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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
二之譚 執着ノ轍

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〜第四話 尾行〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子二之譚第四話、始まります。井下愛弓の死に関わっているかもしれない河西賢二を探すため、直也達は一路、西高へと向かう___。

 水曜日の給食後の昼休みに、直也は行動を起こした。


「ア~痛テェナ~~給食ノ中華うま煮ガアタッタカナ~?」


 担任の久谷のまえで、これ以上ない棒読み口調で露骨に腹を押さえる直也。


「……」


 久谷はこれ以上ない疑いの眼差しを、直也に向ける。


「……と、いうわけで早退します。せんせぇさようなら☆」


「待てぇい」


 そのまま立ち去ろうとした直也の肩を、久谷はガシッと掴む。


「田村君、本当にお腹が痛いの?先生にはどうにも、そういうふうに見えないんだけど?」


「あーーお腹が痛いよぉ。死にそおだよぉ~」


 今度はもう少し声に力を入れて、腹を押さえて踞る直也。


「………本当に、お腹が痛いのね?」


「痛いよ~~」


 直也に最終確認をすると、久谷はため息をつきながら頷く。


「……分かりました。それじゃあ、君のお母さんに連絡を───」


「待てぇい」


 今度は直也が久谷に待ったをかける。


「……なにかしら、田村君?早退するのであれば、君のお母さんに連絡を入れなければならないのだけれど?」


「お袋は仕事で忙しいのデス。だから、電話をされても困るのデス」


 はっきり言って、直也の腹痛は仮病だ。


 目的は、河西賢二が授業を受けている最中に西高の校門前で待ち伏せて、放課後に帰宅する生徒から河西賢二の情報を集めるためだ。


 場合によっては、河西賢二を尾行して自宅を突き止められるかもしれない。


 今日の小学校の授業は五時間目までだが、それでもフルタイムで授業を受けてホームルームが終わるのを待っていては、電車の移動時間も加味すれば、西高生の帰宅時間には間に合わない。少なくとも、河西賢二は帰ってしまうだろう。


 だからこそ、ここで直也はとっとと学校を切り上げなければならないが、今ここで母親の珠稀に連絡が行けば後が怖い。


 直也は髪鬼と戦った時も、丸一日家に帰らなかったことで珠稀の怒りを買い、散々な目に遭ったのだ。


 この上、仮病(こんなこと)が発覚すれば珠稀からどんな仕置きを受けるか分かったものではない。


「早退するっつってもただの腹痛だし、今日の授業はほとんど終わってんじゃん!実質ほんの一時間だけ授業受けないだけじゃん!」


「なんであれ、生徒が早退するとなれば保護者に連絡をしないわけにはいきません!」


 頑なな久谷の態度に、直也はぐぎぎと唸る。


「…………じゃあもういいよ」


 膨れっ面で踵を返す直也。


「ちょっ、田村君!?腹痛は?」


「もう治ったよ!へん!」


 そう言うと、直也は走り去る。


 廊下の角を曲がり久谷の死角に入ると同時に、直也は振り返ってあっかんべーをする。


 今日日ここまでガキ臭いことをやる小五も珍しい。


「なおくん?」


 憂さ晴らしのあっかんべーに夢中になっていたところに背後から声をかけられ、直也はビクゥッ!と肩を震わせる。


「か、かのこ!?」


 声だけで、誰が話しかけてきたか分かる。


 直也は振り返りながら、表情を笑顔に作り替える。


「どしたかのこぉ~~♪俺とお話してくれるのか~?」


 いつもの猫なで声で答える直也。


「あ……えっと……」


 鹿乃子は少し言いづらそうに、所在なさげに片手でスカートを掴む。


「……なおくん、早退するの?」


「へぁ?」


 上目遣いに鹿乃子が訊いてきたのは、そんなことだった。


 どうやら先程の話を聞かれていたらしい。


「……あ~、それな?その……最初は、そのつもりだったんだけどな……」


「やっぱり……!」


 直也が答えた瞬間、鹿乃子はずいと詰め寄る。


「それ、渚ちゃんのことでしょ……なおくん、また無茶なことしようとして……!」


「い、いやいやいや!!その………なんつーか………そうじゃなくてただの腹痛で───」


 そう言い訳しようとした直也は、鹿乃子の瞳が少しだけ潤んでいることに気付き、取り繕うのをやめる。


「……ああ、確かに里田のことと関係が()えと言えば、嘘になるな」


 直也が観念してそう答えると、鹿乃子は少し俯きスカートを片手でぎゅっと握り締めながら、胸の内を明かす。


「………なおくんは優しいから、誰かが困ってたり悲しんでたりすると、放っておけない性格なのは分かってる」


 そう言うと鹿乃子は、顔を上げて真っ直ぐ直也の眼を見つめる。


「でも……それでなおくんが無茶なことしようとしてると、わたしは悲しくなるの……。なおくんが怪我したり……傷つけられたりしちゃうんじゃないかって考えると、心配で………すごく不安になって………」


 そう言って、鹿乃子は再び俯く。


 最後の方は、そのまま消え入りそうな声であった。


「かのこ……」


 鹿乃子の吐露した胸の内を聞いた直也は、己の不甲斐なさを恥じた。


 直也の体格は、小学五年生男子の平均か、それよりほんの僅かに背が高い程度。


 自分がその程度の頼り無い見た目だから、心優しい鹿乃子に余計な心配をかけ、不安にさせてしまっているのだと直也は考えていた。


「……まずかのこは、俺が優しいから他人を放っておけねえっつったけど、そいつはちょっと違うぜ?」


 優しい声で、直也は鹿乃子に語りかける。


 これ以上鹿乃子を不安にさせることが無いよう、彼女の不安を取り除くような、努めて優しい声で───。


「そりゃあ里田とは知らねえ間柄じゃねえし、助けになってやりてえとは思う」


 けどよ……と、直也は続ける。


「この学校で誰よりもそう思ってんのは………誰よりも里田の身を案じて憂いてんのは、かのこ、お前だぜ?」


 そう言って、直也はニッと鹿乃子に笑いかける。


「俺の一番の行動理由はよ?お前に………柚澄原鹿乃子って女の子に、悲しい顔をさせるやつ……その元凶が、堪らなく許せねえって……ただそれだけなんだ」


 そう告げた途端、直也の笑みは少しだけ悲しそうなものになる。


「だからよ、かのこ………。俺のために、そんな悲しそうな顔しねえでくれ。俺のせいでかのこがそんな悲しい顔してたら、俺は俺を許せねえ」


 それに……と、直也はこう続ける。


「俺は無茶なことなんて、一つもしてねえんだぜ?里田の足を悪くしてる元凶をどうにかすることなんざ、俺にとっては朝飯前だぜ!なんせ俺は、()えぇからな♪」


 愉快そうにそう言うと、直也はその場でシャドーボクシングをしてみせる。


「だから、断言するぜ?もうかのこが心配したり、悲しい思いをしなきゃならねえことなんて、一つもねえ。だから………笑ってくれや、かのこ。俺は始めて出逢った時から、お前の笑顔がこの世の何よりも大好きなんだ」


 そう告げて優しく微笑む直也に、鹿乃子は少しだけ俯いた後───。


「…………わたしもね?なおくんの明るい笑顔が、好きだよ」


 いまだに不安を抱えながらも、鹿乃子は今できる精一杯の笑顔を直也に向けた。






________________________






()りいなお前ら。結局付き合わせちまってよ」


 電車を降りてダッシュで西高へ向かいながら、直也は健悟と月男に詫びる。


 結局あの後、ホームルームが終わるまで待つことになった直也。


 ホームルームが終わり、ダッシュで駅へ向かおうとしたところ、いつものように健悟と月男の二人がなにも言わずについてきてくれた。


 普段何をするにもつるんでいる三人だが、テケテケとなった女子高生と戦った辺りから、直也はこれ以上二人を巻き込んでもいいものだろうかと考えていた。


 実際直也は、仮病を使って学校を抜けようとした時も、一人で西高まで向かうつもりであった。


「直也が謝った!?」


「気持ち悪っ」


「ぁあ"!?」


 二人のリアクションで、悪いと思ったことを即刻後悔する直也。


「クソッ、謝って損したぜ……。健悟、西高は次の通りの先だな?」


「ああ、調べたところじゃこの辺り……お?」


 三人が曲がり角を曲がった時、丁度白鳥と同じ制服を着た男子高校生とすれ違う。


 通りの奥には西原高校らしき校舎が見え、その方角から次々と制服を着た生徒が歩いてくる。


「クソッ、こうなりゃもう河西賢二がまだ帰宅してねえことを祈るしかねえな。健悟、月男。聞き込み開始だ!」


 そう言うと直也は早速すれ違ったばかりの男子高校生を捕まえて、河西賢二について訊ねる。


「なぁ、あんた。突然済まねえ。あんたの学校の三年に河西賢二ってやつがいるはずなんだが、どんなやつか知らねえか?」


 訊ねられた高校生は、少し戸惑いながらも直也の問いに答える。


「河西………いや、ちょっと分からないなぁ……。僕は、部活の先輩くらいしか三年生に知り合いはいないし……」


「そうか………いや、突然悪かったな兄ちゃん。ありがとよ」


 直也はそう告げてその場を離れ、他の生徒に同じ質問をする。


 その様子を見ていた健悟が呟く。


「直也のやつ、マジでしらみ潰しに聞き込みする気なんだな………おし、俺らも聞き込むか」


「りょ」


 そう言って、二人もそれぞれ別の相手に聞き込みをする。


 それから三人は、合計で10人以上の生徒に聞き込みをしたが、いまだ大した情報は得られない。このことからも、河西賢二は本当に目立たない生徒のようだ。


 事態が大きく動いたのは、それから5分後のことであった。


「河西先輩?誰だっけ?」


「ほら、あの人だよ。井下先輩と仲良かったって噂の」


 そう答えたのは、二年生の女子二人組だった。


「あ~、あの人か。でもあの人、元から目立たない感じだったけど、井下先輩が亡くなってからちょっと雰囲気ヤバイよね?」


「ね~。さっきも職員室に呼び出されてるの見かけたけど、顔色ヤバくてずっと俯いてたし」


 話を聞いた健悟は、直ぐ様河西賢二の容姿について訊ねる。


「そ、その河西さんって、どんな見た目ッスか!?」


「どんな見た目って、目立たない根暗っぽい感じの………あっ」


 その時、女子高生二人と健悟の脇を、一人の男子高校生が通り過ぎる。


「あの人だよ?」


 通り過ぎた男子高校生を女子二人か指さし、健悟は慌てて振り返る。


「あ、ありがとうございます!おい、直也!月男!」


 気付かずに歩き去っていく男子高校生を見失わないよう注意しつつ、健悟は直也と月男を呼ぶ。


「どうした健悟?なんか分かったか?」


 直也が訊ねると、健悟は去っていく男子高校生を指さしながら食いぎみに言う。


「あれあれ!あの人!あの人が河西賢二だってよ!」


「なに?」


 言われて直也と月男の二人は、健悟が指さす高校生を見る。


 後ろ姿しか見えないが、ボサッとした黒髪の高校生が、猫背ぎみに歩いているのを確認する。


 運が良い。まさか聞き込みを始めて早々、こんなに都合良く見つかるとは……。


「でかした健悟。追うぞ」


 直也の言葉で、一行は尾行を開始する。


 井下愛弓の死には、かさいけいじ改め"河西賢二"が何らかの形で関わっているのは明らかなのだ。


 とりあえずは、河西の自宅を突き止めたい。それさえ分かれば、河西はもう簡単には逃げられない。


 通りを歩き、商店街を過ぎて駅で切符を買う河西。


「……おい。あいつ切符買ってるぞ」


 直也は河西の行動に違和感を感じ、そう口にする。


「うん、おかしいね」


 直也同様、月男もその違和感に気付く。


「??それってどういう…………あっ」


 少し考えて、健悟も気付いたようだ。


 自宅から学校までの行き来に日常的に駅を利用するのであれば、定期券か何かを持っているはずだ。


 直也達のようにわざわざ切符を買うということは、普段は行かない場所に行くということだ。


「塾か何かに通ってるんかな……?」


 健悟がそう呟く。


 確かに、週に一日か二日の塾通い程度であれば、定期を買うこともないかもしれない。


「いやー、それはどうだろ?だって、井下さんが死んでから河西さん、部活にもろくに顔出してないんだよ?なのに、塾だけ真面目に通うかな?」


「高三ってことは、進学するつもりなら受験が控えてるだろ?おかしくはねえよ」


 健悟と月男が考察しているうちに、河西はさっさと改札を通っていってしまう。


「追うぞ」


 直也は短くそう言うと、切符売り場に向かう。


「追うぞって……どこに向かうかもわかんねえのに?」


「河西が買った切符の値段は見えた。やつがどこに行こうが、同じ値段の切符を買えば同じ場所に行けんだ。問題ねえ」


 そう言って直也が買った切符は、一番安い料金より、少しだけ高い距離の切符だった。


 それを見た健悟は、とりあえず懐に優しい距離であることに安堵する。子供料金で乗れる直也達には、それこそ安い缶ジュース程度の値段だ。


 切符を買って改札を通ると、河西が二番線のホームに降りるのが見える。直也達が住む町に向かう方角だ。


 ホームに降りると、河西はベンチに腰掛け力なく俯いて、電車を待っている。


 直也はずかずかと近付き、河西の真後ろのベンチに腰掛ける。


 月男も黙ってそれに倣うが、一方の健悟は尾行にしてはあまりにも豪胆なその行動に、思わず面食らう。


「お、おい直也……」


 直也の隣に腰掛け、後ろに座る河西の耳に届かない程度のひそひそ声で、健悟は直也に耳打ちする。


「いくらなんでも、尾行してんだからこんな近くに座らなくても……」


 健悟の耳打ちに、直也は両膝に肘をついて前屈みに座りながら答える。


「こういうのはこそこそし過ぎても、かえって逆に怪しまれちまうもんだ。ある程度普通にしてりゃあ、向こうもまさか、テメェが尾行されてるなんざ夢にも思わねえだろ」


 それに……と言って、直也は肩越しにちらりと後ろを振り返る。


「野郎も、周りを気にしてる様子はねえしな」


 河西は両膝に肘をついて俯きながら、時折ボソボソと何かを呟いている。


 こうして改めて見ると、髪はボサボサで顔色も悪い。少なくとも、体調が優れているようには見えない。


「……言っちゃあ悪いけど………こうして見ると、ちょっとヤバめだな。やっぱり、井下さんの事故はこの人が何かやったんじゃ……?」


 健悟の耳打ちに、直也は肯定も否定もせずに答える。


「こいつがシロかクロか、今日中に突き止める。……っと、電車が来たぜ」


 電車がホームに到着し、河西が立ち上がる。


 まるで何かにとりつかれたかのようなフラフラとした足取りで、河西は電車に乗車する。


 直也達も立ち上がり、河西が乗り込んだ車両のすぐ隣の車両に乗り込む。


 警笛が鳴り、電車はゆっくりと動き出し、直也達が住む町の方面に走っていく。


 車両の連結部分の扉の窓から、河西の様子を伺う三人。


「いったいどこに向かってんだろうな?」


 健悟がそう言うと、直也は河西の様子を伺いながら答える。


「……たぶんだが、察しはつくぜ」


 直也の言葉に、健悟は「えっ?」と声を漏らす。


「どこ向かってるかわかんの?」


 健悟の問いに、月男が補足するように答える。


「電車の向かう方角と、河西さんが買った切符の料金から考えると、たぶんあの場所じゃない?」


 月男の言葉に、健悟は少し考え込んだ後、ハッとした様子で顔を上げる。


「あの場所って…………まさか……」


「おそらくそのまさかだろうな」


 直也のその言葉と共に、三人は隣の車両の河西を見た。




──第五話へ続く──

 直也之草子二之譚第四話、いかがでしたでしょうか?ここからは恒例の、登場人物紹介其の十六です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


小野原(おのはら)美佑(みゆ)


・誕生日:1月17日(27歳)


・身長:158cm ・体重:ヒミツ…


・二組の担任教師。気弱な性格で、問題のある生徒を叱ろうとしても逆に言いくるめられ、オドオドしてしまう。そんな性格のため、一部の男子生徒からナメられたりすることが多く、何かと苦労している。一組担任の久谷とは同期で、生徒相手に物怖じしない久谷の芯の強さに憧れ、自身もまた彼女のような教師になりたいと日々思っている。

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