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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
四之譚 夏ノ少女

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〜第二話 山遊び〜

 ドーモ、政岡三郎です。四之譚第二話、始まります。直也達と月男の家にやってきた夏音。彼らと打ち解けた夏音は、この町に来て初めて楽しいを過ごす___。

「ただいまー」


 直也、健悟と共に月男が自宅の玄関に入ってそう言うと、彼の5歳の妹の幸子が月男を迎える。


「おにちゃんおかえりー♪」


 幸子に少し遅れて1歳の弟の年男を抱える母の結奈がキッチンから姿を現す。


「おかえり、月くん。直也くんと健悟くんも、いらっしゃい」


 そう言って微笑む結奈に、直也が言う。


「結奈さん。ちょっと頼みがあんだけど、いいかい?」


 そう言うと、直也は振り返る。


「そんなとこ突っ立ってねえで、こっち来いよ。暑いだろ、そこ」


 直也が声をかけた先には、一人の少女が田中家の玄関手前でもじもじしていた。


「あれ?あの子はどこの子?」


 見知らぬ顔を見て、結奈が訊ねる。


「実は、かくかくしかじかというわけなんだ」


 そう説明する月男。問題なのは、かくかくしかじかというのが物語的な話の省略表現ではなく、本当にかくかくしかじかと言っていることだ。


「いや、それは漫画だから伝わる省略表現だからな?実際にかくかくしかじかで伝わるわけないだろ……」


 健悟がすかさず、月男にツッコミを入れる。


「あはは……。直也くん、あの子はお友だち?」


 月男に訊くよりも早いと思い、直也に訊ねる結奈。


「そうだぜ。つっても、さっき知り合ったばっかだけど。かのんっつーんだ」


 結奈に紹介しつつ、直也は夏音を手招きする。


 しかし人見知りな夏音は、さっき知り合ったばかりの人の家に入ることに抵抗を感じているのか、玄関手前で俯いている。


 そんな夏音の胸の内を察し、結奈は優しく微笑んで夏音を手招く。


「遠慮しなくていいんだよ、かのんちゃん。お外は暑いでしょ?」


「ぁ………ぅ………」


 結奈に招かれてもなお、人見知りの夏音は一歩を踏み出せない。


 そんな夏音をみかねた直也は、幸子に指令を出す。


「よし、幸子。あのお姉ちゃんここまで連行してこい」


「はーい!」


 直也に言われるまま、とてとてと夏音のもとへ駆け寄る幸子。


「れんこーしまぁーす!」


 そう言いながら幸子は、夏音の手を引っ張って家の中へ連れ込む。


「あ……」


 戸惑いつつも、されるがままに連れ込まれる夏音。


「れんこーしましたー♪」


 幸子は満面の笑みで直也に敬礼する。


「うむ、ご苦労!それじゃあかのん、ちょっとぬいぐるみ貸してくれ」


「う、うん」


 夏音が直也にぬいぐるみを渡すと、直也はぬいぐるみの破れた部分を結奈に見せる。


「結奈さん、ここなんだけどさ……さっきこいつが悪ガキ共にぬいぐるみを取られた時に、破けちまったみてぇなんだよ。()りぃんだけど、縫ってやってほしいんだ」


 そう結奈に頼み込む直也。


「ほんとだ、破れちゃってるね。わかった、それじゃあお裁縫箱取ってくるから、みんなは上がって待ってて」


 そう言うと結奈は、裁縫箱を取りに行く。


「あざっす、結奈さん!そんじゃあ、お邪魔しまーす」


「お邪魔しまーす」


「お……お邪魔します」


 そう言って家に上がる直也、健悟、夏音の三人。


 居間で寛いで(といっても夏音は緊張ぎみだが)いると、ほどなくして結奈がソーイングセットを持ってきて、破れたぬいぐるみの修繕をする。


「そういやぁ、お前何年生?」


 結奈が手際良く破れたところを縫い直す様を見ながら、直也は何気なく夏音に訊ねる。


「に……二年生……」


「へぇ……じゃあ俺らの二つ後輩だな。この町へは、引っ越してきたのかい?それとも、里帰りか?別段見所のある町でもねぇし、観光ってことはねえと思うが……」


 直也のその言葉に夏音が答える前に、月男が異を唱える。


「見所のある町でもないって、何を言っているんだい直也?この町では今、各所にある妖怪伝説で町長が町の観光PRをしているのを知らないのかい?」


「あん?そんなことやってたか?」


 直也が聞き返すと、健悟が代わって答える。


「ほら。駅前にさ、あるじゃん。黒ずんだ色の河童(カッパ)とか、一つ目小僧とかの銅像」


 言われて、ようやく直也も思い出す。


「あー……そういやぁなんか、駅前にあったな。気色の()りぃ銅像。あれ河童かよ……」


「でもあの銅像、SNSではキモカワイイって言われて、そこそこバズッてるんだよ?」


「マジかよ……キモいだけだろ、どう見ても。なぁ、かのん?」


 夏音に話を振る直也。


「あ………えっと……おじいちゃんは……町長さんに、この前怒ってた。あんなもの、町のけいかんをそこねるって……」


「んぁ?おじいちゃん?」


 夏音の口から出たその言葉に、直也は首を傾げる。


「怒ってたって、抗議の電話でも入れたとか?」


 健悟が訊ねると、夏音はしどろもどろになりながらも首を横に振る。


「そ、そうじゃなくて……町長さんが、おじいちゃんのおうちにあいさつに来たとき……おじいちゃんが直接……」


「おじいちゃんのおうちに町長が挨拶に?ということは、のんちゃんのおじいちゃんって、もしかしてスゴい人??」


 月男が首を傾げながら訊ねると、夏音は───。


「…………ぁ…………ぅ………ご、ごめんなさい……」


 夏音は何故か謝罪をして、涙目になってしまう。


「あれれ?僕、謝らせるようなこと言っちゃった?」


 無表情ながらも、珍しく動揺する月男。


「なんで泣いてんだ?お前、何も謝るようなこと言ってねえぜ?」


 直也が優しい口調で問うと、夏音は俯きながら答える。


「だって………また、調子に乗ってるって思われちゃうから……」


 どうやら、祖父が町長と知り合いだと知られ、調子に乗ってると思われてしまうと思ったようだ。


「さっきの子たちも…………ボクが答えられないでいたら………調子に乗ってるって………」


 夏音の目から涙が零れる。


「のんちゃん、ボクっ娘だったの!?」


 そう言って、変なことで話の腰を折ろうとする月男の脇腹を、健悟が肘で小突く。


 直也はそんな二人のやり取りには構わず、泣き出した夏音に近寄り右手で彼女の左頬を摘まんで引っ張る。


「はぇ……?」


 痛くはないが、突然の直也の行動に驚く夏音。


「バーカ」


 夏音の左頬を引っ張りながら、呆れたように言う直也。


「さっきのガキ共に言われたことなんか、一々気にしてんなよ。ここには、お前のことを調子に乗ってるなんて思うやつは、一人もいねえから」


 そう言うと直也は、夏音の頬から手を放し、彼女に笑いかける。


「そうだよ、かのんちゃん。直也くんも健悟くんも月くんも、誰一人かのんちゃんに意地悪言ったりしないから、安心してね?………はい、できたよ♪」


 結奈がぬいぐるみの修繕を終え、夏音に手渡す。


 ぬいぐるみは破れたところが分からない程に、綺麗に修繕されていた。


「さっすが結奈さん!やっぱ頼りになるぜ」


 直也はそう言って、結奈にグッと親指を立ててみせる。


「……直ってる………よかった」


 ホッと安堵の表情を浮かべる夏音。そんな夏音に、直也が言う。


「それ、よっぽど大切なぬいぐるみなんだな?」


 直也のその言葉に、夏音はこくりと頷く。


「うん………お兄ちゃんが買ってくれたものだから……」


 そう口にした夏音は、直してもらったぬいぐるみを大事そうに抱き締める。


 直也はそんな夏音の頭にぽんと手を置き、くしゃりと撫でる。


「そっか。なら、尚更よかったな。ぬいぐるみが直ってよ」


 そう言ってニッと笑う直也に、夏音はここへ来て初めての笑顔を見せる。


「……うん!」


 笑顔になった夏音を見て、健悟はホッと胸を撫で下ろし、結奈は和やかに微笑んだ。







 その日夏音は、田中家で直也達と遊んだ。


 パーティーゲームをしたり、かき氷を食べたり、この町に来て以来初めての、楽しい時を過ごした。


 そして夕方。


 町に鳴り響くチャイムが、帰宅の時を告げる。 


「なぁ、かのん。お前、この町にはいつまで居れんの?」


 直也が訊ねる。


「えっと………お盆終わりに帰るから……」


「じゃあ明後日帰んのか。ならよ、明日山の方に行かねぇか?明日も暇なんだろ?」


 直也の提案に、夏音は満面の笑みで頷く。


「うん!行く!」


 夏音の返事に、直也はニッと笑う。


「よし、決まり!おめぇらもいいよな?」


 直也が健悟と月男に確認を取ると、二人は「異議なーし」と答える。


「ウチもいくー!」


 幸子がそう言って手を挙げる。


「おし、幸子も行くか!年男は……」


 直也が年男を見ると、年男を抱きかかえる結奈が困ったように笑う。


「年くんはまだ小さいから……。でもみんな、山で遊ぶのなら、怪我に気を付けてね?特に、川には気を付けなきゃだめだよ?」


 直也達にしっかりと言い聞かせる結奈。


「分かってるって、結奈さん。そんじゃあ明日は、昼飯食ったら月男んちに集合な。解散!」


 明日の約束を取り付け、三人は家に帰った。







________________________







 ───翌日。


 田中家で合流した直也、健悟、月男、幸子、夏音の五人は、山道を歩いていた。


「かのん、幸子。疲れたら言えよ?」


「はーい!」


 直也の気遣いに、幸子が元気良く答える。


「直也ー、つかれた~~」


 そう言う月男の頭を、直也がバシッと叩く。


「テメェは男だろうが。情けねえこと抜かしてんじゃねえ!」


「やめなされ、リベラルに反する古臭いジェンダーバイアスを押し付けるのはやめなされ」


「フェミニストみたいなこと言うなぁお前……」


「「???」」


 月男の文句と健悟のツッコミの意味が分からず、頭にハテナを浮かべる夏音と幸子。


「おっ!おめぇら見ろよ、あの木!」


 四人が直也が指をさした先を見ると、そこには木から出る樹液に群がる数匹の昆虫がいた。


「カナブン4匹に……小さいノコギリクワガタもいるな。それとこいつは、コクワガタだけどコクワにしてはサイズ大きめか?」


 健悟が木にとまる昆虫の品定めをする。


「クワガタが2匹か。ちょうどいい。幸子、かのん、二人で1匹ずつ捕ってみな」


「え……?」


「わあい!とるー!」


 直也にそう言われ、少し困惑気味の夏音とは対照的に、幸子は嬉しそうにクワガタに手を伸ばす。


「おっと、触るときは噛まれないように気を付けろよ?胸の横辺りを、優しく持つんだぞ?」


 直也に言われた通り、幸子はコクワガタの胸の横辺りを優しく掴む。


「とれたぁー!」


 嬉しそうにはしゃぐ幸子。


「ほら、かのんも捕ってみな」


 直也が夏音を手招くが、夏音は首を横に振る。


「……ぼ、ボク………いい」


「……もしかして………怖いか?」


 直也が訊ねると、夏音はこくりと頷く。


「怖くねぇぜ?ほら」


 直也は自身の掌の上にクワガタを乗っけてみせる。


「な?おとなしいだろ?少しでいいから、触ってみな」


 そう言ってクワガタを差し出す直也。


 夏音はおそるおそるクワガタに近付き、少し躊躇ったのち、勇気を出して人差し指でクワガタの背中にちょんと触れる。


「どうだ、可愛いモンだろ?そのまま持ってみろよ」


「う、うん……」


 夏音はそのまま、親指と人差し指でクワガタの胸の横の辺りを摘まんで、慎重に持ち上げる。


「やったな!触れたじゃねえか」


「うん……!」


 直也が夏音に笑いかけると、夏音も満面の笑みを返す。


 幸子と夏音が捕まえたクワガタを健悟の持つ虫かごに入れると、直也が「ぃよっし!!」と声を張り上げる。


「お前ら、この調子で今日は、ガンガン昆虫捕まえんぞ!」


「おーー♪」


 直也が拳を上に突き上げるのに倣って、幸子も同じように拳を上に突き上げる。


「昆虫たくさん捕まえて、リアル[昆虫チャンプ・ムシファイト]だ!」


「いや、それいつのゲームだよ……もうゲーセンに置いてないやつだろ、それ……」


 大分古いゲームの名前を出した月男に、健悟がツッコむ。


「………ふふ……あはは!」


 そんな四人のテンションに釣られて、夏音も笑うのだった。




──第三話へ続く──

 四之譚第二話、いかがでしたでしょうか?今回の登場人物紹介其の二十九は、まだ本編に名前しか出ていない人物の紹介です。(今紹介しなければ、タイミングが無いので)


――――――――――――――――――――――――――――――――


御凪坂(みなぎさか)秋臣(あきおみ)


・誕生日:10月23日(当時17歳)


・身長:180cm ・体重:69kg


・夏音の兄。東京の進学校に通う文武両道な秀才で、学校では生徒会長も務めている。誰に対しても物腰柔らかで、理知に富み品性に溢れた、全生徒の憧れの的。家族仲も良好で、特に妹の夏音のことは大切に思っている。アメリカのマサチューセッツ州にある大学に経済学の論文を送ったところ、晴れて来年度の海外への留学が決まるが、夏音を日本に残して留学することが心配でならない。

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