エスティーム(自尊心)
1
碇大五郎(50歳)は家に帰ると20年添い遂げている妻をハグ(抱擁)した。
「君は毎日朝晩の食事を作ってくれている。(昼は各自で作るか、用意する)
しかし私はこれまで一度もお礼を言ったことがなかった。ありがとう、
そして私は君に恋愛感情を強く持っている」
妻「いったいどうしたの?気が狂った?」
大五郎
「アメリカ人はハンドシェイク(握手)、ハグ、キスを日常的に行うらしい。
私は進化することにした。他人の良い習慣を真似して、悪い習慣はやめる。
他人のふり見て我が袖直せ、と云う事だ。今月はアメリカ人特集だ」
息子と娘にもテレビ電話をする。宣伝を防ぐため直接通話はできない。
大げさに「君を愛している」と録画ビデオメッセージで伝える。
二人には中学を出たら自立して家を出てもらっている。
大学に行きたいなら、お金は自分で何とかしてくれ、というスタンス(方針)。
子供は自立させるのが親の務め、と考えている。
8才から簡単なアルバイトをさせて厳しく育てた。
返送は文字だけのテキストメッセージ。
「うざい!」「気持ち悪い」「変な宗教で洗脳されたのか?」と、ひどい反応。
妻「日本人は、そういうことしないんだけど。不自然でしょ・・・」
大五郎「目立つ真似をすると叩かれる、という事だな。
わかる。密集地帯族だから。しかしそれではレベルアップできない」
妻「インチキなコンサルタントに洗脳されたんじゃ?」
大五郎
「これからは基本的には人に親切に接するようにする。
言うべきことは言って怒るべき時には怒る、それはそうだが。
基本的に他人を攻撃、嫌がらせする、それが常識の悪党が野放しなのは異常だな」
それから大五郎は、出勤前、帰宅時には妻にハグ、キス、感謝を述べる、家事を手伝う、など
妻を大事にするようになった。
2
そして1ヶ月後のある朝。
大五郎は背広の上にマントをまとい、西洋式の剣を左腰に下げていた。
肩に剣留めベルトを掛けているらしい。
大五郎「おお、愛しのサルモネラ」
妻「・・・それってブドウ糖球菌の1種では?」
「私のことはエル・リックと呼んでくれ」
「ああ、なるほど・・・今月は、そういう特集・・・」
「心配そうな顔をしているね、サルモネラ。確かに竜の島は残虐を好む民族だ。
しかし私は王だ。王命で人格チェックと悪人削除法を強行する。国は二つに割れるだろうが、
魔神の力で勝利して反対者は追放する。第2竜島へ」
「あなた王とかじゃないでしょう」
「わが王国、いや、我が社は基本的に人に親切に接する、
善人だけの良い国に生まれ変わるだろう。心配いらない」
「・・・・・」
庭に車に似た物体が置いてある。
「ダイ、じゃなくてエル、これは?」
「ストームブリンガーだ」
「それは剣の名前では?」
「いや、これは剣に似せたクロスボウだ。
自衛武器を持っていないと危険だからね。
そしてドローンの弱点は作動時間が短いことだ。
これは航空燃料で動く。
ヘリ、自動車、ドローンの良い部分の組み合わせだ。
私としてはワイヤーのねじまき式、無燃料方式が望ましいが。
テストモニターを兼ねてるから低価格だ。命の危険はあるが。
では出勤してくる」
ハグしてから、謎の飛行物体の座席らしき部分に乗り込むマント姿の大五郎。
「嵐を超えて飛べ、ストームブリンガー!」
「了解しました」音声が答える。操縦装置は無い。自動運転らしい。
単座艇は、垂直上昇してから、水平飛行に移り、青空の彼方に消えていった。
「ヴァトール(垂直離着陸機)でマフラー(消音器)付き・・・。
音が静かなのは近所迷惑にならなくていいわね・・・」
サルモネラは、あきれて呟いた。
手本はジャック・キャンフィールド「こころのチキンスープ」
最初の巻から「ビッグ・エド」、「バレンタインデー物語」、
そしてマイケル・ムアコック「メルニボネの皇子」(永遠の戦士エルリック1)。