ああ……そっちはもうすぐ炊けるけど……」


『じゃあおかずと、あとお味噌汁魔法瓶に入れて持って行くね?これからすぐ行くから。後でね、直也君』


 そう言って電話を切る結奈。


 直也は受話器を置くと、やれやれと頭を掻く。


「……心配しすぎだろ、結奈さん。っつか、今日はとんかつの気分だったんだがな……」


 とはいえ、せっかくの厚意を無下にするわけにもいかない。どうやら、とんかつは諦めるしかないようだ。


 直也は台所の収納や冷蔵庫から出した食材をしまい直し、結奈が来るのを待つ。


 結奈を待っている途中、ふと直也は思う。


(……っつか、俺このまま待ってていいのか?)


 今はもう、外は暗い。


 先程直也も言ったことだが、最近は5ヶ月前にも地元の中学校の旧校舎に凶悪犯が現れたばかりだ。


 そうそう頻繁に不審者が出没するほど危ない町でもないとはいえ、それでも暗い時間に女性一人で外を歩かせるのは、不用心な気がする。


 先程は結奈に会話を押し切られて、なし崩し的にこちらが待つ形になってしまったが、今にして思えば、あの時こっちから受け取りに行くと言うべきだったと、直也は思う。


 今からでも向かうべきかと直也が考えたところで、玄関のインターホンが鳴る。


 インターホンのモニターを確認すると、結奈が手提げ袋を持って玄関に立っている。


 直也は直ぐ様玄関に向かい、扉を開ける。


「こんばんは、直也君」


「うっす、結奈さん。なんか悪いね、飯時にわざわざこさせちまってさ」


 申し訳無さそうに頭を掻く直也。


「気にしないで。それより、はいこれ。煮物と、唐揚げと、白菜の浅漬け。あと、こっちがお味噌汁ね」


 直也に手提げ袋を渡し、中身を見せる結奈。


「こんなにいいの?ありがてえ!結奈さんの唐揚げは絶品だからな!」


 直也はそう言って、ニカッと笑う。


「もう、直也君ったら。お世辞が上手いんだから」


 そう言って結奈も、にこやかに笑う。


「お世辞じゃねえって。……っつーか、結奈さん一人で来たの?」


 改めて玄関に結奈以外誰もいないことを確認しながら、直也が訊ねる。


「うん、そうだけど……?」


 直也の質問に、意図が分からずきょとんとしながら答える結奈。


「おいおい、こさせちまった俺が言うのもなんだけど、ちょっと不用心じゃねえか?こんな暗い時間に、結奈さんみたいな美人が一人で外をうろつくなんてよ?」


「まぁ!お上手なんだから♪」


 直也の言葉を聞いて、結奈はころころと笑う。


「いや、笑い事じゃなくてさ。いくら田舎町っつっても、最近この辺りで物騒なことも多いしよ?おやっさんは、来てくれなかったの?」


「一男さんは、ちょうど(とし)君をお風呂に入れてたから。心配してくれてありがとうね、直也君。でも、心配なのは直也君の方だよ?」


 そう言うと結奈は、直也に言い聞かせるように続ける。


「いい、直也君?私はもう帰るけど、夜中に知らない人が訪ねてきても、絶対に玄関のドアを開けちゃだめだよ?扉も窓もしっかりと鍵を掛けて、もしも何かあったらすぐに電話してきてくれていいからね?」


「それはいいけどさ?帰るんなら、心配だから家まで送ってくよ。こんな暗い時間に女の一人歩きなんざ、やっぱり不用心だし___イテッ」


 喋っている途中の直也の額に、結奈は軽いデコピンをする。


「もう!それを言うなら、子供が夜に一人歩きをする方が不用心です!特に、直也君には前科があるんだからね!」


 前科とは、今年の五月に直也が月男と健悟を巻き込んで、一晩中家に帰らなかったことだ。


 その話題を出されると、直也も何も言えなくなってしまう。


「いい?直也君。夜遅くに、一人でお外に出ちゃダメだよ?それと、もしも怪しい人がお家に来ても、絶対に無茶なことはしないこと!間違っても、捕まえようなんて思っちゃダメなんだからね?」


「う、うっす……」


 結奈に釘を刺され、直也は首を縦に振るしかなかった。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 結奈の手料理に舌鼓を打った後、直也はソファーに寝そべってテレビでお笑い番組を見ていた。


「センスねえな、この芸人」


 若手芸人のギャグを上から目線でこき下ろす直也。


 そんな彼のもとに、一本の電話が掛かってきた。


 時刻は9時過ぎ。余程の急用か或いは親しい間柄の人間でもなければ、電話を掛けるには(いささ)か非常識な時間帯であった。


「はいはい、今出るよ」


 直也は気怠げにソファーから立ち上がり、玄関と居間を繋ぐ廊下にある固定電話の受話器を取る。


「もしもし?」


『___あ、直也かい?』


 電話を掛けてきたのは、直也のよく知る人間。月男の父親の一男であった。


「なんだ、おやっさんか。どうしたよ、こんな時間に?」


 直也が訊ねると、一男はこんなことを聞いてきた。


『うちのママ、まだそっちにいる?』


 うちのママとは、言わずもがな結奈のことだろう。


 一男のその一言で、直也は途端に神妙な顔つきになる。


「……帰ってねえのか?結奈さん」


『……その様子だと、そっちにはいないんだね、ママ。分かった、どうもありがとう。それじゃあおやすみー』


「おい!?待てよおやっさ___」


 直也が呼び止める前に、一男は電話を切ってしまう。


「……」


 直也は直ぐ様、固定電話ではなくスマートフォンで月男の持つスマホに電話を掛ける。


『___もうし?』


 2コール以内で、月男が電話に出る。


「月男、俺だ。結奈さん、帰ってねえのか?」


 直也の問いに、月男が答える。


『うん、実はそうなんだよね。母さんが直也の家に向かってから2時間30分以上経ってるのに帰ってこないから、父さんが捜しに行ったところ』


 母さんが帰ってこない。


 月男のその言葉を聞いて、直也はギリ…と歯を噛み締める。


 直也の家から月男の家までは、徒歩で20分くらいの距離だ。


 往復すれば40分程度。それが2時間30分もかかっているのはおかしい。


 導き出される結論は一つ。結奈に何かあったのだ。


 こんなことになるなら、やはり無理を言ってでも自分が結奈さんを家まで送り届ければよかったと、直也は後悔する。


「済まねえ、月男……俺の___」


『直也の責任じゃないよ』


 直也の言葉を遮るように、月男がそう告げる。


「いや、けどよ……俺が結奈さんを家まで送り届けてりゃあ、こんなことには……」


『人攫いが相手かもなんだ。直也がついて行ってたら、逆に二次被害になってた可能性が高いって、父さんも言ってたよ。だから父さんも僕も、母さんのことで直也を責めたりしないよ』


 二次被害になっていた可能性が高い。


 俺はまだおやっさんにそこまで弱いと思われているのかと、直也は拳を握り締める。


『ともかく、父さんは直也から電話がきたら、戸締まりをして家に籠るように言えってさ。外に出て、「万が一にも危ないことしたらオシオキしちゃうぞ☆」だって』


 先程の一男の電話も、余計なことを言って直也に心配をかけないようにと、一男は最低限の会話で電話を切ったのだろう。


『だから直也、今日は絶対に外に出ちゃダメだよ?』


 と言いつつも、直也は絶対じっとしてたりしないんだろうな、と月男は思って、通話を切った。


 案の定、通話が切れてすぐに直也は、家を飛び出した。


(……月男もおやっさんもああ言ってくれたが、結奈さんに何かあったとしたら、やっぱり俺の責任だ)


 玄関から結奈が向かったと思われる方向を見ながら、直也は思った。


(テメェの責任で起きたことを、ヒトに任せて指を加えて待ってられるか!……俺は、お袋を置いて居なくなった親父みてぇに、無責任な男にはなりたくねえ)


 直也は、結奈が消えた夜の町へと駆け出していった。




__第三話へ続く__

 六之譚第二話、いかがでしたでしょうか?ここからは、登場人物紹介其の三十三です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


田中(たなか)結奈(ゆな)


・誕生日:1月4日(31歳)


・身長:159cm ・体重:ヒミツ


・田中一男の妻であり、田中家の三兄妹を育てる母親。朗らかで人当たりの良い性格で、家事や料理も得意で、更には美人。学生時代は密かに彼女のファンクラブが結成されていた程。一男との出逢いは中学生の頃で、実は一男が初恋の相手であった。高校を卒業後、一時期一男と疎遠になるが、大学卒業後に彼と再会。その時既に一男は月男を育てていたが、彼がシングルファーザーであることを知った結奈は、意を決して彼に告白し、無事二人は結ばれた。血の繋がっていない月男にも、分け隔てない愛情を注いでいる。

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