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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
四之譚 夏ノ少女

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〜第三話 川辺の人影〜

 ドーモ、政岡三郎です。四之譚第三話、始まります。虫取りの後、近くの川岸で休憩をとることにした直也達。ふと幸子が、川の中に魚影を見つけ___。

「よ~し、見てろよ~?」


 一本の木を前に、トントンとその場でステップを踏む直也を、健悟、月男、幸子、夏音の四人が見守る。


「フンッ!」


 直也が木の幹に後ろ回し蹴りを叩き込む。


 すると、木からカブトムシとクワガタが1匹ずつ落ちてくる。


「見ろよ、このカブト!デッケェだろ?こっちはオニクワガタだな。結構珍しいやつだぜ?」


 直也が落ちてきたカブトムシとクワガタを手にとって、四人に見せる。


「わぁー!」


「すごい……!」


 夏音と幸子が手を叩いてはしゃぐ。


 直也は手にした2匹の昆虫を自身の虫かごに入れると、健悟と月男の持つ虫かごと自身の虫かごを見て一言。


「おし、結構集まったな?」


 山に来てかれこれ二時間近く昆虫採集をしていたため、かごの中はカブトムシやクワガタで一杯だ。


「どれ、ここいらで少し、川辺に行って休憩するか」


「さんせー」


「異議なーし」


「わぁーい!川遊び♪」


 直也の提案に、健悟と月男、幸子が同調する。


「かのんもそれでいいか?川の水、気持ちいいぜ?」


「うん!」


 夏音が頷く。


 人見知りな夏音も、この二日間で随分直也達と打ち解けていた。


 山の中を10分程歩き、直也達一行は山を流れる川へたどり着いた。


 この場所は地元の人間しか知らない穴場で、一年を通してニジマス釣りなども楽しめる。


 車が入ってこられる場所ではないため、気軽にバーベキューなどができる場所ではないが、それでも一部の地元民にはこれ以上ないプレイスポットだ。


「わぁ……!」


 都会には滅多にない、田舎ならではのプレイスポットに目を輝かせる夏音。


「涼しいだろ?地元の人間しか知らねえ秘密の場所なんだぜ」


 普段の直也であれば、こんな暑い日は一目散に川に飛び込むところだが、今は自分より小さい夏音や幸子が居るため、自重する。二人が真似をして溺れたりでもしたら、大変だ。


「「わーい!」」


 そんな直也の気も知らず、服のまま川に飛び込む田中兄妹。


 直也は直ぐ様川に入って田中兄妹を引きずり出し、妹の幸子にデコピン、兄の月男にゲンコツを喰らわす。


「いきなり川の深いところに飛び込むな!溺れたらどうする!?」


「うぅ~~……ごめんなしゃい……」


 額をおさえながら謝る幸子。


「テメェも兄貴なら少しは自重しろ月男ォ!!」


 月男にはおまけでもう一発ゲンコツを見舞う。


「当たり強くない?ねぇ、僕にだけ当たり強くない?」


「いや、そりゃそうだろ……俺らこのメンバーの中では一応年長組だからな?」


 文句を垂れる月男に、健悟がツッコむ。


「楽しむのは浅瀬のところでな?ほら、かのん。来いよ」


 夏音の手を引いて、川の浅瀬まで歩く直也。


「靴と靴下脱いで、水に足つけてみな。冷たくて気持ちいいぜ?」


 直也に言われるままに、靴と靴下を脱いでそぉーっと水に足をつける夏音。


「っ!冷たい……」


 水の冷たさに一瞬体が強張る。


 夏音は川の冷たさにゆっくりと体を慣らすように、二、三度つま先を水面につけたのち、ゆっくりと足を浸水させる。


「な?気持ちいいだろ?」


「……うん!」


 ニッと笑いながら言う直也に、夏音は元気良く頷く。


 それから直也達は、しばらくの間川の水で足元を冷した。


 月男と幸子がふざけて川の水をかけてきたのを切っ掛けに水のかけあいになったりもしたが、夏場なら服も直ぐに乾くので、さほど気にはならなかった。


「お前ら、水分もしっかり摂っとけよ?月男、スポドリまだあるよな?」


「たくさんあるよー」


 そう言うと月男は、スポーツドリンクの入った水筒をバックから取り出す。


 月男に渡されたスポーツドリンクを飲んだ後、幸子はあることに気が付き川の深いところを指差す。


「ねぇねぇ、川におさかなさんがいるよー?」


 四人が幸子の指差したところを見ると、確かに川底の方にちらほらと魚影が見える。


「本格的なニジマス釣りのシーズンは秋から春にかけてって言われてるけど、この辺りは通年釣りが楽しめるからなぁ~。釣竿でももってくりゃあよかったかね?」


 健悟がそう言うと、直也はニヤリと笑いながら告げる。


「……健悟、月男。薪になりそうなモン用意しろ」


「……え?」


 直也の言葉に、一瞬ポカンとする健悟。


「釣竿がなけりゃあ、素手で獲りゃあいいべ?」


 そう言うなり直也は、浅瀬から川が深くなる丁度境目のところに留まる一匹の魚影に狙いを定める。


 川下に回り、川上を向く魚の背後からゆっくりと、ゆっくりと近付く。


「…………!!」


 魚が直也の気配に気付くギリギリの間合いで、直也が素早く手を突っ込む。


 魚影を掴むというより、魚影を"弾く"ように、直也は魚を川岸へ向かって投げる。


 魚が宙を舞い、川岸に打ち上げられる。


「おお!」


「すごーい!」


 健悟と幸子が歓声を上げる。


「お~し!ジャンジャン捕ってやるから、ジャンジャン焼きな!」


 そう言って、次の魚に狙いを定める直也。


 一方、焼けと言われて健悟と夏音は顔を見合わせて戸惑う。


「焼け……って言われてもな……」


「どうやって……?」


 二人が困っていると、月男がバックを漁りながら言う。


「実はこんなこともあろうかと、マッチと竹串は用意してあります」


「お前ほんとに便利なやつな……」


 用意周到な月男に、健悟は関心を通り越して呆れてしまう。


「えっと………じゃあ、薪になりそうな物を用意すればいいの?」


 夏音が呟くと、健悟が頷く。


「だな。とりあえず、地面に落ちてる枯れ枝を集めればいいだろ。直也が魚捕ってる間に、手分けして拾ってこようぜ」


 健悟の言葉に、幸子が不満を言う。


「ええ~~!?やだやだ!ウチもなおちゃんといっしょに、おさかなさんとりたい!」


「いやいや、幸子はまだ小さいから無理だって。お魚さん捕るのは、もう少し大きくなってからな?」


「ぶーっ!」


 不満を漏らしながらもしぶしぶ健悟と薪を拾いに行く幸子。


「それじゃあ僕はここで、直也が川岸に打ち上げる魚の串打ちでもしようかな?のんちゃんはあっちの川沿いの方に行って、燃えそうな物がないか見てきておくれ。森の方は一人じゃ迷子になるかもしれないから、入っちゃダメだよ?」


 夏音にそう言ってから、月男は早速直也が岸に打ち上げた魚を串に刺す。


「うん、わかった」


 そう告げて川沿いを下流の方へ向かって歩き出そうとした夏音に、月男が更に言葉を付け加える。


「あ、そうそう。燃えそうな物っていっても、木の枝を折ったりしちゃダメだからね?あくまで落ちてる物だけを探すんだよ?」


「はぁーい」


 振り向いてそう答えたのち、夏音は川沿いを下流へと歩いていった。


 川岸に沿って歩き、森の方を見ては落ちている枯れ枝が生えていないか探す。


 しかし、中々丁度良い枯れ枝が見当たらない。


(もっと森の奥に入っていけば、ちょうどいいのが見つかるかもだけど……)


 しかし、夏音一人で森に入れば月男が言った通り迷子になってしまう可能性もある。


 手分けして広い範囲を探すために一人でここまで来た夏音だが、これならいっそ幸子のように健悟についていってた方が、効率よく薪を集められたかもしれない。


 今からでも戻って、健悟と合流するべきか悩む夏音。


 そんな夏音の視界にふと、あるものが映り込む。


 夏音のいる位置から、下流へ100メートル程下ったところにある、対岸の小さな崖の上。


 ───誰かいる。


「……?」


 遠くてよく分からないが、子供のようだ。


 夏音は一瞬、直也達四人の誰かかと思ったが、直也達は夏音よりも上流の方にいるはずだ。


 そして何より、格好がおかしい。


 遠くにいる子供(おそらく少年)は、坊主頭に上半身は裸、下半身は腰にぼろぼろの麻布のようなものを巻いているだけという、異様な出で立ちだった。


 直也達以外にも、ここへ遊びに来る地元の子供がいてもおかしくはないかもしれないが、それにしたってあの風貌は変だ。


 夏音が訝しんでいると、不意に遠くの崖に佇む少年が、夏音の視線に気付いたかのように、こちらを向いた。


「───っ!?」


 思わずぎくりとする夏音。


 次の瞬間───。




 その少年の体は直立したまま前のめりに傾き、崖から身を乗り出した。




「えっ───!?」


 夏音が驚きの声を上げるのと、少年の体が川に落ちて水飛沫を上げるのは、ほぼ同時だった。


 夏音は直ぐ様、少年が落ちた場所の近くまで走る。


 落ちたところで命に危険がある程の高さの崖ではなかったが、少年の落ち方は明らかに異様だった。


 少年が身を乗り出した崖の対岸までやって来た夏音。


 けれど充分な時間があったにも関わらず、ここへ来てもまだ川に落ちた少年が川から上がってくる気配はない。


(どうしよう………どうしよう……!?)


 人が目の前で溺れる様を、初めて目の当たりにした夏音。


 動揺するあまり、自分がとるべき正しい行動が判らなくなる。


「た……助けなきゃ……!!」


 溺れた少年を助けるため、夏音は川に足を踏み入れ、そのまま少年が落ちた場所の近くまで進んでいく。


 少し進んだだけで、川の水位はすぐに夏音の腰の辺りまで高くなる。


 これ以上進むのは危険だ。夏音がそう感じた、その時───。



 ───水の中から、手が伸びてきた。



 ───"人ではない、ナニカの手"が。



「ひっ───」


 夏音が悲鳴を上げる間もなく、水面から伸びてきた謎の手が夏音を水底へ引きずり込む。


(い、息が……!!)


 慌てて水面から顔を出そうとする夏音だが、そんな夏音を"ナニカ"の腕が猛烈な力で阻む。


 夏音は水の中で目を開け、自身の右腕を掴む何物かを見る。


 濁りの少ない水の中で見る、"ソレ"の輪郭。


 四肢はついているが、明らかに人のそれとは異なる輪郭をしている。


 人ではない、化け物だ。


(───っっ!!?)


 水の中でパニックになり、残り少ない酸素を一気に吐き出す夏音。


 このままでは、もう───。


(助けて───誰か───!!)


 救いを求める夏音が、掴まれていない左手を水面へと伸ばす。




 その時───。




 誰かが川へ飛び込んでくる。


 その誰かは、夏音の左手を掴んで抱き寄せ、水中で夏音の右腕を掴む化け物の顔面を蹴り飛ばす。


 化け物が夏音の腕を放し、夏音の体が助けてくれた誰かと共に水面へと浮上する。


「───ぷはっ!!」


 間一髪で酸素を取り込む夏音。そんな夏音に傍で語りかけたのは───。


「大丈夫か!?かのん!!」


 ───直也だった。


 直也は夏音を抱えて岸まで上がり、夏音の体を横たえる。


「けほっけほっ……」


「腕は痛まねえかい?済まねえな、俺が目を離しちまったばっかりによ……」


 咳き込む夏音を介抱する直也。


 その時、夏音を川底へ引きずり込もうとした化け物が水面から跳び上がり、岸に着地する。


「キキキ……()テェナァ、クソガキ……」


 化け物が人語を話す。


 化け物と向かい合う直也は、驚きはありつつも立ち上がり、夏音を背に庇うように立ち塞がった。


「テメェ……なにモンだ?」


 直也の問いに、化け物はこう答えた。


「オレサマカァァ?キキキ……オレサマハナァア…………河童サマダヨオオオオオ!!」


 化け物はそう名乗り、直也に飛び掛かった。




──第四話へ続く──

 四之譚第三話、いかがでしたでしょうか?それでは今回も、登場人物紹介いってみましょう。其の三十です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


田中幸子(たなかさちこ)


・誕生日:5月31日(当時6歳、現在7歳)


・身長:当時113cm、現在119cm ・体重:当時20kg、現在23kg


・田中家の長女で月男の妹。天真爛漫で、父や兄と違って非常に表情豊か。明るい性格と器量の良さから母親の血を色濃く受け継いでいると思われがちだが、学校ではマイペースでたまに兄の真似をするように突飛な行動をしたりと、しっかり父親の血も受け継いでいる。直也や健悟とも仲が良く、いつもつるんで行動している直也達三人の後を付いて回ることも多い。兄や直也達には甘えん坊な反面、弟の年男の面倒を進んで見るなど、最近は姉としての自覚も芽生えてきた。

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