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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
二之譚 執着ノ轍

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〜第十二話 尾行 二〜

 ドーモ、政岡三郎です。ついさっき気付いたのですが、後書きの登場人物紹介が其の十四辺りからズレていました。(汗)この話が公開される頃には、既に修正されていますので、無問題です。そんなわけで、二之譚第十二話、始まります。葛西君枝の帰宅時を狙い、彼女を尾行する直也達。尾行は順調なように思われたが___。

 直也達三人は、公衆電話から各々の自宅へ帰りが遅くなる旨を伝える。


 もちろん遅くなる本当の理由など言えるはずもないので、伝えるのは直也が2秒かけて考えた完璧な理由だ。


「あーお袋?俺俺。今日さ、健悟と月男の三人で花火すっから、帰り遅くなるわ。そんじゃ」


『はぁ?ちょっ───』


 珠稀の言葉を待たずして電話を切る直也。


 この間使った額は僅か10円である。


 月男も同じ10円玉一つで帰りが遅くなる旨を伝える。


 これから、場合によってはタクシーを利用しなければならない。公衆電話で何十円も無駄金を使ってはいられないのだ。


 なお、根が真面目な性格の健悟は、しっかりと親の了承を得ようとして60円も無駄に使ってしまった。


 といっても、最終的には無理矢理電話を切ったので、母親が納得したかどうかは怪しいが……。


 ともあれ、帰りが遅くなる旨を伝えた三人は、張り込みを開始した。


 葛西君枝の勤務時間が早く終われば良いのだが、相手は刑事。はたしていかなる時も定時で帰ることのできる職業なのか、直也達には分かりかねる。


「こればかりは、刑事がホワイトな職業であることを祈るしかないねー?」


「でもよぉ~、ドラマとか観てると、なんかそんなイメージなくね?」


「まぁ、東京や京都ならともかく、こっちは地方の県警だ。神奈川県警辺りならそうでもねぇかもしれねぇが、警視庁や府警にくらべりゃあそう忙しくもねえんじゃねえの?知らねーけど」


 そんな会話をしながら、葛西君枝の帰宅時間を待つ直也達三人。


 そうして時刻は、17時24分。


「あっ、出てきた!」


 葛西君枝が姿を現した。


 しかも、右肩にバックを提げている。どうやら帰宅するところで間違いないようだ。


「追うぞ」


 直也の一言で尾行が始まる。


 駐車スペースに向かわずそのまま駅の方面まで歩いていくのを見るに、どうやら葛西は車を使わず電車を使って自宅まで帰るようだ。


「車じゃねえみてぇだな?こっちにとっちゃ好都合だ」


 物陰に身を隠しながらニヤリと笑う直也。


「この方向なら駅を使うのは間違いなさそうだね」


 いつもの無表情で呟く月男。


 三人の予想通り葛西は駅のホームへと入っていく。


 直也達は直ぐ様切符を購入する。


 一番高い切符を買えればそれが一番良いが、小学生である直也達は当然小遣いにそこまで余裕があるわけではないので、一番安い切符を買って足りない分は到着した駅の改札口で精算することにする。


 切符を買っている時、直也達は改札から出てきた河西賢二と入れ違いになるのだが、直也達も賢二も、その事には気が付かなかった。


 切符を買って改札を通った直也達は、直ぐ様葛西君枝の姿を探す。


「あっ!直也、あっち!」


 健悟が指をさした方を見ると、葛西が1番線のホームへと降りていくのが見える。


「1番線って……俺らの町のある路線じゃん!ラッキー!」


 健悟が小さくガッツポーズをとる。


 こちらの方面に葛西君枝の家があるのであれば、帰りは乗り換え無しで真っ直ぐ帰ることができる。


 1番線のホームに降りて、少し離れたところから葛西の動向を監視する直也達。


「でもさ?あの人の家を突き止められたとしても、流石にすぐに忍び込むってわけじゃないよね?」


 月男が直也に訊ねる。


「ま、流石にな……。今日のところは、場所を特定するだけだ。忍び込むのは明日だな」


 直也が答えると、月男が頷く。


「まぁそれがいいだろうね。ちょうど明日は開校記念日で休校だし」


「あん?そうだっけ?」


 月男の言葉に、直也は首を傾げる。


「そうだよ。朝礼で校長先生も言ってたし、ホームルームで久谷先生(パイセン)も言ってたよ?まぁ直也は終始、上の空って感じだったけど」


 月男がそう言うと、直也は学校でのことを思い出す。


「あ~~……、そういやぁ久谷先生(パイセン)そんな話してたような……あ~~だめだ。今日はずっと、かさいけいじの正体をどう突き止めるか考えてたから、かのこと話したこと以外覚えてねぇや」


 頭を掻きながら直也がそう言った時、健悟が気が重そうに肩を落としながら訊ねる。


「なぁ、マジで忍び込むのかよぉ~……。不法侵入だって……」


「言ったろ?俺らは小学生(ショーボー)だ。前科は付かねえよ。第一、先にやらかしてんのはあの女だぜ?」


 そう言って直也は葛西を見る。


「当の警察が法を犯してるかもしれねえってのに、こっちもなりふり構ってらんねえだろ?」


「そ……そりゃあ、そうかもしんねぇけど……」


『───1番ホームに電車が参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください』


「あっ、二人とも、電車が来たよ」


 駅構内のアナウンスの後、電車がホームに停まる。


 葛西が電車に乗り込んだのを見て、直也達も隣の車両に乗り込む。


「でも、葛西さんが僕たちと同じ路線つかってるのは、好都合だよね」


「だよなー。これが違う路線だったりしたら、駅を跨いだ分だけ帰りが遅くなるもんなぁ~」


 葛西の乗る車両と直也達の乗る車両を繋ぐドアの窓から彼女の動向を監視しながら、月男と健悟が呑気にそんな話をしていると、電車内に車掌のアナウンスが響く。


『───ドアが閉まります。ご注意ください』


 その時だった。


 電車のドアが閉まる、その直前───。



 葛西君枝がさっと電車を降りた。



「なに!?」


「は!?」


「ウッソ」


 それを見た直也達は慌てて電車を降りようとするが時既に遅く、無情にもドアは閉まり、電車は直也達を乗せたまま走り出してしまった。


「やられた……クソ!!」


 閉まったドアを拳で叩く直也。


 電車内の視線が、直也達に集まる。


「ちょっ、直也……人がいるんだから落ち着けって、な?」


 健悟が直也をなだめる。


「気付いてたのかな?僕たちの尾行」


「だろうな。そうでもなけりゃあ、こんなことする理由がねえよ」


 月男の疑問に苛立たしげに答える直也。


「まぁ、こうなっちゃったらもう仕方ねえよ。今日のところはこのまま帰ろうぜ、直也」


「………チッ、仕方ねえ。どのみちこうなっちまえば、尾行は失敗だしな」


 健悟の提案に、直也は苦い顔をしながらも同意する。


「でもさ?今回の尾行がバレてたんなら、流石にまた尾行はしにくいよね?」


「だよなぁ~……一度見抜かれたってことは、次もまた警戒されるだろうし……今度またバレたら、いよいよ大目玉かもしんねぇし……」


 月男と健悟の言葉に対して、直也は吐き捨てるように言。


「ハッ。怒られるのが怖くて、尾行なんかやってられっかよ。俺は諦めねえぞ」


 そう言うと直也は、ポケットに両手を突っ込みながら電車のドアに背を預ける。


(人をコケにしやがって……覚えてやがれ)


 窓の外の流れゆく景色を睨みながら、直也は心の中で悪態をついた。






________________________






「で、ですから!葛西刑事はもう既にお帰りになられているんです」


「ですから、葛西刑事のご自宅の住所を教えてください!もしくは、電話番号でも……!」


「で、ですからそれは個人情報ですから……」


「どうしても葛西刑事本人に会って、確かめなければならないことがあるんです!お願いします!」


 警察署の窓口で、河西賢二はかれこれ10分近く、このようなやり取りを続けていた。


 賢二自身、自分が無茶な要求をしていることは百も承知だった。


 ただ、井下家で"かさいけいじ"という人物の正体を聞いてから、賢二は自分でも分かるくらいに歯止めがきかない状態になっていた。


 かさいけいじの正体───それは、愛弓がストーカーの件を警察に相談した時に、対応してくれた葛西という女刑事だったのだ。


 愛弓の母親の話では、葛西刑事は生活安全課所属でなおかつ同じ女性ということもあり、親身になって愛弓に対応してくれて、職務の一環としてわざわざ何度も家へ訪ねてきてくれたのだそうだ。


 それから、葛西刑事は愛弓の善き相談相手になったのだ。


 だが、直也の話が本当であれば、愛弓は葛西刑事に"何か"を奪われている。


 それ故、愛弓の魂は成仏できていないのだ。


 ならばもう、聞き出さずにはいられない。


 葛西刑事は愛弓の死に何か関わりがあるのか───。


 葛西刑事は愛弓から何を奪ったのか───。


「無理は承知で、お願いします!どうにか葛西刑事に繋いでください!」


「そ、そう言われましても……」




「どうした?佳純(かすみ)ちゃん?」




 賢二が窓口のお姉さん相手に押し問答をしていると、横から50歳前後の無精髭を貯えた中年男性が口を挟む。


「あ、澤城(さわき)さん。実はこの方が、どうしても葛西さんに繋いでほしいって……」


 窓口のお姉さんの言葉に、澤城(さわき)と呼ばれた中年刑事は眉をひそめて賢二を見る。


「…………ほぅ?」


 その刑事のあまりにも鋭い眼光に、賢二は一瞬怯みそうになるが、それでも賢二は負けじと目線を合わせ続ける。


「お願いします、刑事さん!僕は、どうしても葛西刑事と直接話がしたいんです!」


 正直賢二にとって、大人相手にここまで必死に食い下がるのは初めてのことだった。


 賢二はたとえ、どんなに邪険な対応をされようが、意地でも葛西という刑事の口から真実を聞き出すつもりでいた。


 それこそが、彼の愛弓への贖罪であり、弔い合戦だった。


「…………あ~、佳純ちゃん?このお客さんの対応は、俺に任せてもらえるかい?」


 賢二の眼を見ながら、目の前の刑事は窓口のお姉さんにそんなことを言う。


「え?……は、はい………澤城(さわき)さんがよろしければ……」


 窓口のお姉さんの返事を聞くと、刑事は踵を返して肩越しに賢二を見る。


「……ってぇわけだ。あんちゃん、ついてきな」


 促されるまま、賢二はその刑事の後に続く。


 署内を歩かされ、賢二がたどり着いたのは、『取調室』と書かれた部屋だった。


「こ、ここって……」


 身構える賢二。自分はこれから、何か尋問されるのだろうか?


「あ~大丈夫大丈夫。なぁ~にそう身構えんでも、取って食いやしない。まぁ、気楽に気楽に……」


 そう言って扉を開け、中に誘う刑事。


 賢二は恐る恐る取調室と書かれた部屋に入る。


 中は、机が二つ中央と部屋の隅にそれぞれ置かれ、壁にはマジックミラーとおぼしき鏡がある。ドラマなどでよく見る取調室のイメージそのままだ。


 賢二は促されるまま中央の机の奥の椅子に座る。


「さて……」


 机を挟んで賢二の反対側に座った刑事は、まずはと自己紹介を始める。


「俺は捜査一課の澤城(さわき)拓海(たくみ)ってんだ。あんちゃん、名前は?」


「け、賢二です………河西賢二。あっ、かさいって言っても、ここの生活安全課の葛西刑事とは違う漢字です」


 捜査一課。


 ということは少なくとも、葛西刑事の直接の上司というわけではなさそうだ。


 しかし、気を許すわけにはいかない。


 これはあまりにも飛躍した考えだが、葛西刑事が愛弓にしたことを警察組織全体で揉み消そうとしているのではないかと、賢二は考えていた。


 取調室に連れてきたのは、人目の無いことをいいことに、口止めをしようとしているのでは……?


「ふぅむ………じゃあ、賢二」


 澤城(さわき)はそう言うと、肩肘を机について鋭い眼光をより一層鋭くして、こう訊いた。


「お前さん………なんで葛西君枝に接触しようとする?」




──第十三話へ続く──

 二之譚第十二話、いかがでしたでしょうか?それではここからは、登場人物紹介其の二十一です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


水嶋(みずしま)佳澄(かすみ)


・誕生日:1月29日(25歳)


・身長:159cm ・体重:ヒミツ


・都市部の警察署の窓口に勤める女性警官。窓口に寄せられる市民からのクレームめいた相談に、日々頭を悩ませているイマドキ女子。非番の日にはそんな日々のストレスを解消するため、友人と人気のスイーツ店巡りをするのが趣味(そのせいか、最近少しふくよかになりぎみ…)。カレシ募集中。

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