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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
四之譚 夏ノ少女

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〜第四話 相撲〜

 ドーモ、政岡三郎です。またやってしまった……昨日の分は既に予約掲載してあると思っていたら、してなかったorzというわけで、四之譚第四話、始まります。突如直也達の前に現れた妖魔、河童。久し振りの新鮮な”尻子玉”を手に入れるべく、直也達に襲いかかる___。

 自らを河童と名乗った化け物が、直也と夏音目掛けて飛び掛かる。


「チッ!!」


 直也は夏音を抱え、真横に跳ぶ。


 直也と夏音のいた場所を、河童が思いきり踏みつける。


 夏音を庇いながら地面を転がり、素早く夏音を立たせる直也。


「離れてろ、かのん!!」


 直也は夏音の背中を押すと、振り返って河童と向かい合う。


「離れてろって……き、キミは……!?」


 夏音が心配そうに直也を見る。


「心配いらねえよ。俺に任せろ!」


 直也は半身に構えると、最近格闘技のブルーレイで見たデトロイトスタイルの構えを取りつつ、改めて河童を見る。


 身長は直也と同じ程度。緑色の皮膚にボテッとした腹。手足には水掻きがついていて、頭は人間の二倍のサイズ。ギョロッとした黄色い眼が直也を見据え大きな口元はニタニタと笑っている。


 そして、頭頂部。直也の目線からだと角度的に見辛いが、確かに皿のようなものが確認できる。


「……まさか、マジでこの町に河童がいやがるとはな。町長のやってる町おこしのやつとか、根拠のねえ作り話だと思ってたぜ」


 ぼそりと呟く直也。


「アア?ナニボソボソ言ッテヤガル!?オレサマニ恐レヲナスアマリ、上手ク喋レネェッテカァア?」


 そう凄む河童に、直也は思わず言葉を失う。


「久シブリニ人間ノ"シリコダマ"ガ手ニ入ルト思ッテ、ソコノガキヲ誘キ寄セタノニヨォ……ヨクモ邪魔シテクレタナァ、アア"!?」


 ダガ……と河童は言う。


「オレサマハ今、機嫌ガイイカラ特別ニ許シテヤルヨォ~。……ナンセ、新鮮ナ"シリコダマ"ガ二ツモ手ニ入ルンダカラナァア!!」


 そう言って河童は、下卑た舌舐めずりをする。


 ひとしきり河童の一人語りを聞いた直也は、ポリポリと頭を掻いた後、落胆とも失望ともとれるため息を吐く。


「……ごちゃごちゃと、お喋りな野郎だな」


「ア"ア"!?」


 河童の黄色い目がギョロリと動く。


 直也はさも河童を小馬鹿にするような冷笑を浮かべて言う。


「妖怪とか未確認生物とか言われてるから、どんな神秘的な生き物かと思ったら……とんだチンピラじゃねぇか」


 直也の言葉に、河童は額に青筋を浮かべる。


「……テメェ………オレサマヲ馬鹿ニシテンノカ?」


 声に怒りを滲ませる河童を、直也は嘲笑う。


「イキがんなよ……きゅうり食って相撲とるしか能のねぇドサンピンがよぉ」


 直也のその一言に、ついに河童の堪忍袋の緒が切れる。


「…………ドサンピンハ………テメェダロォガアァアアアアアアアアアア!!!」


 河童が直也に飛び掛かる。


 河童が地面を蹴るのと同時に、直也も地面を蹴る。


 直也はきりもみ回転をしながら跳躍し、向かってくる河童を両足の裏で蹴りつける。


「グェエッ……!?」


 きりもみ回転をしながらの両足蹴り、《ドロップ・マグナム》が河童の鳩尾に突き刺さり、河童の体が後退する。


 技を繰り出したのち、地面を転がって素早く立ち上がった直也は、河童の顔面に大振りの右フックを見舞う。


 しかし───。


「ソンナチャチナ拳ガ……効クカヨォ!!」


 河童は怯まず、右手の爪を振り回す。


 直也は上体を後ろに反らして攻撃を避ける《スウェー》という技術で、河童の爪を躱す。


 スウェーをした際、河童の爪が直也の前髪をかすめ、三、四本の髪がはらはらと宙を舞う。


 河童の爪は、中々に鋭いようだ。


 直也はそのまま後ろへステップして、河童から距離を取る。


 後退しながら、直也は河童の特長を冷静に分析する。


 まず、メインウェポンはあの爪と見て間違いないだろう。


 見た目にも、猛獣のそれと遜色ない鋭さがあると判る。


 次に特筆すべきは、跳躍力だ。


 川から岸に上がる時に始まり、そこから河童が度々見せたあの跳躍力。幅跳びであれば、オリンピック級だ。


 今は距離を取っているが、あの跳躍力を見た後では、正直この距離でも油断はできない。


 おまけに、河童はそこそこの耐久力(タフネス)も兼ね備えている。


 直也渾身の《ドロップ・マグナム》を、相手の跳躍に合わせてカウンターで叩き込んだというのに、河童は後ろへ下がるだけでダウンすらしなかった。


 それに、頭がデカイ分骨格がしっかりしているのか、顔へのパンチも効果が薄いように感じる。


(もっと俺のパンチ力があれば、あいつの脳を揺らせられるんだがな……クソッ)


 直也が小さく舌打ちした瞬間、河童が再び直也に飛び掛かる。


(……だが)


 直也はニヤリと笑い、左に転がって河童を躱す。


 河童には確かにストロングポイントがあるが、同時にウィークポイントも確かに存在するのだ。


 河童の弱点、それは機動力とハンドスピードだ。


 確かに河童は跳躍力こそあるものの、飛び掛かりを躱された時の切り返しは遅く、接近戦でのハンドスピードも、素人同然だ。


 現に河童は、直也が左へ転がって避けた後も追撃が遅く、いざ追撃で両手の爪を振りかざしても、直也がテレビのボクシングの試合を見て見よう見まねで覚えた《スウェー》、《ダッキング》、《ウィービング》等の回避技術で、充分躱せる。


「クソッ、チョコマカト……ッ!?」


 河童が直也の顔面目掛けて袈裟に振った右手の爪を、上体をUの字を描くように動かす《ウィービング》で躱した直也は、河童の右脇腹に左ボディブローを叩き込む。


「グッ……コノガキャア!!」


 河童がタックルを仕掛ける。


 この時直也は、河童のタックルを冷静にいなすという選択肢もあったのだが、ここに来て直也の悪い癖が出る。


 直也は河童のタックルをあえて真正面から受け止め、体を密着させて組み合う。


 いわゆる、相撲で言う《四つ身》の状態だ。


「上等だぜ、クソガッパ!相撲やろうぜ!!」


 河童が相撲が得意だという逸話は、直也でも知っている。


 だからこそ、直也は河童と組み合うことを選んだ。


 直也は戦いがヒートアップすると、力で向かってこようとする相手に、自身もまたムキになって真正面から力で対抗しようとしてしまう、子供じみた癖があった。


 中学生のヤンキーと喧嘩になる時など、直也が自身のこの悪癖によって窮地に立たされたのは、一度や二度ではなかった。


 そして今回もまた、それは例外ではなかった。


「───ッ!?」


 河童を寄り切ろうとした直也だが、河童はまるでそびえ立つ大木のようにびくともしない。


「オラァ!!」


 寄り切ろうとした直也に、逆に《上手投げ》を決められてしまう。


(こいつ……下半身の安定感が半端じゃねえ……!!)


 先程から幾度となく河童が披露している跳躍。


 大した助走もつけずにオリンピック選手の幅跳びレベルの跳躍力を生み出す源は、人間とは構造の異なるどっしりとした下半身にあるのだ。


 そのどっしりとした下半身の安定感は、こうした組み合いに於いて絶大な効果を発揮する。


 河童が相撲が得意だという逸話も、この下半身があれば頷ける。


 河童が思いきりジャンプして、地面に倒れた直也を踏みつけるようとする。


 あのどっしりした足で踏まれたら、ひとたまりもない。


 直也は地面を転がって、河童の踏みつけを紙一重で躱す。


「オラァ!!マダマダイクゾォオ!!」


 再び河童がタックルを仕掛ける。


 立ち上がり際を狙われた直也は、躱すこともできず、再び河童と四つ身の組み合いになる。


「くっ……こンのッ!!」


 なんとか河童を投げようとする直也だが、廻しも衣服も纏っていない河童の肌の質感は、まるで釣りたての魚のようにヌメッとしていて、投げにくい。


 その肌の質感が下半身の強さと合わさり、もはや河童を投げ倒すのは至難の技だ。


「腰ガ入ッテネェゾォオ!!投ゲルッテノハナァ……」


 直也の腰の辺りをしっかりとホールドした河童の両手に、力が入る。


「コオヤルンダヨォオ!!」


 河童は四つ身状態から直也の内股に片膝を入れ、直也を持ち上げる。相撲で言うところの《櫓投げ》だ。


「がはっ!?」


 再び地面に倒され、衝撃で肺の酸素を吐き出す直也。


「オラオラァ!マダマダァア!!」


 河童は直也の体を持ち上げ三たび立たせると、再び四つ身の状態に持ち込む。


 爪による攻撃は避けられると悟った上で、四つ身に組み合った状態から徹底的にいたぶるつもりだ。


「ぁ………ぁ………やめて……やめてよお!!」


 離れてその様子を見ていた夏音が叫ぶ。


「ケケケ!誰ガヤメテヤルカヨォ!!コノオレサマヲ───」


 《外掛け》。


「コケニシヤガッテ───」


 《渡し込み》。


「───クソガキガアアア!!」


 《突き倒し》。


 夏音の願いも虚しく、次々と直也に技をかけ、倒しては起き上がらせを繰り返す河童。


「オラァ、サッキマデノ威勢ハドウシタ、ガキィイ!!」


 河童はだめ押しの《寄り倒し》で直也を転倒させると、そのまま直也の上に馬乗りになる。


「相撲ハ終ワリダァア、オ次ハコノ自慢ノ爪デジックリト切リ刻ンデ、最後ニ"シリコダマ"ヲ抜キ取ッテヤルヨオオオ!!ケケケケケ!!」


 馬乗りになった河童が右手の爪を振り上げる。


「くっ……!?」


 この状況では、直也に避ける術はない。


 直也は咄嗟にガードの姿勢を取る。


 河童の爪が直也の腕を切りつけ、血が飛び散る。


「───っっ!!」


 飛び散る血を見て、声にならない悲鳴を上げる夏音。


「だ…………誰か………誰かああ!!」


 救いを求める夏音の声が、山に虚しく響き渡る。


「呼ンダッテ助ケナンカ来ネェヨオオ!!」


 河童が今度は左の爪を振り上げ、ガードの上から直也を再び切りつける。


(クソッ、ジリ貧だぜ……)


 腕から血を流しながら、ガードの隙間から河童を睨む直也。


「……ァア?ナンダァソノ眼ハ!?」


 ガードの隙間から直也と目が合い、河童はその反抗的な眼にイラつく。


「癪ニ障ル眼ェシヤガッテ……アッチノ雌ガキミテェニ泣キ喚ケヤァアアアア!!」


 河童が三たび、ゆっくりと爪を振り上げる。


「やめて………やめてーーーーー!!!」


 堪らず夏音が、直也と河童の方へ駆けていく。


「バカ!来るな!!」


 咄嗟に声を上げる直也。


「アァン?」


 河童が夏音の方を向く。


「クソッ!!」


 このままでは夏音も、河童の爪にやられる。


 直也は咄嗟に、河童の頭に手を伸ばす。


 なんとかして、河童の注意を夏音から逸らさなければ。そう思い伸ばした手が河童の頭に触れた、その時───。


「ッッ!?」


 突然河童が、大袈裟に直也の上から飛び退く。


「……あ?」


 唐突な河童の行動に意表を突かれた直也だが、直ぐ様ハッとして立ち上がる。


「だ……大丈夫?」


 泣きながら駆け付けてきた夏音が、直也に訊ねる。


「この程度、なんともねぇよ。心配かけて悪かったな」


 泣きじゃくる夏音をあやすように、夏音の頭にポンと手を置いて、ニッと笑う直也。


「おぉーーい!!直也ーー!!」


 ちょうどその時、川の上流の方から健悟、月男、幸子がこっちに向かってくる。


「なにやってたんだよー?かのんちゃん探しにいったって月男から聞いたけど、戻ってくるのが遅いから心配し───んん!?」


「なにあれーー!?」


 河童の存在に気付いた三人が、目を丸くする。


「河童だってよ。俺らのシリコダマが欲しいらしいぜ?」


 三人の疑問に、河童の方を向きながら直也が答える。


「ちょっ……マジ!?着ぐるみじゃなくて!?」


「しりこだまってなぁに??」


 驚愕する健悟と、シリコダマが分からず頭に疑問符を浮かべる幸子。


「………直也、怪我してる?」


 月男が直也の怪我に気付く。


「ちょっと油断してな。それよりお前ら、下がってろ。あの野郎とは、俺がケリをつける」


 そう言うと直也は、再び拳を構えつつ肩越しに夏音を見る。


「お前のお陰で、重要なことに気付けたぜ。サンキュー、かのん」


 直也は夏音にそう言うと、今度は河童に向かって告げる。


「ギャラリーも増えたしよ。ラウンド2と洒落込もうぜ!!」




──第五話へ続く──

 四之譚第四話、いかがでしたでしょうか?ここからは、登場人物紹介其の三十一です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


田中年男(たなかとしお)


・誕生日:5月5日【端午の節句】(当時1歳、現在2歳)


・身長:当時74cm、現在86cm 体重:当時9kg、現在12kg


・田中家の次男で、月男と幸子の弟。まだ幼いが、こちらも幸子と同じで表情豊か。ただ、1歳に満たない頃から夜泣きがほとんど無く、手がかからなかった反面逆に結奈はそのことを心配していた。最近ではよく兄の月男や姉の幸子の行動を模倣している。

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