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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
三之譚 結ノ指輪

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〜第二話 すれ違い〜

 ドーモ、政岡三郎です。三之譚第二話、始まります。直也と鹿乃子の仲直りに協力する健悟と月男。二人は無事に仲直りできるのか___?

 ───下校時間。


 上履きから外靴に履き替えた鹿乃子は、とぼとぼと校門へ向かって歩いていた。


「か~~のこぉ~~♪」


 そこへ、直也が鹿乃子を追いかけて走ってくる。


「なおくん……」


「一緒に帰ろーぜー♪」


 にこにこ笑顔でそう言う直也から、鹿乃子は顔を背ける。


「……ごめんね、なおくん。今日は………その……一人で帰りたい……かな?」


「ふにゅぅううん!!?」


 予想外の鹿乃子の返答に、思わず変な声が出る直也。


「そ、そうか………いや、ま、まぁ、たまにはそういう日もあるよな、うん、分かった。あっ、でもよ?」


 分かりやすく動揺しつつ、直也は話を変える。


「終業式の日の夏祭り、今年も二人で回ろうぜ。な?」


 夏祭り。直也の口から出たそのワードに、ドキリとする鹿乃子。


『するわけねえだろ。誰がんなモン買うかよ、くっだらねぇ』


 クラスの男子から、鹿乃子に夏祭りの指輪をプレゼントするのかと問われた時の、直也の辛辣な返答が頭から離れない。


「楽しみだなぁ~~かのこの浴衣姿♪俺もう当日が待ちきれ───」


「行かない」


「グフゥッ!!?」


 更に予想外の鹿乃子の返答に、血ヘドを吐きそうになる直也。


「かか、か、かの……こ……?今………なんて?」


「……なおくんとは………お祭り、行かない」


「ホゲエェエッ!!?」


 膝から崩れ落ちる直也を置き去りに、背を向けて走り去る鹿乃子。


 その様子を少し離れたところから見ていた月男が、直也に歩み寄ってその肩にポンと手を置いた。






________________________







 ───二日後。


 夏場には珍しい強い雨が降ったこの日の放課後、昇降口で鹿乃子が上履きと外靴を履き替えようとしているところを、健悟が呼び止めた。


「なぁ、柚澄原。ちょっといい?」


「……田口くん?」


 靴を取り出す手を止める鹿乃子。


「どうしたの?」


「いや、さ……ちょっと聞きたいことがあって」


 健悟は頭を掻きながら、ちらりと背後を見る。


 健悟のすぐ後ろでは、下駄箱の陰に隠れて直也が様子を窺っている。


「あー……その………遠回しに聞くの苦手だから、正直に聞くけどさ?……柚澄原、直也となんかあった?」


 ストレートに訊ねる健悟。


 鹿乃子は少しだけギクリとして俯く。


「いや、ほら!なんか直也のやつが、柚澄原に夏祭りの誘い断られたーって、すげー落ち込んでたからさ?なんかあったのか、気になって……。用事とか先約があって断ったなら、俺からあいつに言って聞かせるからさ」


 健悟の言葉に、鹿乃子は首を横に振る。


「……そんなんじゃ、ないよ」


 答えづらそうな鹿乃子のその様子を見て、こりゃあ何かあったな……と察する健悟。


「あのさ、良かったらでいいんだけど、話してみてくれないか?あいつに原因があるなら、俺がちゃんと注意しておくから……」


「なおくんに原因とかそういうんじゃなくて……」


 そう言うと鹿乃子は少しだけ沈黙したのち、こう訊ねる。


「…………ねぇ、健悟くん。なおくんは、わたしのことどう思ってるのかな?」


「……………………はいぃ??」


 予想外の鹿乃子の問いに、健悟は思わず呆けた面になる。


 直也が鹿乃子のことをどう思っているかなど、傍目から見ても一目瞭然だ。


「………どう思ってるって……そりゃお前……」


「愛してるに決まってんだろオオオオオオオオ!!!?」


 下駄箱の陰から飛び出し、半泣きで力の限り叫ぶ直也。


 昇降口にいた他の生徒の視線が、直也に集まる。


「なおくん……」


「おまっっ、バカっ!?」


 突然の直也の声に少し驚く鹿乃子と、今にも鹿乃子に抱きつこうとする直也を必死に抑える健悟。


「俺がかのこのこと嫌いになったりするもんかよぉおオオオオ!!かのこおおおお!!」


 必死に訴える直也。


「……っ!!じゃあ………なんで!?どうして……」


 ───誰がんなモン買うかよ。


 ───くっだらねぇ。


 夏祭りのエンゲージリングについて、直也は確かにそう言った。


 その事実が、鹿乃子の心を頑なにさせていた。


 鹿乃子は靴を履き、雨の中傘も差さずに走り去る。


「な、なんでって……!?待ってくれかのこ!!かのこぉ~~~~…………!!」


 昨日のように、力なく崩れ落ちる直也。


 必死に直也を抑えていた健悟は、どうにか大人しくなった直也の肩に手を置く。


「……とりあえず、さ。あの様子だとなんか原因があるみたいだし、一回考えてみようぜ?なんで柚澄原が怒ってるのかをさ?」


 こうして、第一回なんで鹿乃子は怒っているのか考えよう会議が始まろうとしていた。







________________________







「───それじゃあ、二日前の放課後以前は、柚澄原の機嫌は悪くなかったんだな?」


 人気(ひとけ)の無くなった教室の片隅で、健悟は直也に確認する。


「グスッ…………うん」


 涙を拭いながら答える直也。


「じゃあ次は月男だな。聞き込みしてたんだろ?なんか柚澄原の不機嫌に繋がりそうな話はあった?」


 健悟の言う通り、月男は二人が鹿乃子と話している時、別行動で鹿乃子が最近どんなことをクラスメイトや教師と話していたかの聞き込みをしていた。


「それなんだけど、直也さ……(なぎっち)いいんちょとデートしたことになってるよ?」


「……………………あ?」


 月男の言葉に、ポカンと口を開けて目を丸くする直也と健悟。


「…………あ?………………あ?……………………あ??」


 意味が分からないとでも言うように健悟と顔を見合わせたのち、直也は───。



「ハアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!?」



 直也は立ち上がり、月男の胸ぐらを掴み上げて問い質す。


「テメェ月男!!どーいうことだ!?この俺が里田とデートだと!?ワケわかんねえこと抜かしてんじゃねえぞ!!」


 半ば恫喝のように、月男の体を揺さぶる直也。


「お、落ち着け直也!」


「や~~~め~~~て~~~」


 どうどうと直也をなだめる健悟と、いつもの無表情でされるがままの月男。


「おい、月男!詳しく話せ!なんでそんなデマが広がってやがる!?」


 直也が問うと、揺さぶられたせいでクラクラする頭を押さえながら、月男が答える。


「直也この前、いいんちょ連れておりつさんって人のいる神社に行ったんでしょ?」


「おう、だったらなんだ!?」


「二人でバスに乗るところを、二組の美樹ちーが見てたんだよ。それでそのことが、デートだって噂になって……」


 月男の言葉に、直也は更に憤慨する。


「ざっけんな!!なんでそれがデートってことになんだよ!?」


「いや……女子と二人でバスに乗って出かけるの見れば、誰だってデートだと思うって……」


 冷静に突っ込む健悟に、「ふんっ!!」と頭突きを喰らわせる直也。


()っっってぇ!?」


「それは里田の禊祓をしてもらうためだろうが!!それを勝手にデートだとこじつけやがって!!」


「俺が言ってるわけじゃないからな!?」


 涙目になりながら言う健悟。


「とにかく、その噂を聞いてたから怒ってたのかもね、ゆずみん」


 月男が出した結論に、健悟は得心する。


「なるほど、だから柚澄原はあんなこと言ったのか……」


「そ、そんな……」


 膝をつき絶望する直也。


「俺の…………俺のかのこへの(ほとばし)る程のLOVEが疑われちまうなんて……!」


「まぁまぁ、元気だせよ直也。誤解なんて、すぐ解けるって」


 そう言って、健悟が直也の背中を叩いて景気づけようとした瞬間、直也は勢いよく立ち上がる。


「ぉおっ!?」


「こうしちゃいられねぇ……すぐに誤解を解きに行かねえと!!」


 走り出そうとする直也を、慌てて止める健悟。


「待て待て直也。これからいきなり家に押し掛けたって、逆効果になりかねないって。」


「け、けどよ……!」


「明日になりゃあ柚澄原も冷静になるだろうし、ここは一日待とうぜ?」


 健悟の提案に直也は黙りこくり、渋々頷く。


「…………わぁーったよ……」


 そう言って直也はランドセルを持ち、とぼとぼと教室を出る。


 その時。


「あれれ?田村くん?」


 廊下で偶然、噂の元凶である嘉島美樹とばったり会う直也。


 美樹を見るや否や、直也は彼女の前に立ち、彼女の頬を思いっきり両側から引っ張る。


「お前の仕業かああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「いぃっ、いひゃいいひゃい!!にゃに!?にゃに!?」


 突然頬を引っ張られ、困惑する美樹だった。




 ───その翌日の終業式。


 鹿乃子は昨日の雨で風邪を引き、学校を休むのだった。







________________________







「……37℃4分ね。雨なのに、傘を差さないからお熱出ちゃうのよ?」


「ごめんなさい……」


 鹿乃子の熱を測った彼女の母、桜子が体温計を救急箱にしまう。


 桜子の言う通り、昨日鹿乃子は雨の中、傘を差さずに家まで帰ったのだ。


 傘は持って来ていたのだが、外へ出る時の直也との一件でついついそのまま傘立てに置いてきてしまったのだ。


「今日は終業式だけど、学校はお休みしないとね?でも、これくらいの熱ならすぐに下がると思うわ。はい、お水とお薬」


「ん……」


 鹿乃子はベッドから上体を起こし、桜子に薬を飲ませてもらい、すぐに水で流し込む。


「はい、これで大丈夫。それじゃあ、すぐにお粥作ってあげるわね」


 そう言って立ち上がる桜子。


「あっ、お母さん!」


 咄嗟に桜子を呼び止める鹿乃子。


「うん?なぁに?」


「……えっと…………お祭り……」


 少し聞きづらそうに、そう呟く鹿乃子。


「そっか、夏祭りね。大丈夫、今日明日は様子見だけど、お祭りは三日間あるでしょう?明後日には、風邪も完全に治ってると思うわ」


 そう言うと、桜子は微笑みながらこう続ける。


「直也くん、毎年かのちゃんの浴衣姿、楽しみにしてたもんね?」


 直也のことを言われ、鹿乃子は少しだけ複雑そうな表情になる。


「?どうしたの、かのちゃん?ひょっとして、直也くんとけんかでもした?」


 桜子の言葉に、鹿乃子は少しだけ考えて首を横に振る。


「……けんか………じゃない」


 けんかというより、鹿乃子が一方的に怒っているだけなのだ。


 ───誰がんなモン買うかよ。くっだらねぇ。


 三日前、夏祭りのエンゲージリングの話で、直也はそう言った。


 ───愛してるに決まってんだろオオオオオオオオオ!!?


 昨日、直也はそうも言っていた。


 どっちが本音なのだろう?


「───お母さん」


「なぁに?」


「……なおくん、心配してるかなぁ?」


 鹿乃子がそう呟いたその時、下の階で固定電話が音を鳴らした。


「……電話が鳴ってるわね。ちょっとお母さん、出てくるわね」


 そう言って鹿乃子の部屋のドアノブに手をかける桜子。


 その時、桜子は振り返ってウィンクしながらこう言った。


「電話、たぶん直也くんからだと思うわ♪」


 確証はないが間違いないだろうと桜子は考えていた。


 こういう時の彼女の勘は、大体当たるのだった。




──第三話へ続く──

 三之譚第二話、いかがでしたでしょうか?ここからは、登場人物紹介其の二十六です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


向田(むこうだ)千代(ちよ)


・誕生日:10月3日(10歳)


・身長:142cm ・体重:34kg


・恋バナ好きな女の子。嘉島美樹と同じく、鹿乃子のクラスメイトであり友人の一人。ラブコメや少女漫画が大好きで、最近ハマっているものはネット配信の恋愛リアリティ番組という筋金入りの恋愛オタクで、同学年のみならず上級生や果ては教員に至るまで、誰が誰を好きかという校内の恋愛事情を日々嘉島美樹と共有している。その反面、自分の恋愛には非常に奥手であり、一組に好きな男子がいるものの、いまだに告白できずにいる。

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