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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
三之譚 結ノ指輪

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〜第一話 指輪〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子三之譚第一話、始まります。三之譚のお話は夏祭りを巡る直也と鹿乃子のすれ違いのお話……いわゆるほのぼの回です。

「「「う~~む……」」」


 一枚の和紙を取り囲み、直也、健悟、月男の三人が頭を悩ませていた。


 和紙には文鎮が置かれ、下には新聞紙、脇には筆と墨汁が入った硯が置いてある。


「…………健悟、なんか思い付いたか?」


 直也が健悟に訊ねる。


「う~ん、いや、これ以上はさっぱり……」


「………月男、おめぇは?」


 今度は月男に訊ねる。


「お手上げで~す」


 どうやら双方とも、芳しい答えは浮かばなかったようだ。


「そうか。…………じゃあ、やっぱこれで決まりだな」


 そう言うと直也は筆をとり、墨汁を筆先につけて和紙に文字を書く。


 力強く、荒々しさを感じる書体で、和紙が染まっていく。


「これで───できたぜ!!」


 最後の一文字を書き直也はニヤリと笑う。


 和紙に書いた文字は───。



 ───《跳び背負い返し》。



「っかぁ~~~!!散々案を出させておいて、結局それかよ!?」


 畳に両手をつき、天井を仰ぎ見る健悟。


 今、直也達は月男の家に集まって、直也が編み出した新たな"必殺技"のネーミングを考えていた。


 今回議題となった技は、先月直也が葛西君枝という悪女との戦いで使った、最後の技だ。


 相手の背負い投げに対して、自ら投げられる方向へ跳ぶことで、体が地面に接するよりも先に足で着地し、投げられた状態の仰向けの姿勢から相手の顔面に膝蹴りを入れる。


 小一時間近く意見を交わした挙げ句、技名は非常にシンプルなものになった。


「やっぱ、たまにはこういう技の内容をシンプルに文字に起こした名前もいいよなぁ~~♪なんつーかこう、"ガチっぽさ"がある!」


 技名を書いた和紙を見ながら、満足そうに言う直也。


「でも、一時間近くひとに名前を考えさせた挙げ句、直也が一番最初に挙げたクッソシンプルな名前に落ち着くって、納得いかないよねぇ~。今までの時間何だったんだよってなる」


 月男の文句に、直也はムッとして言い返す。


「うるせーなぁ……そういう文句はせめて、もっとマトモな技名考えてから言えよな、月男。おめぇが考えた技名なんて、《お風呂の黒ずみのブルース》とか、《嗚呼、涙のドーヴァー海峡2023》とか、わけわかんねぇのばっかじゃねえか」


「……まぁ、それはそうだよな」


 直也の文句に、健悟が同意する。


「え~~?健悟、どっちの味方なのぉ~~?」


「いや……まぁ、俺もあんまり納得いってないけどさ?」


 そう言って健悟は、月男の母親の結奈が持ってきてくれたオレンジジュースに口をつける。


 直也が健悟と月男を巻き込んで、自身の技の名前を考案する時は、いつも大体こんなノリだった。


 直也の《馬後穿ち》や《飛龍顎》なんかも、このような感じで名前をつけられた。


 一月から十二月までの和風月名になぞらえて、十二個の技を作ることを思い付いた時の直也が、「我ながら名案だ」と調子に乗っていたのも、記憶に新しい。


「話は変わるけどさ?もうすぐ夏休みだよねぇ~」


 月男が目前に迫った夏休みのことに話題を移す。


 現在は七月の下旬の頭。二日後が終業式だ。


「近所の夏祭りも、終業式の日からだよなぁ~。直也、お前やっぱ今年も、柚澄原を祭りに誘うの?」


 健悟がそう口にした瞬間。


 場の空気が凍る。


 直也も月男も沈黙し、月男は「言っちゃった……」と言いたげな顔で、直也はこの世のものとは思えない亡霊みたいな顔で、健悟を見る。


「……?……??お、俺………なんか言っちゃいけないこと言った?」


 健悟が困惑しながら訊ねる。


 沈黙の中、ミーン、ミーンという蝉の声だけが、部屋に響き渡る。


 やがて、長い沈黙の末に直也が「ハァァ~~~~~~~……」と長いため息を吐き、ガックリと項垂れる。


「ど、どうした?直也?」


 健悟の問いに、項垂れた直也に代わって月男が答える。


「フラれたんだよ、ゆずみんに……」


「はぐぅううっっ!!?」


 月男の言葉が、鋭いナイフのように直也の胸を抉る。


「フラれたって……マジか直也!?」


「…………ふ……フラれてねぇもん…………夏祭り行こうって言ったら、断られただけだもん……!」


 膝を抱えて畳の上に横になりながら、しくしくと涙を流す直也。


「はー……けど珍しいな、柚澄原が直也の誘いを断るなんて。先約があったとか?」


「というより、なんか怒ってる感じだったよ?直也がなんか、怒らせるようなことしたんじゃない?」


 月男の軽い言葉が、直也を余計に傷付けていく。


「お………おれ…………ひっく…………かの、こ…………えっく…………怒らせ…………ひっく…………なんで?」


 泣きじゃくりながら言葉を紡ぐ直也。どうやら怒らせた疑惑について、見に覚えはないらしい。


「まぁまぁ、女の子だから急に機嫌が悪くなることもあるんじゃねえの?元気出せって。今年は男連中だけで、夏祭りを楽しもうぜ?」


 直也を励ます健悟。


「何が悲しくてテメェらむさい男共と祭りを回らにゃならんのじゃ!!今年もかわいいかのこの浴衣姿が見れると思って楽しみにしてたのに!!……うぅ………かのこぉ……」


 メソメソと泣きじゃくる直也。


 普段は滅多に怒ることのない鹿乃子を怒らせたりした日は、いつもこうだ。


「あぁ~もう、分かったって!俺と月男が、それとなく柚澄原に怒ってる理由聞いてやるから!なっ、月男?」


 健悟がそう言いながら、月男に視線を向ける。


「仕方ないなぁ~……」


 いつもの無表情で、やれやれといった仕草をする月男。


「………ぐすっ…………ほんと?」


「ホントホント!任せろって!ほら、オレンジジュース飲め飲め」


 直也にオレンジジュースを勧めつつ、健悟は(面倒なこと引き受けちまったな~)と、内心思うのであった。






________________________






 話は昨日に遡る───。


「夏祭りのエンゲージリング?」


 昼休み、五時間目の授業の準備をしながら、クラスの友人たちの話に耳を傾ける鹿乃子。


「そう!毎年とある出店で売ってる、超目玉賞品!知らない?」


 そう興奮ぎみに話すのは、向田(むこうだ)千代(ちよ)。鹿乃子のクラスメイトであり、恋バナに目がないムードメーカー的な女の子だ。


「えっと………ごめんね?知らないや……」


 鹿乃子がそう答えると、もう一人のクラスメイトの嘉島(かしま)美樹(みき)が話に割って入る。


「あっ、アタシそれ知ってる!夏祭りの出店で、男の子がその指輪を買って好きな女の子の左薬指にはめると、その二人は将来必ず結ばれるんだよね!」


 そう言ってうっとりした表情を浮かべる美樹。彼女もまた、こういった恋バナに目がないのだ。


「そうそう!この前結婚した音楽の宮浜先生の相手も、子供の頃にその指輪をプレゼントしてくれたんだって!」


「うわぁ~~!憧れるぅ~~!」


 きゃあきゃあと盛り上がる千代と美樹に、鹿乃子と一緒に話を聞いていた学級委員長の里田渚が、やれやれとため息をつく。


「あのねぇ……そんなの迷信に決まってるでしょう?宮浜先生だって、別にその指輪をプレゼントされたから結婚できたわけではないわよ」


 渚の言葉に、千代はぶーぶーと文句を言う。


「もう!委員長はすぐそういうこと言うんだから……」


 不満そうな千代とは対照的に、美樹はニヤニヤしながら渚を見る。


「そんなこと言って、本当は委員長も指輪、貰いたいんじゃないの~?」


「は、はぁあ!?」


 言われた途端、渚は顔を僅かに赤くして反論する。


「そ、そんなわけないでしょ!!よりにもよって私が……なんでそんなもの、期待しないといけないのよ!?」


「だって委員長、この前一組の田村くんとデートしてたでしょ?委員長が田村くんと一緒のバスに乗ってお出かけしてたの、アタシ知ってるんだから」


「えっ!?」


 美樹の言葉に驚く鹿乃子。一方の渚は絶句する。


「な、なんで知って……!?」


「ふっふっふ、この美樹さんの情報網を侮ってもらっちゃ困りますなぁ~~♪」


 得意気に笑う美樹。


「ええーー!?委員長、田村くんとデートしたの!?」


 千代が目を輝かせながら訊ねる。


「あ、あれはデートじゃないし!田村君が、お祓いをやってくれる神社があるからって、案内してもらっただけよ!!ほら私、あんなことがあったから!!」


 渚は先月、テケテケという幽霊に襲われ、一時的に脚が不自由になったことがあったのだ。


「それって神社デートじゃん!っていうか、田村くんってかのこちゃんのこと好きだったんじゃ……はっ、まさか!?」


「田村くん浮気!?まさかの三角関係!?」


 鹿乃子と渚の二人を交互に見ながら、再びきゃあきゃあと盛り上がる千代と美樹。


「………えっと…………渚ちゃん?」


 オロオロしながら渚を見る鹿乃子。その目からは気が気でない様子がまざまざと見てとれる。


「ち、違うから鹿乃子ちゃん!!私と田村君は別に、そんなんじゃないからね!?」


 そう言って必死に弁明する渚であった。







(………ああは言ってたけど……)


 五時間目の移動教室の準備をしながら、先程のことについて考える鹿乃子。


 いつもは片腕しかない鹿乃子の移動教室の準備を渚が手伝ってくれるのだが、あの話の後ではさすがにばつが悪かったのか、「わ、私先に行ってるね?」と言って、そそくさと行ってしまった。


 それは別に構わないのだが、やはり先程の話は気になっていた。


 夏祭りのエンゲージリングと、直也と渚のデート疑惑。


 渚がデートではないと言うのだから、そうなのだろう。


 けれど……。


(……なおくんは、どう思ってたのかな?)


 女の子と二人きりで出かけて、直也にデートという意識はなかったのか、それが鹿乃子には気掛かりだった。


(……なおくん、夏祭りの指輪のこと、知ってるかな?)


 もしも、直也が夏祭りの指輪の存在を知っていたら───。


(………わたしに、プレゼントしてくれるのかな?それとも───)


 もしもなおくんが、渚ちゃんに指輪をプレゼントしたら───?


 鹿乃子に対する直也のいつもの態度から考えたら、普段であれば絶対に浮かばない考えだった。


 しかし、先程の話を聞いた今の鹿乃子は……。


(…………)


 胸の内にえもいわれぬモヤモヤを抱えながら、鹿乃子は席を立ち、次の理科の授業を行う理科室へと向かう。


 理科室は西階段を降りてすぐの場所にあり、向かうにあたって直也の教室の前を通りかかる。


(なおくん、いるかな……?)


 そーっと教室を覗き込むと、窓際の席で直也が男子達と談笑している。


 健悟と月男の姿はない。次の一組の授業は国語なので、国語係の二人は職員室へプリントを取りに行っているのだろう。


「───ところでさ、直也。もうすぐ夏祭りだけど、お前夏祭りのエンゲージリングって知ってる?」


「っ!!」


 まるでタイミングを計ったかのように、一人の男子が先程鹿乃子が聞いた話を、直也に振る。


 思わずドキリとし、扉の陰に身を隠す鹿乃子。


「夏祭りのエンゲージリング?なんだそりゃ?」


 直也が話を振った男子、箕輪(みのわ)(とおる)に聞き返す。どうやら直也は、この話を知らないようだ。


 享が続ける。


「夏祭りの出店で毎年売ってる指輪なんだけどさ?その指輪を買って好きな女子の左手薬指にはめると、将来その女子と必ず結ばれるんだってさ」


 そう話した享を周りの他の男子達がニヤニヤしながら茶化す。


「え?え?なにお前?もしかして好きな女子いんの?」


「ヒューヒュー♪」


「バッ!?ちげーよ!!オレはただ、そーゆーウワサがあるって話してんの!」


 顔を赤くしながら否定する享。


「ほら!直也って柚澄原にゾッコンじゃん?だから直也、その手の話興味ありそうだなーって思ったの!」


「あー確かに。田村そうゆーの絶対キョーミあるもんな?あんだけ柚澄原に惚れてんだから」


 その言葉で、男子達の視線が直也に向く。


「で、どーよ?やっぱり直也、柚澄原にそれプレゼントするよな?」


 享が改めて直也に訊ねる。


 陰でこっそり話を聞いている鹿乃子は、ドキドキしながら直也の言葉を待つ。


 絶対に鹿乃子にプレゼントする。鹿乃子は直也に、そう言ってほしかった。


 直也の言葉は───。


「するわけねえだろ。誰がんなモン買うかよ、くっだらねぇ」


 鼻で笑うように直也が放ったその言葉は、鹿乃子の期待を大きく裏切るものだった。


 予想もしていなかった直也の辛辣な一言に、鹿乃子は胸を締め付けられる。


 居たたまれなくなった鹿乃子は、すぐにその場を走り去った。





──第二話へ続く──

三之譚や一話、いかがでしたでしょうか?ここからは、登場人物紹介其の二十五です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


嘉島(かしま)美樹(みき)


・誕生日:4月28日(11歳)


・身長:145cm ・体重35kg


・情報通の女の子。鹿乃子のクラスメイトであり友人。友人ネットワークやご近所ネットワークなど、ありとあらゆるツテから町中の噂話をかき集めることを生き甲斐としている。そのことからついたあだ名は、芦原小のマスメディア。校内一のトラブルメーカーと名高い直也、健悟、月男ら三田郎の動向には、常に目を光らせている。

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