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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念

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〜第十四話 日常、再〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第十四話、今回で一之譚は最終回です。ですが、直也之草子はまだまだ続きます。

 コバヤシが直也の服と一緒に置いていった大通連を隠すため、学校の裏山までやってきた直也。


 正直外出が出来ない間、これを部屋に隠しておく事のストレスが半端なかった。万が一、学校へ行っている間に珠稀に部屋を掃除でもされていたら、最悪見付けられていてもおかしくはなかった。


 学校の裏山は意外と広く、奥まったところであれば、滅多に人が立ち寄る事はない。


 その奥まったところにある一本の朽ちた倒木の下。直也はいつもここに大通連を隠している。


「……おし、これでOK!」


 倒木の下に置いた大通連を土や落ち葉でカモフラージュした直也は、早々に裏山をあとにする。


 今日は他にも、色々と用事があるから急がなくてはならない。


 裏山を降りて次に直也が訪れたのは、二週間前に直也が髪鬼と()りあった旧校舎のある中学校の、門の前だった。


 ここへ来た理由は、鴇島と鶫屋がその後ちゃんと禊祓を行ったか、問題なく過ごせているかを確認する事だ。


 門の隅に背中を預け、直也は二人が来るのをじっと待つ。


「おっ!」


 やがて校門から、目的の人物二人が出てくる。


「おう、おめえら!」


 二人が通り過ぎようとしたところへ、後ろから声をかける直也。


「あ……」


「田村……」


 ビクリと振り返った二人は、直也の姿を見るや否や、ばつが悪そうに顔を逸らす。


「ぃよっ!二週間ぶりだな?ヘヘッ、おめえらあの後、ちゃんと禊祓済ませたか?」


 屈託なく話しかける直也に、二人はおずおずと答える。


「お、おう………一応……」


「ち、近くのお祓いとかやってる寺で……」


「OK。ならもう一つ聞くがよ……旧校舎の傍にあった地蔵、どうなった?」


「校長先生が、お祓いして作り直すって、全校集会で……」


「あんなことがあったから……」


 いまだにばつが悪そうな二人に、しかし直也は「おう、そうか」とだけ言うと、踵を返す。


「それだけ聞けりゃあ充分だぜ。じゃ、俺は用事があるからもう行くぜ?あばよ」


「あっ……!」


「た、田村!」


 足早に立ち去ろうとした直也を、二人が呼び止める。


「あん?」


 立ち止まり、肩越しに二人を見る直也。


「……な、なんで、オレらのこと助けに来てくれたんだよ!?」


「お、おれら、お前のダチでもなんでもないだろ!?むしろおれら、いっつもお前にインネン吹っ掛けて……それなのに……」


 二人の言葉を聞いて、直也はポリポリと頭を掻いた後、ニッと笑う。


「んーー………まっ、別にいいじゃねえか。インネンも、見方変えりゃあ腐れ縁だ。ほっといて死なれても、寝覚めが悪りぃぜ」


 そう言うと直也は、改めて二人に向き直る。


「っつーかお前ら、礼なら白鳥センパイに言えよ?俺よりもおめえらのこと心配してたのは、あの人だぜ?あの人が居なけりゃ、俺はお前らを見つける手掛かりすら見付けらんなかったからな」


「っ!!」


 直也の言葉に、白鳥の顔を思い浮かべた鴇島と鶫屋は顔を見合わせる。


「いい先輩持ったじゃねえか。おめえらもあの人見習って、ちったあ年下に優しくしろよ?」


 そう言って直也は歩き去っていった。





________________________





「さぁ~て♪」


 腰に手をあててにやけ面でスキップする直也。


 これで雑用は終わった。後はお待ちかねのメインイベントだ。


「デート♪デート♪かのことデート♪」


 そう。これから直也は、鹿乃子との放課後デートなのだ。


 二週間前、直也が怒られたのは珠稀や教師からだけではなかった。


『あれだけ言ったのに、また危ないことして……!!なおくんたちが暗くなったのにおうちに帰ってないって聞いて、わたしがどれだけ心配したとおもってるの!?』


 そう涙目で鹿乃子に言われた瞬間が、直也には一番堪えた。


 それから必死の土下座でなんとか鹿乃子からの許しを得た直也は、二週間彼女と登下校が出来ない辛さを乗り越えるため、更なる決死の訴えで二週間後の今日、デートの約束を取り付けた。


 かのこがデートしてくれないと死んじゃうよおお!!……という、半ば脅迫めいたなんとも情けない懇願だった。


 そんなこんなで、どうにか放課後デートの約束を取り付けた直也は、意気揚々と待ち合わせ場所に向かっていた。


 今日は授業が四時間目までだったので、時間はたっぷりある。


 待ち合わせ場所は3丁目の空き地。鹿乃子の家から程近い場所にある。


「フフフーン♪フフフーン♪フフフフフーン♪」


 鼻歌を歌いながら空き地の真ん中で小躍りする直也。


 待ち合わせの時間までは、あと45分。


 この待ち合わせ前45分という時間は、直也が先の二つの雑事を済ませ、尚且つ夕方のメロディチャイムまでより長く一緒にいられる上で、時間に几帳面な鹿乃子を万に一つも待たせない、ギリギリを見極めた時間だった。


 デートといっても放課後の限られた時間で、かつ小学生だけでの移動が許される範囲限定だ。


 とすると、デート範囲は当然町中に絞られるが、この町にあるものは精々、1プレイ50円の古い筐体ばかりがそろうゲーセンと、無駄に駐車場が広いコンビニ……後は公園や商店街近くの喫茶店、それと国道沿いのファミレスくらいのものだ。


 こんな田舎町で出来るデートなど、たかが知れている。


「まずはゲーセンで遊んでぇ~、それからコンビニでアイス餅とチューピットを買って二人でシェアしてぇ~、その後は公園から川沿いを二人っきりで散歩してぇ~の、喫茶店でお茶してぇ~……グフフ♪」


 些か気持ち悪い笑いを漏らしながら、二週間かけて練ったデートプランを復唱する直也。


 デート資金は、こういう日のために日頃から小遣いを貯めているのでゲーセン代とアイス代とお茶代くらいなら問題はないはず。


 そこへ、道の向こうから空き地へやってくる人影が───。


「かぁあ~~~のぉお~~~こぉお~~~♥♥随分早く来てくれたん───」


 ───三つ。


(あるぇえ~~~??おかしいぬぁあ~~??かのこは見間違うはずもないが、その後ろにミョ~に見覚えのある馬鹿二人の幻覚が見えるぞお~~~???)


 直也にとっては哀しいかな、幻覚ではない。


 鹿乃子の後ろには、間違いなく馬鹿二人(けんごとつきお)がいた。


「なおく~ん!」


「「お待たせ~~♪」」


 こちらに気付いて左手を大きく振ってとことこ駆け寄ってくる鹿乃子が死ぬほど(いと)おしく、同時にその後ろでへらへらと手を振って駆け寄ってくる薄汚ねえ二人が死ぬほど忌々しい。


 今、直也の中では愛情と殺意という二つの相反する感情が、ない交ぜになって渦巻いていた。


「待たせちゃってごめんね?なるべく早く出たつもりだったんだけど……」


「なぁ~んもぉ、いいんだよぉ~~♥俺も今来たところだったしぃ~かのこを待ってる間は全然苦じゃないよぉ~♥それよりもぉ、俺に逢いたくて早く来てくれたのぉ?♥」


「う、うん……」


 苦笑いを浮かべながら答える鹿乃子。


「ぁあアンもぅ、う~れ~ぴ~い~♥なおくんう~~れ~~ぴ~~い~~ぃ♥♥」


 気持ち悪く体をくねらせる直也(バカ)


「なおくんそんなに喜んでくれるのぉ~?つきおも~~、う~~れ~~ぴ~~い~~ぃ」


 そしていつものように無表情でありながら、声の調子と身振りだけ直也の真似をする月男(バカ)


「かのこぉ~~♥ちょ~っとだけ待っててねぇ~~?す~ぐ戻ってくるからぁ~~♪」


 そう言うと直也は、問答無用で健悟と月男を引っ張って、鹿乃子が止めようとする間もなく空き地の外の曲がり角まで行ってしまう。


 鹿乃子からは見えない死角まで来るや否や、直也は健悟の股間を蹴り上げ、月男の頭を掴みその顔面を壁に叩きつけるように押し付け、地べたで悶絶する健悟の頭を踏みつける。


「 殺  さ  れ  て  え  の  か ? 」


「待ッデェェ…………」


「殺さないでぇぇ…………」


 わりとガチめに殺されかねないと悟った二人は、頭を押さえつけられた状態から必死の思いで弁明(いのちごい)する。


(オデ)らば柚澄原に(ざぞ)われたんだぁあ~~……」


 いまだに悶絶しながら健悟が答える。


「そ~だ~。ゆずみんが、これからなおくんとお出かけするんだけど一緒にこない?って誘ったんだぁ~~」


 壁に顔面を押し付けられ、喋りにくそうに月男が答える。


「………………ん…………だと…………?」


 その途端、まるで糸が切れたように力が抜けた直也は、健悟と月男の頭から足と手を離し、放心したように項垂れる。


「そんな…………かのこは…………俺と二人っきりのデートを楽しみにしていたんじゃ……なかった…………」


 直也はこのように落ち込んでいるが、実際のところは少し違う。


 直也と出かける当日になって、他の友達も誘おうと提案したのは、鹿乃子の父親、伊折なのだ。


 ことは一時間前。


『鹿乃ちゃん、どこかに行くのかい?』


 珍しくウキウキした様子の鹿乃子を見てそう訊ねる伊折に、母親の桜子は。


『ふふ、これから直也くんとデートなのよ♪』


 そう答える。


 その途端、伊折が固まる。


『…………なんだって?』


『直也くんとデート♪』


 再びその言葉を聞いた瞬間、伊折の脳裏をまるで走馬灯のように嫌なイメージが駆け巡る。


 デート→笑いあう二人→触れあう手と手→伝説の木の下→告白→キス→送り狼→息子……。


『………………………………鹿乃子』


 出かける準備をしている鹿乃子を呼ぶ伊折。


『……?なぁに、お父さん?』


『…………お友だちを、誘いなさい』


『えっ?』


 きょとんとする鹿乃子。


『直也君と出かけるんだろう?でも、二人だけじゃつまらないじゃないか』


『えっと……』


『やっぱりこういうのは、人数が多い方が楽しいだろう?うん、絶対そうだ』


『でも……』


『さぁ、そうと決まれば、直ぐに誰かお友だちに電話しなさい。今すぐに』


『う、うん。お父さんが、そう言うなら……』


 ───そういう流れで、鹿乃子は健悟と月男を呼んだのだ。


 女の子の友達でもよかったのだが、鹿乃子は直也が一緒なら二人の方が良いだろうと思ったのだ。


「柚澄原から電話もらった時、正直俺らもいいんかなって思ったさ。でもなんか柚澄原、電話口で困ってそうだったし……」


 ようやく股間の痛みから立ち直った健悟のその一言が、直也の心を更に抉る。


「そんな……俺とのデートは、そんなに困ることなのか…………」


 実際には、有無を云わさぬ伊折の圧に困っていたのだが、そんな鹿乃子の胸中など知る由もない直也は、ガックリと膝を折る。


 今にも泣き出しそうな直也のもとに、鹿乃子が様子を伺いに来る。


「なおくん、大丈夫?」


「か…………かのこぉ~~~……」


 涙目で何かを訴えようとする直也に、鹿乃子は苦笑しながら言う。


「えっと……お父さんがね?お出かけは人数が多い方が楽しいからって……。今日は四人で遊ぼ?」


 鹿乃子の笑顔を見て、直也はごしごしと涙を拭う。


「…………そっか、そうだよな。お義父様がそう仰るなら、そうするべきだよな……」


 そう言って立ち上がった直也は、健悟と月男をジトッと睨む。


「……しゃあねえ。お前ら、今日は鹿乃子に免じて特別に許してやる。ただし、テメェらで使う遊び代は、テメェらで出せよ?俺はおめぇらには、一切奢る気はねえ!」


「分かってるって。ほら、行こうぜ?」


「買い食い、ゲーセン、Fuu~~↑↑」


 そう言って先へ行く健悟と月男。


 いまだに納得がいかないという様子で直也が二人の背中を睨んでいると、横から鹿乃子が、こっそりと直也に耳打ちする。


「───今度は、二人だけでお出かけしようね?」


「ッッ!!か…………かのこぉお~~♥♥♥」


 鹿乃子の耳元での囁きとにっこり笑顔に、直也は損ねていた機嫌がたちまち良くなる。


「ふふ、行こっ♪」


 そう言って自分の手を引く鹿乃子の左手の柔らかさに、直也はこれ以上ないくらいに鼻の下を伸ばすのであった。




──一之譚 髪ノ怨念 完──


──二之譚 第一話へ続く──

 直也之草子第十四話、いかがでしたでしょうか?今回は一之譚が最終回を迎え、物語が一回目の区切りを迎えた記念として、物語の制作秘話をお話します。


 この直也之草子、既に残り四十三話分の話のストックがあるのですが、その制作途中で登場人物の名前に関する設定を何度も変更しております。


 例えば、田村直也は最初は、直に弥で直弥(なおや)でした。しかし、二之譚の制作途中で直也に変えました。


 理由は、設定上の直也の名前の由来です。直也の母親の珠稀と父親は、『素直で真っ直ぐな子に育つように』という理由で息子に”なおや”と名付けました。


 しかし、そういう由来ならば”なおや”の”や”は弥ではなく”なり”という意味を持つ也が適しているかなと思い、名前を直弥から直也に変えました。


 直也の名前は(主人公なので)文章中にかなり多く出てくるので、手直しは骨が折れました……。(笑)


 他にも、ヒロインの鹿乃子の苗字だったり、幼馴染の月男の苗字を”田中”から”山田”に変えて、結局”田中”に戻したり……。物語を書けば書くほど後になって設定を変えた時の手直しが面倒になるので、改めて物語作りの難しさを実感しました。


 さて、それでは今回はこの辺りで。もしもこの物語を読んでくれている方がいらっしゃいましたら、次回、二之譚も読んで頂けましたら幸いです。

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