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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念

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〜第十二話 禊祓〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第十二話、始まります。今回はお祓い回です。一之譚も終わりが近付いてまいりました。

「あんたバカじゃないの!?」


 白袴に着替えた直也に、コバヤシから事情を聞いた巫女服の女性はそう言うなり、直也の頭をひっぱたく。


「痛って!?何すんだよ!!」


「何すんだよ、じゃないわよ!!」


 女性の剣幕に、直也は思わずたじろぐ。


「いい!?悪霊ってのはね、人が生身で触れちゃいけないモノなの!!それと真正面から生身でやりあうなんて……、いくらお友だちのためだからって、無茶しすぎ!!反省しなさい!!」


「す、すんません……」


 その女性のあまりの圧に、思わず反省の言葉を口にする直也。


「まーまー。それくらいで許してやるがよい、おりつよ」


 コバヤシがそう言うと、おりつと呼ばれた女性はキッとコバヤシを睨む。


「あんたもあんたよ、小林(しょうりん)!!子供に大通連を渡すとか、なに考えてんのよ!?」


 おりつの叱責が自分に向けられ、コバヤシはうっ、と言葉に詰まり、苦笑いしながら両手の人差し指を突き合わせる。


「い、いやぁ~~、それはの?儂にも、儂なりの考えが……」


「どんな考えよ!?」


 おりつに詰め寄られ、コバヤシは観念したようにおりつに耳打ちする。


「……それに関しては、今度日を改めてわけを話すよってに、今は勘弁せい。この話は、"直也にはまだ聞かせたくない"」


 真面目な声のトーンのコバヤシに、何かしらの事情があることを察したおりつは、はぁ……、とため息を一つついたのち、再び直也に向き直る。


「……とにかく、禊祓を行うわよ。直也君っていったわね?そこに正座して、目を閉じなさい」


「お、おう。それはいいけどよ?地面に直接正座すんのか?外だぜここ?」


 今直也達が居る場所は、神社の本殿の横の中庭だった。


 直也のすぐ目の前には、キャンプファイヤーで使うような井桁型の組み木と、手水舎で汲んだ水の入った桶がある。


「ほら、座布団敷いてあげるから。余計なことは考えずにじっと目を閉じて、アタシが読み上げる祝詞に耳を傾けること。いいわね?」


 そう言っておりつは、砂利の地面の上に直に座布団を敷く。


 直也は言われるがままに、座布団の上に正座して目を閉じる。


 辺り一面を、静寂が包み込む。


「───始めるわよ」


 おりつはそう告げると、組み木に向かって右手を翳す。


 すると突然、なんの火種も無しに組み木に火が灯る。


 その火は徐々に大きくなり、やがて人一人を包み込める程の大きさの炎になる。


 目を瞑っている直也には当然その瞬間は見えないが、それでも聴こえてくる音と体に伝わる熱で、目の前の組み木に炎が灯ったであろうことは理解できた。


(……火種になるようなモン、持ってなかったよな?どうやって………いや、いかんいかん。巫女の姉ちゃんに、余計なこと考えんなって言われたもんな)


 大方、火をつけるのにも"ツウリキ"のような力を使ったのだろう。


 ここに来るまでに直也は悪霊と戦ったり、文字通り空を飛んだりしたのだ。今更そのくらいでは驚かない。


 それよりも今は巫女の姉ちゃんの言いつけを守らなければと、直也は頭をブンブン振って雑念を振り払う。


「───掛介麻久母(カケマクモ)(カシコ)()伊邪那岐大神(イザナギノオホカミ)


 炎が燃える音の次に直也の耳に聴こえたのは、おりつの唱える祝詞と、鈴のついた大幣(おおぬさ)を振る音。


筑紫乃(ツクシノ)日向乃(ヒムカノ)橘小戸乃(タチバナノヲドノ)阿波岐原爾(アハギハラニ)御禊祓(ミソギハラ)()(タマ)比志(ヒシ)(トキ)()生里坐世留(ナリマセル)


(巫女の姉ちゃんは黙って聞いてろっつってたが……サッパリ意味が(わか)らねえ。一応、日本語だってことぐらいは(わか)るけどよ)


 おそらく穢れを祓うための言葉なのであろうが、それが厳密にはどういった意味を成す言葉なのか、直也にはまるで(わか)らなかった。


祓戸(ハラヘド)()大神等(オホカミタチ)諸乃(モロモロノ)禍事(マガコト)(ツミ)(ケガレ)有良牟乎婆(アラムヲバ)祓閉(ハラヘ)(タマ)()清米(キヨメ)給閉(タマヘ)()(マヲ)()(コト)()聞食(キコシメ)()()恐美(カシコミ)恐美(カシコミ)()(マヲ)()


 祝詞を唱え、そこから炎が燃える音と大幣を振る音、そして大幣についた鈴の凛とした音のみが、辺りに響き渡る。


 やがておりつは、ゆっくりと振り返る。


「こっちへ来て、直也君」


「ん?おお、もう目ぇ開けていいのかい?」


 直也は目を開けて立ち上がり、促されるまま炎へと近づいていく。


 直也が炎の前に立ったのを確認した瞬間───。



「───祓え」



 一陣の風が炎を巻き上げ、直也に火の粉を纏う熱風を吹き付けた。


「うおっ!?」


 火傷を負う程の熱さではないが、突如として吹き付ける火の粉と熱風に、直也は思わず半歩後ずさりする。


 更に次の瞬間。


 バシャアッ!!


「わぶっっ!?ッッッ冷た!?」


 おりつは問答無用で、桶の中の水を直也の頭から一気にかけた。


「はい、禊祓終了。お疲れさま」


 悪びれもせずにそう告げるおりつ。


「おまっっ!水かけるなら前もって言ってくれよ!?冷てぇな、畜生!!」


「禊祓なんだから、当然でしょ?動画とかテレビとかで観たことないの?」


「観たことねえよそんなニッチな動画も番組も!!」


 直也の文句に、おりつは呆れたようにため息をつく。


「勉強不足よ。日本に生まれたんだから、ちょっとはこういった神事にも関心を持ちなさい」


 文字通り子供を諭すような口調に、直也はさも納得がいかないと云わんばかりにぐぬぬと唸る。


「とにかく君は風邪ひかないように、ここで温まってなさい。今、着替え取ってきてあげる」


 おりつはそう言って、直也の着替えを取りに境内の社務所へ向かう。


 そこへ、離れて禊祓いを見守っていたコバヤシが、直也の方へ歩み寄ってくる。


「お疲れさん。ちゃんと言われた通りじっとしていて、偉かったぞ♪ヨシヨシしてやろうかえ?」


「ぁあ"!?ガキ扱いすんな!!」


 露骨なからかい口調にイラつく直也。


「じゃから、そういう台詞は儂よりも背丈が高くなってから申せと言うておろうに」


「ぐぬっ……そういうあんただって、大して背が高けぇわけでもねえクセによ!」


 実際のところ、コバヤシの身長は日本人女性の平均よりも幾らか低いように見えた。(それでも、直也の母親の珠稀よりは高いが)


「負け惜しみを言いおってからに、うい奴め♪」


 わしゃわしゃと直也の頭を撫でくり回すコバヤシ。


「だぁあもお!!やめろや!!」


 その手を振り払おうとした拍子に、直也はその場に尻餅をつく。


 本人も忘れていたが、今の直也は髪鬼との戦いの疲労がまだ残っているので、こうなるのも当然といえば当然だ。


「まったく、無理して暴れるからじゃぞ?」


「いや、あんたのせいだろ!?」


 二人がそんなやり取りをしているところへおりつが戻ってくる。


「はい、これ」


 そう言っておりつが手渡したのは着替えと、竹皮に包まれた握り飯だった。


「おお!握り飯じゃねえか!食っていいのか?」


「昨日の夜から、何も食べてないんでしょ?食は元気の源!ちゃんとよく噛んで食べるのよ?」


「サンキュー!いただきまーす!!」


 直也は大きめに握られた握り飯を両手に一つずつ取って、一心不乱にがっつく。


「こぉらっ!ちゃんとよく噛んで食べなさいって言ったでしょ?そんなに慌ててがっつくと……」


「───ムグッ!?ムググググ……!!」


 米を喉に詰まらせ、直也は苦しそうに胸の辺りを拳で叩く。


「ほら、言わんこっちゃない……」


 おりつはやれやれとため息を吐きつつ、用意していたお茶を直也に飲ませる。


「ングッ…………ングッ…………プハァッ!!いやぁ~~死ぬかと思ったぜ。まぁ、この半日ぐらいでもう2、3回は同じこと思ってんだけどな。……おりつさん、っつったっけ?」


 直也はおりつを見て、ニカッと笑う。


「最初は取っつきにくい姉ちゃんかと思ったけどよ。メチャクチャ優しいのな、あんた。マジでサンキューな!」


「っっ!?…………べつに。ほっとけないでしょ?」


 急にそんなことを言われたおりつは、直也から顔を背けてぼそりとそう呟く。


「なんじゃなんじゃぁあ?顔が赤くなっておるぞ、おりつや?」


「う、うっさい!バカ小林(しょうりん)!!」


 顔を真っ赤にしておりつは怒鳴った。





________________________






「───それじゃあ、キミの着ていた服は洗濯が終わり次第小林に届けさせるから。ついでに、破れてるところも縫い直しといてあげる」


 直也の元々着ていた服は、おりつが洗濯をしてから返されることになった。


 洗濯もまた、禊祓の一環だ。直也はそこまでやらなくてもと思ったが、コバヤシとおりつ曰く、念のためとのことだ。


「おう!何から何までマジで済まねえな、おりつ姉ちゃん。あんた、ほんといい人な?」


「そ、そういうのもういいから!」


 気恥ずかしそうに顔を逸らすおりつ。


「ではゆくぞ、直也よ。しっかりと掴まっておれよ?」


 そう言うとコバヤシは、再び直也を抱え上げようとする。


「いやいいって、帰りは!握り飯食って元気出たし、歩いて帰るって!」


「だーめーじゃ!ここから町まで何里離れていると思っておる?歩きじゃと時間がかかるであろうが。早くおぬしを家へ帰して、おぬしの親御殿を安心させてやらねばならん」


 そう言ってコバヤシは、有無を云わさずに直也を抱え上げる。


「うっ………お袋かぁ~~…………。帰ったら、メチャクチャ怒られんだろうなぁ~……」


 帰った時の事を考え、少しナーバスになる直也。


「甘んじて受け入れるがよい。親御殿に無断で、無茶なことをやったおぬしにも非があるわ。親に叱られることもまた、子の務めじゃ」


 他人事だと思いやがってとこぼす直也を無視し、コバヤシは顕明連の刀身を陽の光に翳す。


「それじゃあ、こやつの服は洗濯が終わった頃を見計らって取りに来るでな。朝っぱらから済まんかったのぅ、おりつよ」


「マジでサンキューな、おりつ姉ちゃん!また今度改めて、礼をしに来るからよぉおおおおおお!!?」


 喋っている最中に、直也の体はコバヤシと共に急激に上空へと舞い上がる。


 南南西の空の彼方へと遠ざかっていく二人を見つめながら、おりつはコバヤシの言葉を思い出していた。


 大通連を渡した理由を、直也にはまだ聞かせたくない。彼女はそう言った。


(……あの子、大通連を"扱えた"のよね?)


 おりつが小林(しょうりん)と呼ぶ女性、コバヤシが持つ三つの宝剣───通称[三明の剣]の一振りである大通連。


 並の人間であれば、刀の持つ神通力にあてられ、まず扱うことは出来ない。


(それをあの子は……)


 直也にはきっと、何かがある。


 その何かを、小林が直也の服を取りに来た時に改めて訊ねてみようと、おりつは思うのであった。




──第十三話へ続く──

 直也之草子第十二話、いかがでしたでしょうか?ここからは毎度お馴染み、登場人物紹介其の十一です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


・コバヤシ


・誕生日:不明


・身長:154cm ・体重:ヒミツ


・去年の秋、直也に大通連を託した謎の女性。膝丈のタイトスカートに黒タイツ、上は青い半纏を体のラインが出るほどにタイトに絞った、風変わりな服装をしている。直哉に渡した大事連の他に、小通連と顕明連という二振りの刀を持ち、それらは直也の持つ大通連と共に【三明の剣】と呼ばれている。おりつとは古い間柄で、彼女はコバヤシのことを小林(しょうりん)と呼んでいる。甘い物に目がなく、おりつが管理する神社の参道の途中にある甘味処にはちょくちょく立ち寄っている。

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