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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念
3/73

〜第三話 言い伝え〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第三話、今回は直也との喧嘩に負けた白鳥、鴇島、鶫屋のその後の様子です。事件はここから動き出します。

「ただいマッケンジー!お袋~、帰ったぜ~~!」


 玄関の扉を勢いよく開け、直也が帰宅する。


 1プレイ50円単位の、古臭い筐体ばかりが並ぶ地元のゲームセンターで健悟と月男の三人でしこたま遊び、帰ってきた時刻は5時半。夕方のメロディチャイムが流れるのとピッタリ同じタイミングでの帰宅だった。


「お帰りバカ息子~、まずは手ぇ洗え~」


「う~ぃ」


 リビングから顔を覗かせた母親に促され、直也はランドセルを適当に放って洗面所へ向かう。


 石鹸水を手にちょこんと付け、適当に4、5秒手をすすいだところで水を止め、ハンドタオルでサッと手を拭いて洗面所を出ようとしたところで、母親からのゲンコツを頭頂部に喰らった。


「痛って!!?なにすんのあんた!?」


「ちゃんと石鹸水を泡立てて、指と爪の間から肘まで洗わんか、バカ者が」


 そう言って母親は腰に両手を当てる。


 直也の母親、珠稀(たまき)は今年で41歳になるが、年齢に反して見た目は若い……というか幼い。童顔で、身長も144㎝の直也と大して変わらなかった。この分だと、直也が珠稀の身長を追い越すのは時間の問題だろう。


 この見た目で、直也を産む前は大手一流企業に勤めるバリバリのキャリアウーマンだったというのだから、人は分からないものだ。ちなみに、直也はいまだにその話を信じていない。


 珠稀に怒られ、直也は渋々手を洗い直す。日頃から家ではがさつな口調の珠稀だが、息子の躾に関しては人一倍厳しかった。


「……よし、終わりぃ!これで文句ねえだろ?お袋、今日の晩飯なに───()っってぇぇ!?」


 指や爪の間から肘まで入念に洗い終わり、ハンドタオルで手を拭いたところで、直也は珠稀から再びゲンコツを喰らう。


「今度はなによ?!」


「なによ、じゃないわバカたれ!!お前昨日は宿題無いって言って嘘ついただろ!おまけに午後の授業態度が悪かったって久谷先生からお叱りを受けたわ!!全く、恥ずかしいったらない!」


 鬼の剣幕の珠稀に、直也はばつが悪そうに言い訳を述べる。


「い、いやあれはほら、給食たらふく食った後だったしよぉ~。それに加えて俺の席窓際だからこう、五月の昼下がりの陽気につい当てられてよぉ~……」


「言い訳無用!!しかも、隣のクラスの授業の邪魔までしたって久谷先生言ってたぞ!!」


「んなっ!?邪魔たぁ失礼な!!俺はただ、廊下に立たされるついでにかわいいかのこの授業の様子を見守ってただけだ!」


「それが邪魔だっつってんだバカたれ!!」


 珠稀にそう叱られ、直也は逆ギレする。


「邪魔だとぉお~~!?テメェこのクソババア!!俺のこの溢れ出るかのこへのLOVEを、こともあろうに邪魔者呼ばわりしやがって!!第一、それに関しちゃ悪いのはクラス替えで俺をかのこと別のクラスにしやがった教師連中だろうが!!五年生になりたての時、クラス表を見て俺がどれだけ人生に絶望したと思ってやがる!!?」


「知るか!!だいたい、お前が鹿乃子ちゃんと別のクラスにされたのは、お前が授業中に鹿乃子ちゃんばっか見て授業に集中しないからだろうがこのバカ息子!!」


「当たりめぇだろうが!!かのこが目の前にいるのに黒板なんか見るか!!テメェは羽の生えた天使を目の前に、道端のウンコに気をとられんのか!?ァア"!?」


 直也がそう開き直った瞬間、珠稀は直也の霜突き顔負けの強烈なゲンコツを、彼の頭頂部に叩きつける。


 今日一番の痛烈なゲンコツで、直也は床にめり込まんばかりの勢いで前のめりに倒れ込む。


「ともかく!!これから今日の分の宿題と昨日の分の宿題、それから罰として、算数のドリルを5ページ!!晩御飯までに終わらなかったら、食べた後も勉強!!終わるまでテレビもゲームも禁止!!返事は!?」


「…………あい」


 蚊の鳴くような声で返事をし、直也は珠稀に引きずられてリビングへと向かうのであった。






________________________






「「ハァァ……」」


 夕暮れの中学校の今は使われていない旧校舎の教室で、鴇島と鶫屋は壁に背を預けて座り込み、同時にため息をつく。


 白鳥が直也に負けた後、二人は診察料金をケチって白鳥を自分達の通う中学校の保健室へと運んだ。


 白鳥は高校生であったが、元はこの学校のOBであり、保健室の先生とも見知った仲であったため、特別に保健室のベッドを使うことを許された。


 二人が今いるこの旧校舎は、ここ豊崎第二中学校の不良達がよく溜まり場として使っている場所であった。もちろん学校側は不要な立ち入りを禁止している場所だ。


「鴇ちゃん……おれもう心が折れそうだよ……」


 すっかり意気消沈した声で、鶫屋が語りかける。


「ぁあ!?弱気なこと言うなよ鶫っち!」


 鴇島は鶫屋を鼓舞するように声を張り上げる。


「でもさぁ、鴇ちゃん……。おれらもう、田村のやつに8連敗してるんだよ?小坊相手に不意討ちしたり、二人がかりで武器(バット)使ったり、OBの先輩に泣きついたりした上での8連敗だよ?」


「うぐっ……」


 突きつけられる事実に、鴇島は思わず言葉に詰まる。


「大体、4連敗した辺りからおれもう嫌だったんだよ、田村に挑むの。鴇ちゃんはむきになってたから付き合ってたけど、おれなんかもう5戦目からはほとんど投げやり気味に田村に喧嘩売ってたもん」


 おそらくはもうだいぶ前から嫌気が差していたのだろう。鶫屋の後ろ向き発言はなおも止まらない。


「そんなこんなでいよいよ、小坊(ショーボー)相手に恥を忍んでOBの喧嘩自慢の先輩に泣きついた挙げ句がこれだよ。もうおれら終わりだよ、不良として……」


「な、なに言ってんだよ鶫っち!まだ終わりじゃねぇよオレらは!!大体、今回負けたのは白鳥先輩であってオレらじゃねえ!武勇伝だの色々語ってたけど、結局口だけだったんだよ、あの人は!!」


 鴇島が強がってそう言うと、鶫屋がジトっとした目で鴇屋を見る。


「…………じゃあ鴇ちゃん、それ白鳥先輩の前で同じこと言えんの?」


「うぐっ……!?」


 再び言葉に詰まる鴇島。


「そもそもが半端者だったんだよ、おれらって。おれらがカツアゲすんのって、地元の小学校のガキばっかじゃん。同級生とか、まともにカツアゲできた試しがないよ……」


「くっ……な、舐めんなよ、鶫っち!同級生(タメ)のやつらのカツアゲぐらい、できらァ!!」


 イキがる鴇島に、鶫屋はまたジトっとした視線を向ける。


「……ほんとにできんの?ウチのクラスだけで、柔道部で風紀委員、しかも白鳥先輩並にデカイやつが5人もいるんだよ?」


「うぐっ……!!?」


 またまた言葉に詰まる鴇島。これで三度目だ。


「じ、じゃあ隣町の中学のやつらを───」


「隣町の中学は喧嘩が日常茶飯事の不良(ワル)のエリート校だよ。手ぇ出したら、間違いなく大勢引き連れて報復に来るよ?」


「…………」


 もはやぐうの音も出ない鴇島。ここまで来るといよいよ彼も弱気になってくる。


「最近じゃあ田村に負かされすぎて、小坊相手にすら鼻で嗤われてるよ……。なぁ鴇ちゃん。もうツッパるのやめよう?来年はおれらも受験があるし、おとなしく勉強しようよ……。おれの親、偏差値が低すぎる学校に行くくらいならいっそのこと中卒で働けって言うんだよ。おれ、今のままの成績だと中卒労働者になっちまうよ……」


 そう呟き、俯く鶫屋。


「……ウチの親も、成績上げないと小遣い下げるってうるさいんだよなぁ……ただでさえ最近は田村に邪魔されてカツアゲもろくにできてねえのに……」


 そう呟き、鶫屋と同様に俯く鴇島。


「「ハァァァァ~~~……」」


 再び二人揃って深いため息をつく。


「……帰ろっか、鴇ちゃん。もうすぐ日も落ちるよ」


「……うん、帰るか」


 そう言って二人が重い腰を上げた、その時───。


 ギシッ……。


「……っ!?」


 二人の背後の壁の向こう、木造建築の旧校舎の廊下の床が軋む音が、僅かに聴こえる。


「ちょっ!?誰か来た!?」


「まさか先公じゃ……やべぇよ鴇ちゃん!ばれたらまた親呼ばれちまうよ!」


「シィーッ!!声抑えろって鶫っち!」


 二人は互いに息を殺し、耳をそばだてる。


 ギシッ……。


 ギシッ……。


 ギシッ……。


 ゆっくりと、少しずつ、二人のいる教室まで近づいてくる足音。


 はじめにその異様さに気づいたのは鶫屋だった。


「ね、ねぇ鴇ちゃん……なんかおかしくね?」


「あ?おかしいって、何が?」


「だ、だって…………遅すぎるよ……足音」


 鶫屋の言う通りだった。


 歩みが異様に遅い。


 確かにこの旧校舎に使われている木材は古い物だが、それでもまだ普通に走っても床が抜けない程度の強度はある。ここまで慎重に歩く必要は無い。


 足音はちょうど、二人が背中を預けている教室の壁のすぐ裏側辺りまでやってくる。


 そこで足音はピタリと止む。


(ま、まさか……)


(バレた……!?)


 二人の心臓が早鐘のように音を立てる。


 暫しの静寂の後、足音は再びギシッ……ギシッ……と音を立てて、少しずつ遠ざかっていく。


 足音が聴こえなくなったのを確認し、二人は安堵のため息をつく。


「あ……あぶねぇ~……」


 思わずその場にへたり込みそうになり、鴇島は手近な机に両手をついて体を支える。


「……鴇ちゃん、おれ、聞いたことがある」


 不意に語り出した鶫屋に振り返ると、彼の顔からは若干血の気が引いて、額には脂汗が浮いていた。


「……逢魔刻(おうまがとき)に旧校舎に残っていると、[髪鬼]が現れるって」


「は?かみおに??」


 鶫屋が突如口にした[髪鬼]というワードに疑問符を浮かべる鴇島。


「……大昔、(みやこ)の遊郭から遊女が一人、足抜けしたんだって。鴇ちゃん覚えてない?歴史の授業で先公が言ってたこと。江戸時代は遊女の足抜けは重罪で、捕まったら拷問されて殺されることもあったって」


「あ~~……そういえば、なんか授業で先公が江戸時代がどうたらこうたら言ってたような……。けど、それがなんだってんだよ?」


 鴇島が訊くと、鶫屋は神妙な顔で続ける。


「その遊女には身を売られる前に将来を誓いあった許嫁がいて、その男に会いたい一心で遠く離れた男の家がある村まで歩いたんだって」


 けど……と鶫屋は一呼吸置いて更に続ける。


「許嫁の家は、遊女を斡旋したヤクザ連中……女衒(ぜげん)って言うんだっけ?そいつらに足抜けの報復で、許嫁もろとも焼き払われてたんだって。それを見た遊女は絶望して、そのまま女衒の一味に殺されたんだって……。で、ここからが重要なんだけど」


 そう言って鶫屋は表情を更に険しくする。


「女衒達がその場を去ろうとした直後、死んだはずの女の目がカッと開いて、次の瞬間髪の毛がブワーって全身を覆うくらい伸びだして、その髪で女衒達を絞め殺したんだって」


 鶫屋がそう言うと、数秒の沈黙の後鴇島が恐る恐る口を開く。


「よ……よりによってこんなときに、なに気味の悪い話してんだよ、鶫っち。その話がなんだってんだよ?」


 鴇島が訊くと、鶫屋は少し躊躇った後、意を決して口にする。


「……その遊女の許嫁の家があった場所…………ここなんだって」


 鶫屋がそう告げた瞬間、鴇島はその場の空気が一気に冷えたような感覚を覚える。


「鴇ちゃん、この旧校舎の裏手に小さい地蔵みたいなものあるでしょ?あれってその遊女……髪鬼の魂を鎮めるためのものなんだって。でも、その髪鬼の怨念が強すぎて完璧には抑えられなくて、今もこうして逢魔刻に旧校舎に残っていると───」


「やめろよ鶫っち!馬鹿馬鹿しい!!」


 鶫屋の言葉を遮るように、鴇島は声を張り上げる。


「逢魔刻だの髪鬼だの、いい歳してなにを下らない迷信真に受けてんだっつーの!」


 そう強がる鴇島だが、その声は僅かにうわずっている。


「くっだらね、帰ろ帰ろ!!」


 そう言って鴇島は空き教室の扉まで歩き、扉を開け放つ。




 そこに長いゴワゴワとした髪の毛が伸びた『ナニカ』がいるなんて、思ってもみなかった。




「あ───」




──第四話へ続く──

直也之草子第三話、いかがでしたでしょうか?今回の後書きは、人物紹介其の二です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


柚澄原(ゆずみはら)鹿乃子(かのこ)


・誕生日:3月18日(10歳)


・身長:136cm ・体重:33kg



・この物語のヒロイン。亜麻色の髪と大きな瞳がチャームポイント。二年前の冬に直也の住む町に引っ越してきた。今の町に引っ越す前、学校の遠足で彼女が乗っていたバスが山道で事故に遭い、その事故で彼女は友人達と双子の姉、そして自身の右腕を失っている。直也から一目惚れされ、はじめの内は彼からの猛アタックに戸惑っていたが、この町で過ごす内に徐々に彼の人となりに触れ、気付けば自身も直也に好意を寄せるようになっていた。

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