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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
二之譚 執着ノ轍

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〜第六話 追憶 二〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子二之譚第六話、始まります。今回は河西賢二の追憶其の二です。

『びっくりしたぁ!まさか、こんなところでまた会えるなんて!』


 嬉しそうに賢二の手を握ってそう言う愛弓。


 対する賢二は動揺と緊張から、上手く喋れない。


『この学校にいるってことは、もしかして転校してきたの?確か、去年は居なかったよね?ということは、またこの近くに住んでるんだ!?もぉ~~会いに来てよぉ~~!』


 興奮して早口になる愛弓にたじたじの賢二。


 考えてみれば、賢二の記憶にある愛弓の家から一番近くにある高校なのだから、愛弓が西高(ここ)に通っていてもなんら不思議はない。


 まさかこんな形で再会するなんて……。


『お…………』


 ここに来て、初めて賢二が口を開く。


『…………お久しぶりです。………井下先輩』


 絞り出した言葉は、そんな他人行儀な言葉だった。


 しかし、賢二にとってはそれも当然の話だ。


 賢二と愛弓が仲が良かったのは、幼い頃の話だ。引っ越してからはまともに手紙のやり取りもしたことはなかったし、社交的な愛弓にとって賢二は幼い頃の短い期間だけ仲が良かった、大勢の友達の内の一人に過ぎないだろう。


 そう思って賢二は敬語で話したのだが、どうやら当の愛弓はそれが気に入らなかったようで、プクッと頬を膨らませる。


『もう!なんでそんな他人行儀なの?昔みたいに、"あゆちゃん"って呼んでよ!』


 頬を膨らませながら上目遣いにそう言う愛弓に、賢二は目を逸らしながら言う。


『そ、そう言われても………仲が良かったのはもう、ずっと前の話だし………学校では、先輩と後輩だから……』


 それに、と続けようとして、賢二は口ごもる。


 愛弓は成長して、とても魅力的な女の子になっていた。それでいて性格も、昔と変わらず社交的なままだ。


 対する賢二は、昔以上に根暗で友達もろくにいない。


 今の愛弓は、自分なんかが気軽に話し掛けていい存在ではない。少なくとも、賢二にはそう思えた。


『………賢ちゃん……私のこと、嫌いになっちゃった?』


 不安そうに、愛弓が訊ねる。


『そ、そんなことない!!』


 思わず、賢二は声を張り上げて否定する。


 嫌いになんて、なるわけがない。


『………………です』


 咄嗟に声を張り上げたことが恥ずかしくなり、賢二は頬を紅潮させて俯きながら敬語を取って付ける。


『…………ふふ』


 賢二の様子を見た愛弓が、どこか安心したように、可笑しそうに笑う。


『良かった……賢ちゃん、全然変わってない』


 そう言って微笑む愛弓がとても綺麗で、賢二は思わずドキリとする。


『そ、それより!あの………井下先輩は、どうしてここに?』


 ここの部員は幽霊部員ばかりだと、賢二は聞いていた。


 愛弓が天文部の部員なのだとしたら、聞いていた話と違う。


『えっとね?私今、チアダンス部の部長なんだけど、部活の練習前にたまに、天文部の部室に来て道具の点検をさせてもらってるんだ。今の天文部、そういうことする人いないみたいだから……』


 愛弓の話を聞いて、いかにも彼女らしいと賢二は思った。


 愛弓は昔から星も好きだったが、運動の類いも得意だった。


『本当はね?入学した時は天文部に入ろうと思ったんだけど、友達からどうしても一緒にチア部に入ってって誘われちゃって……。天文部は活動日もチア部と被るから、掛け持ちもできなくて……』


 どうやら、愛弓の事情に合わせて活動日をチアダンス部とずらすという融通は、聞き届けられなかったようだ。幽霊部員ばかりで、活動日もへったくれもないと思うが……。


『でも、賢ちゃんがここに来たってことは、もしかして賢ちゃん天文部に入るの!?』


 目を輝かせながら訊ねる愛弓。


『は、はい………入部届けを出して早々、部長に任命されました……』


 賢二の返答に、愛弓は満面の笑みを浮かべる。


『わぁあ!賢ちゃんも、まだ星を好きでいてくれたんだ!しかも、いきなり部長なんて……すごい!!』


 愛弓はとても喜んでくれているが、賢二にしてみれば星が好きなのは元はといえば愛弓の影響だし、部長に任命されたのだって、まともに活動する部員が他に居ないからだ。


 言葉にしてみれば、なにもすごいことなど無い。


 けれどそれでも、自分が天文部の部長になったことを無邪気に喜んでくれる愛弓の笑顔が、賢二には眩しかった。


『あっ、いっけない!早くチア部の方に行かなきゃ!』


 そう言うと愛弓は、置いていた鞄を拾い上げる。


『ねぇ賢ちゃん。また時間ができたら、天文部に寄ってもいい?』


『ど、どうぞ……』


 上目遣いに愛弓に訊かれ、賢二はうわずった声で答える。


『よかった!それじゃあ、時間ができたらまた寄るね?じゃあね♪』


 そう言って部室を後にする愛弓。


 去っていく愛弓の背中を見送る賢二。


『………あゆちゃん』


 久し振りに会った愛弓は、あの頃と変わらない態度で自分に接してくれて───。


 それまで抱いていた再会の不安が嘘のように消え去り、賢二は愛弓がまた部室に来てくれるのが楽しみになった。






________________________






 部室での再会以降、賢二と愛弓は今まで会えなかった年月など無かったかのように、再び仲良くなった。


 と言っても、昔のように人目を憚らずに"賢ちゃん"と呼んでくる愛弓に対して、賢二の方はいまだに壁を作ってしまい、昔のように"あゆちゃん"とは呼べず、"井下先輩"と呼んでいる。


 むしろ賢二は、もう高校生なのだからこのくらいの距離感が適切であると思っているのだが、賢二が"井下先輩"と呼ぶ度に愛弓は少し膨れっ面になる。


『もう!昔みたいに、あゆちゃんって呼んでって言ってるのに~!』


 相変わらず昔のように接する愛弓に、賢二は気後れするばかりだ。


 そんな二人を見て愛弓の友人達が、二人は付き合ってるのかとしきりに訊ねてくる。


 賢二は慌てて否定するが、愛弓は楽しそうにイタズラっぽい笑みを浮かべる。


『ええ~~、そう見えちゃう?賢ちゃん、どうする?』


『ど、どうもしないよ!』


 二人の仲の良さに一部からは、なんであんなやつと……などといった声も、少なくはなかった。


 それは他ならぬ賢二自身が、一番思っていたことだった。


 愛弓は人当たりも良く誰からも好かれているのに、何故こんなにも自分のことを気にかけてくれるのだろうか……。


 幼馴染みのよしみといっても、それはもう十年以上も前で、むしろ会えていなかった年月の方が長い。そんな言葉では納得できない。


 或いは、気にかけてくれているというのは自分の思い過ごしで、彼女は自分以外の男子にも普段からこのような対応をしているのだろうか……。


 愛弓の人当たりの良さを考えれば、あり得なくはないかもしれないが、それならば他人がわざわざ自分と愛弓のやり取りをやっかむこともないはずだ。


 愛弓の胸中がどうしても気になった賢二は愛弓との帰宅途中、彼女にそのことを訊いてみることにした。


 再会してから二人は、毎日ではないものの一緒に帰宅することが多かった。


 といっても、今の賢二の家があるのは都市部への登り方面。下り方面の愛弓の家とは反対方向のため、一緒に帰ることができるのは駅までだ。


 駅までの道中、賢二は駅に着くギリギリまで逡巡した後、意を決して愛弓に訊ねる。


 何故、十年以上も昔に幼馴染みだっただけの自分に、ここまで構ってくれるのか。


 すると愛弓は、少しだけきょとんとした後、反対にこう聞き返す。


『どうしてって……仲好しだった幼馴染みと昔みたいに仲良くするのが、そんなに不思議なこと?』


 なんの淀みもない真っ直ぐな問いに、賢二は逆に言葉に詰まる。


 そんな様子の賢二を見て、愛弓は優しく微笑んでこう続ける。


『───それにね?賢ちゃん昔と全然変わってなかったから、私嬉しかったんだ……』


 愛弓のその言葉に、賢二は引っ掛かりを覚える。


 前にもそんなことを言われたが、自分は本当に、彼女の言う通り変わっていないのだろうか?


 どちらかと言えば、昔よりも輪をかけて根暗になったと思っている。


 今も昔もマイナスという意味では同じかもしれないが、変わっていないわけではない。


『………変わってなくは……ないです。僕は……昔よりも……』


 その先が言えず賢二は口ごもり、愛弓から目を逸らす。


 そんな賢二を見て、愛弓は───。


『じゃあさ……これから見せてよ』


『……え?』


 愛弓は改めて賢二と正面から向かい合い、上目遣いに賢二の顔を見上げる。


『賢ちゃんの変わったところ。離ればなれになってから、賢ちゃんがどんなことを思って、どんなことをしてきたのか……私に教えてよ』


 そう言って微笑む愛弓に、賢二は一瞬だけドキリとする。


『………き、聞いても………面白いことなんてない、ですよ……?』


『うん、いいよ。知りたいの』


 真っ直ぐ賢二の目を見つめて言う愛弓。


 ぼーっとしていると、思わずその瞳に吸い込まれそうだ。


 その時。


 遠くの方から下りの電車が、駅に向かってやって来る。


『あっ!いっけない!』


 愛弓は慌てて駅の改札に向かって走る。


 走っている途中で振り返り、大声で賢二に言う。


『今度、ちゃんと聞かせてね!賢ちゃんのこと!』


 笑顔でそう言うと、愛弓は再び賢二に背を向けて、大慌てで改札を通り抜ける。


 そんな慌ただしい愛弓を見て、賢二は胸の奥が暖かい気持ちに包まれるのを感じた。






________________________






 愛弓と一緒の高校生活は楽しかった。


 休み時間などはちょくちょく愛弓の方から顔を見せにきてくれて、昼休みでは一緒に弁当を食べ、都合が合う日は駅まで一緒に帰る。


 最近では登校の時も一緒だ。学校の最寄り駅で降りると、愛弓は決まって賢二を待ってくれているのだ。


 ある時は、愛弓の勧めで甲子園球場まで野球部の応援に行ったこともあった。


 正直野球にはあまり興味がなかった賢二だが、愛弓がチアリーダーとして応援席の最前列で応援するというので、それに釣られて行ったのだ。


 野球観戦は思った以上に楽しめた。


 けれどそれもきっと、応援席の最前列で吹奏楽部の演奏する応援歌に合わせて、快活に応援に励む愛弓がいたからこそそう思えたのだろうと、賢二は思った。


 事実賢二の目には、大勢の衆目の前で臆せずに踊る愛弓は、球場内の誰よりも輝いて見えた。


 愛弓と過ごす内に、彼女を介して少しだけ友達も増えた。


 愛弓と離ればなれになって以来、まともに同年代の人と会話することがなかった賢二は、最初こそ会話に戸惑ったものの、愛弓が間を取り持ってくれたこともあり、難なく打ち解けることができた。


 なにもかも、愛弓のおかげだった。愛弓がいたから、賢二は楽しい高校生活を送れていた。


 ───あの日までは──。




──第七話へ続く──

 二之譚第六話、いかがでしたでしょうか?河西賢二の追憶編はもうちょっと続きます。それではここからは、登場人物紹介其の十八です。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


井下(いのした)愛弓(あゆみ)


・誕生日:11月8日(享年18歳)


・身長:159cm ・体重:47kg


・踏切で電車に轢かれ亡くなった女子高生。亡くなった後にテケテケと呼ばれる悪霊になり、自身の無念を訴えている。生前は西高のチア部の部長を務めていた学校のマドンナで、河西賢二とは幼い頃に家が隣同士だった幼馴染。彼のことを弟のように可愛がっていた。

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