表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/74

〜第十三話 顛末〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第十三話、今回は家に帰った直也達のその後です。

「あのおりつ姉ちゃんっての、いいやつだったな。最初は、おっかねえ姉ちゃんだと思ったけどよ」


 コバヤシに抱えられて、町へ向かって空を飛ぶ最中、二人はおりつについて語り合う。


「ふふ、そうであろうそうであろう?あれこそ正に、古き良き"つんでれ"というやつじゃ」


「あ~、それだ。あの姉ちゃん、確かにツンデレってやつだわ」


 得心がいったように頷く直也。


 おりつについて話していて、ふと直也はあることが気になりコバヤシに訊ねる。


「そういえば、あの姉ちゃんあんたのこと小林(しょうりん)って呼んでたな?なぁ、コバヤシ姉ちゃん。あんた、あのおりつ姉ちゃんとは付き合い()げぇの?っつか、あんたの本名しょうりんっつうのか?」


「こりゃこりゃ。そういっぺんに捲し立てるでない」


 そう言うと、コバヤシは遠い昔を思い出すかのように、ぽつりぽつりと語り出す。


「そうじゃな……まぁ、おりつのやつとはもうかれこれ、長い付き合いじゃよ。それこそ、おぬしが生まれるよりもずっと前からの付き合いじゃぞ?」


 コバヤシの返答に、直也は「マジか」と呟く。


「俺が生まれるよりも前ねぇ……。っつか、あんたら見た目スゲェ若く見えるけど、実際のところ今いくつなん?」


「れでぃーに軽々しく年齢を訊ねるでないわ、たわけ!」


 コバヤシは珍しく眉間にシワを寄せて、ガルルと唸る。


 そんなコバヤシを見て、直也はジト目で一言。


「………………レディーねぇ………」


 すると、コバヤシは急に笑顔になる。


 ……いや、よく見れば額に青筋を浮かべて、眼は笑っていない。


「…………それ以上なにか申せば、儂は"ついうっかり"手が滑ってしまうやもしれぬぞ?」


「俺が悪かったですスイマセンでしたっ!!」


 早急に謝罪を述べ、どうにか事なきをえる直也。


「まったく……。そうそう、それから直也よ。おぬしの他に、髪鬼に直接触れた者達がおったであろう?」


 コバヤシが、鴇島と鶫屋の事に話題を変える。


「あっ、そうそう!俺も気になってたんだよ、あいつらのこと。ぶっちゃけ、俺だけじゃなくてあいつらも禊祓ってのしねえとまずいんじゃねえの?」


「うむ、その事じゃが直也よ。おぬしの方から其奴らに、どこぞの神社か仏閣で禊祓をするよう、伝えてはくれぬか?」


 コバヤシの頼みに、直也は少し困ったようにう~んと唸る。


「それは別に構わねえんだが……あいつら俺と顔を合わせる度に、なにかと因縁吹っ掛けてきやがるからなぁ~……。今更俺の言うことなんざ、素直に聞くかね?」


「あのような目に遭った後じゃ。其奴らとて、おぬしにあまり強気には出れぬじゃろうて。それに、儂と其奴らには面識がない。あのような事があった後で、儂のような正体不明の謎の美女が近づいても、警戒されるであろう?」


 そう言うコバヤシを、直也は再びジトッとした目で見ながら一言。


「…………確かに、テメェでテメェのこと"謎の美女"とか(のたま)う毒女がなんか言ってきたところで、マトモなやつなら聞く耳なんざ持たねえか……」


「あ~~あ~~!!なにやら手が滑ってしまいそうじゃなー!!」


「ソウデスネ!!コバヤシサンハ正真正銘ノ美人サンデスネ!!」


 冷や汗をかきながら、慌てて心にもないことを言う直也。


「……あ、そういえば…」


 ふと、直也はあることを思い出す。


「む?どうしたのじゃ?」


「いや……あいつらの他にもあと一人、忠告しとかなけりゃならねえやつがいたなぁ~ってよ」


「諦めろ」


 直也が全部言い終わる前に、コバヤシはスッパリと言い放つ。


「おいおい、まだ言い終わってねえって……」


「みなまで云わずとも、大体は察しがつくわ。おぬしが髪鬼と戦う前に襲ってきたという、不埒者のことであろう?」


 そう。直也が旧校舎内で一番はじめに遭遇した、ボロボロのシャツを着た男。


 あの男にも、禊祓をするよう忠告をした方が良いと、直也は考えたのだ。


「あの者は既に、半分"あちら側"に足を踏み入れてしまっておる。もうどうにもならん。それに、仮に手遅れではなかったとして、どうやって其奴にその旨を伝える?今頃其奴は、駆けつけた警察に捕まっておる頃合いじゃろうて」


 言われて直也は押し黙る。


 確かに、今頃あの凶悪犯は警察に連行されているだろう。


 だとすれば、直也がいくらあの男は禊祓をする必要があると警察に訴えたところで、まともに取り合ってはもらえないだろう。


「う~~むむむ………」


 何か手はないものかと、直也は無い頭を働かせる。


 頭を働かせている内に、不意にこれまでの疲れがどっと押し寄せてきて、直也は次第に眠くなってくる。


「じゃから諦めろとゆうたであろう?あちら側に片足を突っ込んだまま、死ぬまで生き地獄を見続ける。それこそが、あの者の背負った業………人を殺めた者の末路じゃ。いい機会じゃからおぬしも、人を殺めた者がどうなるか……その末路を、しかと胸に刻むがよい」


 コバヤシは直也にそう告げる。しかし、返事が無い。


「……?直也……?」


「……………………くかぁ~~~…………zzz……」


 返事の代わりに聞こえてきたのは、盛大なイビキであった。


 ちらりとコバヤシが直也を見ると、直也は彼女の腕の中で眠りこけていた。


「……ふふ、まったくしょうのないやつよ」


 やれやれといった感じで、コバヤシは優しく微笑んだ。






________________________






 次に直也が目を覚ましたのはその日の正午。そこは自宅のリビングであった。


 そして目覚めるや否や、直也の目が覚めるのを待っていた母親の珠稀に怒鳴られ、しこたまケツを叩かれたおかげで一気に目が覚めた。


「一晩中帰ってこないとか、どういう了見だこの不良息子!!連絡しろバカ!!危ないことすんなアホーーーーーー!!!」


「ぎゃあーーーーーー!!?」


 結局それから二週間、直也は登下校以外の一切の外出を制限された。


 無論、下校の際も寄り道などは一切できず、この二週間登下校の際は珠稀が必ず送り迎えをする程の徹底ぶりだった。


 そしてそれは健悟、月男の二人も同じだったらしく、直也の母親同伴の登校初日、二人も母親同伴で登校してきて、その顔は心なしかげんなりしていた。


 その母親同伴登下校の初日、ただでさえ前日に母親からしこたま叱られてテンションだだ下がりだった三人に追い打ちをかけるかの如く、生活指導の教員からも三人はしこたまお叱りを受けた。


 集団下校初日のその日の夜に直也達が家に帰ってこなかったことは、警察やPTAを巻き込んだちょっとした騒動になっていたので、これもまた因果応報、当然の結果である。


 そして、行方不明になっていた鴇島と鶫屋、それから直也がぶっ飛ばした凶悪犯の三人が見つかったことは、全国ネットでのニュースとなった。


 報道の内容によると、どうやら鴇島と鶫屋は自分達が三日間もの間行方を眩ましていたことに、まるで気が付かなかったと語っているらしい。


 二人いわく、行方不明とされている間自分達はずっと学校の旧校舎に居たが、それも感覚的にはほんの2、3時間程度のことだと思っていたとか。


 確かに直也も、自分が旧校舎にいた時間は精々小1時間から1時間半程度だと思っていたし、事実として直也が凶悪犯や髪鬼と()りあっている間、窓からは夕陽が射し込んでいたはずだ。


 それが髪鬼に大ダメージを与えた辺りから、急に辺りが暗くなりだしたのだ。


 おそらく、髪鬼に致命傷を与える前まで、旧校舎内は普段自分達が住む世界とは違う、"髪鬼側(あちらがわ)"の世界になっていたのだ。だから時間の流れも、旧校舎の内と外で異なっていたのだろう。


 その後のニュースの内容によれば、鴇島と鶫屋は旧校舎内で自分達が見た髪鬼についても、警察の聴取で語ったようだ。


 しかしやはりと言うべきか、その発言は凶悪犯に遭遇したショックで、精神が不安定になったことによる発言であるとみなされ、スルーされたらしい。当然といえば当然の反応だ。


 とりあえず、二人に禊祓をするよう忠告をしなければと思う直也であったが、自身の外出制限のこともあり、中々その機会を得られずにいた。


 そこで直也は"おやっさん"に頼ることにした。


 おやっさんというのは月男の父親の田中一男(たなかかずお)という男のことで、家族ぐるみで付き合いのあった直也に喧嘩のしかたを教えてくれた、直也にとっては師匠のような人だ。


 月男以上に何を考えているのか分からない、謎の多い男だが、いざという時は何気に頼りになる存在なのだ。


 直也は早速月男の家に電話をかけ、おやっさんに事情を話す。


 やれ禊祓だのなんだの、普通の大人に言ったところでまともに相手にされないが、おやっさんは違う。こういうことにも、ちゃんと理解がある。


 おやっさんに、鴇島と鶫屋の二人に禊祓をするよう、忠告をしてほしいと頼んでから約二週間。ようやく直也の外出制限が解除された。


 外に出る際、「次心配をかけたら最後、二度と一人で外には出られないと思え!!」と、珠稀に釘を刺された。


 ともあれ、ようやく放課後に外に出られるようになった。


 外に出てまず一番はじめにやることは、直也が今手に持っているギターケースの"中身"を隠しにいくことだ。


 このギターケース、いつもなら直也が幼い時に失踪した父親の形見のギターが入っている。


 しかし、今中に入っているものは、まったく別の物だ。


 今のケースの中身は大通連。髪鬼退治に活躍したあの刀だ。


 二週間前に直也が自宅で目を覚ました時、手元に大通連は無かった(珠稀がいる手前、あっても困る)が、その翌日の早朝、おりつが洗濯してくれた直也の衣服と共に、二階の直也の部屋の窓際に吊るしてあったのだ。


 直也の部屋の窓は、日頃洗濯物を干すベランダのすぐ横なので、一歩間違えれば大通連が珠稀に見つかっていた。


(コバヤシ姉ちゃんよぉ……せめて一声かけていけよ。こういう返し方、マジでやめろよな?お袋に見つかったらどうしてくれんだ、ったく……。っつか、おりつ姉ちゃんに借りた服も、返しそびれたし……)


 借りた服は今度、自力で返しに行かなければならない。だが、今はそれよりも大通連だ。


 この後にも大事な用事がある直也は、いつも大通連を隠している学校の裏山へと急いだ。



──十四話へ続く──

 直也之草子第十三話、いかがでしたでしょうか?一之譚は次回で最終話になります。余談ですが、前回のコバヤシの人物紹介で大事な設定が抜けていたので、改めて書き足しました。コバヤシは実は甘党なんです(詳しくは前回の後書きをご覧ください)。それではここからは、登場人物紹介其の十二です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



・おりつ


・誕生日:不明


・身長:160cm ・体重:ヒミツ


・直也の住む町から少し離れた山中にある神社を管理する神主兼巫女(?)の女性。神社に併設する社務所に住み込み、神社の管理や参拝客への対応を一人で行っている。それでも神社はそこそこ広いため、月に一度の大掃除の際には人手を呼ぶこともある。見た目は若いが年齢不詳、コバヤシ同様に謎が多い。極稀に訪れるマナーの悪い参拝客などにはきつい口調で咎める反面、子供やお年寄りなどには柔らかい口調で話したりする、厳しくも優しいところのある女性。実は極度の照れ屋で、人から褒められることが苦手。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ