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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念

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〜第十一話 風化〜

 ドーモ、政岡三郎です。直也之草子第十一話、始まります。戦いを終えた直也のもとに、とある人物が姿を現します。

 直也と髪鬼の体が地面に激突する。


 正確には、地面に激突したのは髪鬼の体のみで、直也自身は髪鬼の体が下敷きとなり、直接の衝突は免れる。


「グッ………ッハァ…………ハァッ……!!」


 ある程度の衝撃はあったものの、髪鬼の体がクッションとなったお陰で、骨折等の深刻なダメージは無い。


 直也は四肢に力を込めて立ち上がり、膝に両手をついて呼吸を整える。


「直也!!」


 けたたましい音を耳にした健悟、月男、白鳥の三人が、直也のもとへ駆け付ける。


 直也は呼吸を整えながらゆっくりと振り返り、口を開く。


「ハァ……ハァ………おう、おめえら。待っててくれたのか?」


 時刻は既に夜明間近で、遠く東の空がうっすらと白んでいた。


「うん。だって、直也一人おいて帰れないよ」


 月男がそう言った後、健悟が口を開く。


「実は俺ら、夜になった時点で一度窓ぶち破って旧校舎に入ってんだぜ?それなのに、旧校舎に入ったはずのお前がどこにも見当たらなくてさ……つ、つうかお前……三階から落ちたの!?大丈夫かマジで!?」


「問題ねぇよ。ちょうど都合のいい"下敷き"があったからよ」


 そう言って直也は、右手の親指で肩越しに背後を指差す。


「な………なんだこりゃあ……!!?」


 直也の指差した方を見た白鳥が、驚愕の声をあげる。


 直也も再び振り返って髪鬼を見るが、見た瞬間思わず言葉を失う。


 そこにいたのは長い髪の………黒ずんだ"ミイラ"だった。


 先程まではあくまで今よりはだが、見た目も生きた人間のそれに近いものだったはずだ。


 倒したことによって、ここまで一瞬にして変貌するとは……。


 ミイラとなった髪鬼は、爪先から徐々にサラサラとした砂に変わっていき、風に乗って溶けるように朝焼けの空へと消えていく。


 やがて髪鬼の体は完全に砂となり風に溶け、あとには黒く長い髪だけが遺された。


「終わったな……。白鳥、鴇島と鶫屋は三階にいるぜ。気を失っちゃあいるが、一応は無事だ」


 直也の言葉に、白鳥は眼を輝かせる。


「ほ、本当か!?」


「ああ。とっとと迎えにいってやれよ、センパイ?」


 直也がそう言うと、白鳥は今にも泣き出しそうな顔で直也に頭を下げる。


「田村……すまない、恩に着る!!」


 白鳥は直ぐ様旧校舎の三階へと走って向かう。


「おう、それと健悟。悪りぃがすぐにサツに通報してくれ。旧校舎ン中で、校長が言ってた凶悪犯がオネンネしてるからよ」


「マ、マジで!?」


「じゃあ直也、実質二連戦だったんだ?お疲れ」


 月男の労いに、直也は右手の親指を立てて「ヨユーだ」と答える。


「……さぁて、それじゃあ俺も、置いてきちまった刀ぁ取ってこねえと……」


 白鳥の背中を見て自分も歩き出そうとした直也だが、動こうとした瞬間ふらりとバランスを崩し、倒れそうになったところを健悟と月男が慌てて支える。


「オイオイ、ふらふらじゃんかよ、直也ぁ~」


「……ヘヘ。()りぃな、健悟、月男。今回は、流石に体力使いすぎたぜ……」


 なんとか二人に支えられて立っている直也だが、極度の疲労により足はガクガクと震えている。


「まぁなんにせよ、これで髪鬼もお陀仏……もう二度と現れることもねえだろ」




「それはどうかのぅ?」




 不意に頭上から聞こえた、女性の声。


 三人が見上げるとそこには、ふわりと宙を舞うセミロングヘアーの若い女性の姿があった。


 腰には二本の刀を提げ、片手には直也が旧校舎の三階に置いてきた大通連を握っている。


 女性は直也達の前にとん、と着地し、腰に片手をあててニカッと笑う。


「久しいのぅ、小童(こわっぱ)共!元気にしとったかえ?」


 目の前の女性を見て、直也と健悟は驚いたような表情を見せる。(月男も顔には出さないが、二人と同じ気持ちだろう)


 この女性こそ去年の秋、直也に大通連を授けた張本人。


「あんた……コバヤシじゃねぇか!久しぶりだな、おい………いてっ!?」


 コバヤシと呼ばれた女性は、ゲンコツで直也の額を軽く小突く。


「こりゃ。目上の者を呼び捨てにするやつがあるか。コバヤシ"お姉ちゃん"と呼ばんか、たわけ」


 小さい子供を叱りつけるような物言いに、直也は若干の不満を覚えつつも、素直に謝る。


「わ、悪かった…………んで、コバヤシ……姉ちゃん?髪鬼はたった今、目の前で消滅したんだぜ?つまり、もう完膚なきまでに倒したってこった。これ以上、何か起こる余地があるってのか?」


 直也が訊ねると、コバヤシは先程とは打って変わって神妙な顔で説明する。


「……確かに此度、おぬしは荒ぶる悪鬼の魂を鎮めた。じゃがそれはあくまでも、ほんの一時の間鎮めただけに過ぎん」


 コバヤシは更に続ける。


「その地に巣くう邪気や怨念といったモノは、たとえ一時姿が見えなくなったからといって、それで無くなる訳ではない。その地に結び付いた怨嗟の因果とは、定期的に供養の儀を行い、長い年月をかけ徐々に風化させてゆくものなのじゃ」


 コバヤシは話しながら、直也達の後ろに散らばる髪鬼の名残───長い髪に歩み寄る。


「それは星の歴史にしてみれば、瞬きする程度のほんの一刻。……じゃが、人の歴史にしてみれば、あまりにも永い……。そしてその永き刻の中で、邪気や怨念が風化するよりも早く、人々の記憶から怨嗟の歴史が風化してしまう。故にいつしか供養の儀は行われなくなり、怨念の風化が滞る」


 屈み込んだコバヤシは、髪鬼の残骸(かみ)をつまみ上げる。


 その刹那───。


 髪をつまみ上げるコバヤシの指先に、ポッと火が灯る。


「!!」


「あっ」


「ちょっ、ええ!?」


 まるで手品のように突然灯った火に直也達が驚いている間に、火はコバヤシの指先の髪から地面に散らばる髪に燃え広がり、残っていた髪を跡形もなく焼き尽くす。


 やがて火が消えたのを確認し、コバヤシはパンパンと手を(はた)き、振り返る。


「さてと。では参ろうか」


「あん?」


「参る……って、どこへ?」


 コバヤシの言葉の意図が解らず、直也と健悟は顔を見合わせる。


「"穢れ"を祓いに行くのじゃ」


「ケガレ?」


「うむ。邪気や怨念といったモノに人が生身で触れれば穢れが憑く。とっとと祓い落とさねば、憑いた穢れは日常からじわじわと生気を蝕んでゆく。なにより穢れを放っとけば、それに惹かれ善くないモノが寄ってくる。そして結果的に、この世ならざるモノとの因果……悪縁が結ばれてしまうのじゃ」


 コバヤシは健悟と月男が支える直也を、ヒョイと両手で担ぎ上げる。所謂お姫様だっこの状態だ。


「お、おい!ちょっとちょっと!!」


 突然抱きかかえられ慌てる直也を無視して、コバヤシは健悟と月男に告げる。


「穢れなんぞ放っておいても、何も良いことはない。と、いうわけで、しばしこやつを借りるでな。お主ら二人は先に帰るがよい」


「直也はいつ帰れるの?」


 直也を抱えるコバヤシに、月男が訊ねる。


「うぅむ……まぁ(わし)も早いところこやつを親元に返してやりたいのはやまやまじゃが、この刻限からじゃと"禊祓(みそぎはらえ)"に掛かる刻も含めて、少しばかり遅くなるやもしれんのう……。まぁ儂も、急いでこやつを運ぶよってに。お主らは一足先に、親御殿を安心させてやるがよい」


 コバヤシが言い終わると、直也は抱きかかえられたまま不満ありげに身動(みじろ)ぎする。


「いや、あんたの言い分は分かったけどよ……せめて自分で歩くって!十一歳(このとし)にもなって女に抱きかかえられるなんざ、恥ずかしいったらねえぜ……」


「たわけ。今の状態のお主の足では、目的の場所に着くまでにどれ程の刻を要するか、知れたものではないわ。そういう生意気な台詞はせめて、儂の背丈を抜いてから言うんじゃな、こわっぱ」


 からかうような口調のコバヤシに、直也は小さく舌打ちする。


「……クソッ。身長なんざ、すぐに追い抜いてやるからなこのヤロー」


 直也の憎まれ口にコバヤシはニカッと笑いながら、腰に提げた刀の一本を抜く。


「言っとれ言っとれ。それじゃあ丁度日の出を迎えたでな。直也よ、少し飛ぶぞ。しっかりと掴まっとれよ」


「は?飛ぶって………うおっ!?」


 直也が聞き返そうとした瞬間、一陣の風が二人を包み、直也を抱えるコバヤシの体がふわりと空へ高く浮き上がった。


「あ、飛んだ」


「マジか!?」


 驚く月男と健悟を尻目に、コバヤシは直也を抱えて北の山の向こうへと悠々と飛び去っていった。





________________________






「……スゲェな。これも、あんたの持つ刀の"ツウリキ"ってやつの力なの?」


 ゆったりと夜明けの空を舞いながら、コバヤシに抱きかかえられた直也が訊ねる。


「まぁの。儂の持つこの[顕明連]を朝陽に翳せば、三千大千世界を見渡せるでな。飛行など、お手のものじゃよ」


「さんぜんだい……?なんかよく分からねえが、スゲェんだな。じゃあよ、あんたが俺にくれた大通連も、なんかスゲェことできんの?」


 直也がコバヤシの腰の大通連を見ながら訊ねる。


「ま、それは持つ者の素質次第じゃな♪」


 愉快そうにそう答えたコバヤシだが、その後でポツリと何かを呟く。


「…………おぬしならば、或いは……」


「あ?なんか言ったか?」


「……なんでもないわ。ほれ、着いたぞ。あそこじゃ」


 そう言うとコバヤシは、眼下にある目的地を指差す。


 直也がその先を目で追うと、無数にそびえる山々の奥……とある山の頂上付近に、神社が一社、設けられている。


 有名な伊勢神宮や出雲大社ほど広くはないが、そこそこの敷地面積があり、中々に趣のある神社だ。


 直也は一瞬、こんな山奥に参拝客が訪れるのかと考えたが、目を凝らして見れば神社の敷地からある程度整備された参道が伸びていて、更にその先を目で追うと、そこには茶屋らしき木造建築や駐車場などが見てとれた。


「なぁ。あの神社、有名な場所なのか?」


「まぁ、知る人ぞ知る、といった場所じゃな。秋には紅葉も美しい、中々の穴場じゃぞ?」


 そう言ってコバヤシは、神社境内へ向かってゆっくりと下降していく。


 コバヤシは石畳の上にとんっ、と着地すると、大声で誰かを呼ぶ。


「おぉ~~~~い!!おりつや~~~~!!」


「……おい、人呼ぶ前に降ろしてくれよ」


 直也が抗議した瞬間、神社の本殿の奥から一人の女性が姿を現す。


 身長は160㎝くらいの、少し赤みがかった長い髪をポニーテールに纏めた、巫女服の若い女性だ。


「まったく、久々に顔を出したと思ったら……。朝っぱらからうるさいわよ、バカ小林(しょうりん)!!町中だったら、近所迷惑───」


 文句を言っている途中で直也と目があったその女性は、急に神妙な顔になる。


「………その子、どうしたの?」


 急に雰囲気の変わった女性に、直也は少しだけ息を飲む。


 ふと、コバヤシの方に視線を向けると、彼女もまた神妙な顔になっていた。


「禊祓を頼む」



──第十二話へ続く──

 直也之草子第十一話、いかがでしたでしょうか?それでは、登場人物紹介其の十です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


柚澄原(ゆずみはら)桜子(さくらこ)


・誕生日:11月11日(34歳)


・身長:155cm 体重:ヒミツ


・鹿乃子の母親。代々古美術商を営む柚澄原家の長女として冬桜が咲く時期に産まれた、いわゆる良いとこのお嬢様。夫である伊折とは、学生時代に父親に紹介されて出逢った。おっとりした性格だがからかい上手。怒ると誰よりも怖い。

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