第七話 ニート、救おうとするが…
………………………………………………だーーめだ。
俺は今、ウラマの中心の噴水に腰をかけている。
水が猛々しく吹いていて、この町を一層華やかに魅せている。
この町に着き、仕事を探そうと思った。
当然、前の世界にあったような雇用システムなど無く、直接、店に出向いて、働かせてもらえるかを聞く。
この方法で十件ほど、店を回ったが、どこも雇ってくれず………………
そういえば、昔、一度だけアルバイトの面接を受けにいったことがある。
食パンの袋に、あの袋止めで挟むバイトだ。
俺でも採用してくれて、嬉々として職場に向かったが、1時間2時間と経つ度に、徐々に精神がおかしくなって、一日でやめた記憶が………………
ぎゅるるるるるる
腹が減った。思えば、この町に着いてから何も口にしていない。
いまなら、あのワニも…………………食え……ないな。さすがに。
はあ、次は、酒場に向かおうか。速いところ食い扶持を見つけないと、本当に餓死しかねない。
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チャリンチャリン と、ドアベルが鳴る。時間帯もあり、繁盛しているのか、誰も俺に気づかない。
広さはというと、体育館の半分くらいで、かなり大規模なのが分かる。
だが、かなりの人数。それもむさ苦しい男達が、賑わっていて、なんだか狭苦感じてしまう。
正直、匂いもきつく、酒とたばこ、そして汗のにおいが充満していて、獣臭。
ウェイター…はいなく、ウェイトレスが確認できるだけでも5人ほど。
取敢えずウェイトレスに話しかけて、店長にあわせてもらえるだろうか。
以前の俺なら、少し話しかけることも、億劫だったが、いまはそんなこといえない。
紫髪の、幸薄そうな(中々に失礼だが)美人ウェイトレスに声をかけようとした時。
「うざいんで、離れてください」
一瞬、紫髪のウェイトレスが俺に言ったのかと思ったが、違うようだ。
丸机を一台挟んで、なにやら、ヒマワリのように明るい黄色の頭髪をしたウェイトレスと、身長が一九〇センチはあるだろう巨漢で、トラブルがおこっているようだった。
「なあなあ、良いだろぉう、今夜俺ベッドに来いよ」
巨漢は中々に柄が悪いようで、しつこくつきまとっている。たちが悪いのは、その巨漢を囲っている仲間だと思われる奴らも、ニヤニヤしながらその様子を見ている。
俺が話しかけようとした紫髪のお姉さんは、俺に少しだけ待っててくれと言い、キッチンの方そそくさと向かっていった。店長を呼びに行ったのか。
「それ以上しつこくしたら、出禁ですよ」
ヒマワリ色の髪をしたウェイトレスは、なれているようなのか、冷たくあしらう。
「あ?」
巨漢はその態度に腹を立てたのか、ウェイトレスの腕を掴み、軽々と宙に浮かせてしまう。
その頃には、事態は大きくなっていて、周り10人くらいの野次馬が群がっていた。
……………………こいつら、助けようと思わないのか…………薄情なやつら………っっっ
それは、自分にもいえることだった。
その事実がたまらなく嫌になり、衝動的に体が動いていた。
俺は、右手の机にあったビールを思い切りその巨漢に、瓶ごと投げつけた。
「なにやってんだよジジイ 俺の国ではお前みたいなやつを老害っていうんだぜ」
老害 ってほど老けてはいなかったが、まあいい、こういうやつは自分を老人扱いされると腹が立つもんだ。
ナニヤッテンノオレ。。。
鳥肌が立った。目の前の明確な殺意に。
オレが挑発したおっさんは、目を真っ赤にし、血管をど太く浮き上がらせている。
オレは見たことがない、自分を本気で殺そうとしている人間を。
当然前の世界でも、人とのいざこざはあった。だがそれは所詮おままごとにすぎない。一発殴って終わり、鼻血を出したら終わり。必ず、本当にやってはいけないことはセーブして、ある程度の範囲内でお互いの不満をぶつけ合う。それが常識だった。
だが、目の前の人間は違う、今立っている世界は違う。
あの世界の常識は通じない。
オレは、首襟をつかまれ、店の裏までつれてかれた。
連れて行かれるオレを見て、周りは何もし無い
それどころか、にやにやしてみている。
別に助けてほしいとは思ってないが…
腹に一発殴られる。それはダンプカーのように重く、致命傷といえるほどに、強力なものだった。
巨体から繰り出される容赦のない殺意。
やはり、俺を殺す気なのだろう。
文化も、考え方も何もかも違う。彼が俺を殺して、どのような法により罰されるかはわからないが、もはやそんなことはどうでもいいのだろう。
掴まれたときは、すきを見て逃げ出すつもりだったが、右も左も後ろも壁、正面はもちろん、俺が生き延びるチャンスはない。
「はあ、はあ、ほんとにやってやる」
男は、懐から、刃渡り20センチ程の果物ナイフを取り出す。
息は荒く、酒臭い臭いが、こっちまで届く。
ちくしょう、人の命はそんなにかるくねえ。
ナイフが振りかざされる。
刃が、 俺の、、、、、胸をかすり、、、 皮膚が、切り裂かれるが、刃に力はなく、軌道から外れ、降下して、カキンと、床に落ちる。
何が、起こった……?
男は倒れ、気を失っている。
顔を上げると、暗い店裏に、太陽の光が差す。その先に立っている女性が、神々しく見える。
ひまわりのように、鮮やかで、艶やかで、麗しい黄色、太陽光の影響もあって、それは黄金のように
輝いている。
さっき、腕をつかまれていたウェイトレスだった。
透き通るような足が上がっているのを見ると、この男を蹴ったのだろう。
「んー、ごめんね。遅れちゃって、こいつのメンバーが邪魔して……」
ウェイトレスは、両手を合わせ、左眼を、つむり、申し訳なさそうにそういった
俺がここに連れ出されて、30秒もたっていない。彼女が謝罪する必要はない。それに、おそらく俺が巨漢に突っかからなくても、彼女は一人でどうにかできただろう。
「まあ、余計だったけどね」
そこに、俺が話しかけようとした、紫髪のウェイトレスが現れる。
「あーーーもう!シェイシーはまたそういうこと言う!この人は、私をセクハラハゲくそじじいから、助けようとしてくれたんだよ!」
「こいつが、余計なことをしなければ、ここまで惨事にはならなかったし、被害も小さくできた。」
シェイシー、といったか、彼女のいっていることは、100人中100人が正しいというだろう。
だが、途端に自分が果てしなくみじめに思えて走り出してしまった。
勝手に助けようとして、勝手にから回って、余計に迷惑をかけてしまった自分に怒りが生まれたのだ。
「あ、ちょっと、ま――――」
俺を助けてくれたウェイトレスに、感謝の一言も言わず、逃げた。
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次回! 乳揺れる!