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直也之草子 〜世界最強を目指す純情少年の怪奇譚〜  作者: 政岡三郎
一之譚 髪ノ怨念

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〜第十話 髪鬼〜

 二日ぶりの投稿です、政岡三郎です。今日から直也之草子の投稿を再開していきます。今回は第十話、VS髪鬼編、決着です。

『ア…………ぁ………………あアぁアァああア"ア"ア"ア"!!!』


 自らの腹部を貫く刀を見て、髪鬼は怒りの狂声を上げる。


「ッ!!」


 直也は咄嗟に大通連を髪鬼の腹から引き抜いて、距離を取ろうとする。


 しかし引き抜こうとした瞬間、髪鬼が刀の刃を両手で掴んで、それを阻止する。


 なんとか引き抜こうともがく直也だが、髪鬼の手は万力のような力でそれを許さない。


 そうしている内に、邪悪な光背のように広がった髪鬼の髪が、直也に襲い掛かる。


「クソッ!!」


 直也は苦渋の決断で刀の柄から手を放し、バック転で髪鬼から距離を取る。


 結果、襲い掛かる髪は躱したが、直也は丸腰になり刀は依然、髪鬼の腹に突き刺さったままだ。


 髪鬼は直也を近付けないように自身の髪で牽制しながら、ゆっくりと刀を腹から引き抜く。


 少しずつ刀身が引き抜かれていくにつれ、髪鬼の腹からどす黒い、液状に近いナニカが流れ落ちる。


 よく見れば、それも髪の毛だ。髪鬼は体内にも髪が詰まっているのだろうか?


 髪鬼が刀の切っ先を完全に腹から引き抜いた瞬間、一際多くのどす黒い濡れた髪が流れ落ちる。


 髪鬼は引き抜いた刀を放り捨てる。


 放り捨てる、というよりは、これ以上持っていられずに、堪らず取り落としたようにも見える。


 髪鬼も、あの刀を持ち続けているのはしんどいらしい。


 髪鬼自身は刀を取り落とした体勢のまま微動だにしないが、その髪は先程にも増してより一層禍々しく蠢いている。


 それはまるで、手負いの獣が最後の力を振り絞って必死に相手を威嚇する様にも似ている。


「……時代劇なら、あの一撃の後はとっととエピローグの流れなんだが……流石にしぶてぇな」


 そう言いつつ、しかし直也は確かな手応えを感じていた。


 直也に大通連を託した女性曰く、この刀はツウリキ自在の名刀。その力は人だろうが妖魔だろうが、あらゆるモノを退けられる、とのこと。


 現に、ただのナイフでは斬ることが出来なかった髪鬼の髪を、大通連は斬り裂いたのだ。


 そんな刀を深々と急所に突き立てられた髪鬼のダメージの程は、文字通り目に見えて伝わる。


 決着は近い、直也は本能でそう直感していた。


 あと一撃、決定打となるダメージを与えれば……。


 直也はいつものL字ガードスタイルで拳を構え、状況を分析する。


 髪鬼は教室の前方、黒板側の出入口に陣取り、自分は教室前方側の髪鬼の向かい……黒板が横目に見える位置に立っている。


 教室の後方には、先刻凶悪犯と()りあった教室同様に、使われていない机が綺麗に並べられ、積み重ねられている。


 髪鬼はかなりのダメージを負っているが、それと比例するように髪は荒ぶり、より凶暴さを増している。


 大通連は髪鬼の傍にあり、拾うには髪鬼の懐まで潜り込まなければならない。


「OK……ケリ着けようぜ、化物女!!」


 直也が宣言すると同時に、髪鬼が上半身を振りながら髪を振り乱す。


 長い髪を複数の束に分け、それらを鞭のようにしならせながら、直也に叩きつけようとする。


 手負いになった影響か、先程までの髪で相手の体を絡めとるやり方とは、攻撃の性質が大きく違う。


 直也は前に踏み込もうとするが、髪鬼は直也の足元付近に髪の鞭を叩きつけ、彼を牽制する。


 思わず直也が硬直した刹那、別の髪の鞭が直也の脇腹に叩きつけられる。


「ぐぁあ……ッ!?」


 直也の体が真横に吹き飛ばされ、黒板に叩きつけられる。


 黒板に背を預け、なんとか倒れないように持ちこたえる直也に、髪鬼は続けて髪の鞭を叩きつけようとするが、直也はそれを右にステップして躱す。


 空振った髪の鞭が黒板に激突し、黒板にひび割が入る。


 髪鬼は髪の鞭を横一線に薙ぎ、直也はそれを前転で潜って躱す。


 続けて二度、三度と、髪の鞭を縦に連続に振って直也を仕留めようとする髪鬼。


 直也は教室後方へ全力でダッシュしてそれらを躱す。


 直也の背後から、更に髪鬼の髪の鞭が迫る。


 直也はそれを、正面に積み重ねられた机の山を蹴って宙返りすることで避ける。


 髪の鞭が当たった衝撃で、積み上げられていた机が音を立てて崩れ去る。


 直也が着地した瞬間を狙って、髪の鞭が更に襲い掛かる。


 直也は咄嗟に機転を利かせ、崩れた机の山から机を一つ持ち上げ盾にする。


 そのまま机を盾にして、直也は髪鬼との距離を詰めにいく。


 古い木製の机なこともあって、即席の盾は髪鬼の髪の鞭を三回叩きつけられただけで、すぐに壊れてしまう。


 しかし、その三回までで充分前に出られた。


 直也は壊れた机の残骸を、髪鬼の顔面目掛けて投げつける。


 しかし、机の残骸は髪鬼の顔面に当たる手前で、髪の鞭に叩き落とされてしまう。


 ───だが、これは予想通り。


 投げつけた残骸の意図は攻撃ではなく、髪鬼の視界を覆うための"目眩まし"だ。


 髪鬼の視界を塞いだ瞬間、直也は走る勢いをそのままに、肘と膝を曲げて地面に両手を突きつつ180度身を翻し、バネのように肘と膝を一気に伸ばし、両足で髪鬼の傷口を蹴り上げる。


 馬が後ろ足で蹴りつけるような見た目のこの技を、直也は《馬後穿(まこうが)ち》と呼んでいる。


 関節のバネを利用した両足蹴りで傷口を抉られ、髪鬼は体をくの字に曲げて後ずさる。


「これで───」


 馬後穿ちの姿勢から体勢を立て直す瞬間、直也は右手で大通連を拾い上げる。


 そして───。


(しま)いだ!!」


 振り返り様に、渾身の力を込めて横一閃。


 横一文字に斬り裂かれた髪鬼の腹から、ドロリとした湿った黒髪が内臓のようにまろび出る。


「ハァ………ハァ……」


 この一撃で勝負を決めるつもりで気合いを込めたが、流石に気力を使いすぎた。


 これ以上気力を吸われるのはまずいと思った直也は、刀を鞘に納める間も惜しんで刀を放り捨てる。


 禍々しく蠢いていた髪鬼の髪は動きを止め、みるみる内に収縮して短くなっていく。


 これで決着だ。直也がそう思った、次の瞬間───。



『あ───アぁあァアあアァああアアア"ア"!!!』



 髪鬼は最後の抵抗と云わんばかりに、素手で直也に掴みかかる。


「ッ!?」


 これまでの疲弊の影響もあって反応が遅れた直也は、髪鬼に首を締め上げられながら、体を振り回される。


「クソが………この期に及んで…………悪足掻き、しやがって……!!」


 直也は精一杯右足に力を込めて、髪鬼を蹴り離す。


 なんとか髪鬼の手からは逃れたが、直也はバランスを崩して教室の外の廊下へ転倒する。


『カみ…………ゆルサな、イ…………かミ……!!』


 収縮した髪鬼の髪が、再び長く伸び始める。


(しくじった……意地でも刀ぁ握っとくべきだったぜ)


 今大通連があるのは教室の入口。そしてそこには、髪鬼が立ちはだかっている。


 白く濁った眼は血走り、絶対に殺すという怨嗟が浮き彫りになっている。


 刀は使えない。体は満身創痍。まさに絶体絶命の状況だ。


(……満身創痍なのは、こいつも同じだ!)


 髪鬼の操る髪には、先程のような勢いは無い。


 詰まるところ、髪鬼もまた満身創痍。ならば状況は五分五分(イーブン)だ。


 直也は素早く周囲に目を配る。


 気付けばいつの間にか、旧校舎は夜の暗闇に包まれていた。


 つい先程まで、窓には確かに夕陽が射し込んでいたはずだ。


 まるで、瞬きするほんの一瞬で日が落ちたかのようだ。


(いつの間に……いや、今はそれどころじゃねえ。それより……)


 直也は髪鬼を警戒しつつ、廊下の突き当たりにある、月明かりが射し込む窓を見る。


 直也に掴みかかった時もそうだが、極限状態になった影響か、髪鬼は先程よりも本体の素早さが上がっている。


(これが最後だ……一か八かだ!!)


 直也が意を決した瞬間、髪鬼が再び伸びた髪を、倒れている直也に叩きつけようとする。


 直也は間一髪真横に転がってそれを躱しつつ、素早く起き上がって走り出す。


 しかし、走る方向は階段の方ではなく、行き止まりになっている廊下の奥だ。


 髪鬼は満身創痍になる前よりも素早い動きで直也を追いかける。


 走りながらも、髪鬼は直也に髪の鞭を叩きつけようと振り回す。


 直也は走りながら後ろを警戒し、襲い掛かってきた髪を一発目は左に避け、二発目は少し屈みながら右に避ける。


 髪を避けながら全速力で走る直也だが、髪鬼との距離は徐々に縮まっていく。


(もう少し……!)


 行き止まりとなっている廊下の突き当たりの窓が、徐々に近付いてくる。


(あと少し……!)


 そしていよいよ、突き当たりの窓の前。


 直也の体が射し込む月明かりに照らされ、髪鬼の両手がついに直也を捕らえようとした、その瞬間───。


(ここだ!!)


 直也は跳ぶ。


 突き当たりの窓の縁に足をかけ、そこから更に、最後の力を振り絞って高く跳躍する。


 直也の体は空中で体操競技のように旋回しながら髪鬼を飛び越し、背後に回る。


「落ちなッ!!」


 直也を追いかけて窓にぶつかった髪鬼の背を、直也は両足で突き飛ばす。


 《ウルトラC式・ミサイルキック》。二日前の白鳥との戦いで直也が編み出した、渾身の必殺技。


 直也に蹴られた髪鬼の体は勢いよく窓を突き破り、旧校舎の外に放り出される。


 直也が完全決着を確信した、その瞬間。


「っっ!?」


 直也の一瞬の油断、その隙を突くように、髪鬼の髪が直也の足首に絡み付く。


(しまっ───)


 しまったと思う間もなく、直也の体は髪鬼と共に三階の窓の外に放り出される。


 この高さ……足から着地すればまだ、骨折の可能性は高いが助かる可能性も高い。


 だが今は、髪鬼に無理矢理足を引っ張られて外に引きずり出されたため、体勢を崩している。


 この体勢でこの高さから地面に激突すれば、間違いなく───。


(やべぇ…………これ…………死───)


 死が頭を過った刹那。


 次に直也が思い浮かべたものは、大切な一人の少女。


『なおくん───』


 自分を呼ぶ少女の微笑みを思い浮かべ、直也は───。




「───こんなところで…………終わるかぁああああああ!!!」




 直也は片手で髪鬼の髪を自分から掴み、その体を自分のもとへ引き寄せる。


 次にもう片方の手で、髪鬼が自身の体に巻き付けている髪を掴む。


 次の瞬間───。


 直也と髪鬼は地面に激突した。




──十一話へ続く──

 直也之草子第十話、いかがでしたでしょうか?前回の登場人物紹介ですが、ほとんど本編内で語られている情報だったなと反省しております。今後はできる限り、まだ本編に出ていない情報を出すよう、注意して参ります。そんなところで、登場人物紹介其の九です。



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柚澄原(ゆずみはら)伊折(いおり)


・誕生日:2月1日(37歳)


・身長:178cm ・体重:69kg


・鹿乃子の父親。婿養子で旧姓は千賀(せんが)。妻である桜子の実家の古美術商を引き継ぎ、自身もまた個展を開く程の、そこそこ名のある美術家。彼の手掛ける作品は絵画や陶芸品など多岐に渡る。桜子との出逢いは、伊折がまだ無名の美術家だった頃に仕事で知り合った桜子の父に気に入られ、彼の娘である桜子を紹介された。

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