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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
五之譚 剣ノ噺

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〜第三話 水の御業〜

 ドーモ、政岡三郎です。今回は五之譚最終話です。コバヤシから大通連を受け取ってから一年。大通連の力で様々な修羅場を乗り越えてきた直也は、ある技を使えるようになっていた___。

 ___直也がコバヤシから大通連を託されてから、一年後の九月。


 直也はコバヤシと出会った川原で、大通連を豪快に振り回していた。


 初めの頃は、二、三回振るうだけですぐにへばっていたが、この一年間少しずつ鍛錬を積んだことで、直也は着実に大通連を使いこなせるようになっていった。


 刀の持つ神通力に、体が慣れてきたというのだろうか?今では大通連を抜刀した状態で持っているだけなら、一時間は保つようになった。


「フゥー……」


 ひとしきり刀を振った後、直也はゆっくりと息を吐いて刀を鞘に納める。


「お疲れさん、直也。しっかしお前も、だいぶその刀扱えるようになったよなぁ〜」


 直也の鍛錬を離れて見ていた健悟が、直也にタオルを差し出しながらそう言う。


「ヘヘッまぁな」


 言いながら、健悟からタオルを受け取って汗を拭う直也。


 今日は風が一段と強く、吹き付ける風が汗をかいた体に心地良い。


「……けどよ?考えてみりゃあこの刀にも、結構助けられてきたよな?」


 汗を拭いながら、直也は腰に提げた刀を見てしみじみと言う。


 思えば、中学校の旧校舎の髪鬼や、3駅離れた町でのテケテケ騒動など、この一年間でちょくちょく大通連が役に立つ場面があった。


 それらの経験も、直也が大通連を扱えるようになった要因の一つだ。


「ほんとだよなー。っつーかさ?今のお前ならひょっとして、あれできんじゃねーの?ほら、去年コバヤシさんがやってた、川の水を真っ二つに割るやつ」


 自分で言って、健悟は直後いやいやと首を振る。


「……自分で言っといてなんだけど、流石にあれは無理だよなぁ……いくらなんでも、人間技じゃねえってあれは……」


 そう一人で結論付ける健悟に、直也は不敵に笑う。


「へっへっへ……健悟よぉ、この俺が一年間、なにも身につけずにただ刀ぁ振ってただけだと思うか?」


 直也の意味深な言い回しに、健悟は目を丸くする。


「まさかお前……できんの!?あの川の水を真っ二つに割るやつ!?」


「いや、あれはできねえ。でもよ、代わりに面白(おもしれ)え技ができるようになったんだぜ?」


 もったいぶるように言う直也。


面白(おもしれ)え技?それって一体__」


 健悟が話の続きを促そうとしたところで、月男が遅れてやってくる。


「おまたー」


「おう、おせぇぞ月男」


「ごめんぬ。でも、良い物持ってきたよ」


 そう言うと月男は、背負っているリュックサックを下ろして中からある物を取り出す。


「見てこれ、さつま芋。ふるさと納税の返礼品」


 月男が持ってきたのは、中々に良いサイズのさつま芋だった。


「あー、ふるさと納税か。そういえばウチの母ちゃんも今、ふるさと納税どこにするか迷ってんだよな。北海道か福岡かでさ。月男んとこは、鹿児島?」


 健悟が受け取ったさつま芋を見ながら訊ねる。


「ん〜ん、ウチは茨城。父さんがフィーリングで決めたみたい」


「またシブいところ選んだな〜おやっさん。ま、あの人らしいけどよ?」


 手に取ったさつま芋を見て、直也は肩を竦める。


 そうしている内に、月男は更にリュックサックから持参した薪と着火剤、そしてアルミホイルを取り出す。


「そんで、直也と健悟にもおすそ分けで持っていきなさいって言われたんだけど、どうせ直也すぐ食べるでしょ?そう思って予め、薪と着火剤用意してきたんだ〜。焼き芋しよ、焼き芋」


 そう言って月男は適当に薪を並べると、その上に着火剤を置いてマッチを擦る。


「焼き芋って……今日結構風強くね?大丈夫かよ……」


 一抹の不安を覚え、そう口にする健悟。


「大丈夫大丈夫。そんな言われたそばから火の不始末なんて___」


 マッチで着火剤に火を着ける月男。


 その瞬間、火は風に煽られ瞬く間に燃え上がり___。


 風に煽られるまま、月男が置いたリュックサックの方に炎が傾き___。


 ___リュックサックに炎が燃え移り、炎上した。


「うわあああーーーー!!」


「ほら言わんこっちゃないぃいいいい!!?」


 頭を抱えあたふたする月男と健悟。


 川岸なので近くに水はある。


 しかし、リュックサックをそこまで持っていこうにも、強風に煽られたリュックはもう持つところが無い程に火が広がってしまっている。


 逆に、川から水を汲んでこようにも、汲むためのバケツが無い。


 もちろん、焚き火をするにあたって月男もバケツは持ってきていたのだが、そのバケツは燃え盛るリュックの中にある。取り出す前に、炎上してしまったのだ。


 もはや万事休すかと思われたその時、直也が動く。


「チッ、阿呆が……!」


 腰を落とし、抜刀の構えを取る直也。


 直也が抜刀した瞬間、大通連の刀身がぐにゃりと歪む。


 歪んだ刀身は、輝く銀色から無色透明に変化し、気付けば刀身だけでなく直也が握る柄までも、無色透明の歪みに変わっていた。


 それは、水。


 直也が握るそれは、銀色の刀身の刀から、無色透明の水の鞭に姿を変えていた。


「シッ!!」


 水の鞭を振るう直也。


 水の鞭は燃え盛るリュックサックに当たった瞬間膨張し、膨大な質量の水が弾ける。


 弾けた水が炎上するリュックサックを飲み込み、燃え盛る火を一瞬で消し去った。


 火を消した水は再び直也の手元に収束し、柔らかな鞭の形から、芯の通った一本の刃の形へと戻っていく。


 やがて無色透明の水の鞭は、元の銀色に輝く刀身の日本刀の姿へと戻った。


 突然目の前で起こった出来事に、健悟と月男は呆然として立ち尽くす。


「…………な………な……」


「何?今の?」


 あまりの非現実的な出来事に、上手く声が出せない健悟に代わって、月男が直也に訊ねる。


「ヘヘッ、これな。この前一人で大通連(こいつ)を振ってた時に、一年前コバヤシの姉ちゃんがやった川の水を真っ二つに割るやつをイメージしながら振ったら、なんかできてよ?自分でやったことながら、さすがに驚いたぜ」


 さもなんでもないことのように言う直也。


「すご~い!アニメであるやつじゃん!ほらあれ、水の吐息」


「いやいや、あの刀から水が出るやつってイメージ映像みたいな演出じゃねえの?」


「えー、そうなの?僕、てっきり実際に水が出てるのかと思ったよ」


 月男と直也の会話が人気アニメの話にまで及んだタイミングで、健悟が「いやいやいやいや!?」と首を横に振る。


「あり得ないあり得ない!これはさすがにあり得なさ過ぎて引くわ!どうなってんだよ、マジで……」


「あり得ないって、これまで河童とか幽霊とか見てきたのに、それは今更じゃない?健悟?」


 少々オーバーに驚く健悟に、月男がすかさずツッコむ。


「ハハッ!月男にツッコまれてやんの!」


 いつもボケてばかりの月男にツッコまれた健悟を、ゲラゲラと笑う直也。


「い、いや、そりゃあ確かに、今までもいろいろ不思議なモンは見てきたけど……見てきたけどさぁあ〜〜……」


 いまいち納得がいかず、渋い顔をする健悟。


「頭かてぇんだよ、おめぇはよ。もうちっと柔軟に物事を受け止めろっての」


「刀だって柔らかくなれたのに健悟は頭固いままとか、健悟の頭無機物以下だね」


 月男の言葉に、直也は更にゲラゲラと笑い、健悟は渋い顔をより一層渋くするのだった。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――








 直也が大通連を水に変えた瞬間を、遠く離れた樹の上から見ていた者が一人___直也に大通連を渡した張本人、コバヤシだ。


「……」


 太い樹の枝に腰を下ろし、コバヤシは考え込む。


 一年前、直也の姿を遠くから初めて見た時、コバヤシは直也が”何者であるか”、すぐに解った。


 直也はまだ幼いが、その面差しには確かに”田村の血”を感じた。


 決定的だったのは、コバヤシの持つ刀、顕明連が見せた”因果”。


 持つ者に三千大千世界を見通す力を授ける顕明連はコバヤシに、直也と”奴”を繋ぐ因果の糸を確かに見せた。


 その因果の糸は、断ち切るにはあまりにも太く、強固な繋がりであった。


(じゃが……)


 コバヤシは考える。


 何故、直也と”奴”の間にああも強固な因果が?


 確かに、”奴”と田村の血には因縁がある。


 けれど、それはもう1200年も前の因縁だ。


 田村の血と因縁はあれど、末代の直也が会ったことも無いであろう”奴”と、ここまで強く因果が結ばれているということに、コバヤシは引っ掛かりを覚えていた。


 それほどまでに、”奴”の田村に対する憎悪が深いということなのか、或いは___。


 考えて、コバヤシは首を横に振る。


 因果の由縁を探ったところで、詮無きこと。


 重要なのは、近い将来”奴”と直也が確実にまみえるであろうということ。


 これ程深く繋がった因果は、もはや高天原の神にすら断ち切れぬだろう。


 直也と”奴”は、間違いなく相まみえる。


 それが解ったからこそ、コバヤシは直也に大通連を渡した。


 無論、大通連を扱えるようになったからといって、”奴”を(たお)せるようになるわけではない。


 それどころかむしろ、大通連は(もと)を正せば”奴の持つ力”だ。


 たとえ使いこなせても、”奴”には通用しないだろう。


 けれどそれでも、直也が大通連の持つ通力に触れることで、たとえ斃せずともいざという時に身を守る(すべ)を得られればと思い、直也に大通連を託したのだ。


 そして今日。


 コバヤシは久々に直也の様子を見に来たのだが、はっきり言ってコバヤシは驚きを隠せなかった。


 直也はこの一年で、大通連をあそこまで扱えるようになったのみならず、彼は神通力を操り大通連を水に変えてみせた。


 大通連を水に変える(わざ)……あれは紛れもない、”あの御方”の御業。


「……やはり、血筋か」


 もしも直也があと10年、坂上(さかのうえ)の本家で本格的な修行さえ積むことができれば……。


 そうすればゆくゆくは、”騒速(そはや)”の担い手として、”奴”に対抗し得る存在になるかもしれない。


 問題は、いつ直也が”奴”とまみえることになるかだ。


 恐らく、”奴”の封印が解けるのはあと三年といったところ。


 三年では早すぎる。


 どうしてもあと10年は必要だが、”奴”が何もしないまま七年も待つとは思えない。


(やはり、封印を張りなおすべきか……)


 危険な賭けだが、三年後にもう七年封印を延長できれば、この上ない。


 その間に直也に全てを明かし、坂上にも事情を話し、説得する。


 正直、これが一番の難問だろう。


(坂上が、田村の家の者に”騒速(そはや)”を託すとも……そもそも、儂の言うことを素直に聞くとも思えんが……)


 やってみるしかないだろう。


 直也が”奴”と相まみえるまでに、全てのお膳立てを整える。


 コバヤシは、腰を下ろしていた樹の枝の上で立ち上がり、踵を返して樹から飛び降りる。


 着地したのち、もう一度遠くの直也達を振り返る。


「………おぬしの忘れ形見は、健やかに育っておるぞ、燈也よ……」


 ぽつりと、そう呟く。


 コバヤシはそのまま直也達に会うこと無く、その場を去るのだった。




__五之譚 剣ノ噺 完__


__幕間譚其の二へ続く__

 直也之草子五之譚、いかがでしたでしょうか?


 五之譚は直也がコバヤシと出会い大通連をもらった時のエピソードでした。


 このエピソードは、一之譚で初めて大通連が出てきた時にちょろっと本編で語っていましたので、その時からいずれ本編で掘り下げようと思っていました。


 実はこれ、最初は八月の夏休み中のエピソードにする予定でした。


 ですが、その時八月のエピソードは既に四之譚【夏ノ少女】の話が出来上がっていたので、さすがにひと月に二つのエピソードを詰め込むのは進みが遅いかな?と思いまして。


 で、色々と考えた末九月のエピソードにしました。九月は他の月と違って幕間譚だけで、固定のエピソードが無かったので。


 それと、今回の話で直也が使った技ですが、これは別に某アニメのパクリというわけではなく、大通連の持つとあるエピソードに準拠している技です。


 大通連で検索すればそのエピソードを纏めた記事も出てくると思いますが、この場ではあえてそれは語りません。


 それを語ると後書きが長くなるというのもありますが、なにより大通連のエピソードはこの『直也之草子』というローファンタジーの元ネタというか、根幹に関わるエピソードなんです。


 ですので、その大通連のエピソードはいつか本編にて語らせていただきます。


 さて、次回は再びの幕間譚。


 十五夜の夜の田中家の団欒のお話と、それと時を同じくした直也の趣味と将来の目標に関するお話です。こうご期待。

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