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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
二之譚 執着ノ轍

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〜第七話 追憶 三〜

 ドーモ、政岡三郎です。また投稿が遅れてしまった……。誰も見ていないからって、これじゃあいかんなぁ……。そんなこんなで、二之譚第七話、追憶編其の三です。とある出来事を切っ掛けに、賢二と愛弓の関係に亀裂が走る___。

『───俺と付き合ってくれないか?愛弓』


 賢二がその現場に居合わせたのは、全くの偶然というわけではなかった。


 近所の本屋で参考書を買った折り、賢二は商店街の福引きのチケットを貰った。


 せっかくなので福引きに挑戦したところ、有名な遊園地のペアチケットが2枚当たった。


 この時は、天から与えられたチャンスだと思った。


 今は11月も後半で、ほとんどの三年生は受験勉強に勤しむ時期だが、推薦入試の愛弓は学力試験が免除されるため、一般入試の生徒よりは時間に余裕があるはずだ。


 今度の休日に、愛弓を誘って二人で行こう。


 そしてただの幼馴染みから、もう少しだけ踏み込んだ関係に……そう思ったのだ。


 電話やメッセンジャーアプリで誘うこともできたが、愛弓には直接会って伝えて……もしも喜んでもらえるのならば、彼女の喜ぶ顔が見たい。賢二はそう思った。


 今にして思えば、それが間違いだったのかもしれない。


 翌日はチア部の後輩たちへの朝練の指導があるとかで、登校時には会えなかった。


 それで、その日の昼休みに愛弓の教室を訪ねたのだが、その時も彼女は居なかった。


 そうして愛弓を探して学校中をうろうろしていたところ、校舎裏にて彼女が他の男子生徒から告白される現場に出くわしたのだ。


 相手は彼女と同じ三年の、サッカー部の主将だった。賢二とは真逆の、男女問わず人気のある人だった。


 当然、そんな場面に出ていく勇気などあろうはずもなく、賢二は物陰からそっと様子を見守る。


『…………えっと………ごめんなさい』


 告白の返事は、あっさりしたものだった。


 愛弓が告白を断ったことに、賢二はほっと安堵すると同時に、他人が告白を断られたことに安堵する自分に、少しばかり嫌気がさす。


『………あの河西って二年のことで、遠慮してるのか?』


 不意にサッカー部主将の口から自分の名前が出て、賢二はびくりとする。


『理解できねえよ………なんであんなやつのために、お前が遠慮するんだよ?』


 なんで"あんなやつ"のために。


 サッカー部主将の口にしたその言葉が、賢二の心に深く突き刺さる。


『別に遠慮してるとか、そういうわけじゃ……というか、そんな言い方やめてよ』


 愛弓が主将の物言いに難色を示すが、主将は構わず続ける。


『だってそうだろ?学校のマドンナのお前が、あんな根暗の陰キャと一緒にいるとか、釣り合いがとれてないって!俺の周りも、みんなそう言ってる』


 みんなそう言っている。


 確かにそうだ。


 今まで愛弓と一緒にいたことによって賢二に向けられた眼は、愛弓や賢二の友人たちが向けてくれるような、優しいものばかりではなかった。


 なんであんなやつが。


 これは、愛弓と一緒にいた賢二に対して、常に誰かしらから向けられている言葉だった。


 当然賢二自身、自分に向けられるそんな言葉には気付いていたし、気弱な賢二が今までその言葉を全く気にすることがなかったかと言えば、当然そんなわけはない。


 ただ、そんな心無い陰口を叩かれてもなお、賢二は愛弓と一緒にいられることが嬉しかったのだ。


(…………)


 ただ、それでもやはり。


 改めて他人の口からはっきりと言われると、やはり心にくるものがある。


 誰からも好かれる愛弓と自分とでは、釣り合いがとれていない。


 そんなことは賢二自身が、一番よく分かっているつもりであった。


 それが今ではこうして思い上がって、あろうことか身の程もわきまえずに、愛弓をデートに誘おうとしている。


 そう考えると、賢二は自分のやろうとしていることが、酷く愚かで恥ずかしいことのように思えた。


『───っ!!』


 途端にそこにいるのがいたたまれなくなり、賢二はその場を走り去った。


 走り去る瞬間、遊園地のペアチケットを落としたことに、賢二は気付かなかった。






________________________






『賢ちゃんっ!』


 帰り際、昇降口で愛弓に呼び止められ、賢二は思わずギクリとする。


『一緒に帰ろ?』


 そう言って笑う彼女に、しかし賢二は……。


『ご、ごめん……今日はちょっと、用事があって急いでて………それじゃあ!』


 そう言ってそそくさとその場を走り去る。


 帰りの電車の中で賢二は、座席に座り長いため息をつく。


(いったい何をやってるんだ、僕は……)


 賢二は直ぐ様スマートフォンを取り出し、メッセンジャーアプリで愛弓に謝罪のメッセージを送る。


 既読の文字がつくや否や、直ぐに愛弓から『気にしないで』という旨の返信が届く。


 明日会ったら、改めて謝ろう。賢二はそう思った。





 翌日も愛弓はチア部の朝練の指導のため、駅から一緒に登校はできなかった。


 一人で学校まで歩いていると、賢二は校門の前で思わぬ人物に呼び止められた。


 呼び止めたのは、昨日校舎裏で愛弓に告白をしていた、三年のサッカー部の主将だった。


『ちょっと顔貸せよ』


 そう言って主将が連れてきた場所は、昨日彼が愛弓に告白をした校舎裏だった。


 もしかしたら、愛弓との関係で何か言われるんじゃ……。そう賢二が警戒していると、主将は賢二にあるものを見せた。


 それを見た賢二は思わず、『あっ……』と声に出す。


 それは昨日、賢二が落とした遊園地のペアチケットだった。


 校舎裏から走り去った後、賢二はすぐにチケットを落としたことに気付いたが、探しに行く気にはなれなかったのだ。


 賢二の反応を見たサッカー部主将は『やっぱりな……』と言った次の瞬間、持っていた遊園地のペアチケットをビリビリと破り捨てた。


『っ!?』


 怒りというよりも困惑で固まる賢二を尻目に、主将は破り捨てたチケットを踏みつける。


『お前さぁ……幼馴染みだかなんだか知らないけど、調子乗りすぎだろ。どうせ愛弓をデートにでも誘う腹積もりだったんだろ?』


 そう言うとサッカー部主将は歩み寄り、おもむろに賢二を突き飛ばす。


 なす統べなく地べたに尻餅をつく賢二を見下ろし、主将は更に続ける。


『お前だって本当は分かってんだろ?自分が愛弓と釣り合わないってことくらい。なぁ?』


 主将の言葉に、賢二は顔を背ける。


『言っとくけどなぁ……愛弓はお前なんか眼中にないよ。お前に優しくしてんのは、お前が一人じゃロクに人と関われない"可哀想なヤツ"だから、哀れんでるだけだよ』


『っ!!』


 その言葉に対して、賢二はここへ来て初めて明確な怒りを覚える。


『…………あんたに………あんたになにが分かるんだよ……!あんたなんかに、僕と………井下先輩の、なにが……!!』


 絞り出すような賢二の言葉に、主将は冷たい眼差しを向けながら言う。


『そういうお前は、愛弓のことちゃんと分かってんの?』


 主将の放ったその言葉に、賢二は一瞬ギクリとする。


 確かに、長いこと愛弓と離ればなれだった賢二は、彼女の全てを知っているとは言えないかもしれない。


 それでも……と、賢二は思う。


『…………知っているよ…………少なくとも………少なくとも、あんたよりはずっと───』



『じゅあお前、愛弓のストーカーのことは知ってるのかよ?』



 それは、賢二の思いもよらない言葉だった。


 ストーカー?


 いったい、なんの話をしている……?


『……やっぱり、知らないんだな』


 賢二の呆けたような顔を見て、主将はにやっと笑う。


『教えてやるよ。愛弓はな、もう2ヶ月くらい前から、ストーカーの被害に遭ってんだよ』


 それは賢二にとって、正に寝耳に水だった。


『………ストーカーって…………そんなこと、井下先輩は一言も……』


 賢二のその呟きに、主将はさも自分の方が優位に立ったと云わんばかりに、賢二を見下しにかかる。


『そりゃあそうだよなぁ?お前みたいな頼りがいのないヤツに話したところで、仕方ないもんな』


 主将の放つ言葉の槍が、賢二の心を深く抉る。


『…………僕が……』


 僕が頼りないから、井下先輩……あゆちゃんは何も言ってくれなかったのか?


 主将(このひと)には、話しているのに?


 だとしたら、僕はこの人よりも信頼されていないのか?


 そんな考えに囚われる賢二だが、実際は違う。


 このサッカー部の主将がこの事を知っているのは、あくまで彼が愛弓とその友人の話を盗み聞きしただけで、彼が賢二よりも信頼されているというわけではない。


 しかし、そのような事実は、今の賢二には知る由もない。


『お前みたいなナヨナヨした腑抜けが、愛弓と釣り合うわけがないんだ。調子に乗るなよ?』


 言うだけ言って満足したのか、主将はさっさと踵を返し、その場を後にした。


 後に残された賢二は、チャイムが鳴るまでその場を動けなかった。







________________________







 学校からの帰り道、賢二が駅までの道のりをとぼとぼと歩いていると、後ろから愛弓に声を掛けられる。


『もう、賢ちゃん!また先に帰っちゃおうとして……ちょっとくらい待っててくれてもいいのに!』


 膨れっ面でそう言う愛弓だが、賢二は振り返らない。


『……?賢ちゃん……?』


 様子のおかしい賢二に小首を傾げる愛弓。


 賢二は静かに言う。


『…………ストーカーに………付きまとわれてるって……本当?』


 賢二の呟いたその言葉に、愛弓は小さく息を飲む。


『賢ちゃん………どうして、そのことを──』


『やっぱり、本当なんだね……』


 そう言って振り向いた賢二の顔は、どことなく悲しげだった。


『えっと……えへへ、実は、そうかも……なんだ』


 どこか照れくさそうに笑いながら、愛弓は答える。


『あっ!でもね?ほんと、大したことじゃないんだよ?ただちょっと、最近誰かに付け狙われてるような気がして……気のせいかもしれないんだけどね?だから───』


『どうして、言ってくれなかったの?』


 愛弓の言葉を遮るように、賢二は言う。


『僕にはそんなこと、一言も言ってくれなかったよね……?』


 どこか責めるような語気の賢二に、愛弓は少しだけ目線を泳がせて、言葉を探す。


『べ、別に黙ってたとか、そういうわけじゃ………ほんとに、大したことじゃないから……』


『…………僕が………頼りないから?』


 俯きながら、ぼそりと呟く賢二。


『え……?』


『僕に話したところでどうにもならないから…………僕じゃ頼りなさすぎて、なんの役にも立たないから……だから、言わなかったの?』


 言ってほしかった。


 頼りないかもしれないけど、それでも僕が何か力になれると、信じてほしかった。


 だって、そうじゃないと───。


『ち、違うよ!!そんなこと思ってなんか───』


『───一人でデートだなんだって浮かれていた僕が、馬鹿みたいじゃないか!!』


 そう叫んで、賢二は逃げるようにその場を走り去った。




──第八話へ続く──

 直也之草子二之譚第七話、いかがでしたでしょうか?それではここからは、登場人物紹介其の十九です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


君嶋(きみしま)大翔(ひろと)


・誕生日:7月1日(18歳)


・身長:179cm 体重:69kg


・一年前は西原高等学校の三年生で、サッカー部の部長を務めていた。彼が愛弓に告白したことを切っ掛けに、賢二と愛弓の関係に亀裂が走る。一年の頃から女子にモテていたが、その頃から既に愛弓のことが好きで、突如愛弓の前に現れ、すぐに彼女と親しくなった賢二を忌々しく思っていた。現在は愛弓も通うはずだった大学にスポーツ推薦で入学するが、愛弓の一件を引きずって思うように結果が出せていない。

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