〜第五話 目撃談〜
ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第五話、始まります。公園で直也達に声をかけた人物は……。
「おめぇは……」
直也達に声を掛けた人物。
それは、二日前に直也と一戦交えた高校生だった。
「白富じゃねぇか。なんか用かよ?」
「白"鳥"だ!!二度と間違えるな小僧!!」
「あ~~はいはい。そんで、なんか用かよ、白鳥センパイ?先に言っとくが、リターンマッチならまた今度にしてくれねぇか?」
てっきりこの間のリベンジに来たと思った直也だったが、その予想は外れていた。
「……ふん、今日はそんなんじゃねぇよ」
そう言うと白鳥は少し間を置いた後、単刀直入に直也に告げる。
「……行方不明になった中学生二人ってのは…………鴇島と鶫屋だ」
「あ"?」
「は!?」
「ええ?」
白鳥の口から予想外の言葉を聞いた三人は、各々三者三様のリアクションを取る。
「おいおい、いったいどこぞの馬鹿が行方不明なんぞになりやがったんだとずっと思ってたが……まさかのあいつらかよ。なんだ?ひょっとして、鳥頭過ぎていよいよ、自分達の帰る家の場所も分からなくなっちまったってのか?」
「……そんなわけねぇだろ」
直也の冗談めかした言葉に、静かにそう返す白鳥。
「ま、流石にそりゃあねぇか。しかしだとしたら……まさかあいつら、俺に敗けすぎてついに武者修行の旅に………って、そんな殊勝なやつらでもねぇか」
「真面目に聞け!!」
なおも冗談めかした言葉を吐く直也に、白鳥が声を荒げる。
「……正直に答えろ。お前ら、あいつらが何処に行ったか知ってるんじゃねぇか?」
「あん?」
真剣な様子で聞いてくる白鳥に、直也は正直に答える。
「知らねぇよ。俺らもあいつらとは、あんたをブッ倒した後に別れたきり会ってねぇぜ?」
「……そうか」
直也の返答に、白鳥は少し落胆したように肩を落とす。
「………あの……白鳥さんこそ、お二人の行方について何か知ってるんじゃ……?」
おずおずと健悟がそう口にする。
白鳥は一瞬、ギロリと健悟を睨むと、ぽつりと語る。
「……俺が気づいた時は、中学の頃によく世話ンなってた保健室のベッドの上だった。あいつらの顔は見てねぇよ」
そう呟いた後、ただ……と白鳥は続ける。
「……一つだけ、気掛かりなことがある」
「気掛かりなこと??」
直也達三人はそれぞれ顔を見合わせた後、白鳥に話の続きを促す。
「……俺が目を覚ました時、もう外は暗かった。田村にやられてむしゃくしゃしてた俺は、鴇島と鶫屋を探しに旧校舎へ向かった。あそこは俺がいた頃には既に、学校のヤンキー連中の溜まり場になってたからな」
ところが、と白鳥は更に続ける。
「旧校舎の扉は開かなかった。もとから、俺らヤンキー連中があそこを溜まり場にしてたことは教師共も気づいていたから、いよいよ旧校舎に入れないように鍵でもかけられたのかと、最初は思った」
「最初はってことは、今は別の可能性を考えてるの?」
白鳥の言い回しに、月男がいつも通りの無表情で鋭く突っ込む。
「……もうあいつらも、家に帰っただろう。俺はそう思って、教師連中に見つかる前に帰ろうとした。………その一瞬、確かに見たんだ」
「な………何を?」
ごくりと生唾を飲み込み、健悟が訊ねる。
「……旧校舎三階の窓際に…………ボサボサの長い黒髪の人影があった」
場がしんと静まり返る。
「………見間違い……じゃねぇんだな?」
片手で少し頭を掻いた後、直也がいつになく神妙な顔で確認を取る。
「……最初は俺も、そう思った。だが、後であいつらが家にも帰っていないと分かって……二日も経って……あの時見た人影が、頭の中で鮮明になっていくんだ……。閉ざされた旧校舎で、教員でも用務員でも……ましてや生徒でもない人の姿が、窓際からこっちを覗いて………ゆっくりと旧校舎の奥へと消えていくんだ」
神妙な様子で話す白鳥の声は、僅かに震えているようにも聞こえる。
「……何故だか俺には、あれが鴇島と鶫屋の二人と無関係だとは思えん」
ひとしきり語り終えた白鳥は、ゆっくりと目を瞑る。
「……あの………警察や学校の先生には言ったんすか?」
健悟が訊ねる。
「言おうとした。だが、中学の頃から不良だった俺の話など、教師連中はおろか、警察だってまともに聞いちゃくれない。それどころか、俺はもう卒業した身だからと、学校への立ち入りも禁止された。当然の話だがな」
そう言うと白鳥は、どこか寂しそうな表情になる
「……不良の俺の言うことなど、大人は誰も耳を傾けてはくれない。かといって、こんな時に頼ることができるほど、不良仲間からの人望があるわけでもない。半端者だよ、俺は」
だが……と白鳥は続ける。
「あいつらは……鴇島と鶫屋は、こんな俺を慕ってくれたんだ!どうしようもない、半端者の俺を……!!」
白鳥は踵を返し、直也達に背を向ける
「……邪魔したな」
そう言ってその場を去ろうとする白鳥を、直也が呼び止める。
「……待ちなよ、センパイ?」
「……?」
白鳥が振り返ると、直也はやれやれといった様子で頭を掻いた後、不敵にニヤリと笑った。
「俺らもあいつらとは知らねえ間柄じゃねえ。そんな話聞かされて、何もしねぇ訳にはいかねぇぜ。っつーか、ハナからそういう予定で集まってたわけだしな?」
直也の言葉を聞いて、やっぱりそうなるかと溜め息を吐く健悟と、口元だけニッコリと笑う月男。
「田村……気持ちは有り難いが、お前に何ができる?」
元から白鳥は、小学生の直也達に期待などしてはいなかった。
「まぁ聞けよ。要はその旧校舎とやらを調べてえけど、あんたは学校側から出禁って言われてんだろ?」
なら……と直也は続ける。
「出禁にされてねえ俺らがそこを調べりゃいい。そういうこったろ?」
「は……はぁ?」
直也の言葉に、白鳥は露骨に戸惑う。
「お前らが調べるって……お前ら部外者だろ?どうやって入るつもりだよ?」
白鳥の当然の疑問に、直也は平然と答える。
「今年入学したばっかの新入生ってことにしときゃいい。まだ五月だし、教師連中にさえ気を付けりゃあ新入生の顔を把握してるやつなんて、そうそういねえだろ?」
「新入生ならぬ、”侵入生”だね」
くだらないことを言う月男を無視して、直也は続ける。
「仮にバレても、俺らはまだ小学生だ。どうとでも言い訳はできるぜ」
そう言うと直也は、不敵な笑みを浮かべる。
「あの馬鹿共を見つけてえんだろ、センパイ?俺らに任せとけよ!」
直也のその言葉を聞き、白鳥は呆気に取られたような表情を見せる。
「お、お前………本気なのか?」
「当たりめぇだろ?その代わり、あいつらが見つかったら焼肉でも奢ってくれよ?」
そう答えて、直也は歩き出した。目指すは鳥頭コンビが消えたと思われる、中学校の旧校舎だ。
________________________
「そういえば僕、聞いたことあるよ?」
「あん?」
中学校へと向かう道中で、ふと月男がこんな話を始める。
「あの中学校の旧校舎には、逢魔刻になると"髪鬼"が現れるんだって」
「カミオニ??なんだそりゃ?」
直也が疑問符を浮かべると、今度は月男の代わりに健悟が答える。
「あ~……なんか聞いたことあるわ、それ。大昔に殺された遊女の怨念がどうとか」
「そうそう。なんでも、髪の毛がめっちゃボーボーらしいよ?」
健悟の情報に、月男がそう付け足す。
「ふぅん?そういやぁ、センパイが見たっつうその人影も、髪の毛がボーボーだったんだっけ?」
話を振られ、白鳥は困惑する。
「あ、ああ。確かにそうだけどよ……。いくらなんでも髪鬼だなんて、そんな……」
「有り得なくはねぇんじゃねぇの?あんたが見たってその人影、男か女かも分からなかったんだろ?」
直也にそう指摘され、白鳥は言葉に詰まる。
「そ、そりゃあそうだが……」
「…………だとすると、"アレ"がいるかもな……。おい月男。お前ウチの学校の裏山行って、"アレ"取ってこい」
直也がそう言うと、月男は不満を漏らす。
「ええー、今から?だってそしたら、また来た道戻らなきゃならないじゃん。"アレ"が必要なら、先に言っといてよー」
「うるせぇな。だったらおめぇがもっと早く、その髪鬼とかいうやつの話してりゃあよかっただろ?つべこべ言ってねぇで、とっとと行って取ってきやがれ」
有無を云わさぬ直也の口調に、月男は「ちぇ」と呟いて、渋々もと来た道を引き返していく。
「な、なぁ。"アレ"っていったいなんだ?」
一連のやり取りを聞いていた白鳥が、健悟に訊ねる。
「いや、あの……それはその、えっと~~……」
健悟は露骨に言い辛そうに目をそらす。
そんな健悟に代わって直也が答える。
「ま、秘密兵器ってやつさ。文字通りのな」
そんなやり取りをしている内に、直也、健悟、白鳥の三人は鴇島と鶫屋がいると思われる中学校の正門前までたどり着く。
「さて、中学校には着いたが……」
直也は辺りを見回す。
校庭には部活動中の野球部員が十数名と、帰宅途中の生徒がちらほら。他にこれといって人影はない。
「…………一応、教職員っぽい感じの人は居ないな?」
健悟の言葉に直也は「だな」と同意して、白鳥の方へ振り返る。
「あんたはどうする?教員の姿は無ぇが、一応外で待っとくかい?」
直也に訊かれると、白鳥は歯痒そうに俯く。
「……できることなら、俺も一緒に行きてえ。だが、学校で目を光らせてんのは教員だけじゃねぇ。前に鴇島と鶫屋から聞いたが、今じゃ風紀委員も俺がいた頃よりも精力的に活動しているらしい。俺が入ったら、目立ちすぎる」
「OK、んじゃあ、あんたはここで待ってな。ちょっくら行ってくっからよ」
そう言うと直也は、ズカズカと中学校の敷地内へと入っていき、健悟が慌ててついていく。
正直、小学生の直也達が中学校の敷地内に入るのもかなり目立つが、直也はお構い無しだ。
「ちょっと、君たち」
案の定、直也と健悟は学校の風紀委員と思われるガタイの良い生徒に呼び止められる。
その声に健悟はびくりと肩を震わせ、直也はゆっくりと振り返る。
「君たち私服のようだけど、何処の学校の生徒だい?」
「いや、えっとぉ………俺たちは、その……」
「いやぁ、お疲れさまです先輩~~♪ボクたち今年入ったこの学校の一年の佐藤と高橋です~~♪」
直也は手揉みしながら下手に出て、ぬけぬけと嘘八百を並べる。
「ん?今年入った一年?」
「はい~♪ボクたち学校がおわって真っ直ぐおうちへ帰って着替えたんですよぉ~~。それで今日はボクたちの友達の鈴木君のおうちで高橋君と三人でお勉強会をする約束をしてたんですけど、高橋君が教科書を学校に忘れてきちゃったみたいでぇ~。ね、高橋君?」
よくここまで嘘八百を並べられるものだと感心していた矢先、急に直也から話を振られて焦る高橋君こと健悟。
「え!?あ、ああ~~はい、そ、そうなんですよぉ~~」
「彼も私服に着替えてから忘れたことに気付いたらしくてぇ~。制服に着替えて取りにいっちゃった場合、また制服から私服に着替えなおして鈴木君のおうちに行くとなると、鈴木君のおうちで三人でお勉強する時間が減っちゃうでしょ?」
つらつらと、それっぽい事情を並べていく直也。
「ですから、仕方なく私服のまま教科書を取りに来て、そのまま鈴木君のおうちへ行こうって話になったんです。まったく、高橋君はうっかりさんだなぁ~~♪」
「い、いやぁ~~、あはは~~……」
直也の嘘に、引きつった笑顔で合わせる健悟。
「……そうか。まぁ、それなら仕方無いな。君、今度から忘れ物には気を付けるようにね。それと、友達の家で一緒に勉強するのは結構だが、帰りは遅くならないようにね?ただでさえ今は、隣町で不審者が目撃されたり、うちの学校の生徒二人が行方知れずになったりと、なにかと物騒だから……」
「はぁ~~い♪気を付けま~す♪」
そう答え、直也と健悟はそそくさとその場を離れる。
「……お前、よくもまぁぬけぬけと、あんな嘘っぱち並べられるな。ってか、佐藤に高橋に鈴木って……」
風紀委員の生徒から離れたところで、健悟がそう耳打ちする。
「日本でトップ3に多い苗字だ。そう名乗っとけば、後々調べられても一人ずつは該当する苗字のやつがいるだろ、たぶん。そんなことより、早く旧校舎に行くぞ」
──六話へ続く──
直也之草子第五話、いかがでしたでしょうか?ここへ来てようやく、物語も動き始めました。それでは、今回も登場人物紹介、其の四です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
・田中月男
・誕生日:9月30日【十五夜の日】(10歳)
・身長:141cm ・体重:35kg
・直也と健悟の幼馴染。青みがかった黒髪に、中性的な顔立ちの少年。日頃から無表情で何を考えているか判らないポーカーフェイス。ただ無感情なわけではなく、むしろどちらかといえば感情豊か。表情筋は動かなくとも、己の感情は言葉とボディランゲージで表すことが多い。家族は父と母、妹と弟がいるが、母親とは血が繋がっていない。出自が地味に謎めいている。