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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
二之譚 執着ノ轍

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24/74

〜第十話 カサイケイジの意味〜

 ドーモ、政岡三郎です。二之譚第十話、始まります。河西賢二がシロだと判り、直也達の調査は振り出しに戻る___。

 賢二と話した翌日、直也、健悟、月男の三人は学校からの帰り道で話し合う。


「結局昨日は、これといった収穫はなかったな……」


 健悟の言葉に、直也は首を横に振る。


「そうでもねえよ。河西賢二がシロだって分かったし、あの人が新しい情報元になってくれるかもしれねえんだ。しっかり前進はしてるぜ?」


 常に前向きな直也に、健悟はため息混じりに言う。


「いや、そうは言ってもよぉ、直也………河西さんから必ずしも"かさいけいじ"に繋がる情報が得られるとも限んねぇしよ?ぶっちゃけ俺らも、これからどう動いていいのかわかんねえっていうか……」


 健悟の言うことももっともだった。


 真っ先にかさいけいじである可能性があるのは、井下愛弓に付きまとっていたというストーカーだ。


 しかし、そのストーカーを探そうにも、対象の顔も年齢も分からないのだ。これでは探しようがない。


「行き詰まってるよねぇ~……ぶっちゃけ小学生の僕たちにはもう、どうしようもないよ」


 無表情で後ろ向きな発言をする月男の頭を、直也は掌で軽く叩く。


「諦めてんじゃねえよ、阿呆(アホ)ゥ。まだできることはあるはずだ。なんならいっそ、井下愛弓と交流のあった男連中を片っ端から問い質してやるぜ」


「おいおい、無茶言うなよぉ~……。大体、見ず知らずの小学生にいきなりストーカー容疑かけられて、まともに取り合ってくれる人がいるわけないだろ~?」


「というかそもそも、僕らでも調べがつく愛弓さんの交友関係にかさいけいじがいるなら、賢さんは知ってるだろうしねぇ~」


 二人からボロクソに言われ、直也はぐぬぬと唸る。


「まぁとにかく、井下さんの交友関係にかさいけいじがいるなら、河西さんがきっと調べてくれるって。今は、あの人からの連絡を待とうぜ、直也」


 健悟にそう諭される直也。


 反論の余地はないものの、やはりただ待つだけという現状がどうにも歯痒い直也は、小さく舌打ちをして不満げに地面を蹴る。


「まぁでも、河西さんがシロだったのは、意外だったよなぁ~。正直、白鳥さんに名前聞いた時は絶対にクロだって思ったからなぁ~」


 昨日の事を思い返しながら、健悟がしみじみと言う。


「まさかとは思うけど、実は昨日のは演技で、本当はクロだったりして?」


 不意に月男がそんな可能性を口にするが、直ぐ様それを直也が否定する。


「あれは演技じゃねえよ。100%、井下愛弓に惚れてた男の本音だ。俺には分かる」


 直也自身、鹿乃子に恋をしているからこそ、賢二の気持ちが分かるのだろう。


 現に直也は、賢二が井下愛弓の事故現場を虚ろな眼で見つめているのを見た瞬間、その時点で彼がシロだと断定していた。


「でもよぉ……井下さんに付きまとっていたストーカーが"かさいけいじ"なんだとしたら、井下さんはどこでストーカーの本名を知ったんだろうな?」


 顎に手を当てながら、健悟は考え込む。


 確かにそうだ。


 仮に井下愛弓がストーカーの正体を突き止めたところで、それが知人でもなければ、身分証などを確認でもしない限り本名までは分からないはずだ。


「う~~ん……やっぱり、ストーカーが愛弓さんの知ってる人物だったか、或いは探偵に調査を依頼したとか?」


「いや、探偵に依頼するよりもさ?まずそういう場合って、警察を頼らね?」


 健悟と月男があーだこーだと意見を交わす。


「どうだろうな?警察は"コト"が起こってからじゃねえと動かねえっていうし、確たる証拠が()ぇからまともに取り合ってもらえなかったんじゃねえの?」


 直也の意見に、月男が「職務怠慢!職務怠慢!」と相槌を打つ。


「っつーかさ。言っちゃあ悪いけど、警察はちゃんと仕事してんのかな?井下さんの事故だって、警察は早々に自殺って断定したんだろ?警察が井下さんのストーカーの話を知ってたら、真っ先にそっちとの関連性を疑ったはずだろ?」


 健悟が警察への不信感を口にする。


「そーだよそーだよ。大体、警察がちゃんと調べてくれていたら、僕たちだって賢さんを疑うことも……というかそもそも、こんな苦労することもなかったんだよ」


 月男が便乗して、警察への文句を言う。


「それにしても、賢さんには悪いこと言っちゃったなぁ~……今度謝らなきゃ。"かさいけいじ"と"かさいけんじ"、役職違いもいいとこだよ」


「はは、刑事と検事ってか?」


 月男と健悟が冗談めかしたことを言った、その途端───。



 直也は立ち止まった。



「───おい」


 直也が声をかけたことにより、二人は直也が立ち止まったことに気付く。


「ん?どしたよ、直也?」


「…………おめえら、今なんて言った?」


 静かに直也が問う。


 その雰囲気が怒っているように感じた健悟は、咄嗟に直也に謝る。


「わ、悪い………変な冗談言ってる場合じゃなかったよ……」


 少しシュンとする健悟に、直也は構わず詰め寄る。


「いいから、なんて言ったのかもう一度言えって言ってんだ」


 直也に詰め寄られ、健悟はビビりながら答える。


「け……刑事と検事……って……」


 健悟の言葉を聞いて、直也は顎に手を当てて考え込む。


 考えてみれば、今回の件での警察の動きは、明らかに不自然と言っていい。


 その不自然な点とは、井下愛弓の事故現場からは彼女の下半身が見付からなかったにも関わらず、警察は彼女の死を自殺と断定した点だ。


 少し調べれば、彼女に自殺の動機が無いことも、彼女がストーカーの被害に悩まされていたことも、すぐに分かったはずだ。


 なぜ警察は、これらの点に目を瞑り、彼女の死を自殺と断定したのか?それを考えた瞬間、直也の中で一つの仮説が浮かんでいた。



『いや、探偵に依頼するよりもさ?まずそういう場合って、警察を頼らね?』



『"かさいけいじ"と"かさいけんじ"、役職違いもいいとこだよ』



『はは、刑事と検事ってか?』



「……」


「な、直也……?」


「どったの?」


 考え込んでなにも言わなくなった直也の顔を覗き込む健悟と月男。


「………行ってみるか」


 ぼそりとそう呟くと、直也は再び歩き出す。


「おめえら、ランドセル置いたら駅前集合な?」


 そう言った途端、走り出す直也。


「おまっ、また遠出かよ!?」


「今度はどこ行くの?」


 月男の問いに、直也は振り返って後ろ向きに歩きながら答えた。


「警察署!」






________________________






 放課後、賢二は下り線の電車に乗ってとある場所を訪れていた。


「ごめんねぇ、賢二君。せっかく来てくれたのに、大したおもてなしもできないけど……」


 そう言ってお茶を淹れてきてくれた女性の声に、仏壇に手を合わせていた賢二は振り返って会釈をする。


「ありがとうございます。すみません、お忙しいところ突然お邪魔してしまって……」


 賢二が訪れた場所。そこは、亡くなった井下愛弓の自宅だった。


「いいのよ。それよりも、賢二君がまた家に来てくれて、あの子もきっと喜んでるわ」


 賢二の前にお茶を置きながら、そう言って微笑む愛弓の母親。


 賢二は仏間を見回しながら、愛弓の母親に訊ねる。


「……あの………お引っ越しされるのでしょうか……?」


 仏間の隅には幾つかダンボールが積まれ、ここ以外の部屋の家具はあらかた片付けられていた。


「………実家の姉夫婦がね?こっちで、母の介護を手伝ってくれないかって言うのよ」


 愛弓の母親は、どこかやつれたような笑みを浮かべながら言う。


「本人はまだまだ大丈夫って言い張ってるみたいだけど、そうは言ってもお母さんももう歳だから……。いつ介護が必要になってもいいように、帰ってきてほしいって。だから私達、実家で暮らすことにしたのよ」


 そう言うと愛弓の母親は、賢二から目を逸らし、庭先を見つめながら続ける。


「口にはしないけれど、姉夫婦もきっと、気を遣ってくれたのね。…………この家にも…………この町にも…………あの子との思い出が、多すぎるから……」


 さんざん泣きはらして、涙ももう出尽くしたのだろう。寂しさを湛えた笑みを浮かべる彼女の目から、涙は溢れない。


「だから今日は、賢二君が来てくれて本当によかった。最後に賢二君に挨拶できて、もう心残りは無いわ」


 そう言いながらやつれた笑みを湛える彼女の胸中を思うと、賢二は胸が痛くなる。


 これから自分が言うことは、結果的に彼女の傷を抉ることになるかもしれない。


「…………おばさん」


 それでも、訊かないわけにはいかない。


「…………かさいけいじ……という人物を、知っていますか?」


 かさいけいじに何かを奪われて、愛弓の魂が天に昇れていないのであれば、自分はそれを取り戻さなければならない。


 それこそが、自分が愛弓にできる唯一の───。



「…………賢二君?」


 愛弓の母親が、ゆっくりと口を開く。


「……はい」


「……賢二君は、どうしてその人を探しているの?」


「……かさいけいじは………愛弓さんの死に、何らかの形で関与しているかもしれないんです」


 意を決して、そう答える賢二。


 愛弓の母親は、少し驚いたような顔をしたのち、優しい声で賢二に語りかける。


「………ありがとう、賢二君。愛弓のことを、想ってくれて……」


 ───だけど、と彼女は言う。


「……もしも賢二君が、愛弓の死に何らかの責任を感じているのだとしたら………これだけは言わせてね?……賢二君は、なにも悪くない」


 賢二の胸中を見透かすようなその言葉に、今度は賢二が驚いた表情をする。


 そんな様子の賢二に、彼女は更に続ける。


「賢二君が愛弓のことを想ってくれるのは嬉しい。けれど……賢二君にはこれ以上、愛弓のことを引きずってほしくない。だから───」


「それでもッ!!」


 彼女の言葉を、賢二は強い口調で遮る。


「………確かにおばさんの言う通り、僕はまだ愛弓さんのことを引きずっています。愛弓さんと最後に話した日、彼女に酷い態度をとってしまったことを、今でも後悔しています」


 目を伏せながら、静かに言葉を紡ぐ賢二。


「おばさんが僕のことを心配してくださっているのも分かっています。僕自身、前を向かなきゃいけないということも……それでも」


 賢二は顔を上げる。


「それでも……いえ、前を向かなきゃいけないからこそ僕は、知らなきゃいけないんです。彼女の死に隠されたものを………それを突き止めなければ、僕は前には進めないんです」


 真っ直ぐに自分の目を見ながら言葉を紡ぐ賢二に、愛弓の母親は優しく微笑む。


「……分かったわ。賢二君がそこまで言うなら……」


 でも、と彼女は続ける。


「賢二君の言う"かさいけいじ"が、愛弓の事故に関わっているというのは、無いと思うわ。だってあの人は───」


 六月半ばの、少し早い蝉の声が、彼女の言葉を掻き消す。


 しかし、その声は確かに賢二の耳に届いていた。


 届いていたからこそ、賢二は彼女の口から告げられた"かさいけいじ"の正体に、驚愕した。




──第十一話へ続く──

 二之譚第十話、いかがでしたでしょうか?二之譚も着々と真相に迫ってまいりました。それではここからは、直也之草子の裏話になります。


 前回、主人公の直也を小学生にした理由の一つを語りました。今回は二つ目の理由を語ります。

 直也を小学生にした理由の二つ目は、『大河的な物語』を書きたかったからです。

 実はこの直也之草子、現行の話を含めた『全四部作』の物語にする予定です。

 現在の小学生編から、中学生編、高校生編、そして総合格闘技編です。

 登場人物紹介其の一でも語りましたが、直也の将来の目標はプロの総合格闘家として海外でチャンピオンになることです。

 ですので、第四部ではその挑戦譚を描きたいと思っています。

 メチャクチャジャンル変わるじゃねーか!と思われるかもしれませんが、直也は私のアマチュア作家人生で初の一次創作主人公ですので、彼には私のやらせたいことを全部ぶち込もうと思っています。

 つまり、それ故の大河物語というわけです。格闘家やらせたり、悪霊やらなんやらと戦わせたりするわけですから、定番の高校生から描いたのでは時間が足りません。

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