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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
三之譚 結ノ指輪

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〜第三話 夏祭り〜

 ドーモ、政岡三郎です。三之譚第三話、始まります。風邪を引いてしまった鹿乃子の身を案じる直也、そうしている内に、とうとう夏祭りの最終日がやってきて___。

 ───終業式当日。


(───いねぇ)


 学校中を駆け回って鹿乃子の姿を探す直也。


 しかし───。


(───かのこが……どこにもいねえ!?)


 教室も、体育館も、女子トイレ……は、さすがに自重したが、とにかく学校中のありとあらゆる場所を探し回ったものの、鹿乃子の姿はどこにも見当たらなかった。


 真面目な鹿乃子が登校時間ギリギリになって学校へやって来るなど、考えづらい。となると、考えられる可能性は限られる。


「ま………まさか!?」


 直也は直ぐ様ポケットからスマートフォンを取り出し、鹿乃子の家に電話をかける。


『───はーい、もしもし』


 電話に出たのは鹿乃子の母親、桜子だった。


「お義母様!直也でございます!!学校から掛けているのですが、かのこさんのお姿が見当たらないのですが……!?」


 いつもの直也からは考えられない程丁寧な口調で桜子に訊ねる。


『あら、直也くん。実はねぇ、かのちゃん昨日風邪を引いちゃったのよ』


 桜子のその言葉を聞いた瞬間、直也の顔からサァーッと血の気が引く。


「ま、まさか……昨日の雨で!?そ、それでかのこの容態は!!?」


『微熱だから大丈夫よぉ~。それに、お薬も飲ませたし。だけど今日は、学校を休ませるわ』


 直也は目の前が真っ暗になりそうだった。


 昨日鹿乃子は、突然現れた直也と言い合いになった末に、傘も持たずに外へと飛び出した。


 つまり、鹿乃子が風邪を引いたのは、直也のせいなのだ。


「おっおれ、おれ、きのう、かのことっかさ……が……おれの、せい……!!」


 パニックで呂律が回らなくなり、支離滅裂なことを呟く直也。


『落ち着いて~?かのちゃんが風邪を引いたのは、直也くんのせいじゃないわ。それに、さっきも言ったけど微熱だから。今日明日は家で休ませるけど、明後日には快復すると思うから、安心してね』


 そう言うと桜子は、直也の行動を見透かすように、最後にこう付け加える。


『それから言っておくけど、かのちゃんが心配だからって学校をサボってうちに来ちゃだめよ~?じゃあねぇ~』


 そう告げて桜子は、直也の返事を待たずに電話を切った。


「ちょっ!?お義母様!?」


 咄嗟に桜子に呼び掛ける直也だが、時既に遅しだ。


「直也~~。もうすぐ集合時間~~」


「はりあ~っぷ」


 健悟と月男が、直也を呼びに来る。


「………あ…………あ…………あ……」


「……あ?」


 様子がおかしい直也。


 次の瞬間───。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


 突如奇声を上げ、ガンガンと壁に頭を打ち付ける直也。


「おまっっ!!どーした直也!?」


「直也が壊れたー!」


 頭から血を噴き出してもなお頭を打ち付けるのを止めない直也を、二人がかりで止める健悟と月男。


「放せお前ら!俺のせいでかのこは…………かのこはあああああああああ!!!」


 その後駆け付けた教員によって、直也は取り押さえられた。







________________________








 終業式を終え、即行で鹿乃子の家へと向かう直也。


「あらぁ、直也くん」


「もぉおしわけございませえええええええん!!!」


 インターホンを鳴らして桜子が姿を見せた瞬間、直也は直ぐ様渾身の土下座をかます。


「びっくりしたぁ………。もう、頭を上げて直也くん。かのちゃんが風邪を引いたのはあなたのせいじゃないって、電話でも言ったでしょう?」


「で、でも………俺…………俺……!!」


「もう、これ以上気にしないの!でも、お見舞いに来てくれてありがとうね」


 そう言って直也の頭を撫でる桜子。


「………あの……それで、かのこの容態は?」


「微熱だって言ったでしょう?心配しすぎよ、直也くん。今は安静にしてて、ついさっき眠ったところよ。せっかくお見舞いに来てくれたのに、ごめんなさいねぇ~」


 申し訳なさそうにそう告げる桜子。


「い、いえいえ!そっすか。かのこ、大丈夫なんすね。良かった……」


 鹿乃子の様子を聞き、少しだけホッとする直也。できれば鹿乃子の顔を見たいところだが、ここで無理を言って桜子や鹿乃子を困らせるわけにはいかない。


「それじゃあ俺、帰ります。あ、プリントとか二組の担任の先生に言って、持ってこようと思ったんすけど、通信簿とかあるからダメだって言われて……」


「分かってるわ。あ、そうそうそれと……」


 直也の去り際に桜子は、彼の耳元でこう囁く。


「今日と明日はお祭り行けないけど、明後日はお祭り行けると思うから。かのちゃんの浴衣姿、楽しみにしててね♪」


 そう言って桜子はいたずらっぽく笑うのだった。







________________________







 それから直也は、自分の部屋でとにかく時が過ぎるのを待った。


 どんなに母親に呼ばれても食事もとらず、健悟と月男から遊びに誘われても外へも出ず、いつも見ているテレビ番組の夏休みスペシャルに目もくれず、真夏だというのにクーラーもつけずに、座禅を組みただひたすらに時が来るのを待った。


 座禅を組んでいる間、考えるのは鹿乃子のことばかりだった。


 熱はもう引いただろうか。飯はちゃんと食べているだろうか。まだ怒っているだろうか───。


 鹿乃子のことを考えているうちに、とうとうその時がやってきた。


 日時は夏休み二日目の夕方6時。


 即行でシャワーを浴び、歯を磨き、身嗜みを整えた直也は、小遣いの入った財布とスマートフォンだけポケットに突っ込むと、いってきますも言わずに家を飛び出した。


 目指すは、近所の神社の敷地とそこに隣接する広場を丸々使った夏祭り会場。


 走って走って、全力ダッシュで会場までやってきた直也は、直ぐ様鹿乃子の姿を探す。


 今日は夏祭り最終日で花火も上がるため人も多いが、範囲はさほど広くはない。なにより、たとえどんなに大勢の人混みの中でも、鹿乃子の姿だけは一発で見分けられる自信が、直也にはあった。


(…………いねえ……!!)


 出店が多くあり中央に櫓が建っている広場のエリアは粗方探し尽くしたが、見かける知り合いはご近所さんや学校の連中ばかりで、鹿乃子の姿は見当たらない。


 残るは神社の境内のエリアだ。


 階段を上り、神社の境内を見回す直也。


 広場のエリアとは違って、ここには出店も少なく、人も(まば)らだ。


 言ってみればここは、ほとんど小休止のためのエリアだ。


(……ここにも…………いねえ……)


 直也は肩を落とす。ここでも、鹿乃子の姿は見られなかった。


 もしかすると、まだ来ていないのだろうか?


 そこで直也は、ここに来るまでにまだ一度として鹿乃子の家に電話を掛けていなかったことを思い出す。


 直ぐ様直也はスマートフォンを取り出し、鹿乃子の家に電話を掛けようとした。


 その時だった。




「───なおくん」




 透き通った、天使のようなソプラノの声。


 聞き間違えるはずもないその声に、直也は振り返る。


 そこにいたのは紛れもない、直也の想い人そのものだった。


「かのこ……!!」


「……」


 水色の生地に薄桃色の花柄の浴衣を着込んだ愛らしい少女は、直也に見つめられ思わず目を逸らす。


 可愛い、綺麗、可憐、美しい、天使、女神……。


 鹿乃子を褒めるための語彙ならいくらでも出てくるが、まずはじめに直也が言うべきはこの言葉だった。


「悪かった!!ごめん、かのこ!!」


 そう言って頭を下げる直也。


 いきなり頭を下げられて、びっくりする鹿乃子。


「なおくん……」


「俺のせいで、かのこに風邪を引かせちまって……マジで済まなかった!!」


「えっ?」


 予想外の角度の謝罪に、鹿乃子はぽかんとする。


「なんで……?風邪を引いちゃったのはわたしの不注意で、なおくんはなんにも……」


「あの時俺が出てきちまったせいで、かのこは傘を持つのを忘れて外に飛び出しちまったんだよな?俺が不用意なまねさえしなけりゃ……!!」


 直也の言葉に、鹿乃子は首を横に振る。


「そ、それは……わたしがなおくんに対して、勝手に怒ってたから……!」


「その怒ってた理由も、俺が浮気したと思ったからなんだよな!?けどよ、違うんだ!俺が里田と出掛けたのはデートとかじゃなくて、知り合いの神社であいつのお祓いをしてもらうためだったんだ!」


 直也は更に続ける。


「里田に憑いたテケテケは成仏させたから大丈夫かとも思ったけど、やっぱり念のためやっといた方がいいと思ってよ……だから、マジで浮気なんかじゃ───」


「ちがうよ!!」


 声を張り上げる鹿乃子。


 突然のことにビクつく直也。


「か………かの……こ……?」


「わたしが…………わたしが怒ってるの…………は……!!」


 感情が昂ったせいか、鹿乃子の目からぽろぽろと涙が零れる。


「かか、かのこサン!?」


 鹿乃子の涙を見て、おろおろと右往左往する直也。


 そんな直也に、鹿乃子はこう告げる。


「わたしは…………ひっく………なおくんが………ほんとはわたしと…………ずっといっしょにいたいって………思ってないんだって…………思った、からぁ……!!」


 鹿乃子の言葉に、直也は目を丸くする。


「な、何を言ってんだかのこ………そんなわけねえだろ!?俺はかのこが高校生になっても、大人になっても、お婆ちゃんになっても、ずっと一緒にいてえって思ってるよ!!」


「ぐすっ…………じゃあ、なんで……?」


「え?ええ?なんで……って……??」


 困惑する直也に、鹿乃子は言う。


「…………なんで、あんなこと言ったの……?」


 鹿乃子のその言葉に、直也は更に困惑する。


「あ、あんなこと……って……?俺、なに言った?」


「…………夏祭りのエンゲージリング……」


 鹿乃子の口から出たその単語に、直也は一瞬ポカンとする。


「…………あ、ああ………そういやぁ、なんかそんな話聞いたな……」


「………くだらないって言った」


「はい?」


「なおくん……くだらないって言った!誰がそんなもの買うかって……!!」


 鹿乃子は更に続ける。


「わたし……なおくんなら、ぜったいにプレゼントしてくれるって思ってた。ずっといっしょにいるって、誓ってくれるって。だから……!」


 二人の間に沈黙が流れる。


 その沈黙を先に破ったのは、直也だった。


「……いや………そりゃあ、だって……」


 そう呟くと、直也はあの日の話の続きを語った。




──第四話へ続く──

 三之譚第三話、いかがでしたでしょうか?それでは今回も、登場人物紹介行ってみましょう。其の二十七です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


箕輪(みのわ)(とおる)


・直也達のクラスメイトでありサッカー仲間。地元の少年サッカークラブに通っていて、クラスでは直也の次にサッカーが上手い。昼休みやクラブでの練習が無い日の放課後なども、直也達を誘ってよくサッカーをしている生粋のサッカー少年。球技大会やクラス対抗試合では、直也との2トップで互いにアシストしあって得点をもぎ取る。そのことから、亨と直也は芦原小のゴールデンFWコンビと呼ばれている。実は二組に好きな女子がいる。

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