第五話 ニート、立ち向かうが…
俺の世界でもワニは社会性を持ち、群れを作るらしい。
だからって、その統率はないだろ………
無数のワニ、数にして百くらいだろう。
しかし、巨大なワニが二足歩行。
その姿はまるでゴ○ラだ。
……その大群は、この村に向かって襲るべき早さで進行している。
ワニが村の柵を破壊し、進入してくる。
巨大なワニを先頭に、村を、家を、逃げ遅れた人も無惨にも大群に飲まれていく。
このままだと、村全体を覆い尽くし、今日が俺の命日となるだろう。
さっき俺らに報告してきてくれた男の人も、逃げると言っていたがただ、ワニの進行方向の逆にがむしゃらに、むやみに走っているだけだ。
じきに、追いつかれて踏み殺されるだろう。
隣で、ゴン!と破壊音がする。
どうやらこっちに逃げてきた少年が木箱とぶつかってしまったようだ。
俺の世界なら小学校に通っている年齢だろう。
「いってぇ」
かなり激しく衝突していたので怪我は相当だろう。
「あ、パパ!待って!!」
どうやら父親と一緒に走っていたみたいだ。
………その声は届いてない。
最も右左後ろどの方面に逃げても助からないだろう。
それを見たとき、足は勝手に動いていた。
俺は駆けつけた………ワニの方に!
走る
思えば、この異世界に来てから苦しいことしかなかった。
餓死しかけ、凍死しかけ、心中されかけ。
そして、最後はワニに喰われるのか?
走る
ふざけんな
こちとらまだ童貞だ。
というか女の子とまともに話したのも10年ぶりくらいだ(ラブル)
何だ俺の人生、虚しすぎないか?
走る
異世界転移だ、チート能力の一つや二つ俺にもあるはず。
魔法だってあるんだ、もしかしてこれが発現イベントなんじゃないか?
普段激しい運動をしない体は、悲鳴を上げている。
脚はつり、呼吸は荒く、喉がイガイガする。
気づけば、巨大ワニの目と鼻の先。
近くで見れば気づく、まるでルビーのように紅くギラついて、ヤスリのように刺々しい甲羅。
足の爪は成人男性一人分くらいだろうか。
そして何より………デケえ!
近くに来て、よりサイズが圧倒的なのが分かる。
5階建てのマンションを超えるような規格外の体格、この町を1分と経たずに砂漠にどうかさせてしまうだろう。
………俺、なにやってるんだ?
今まで、何度も死にかけてきたが、一度たりとも特殊能力が発現していなかったではないか。
もしかしたら逃げれる可能性もあったのではないか。
目の前により鮮明に写る死に、俺は怯えた。
頭を過ぎる、父親においていかれた少年。
「ちくしょうっっっっ! もうどうにでもなりやがれ!!!!」」
獰猛とした巨体に、拳を突き出す。
その拳は化け物をにダメージを………与えることなくドゴンッと音を立てて、弾き飛ばされた。
そのあまりの威力に右腕はあらぬ方向に吹き飛ばされ、胴体から鞭のようにしなる。
巨大ワニの足が、目の前に突き出される。
死ぬ。
痛みより先に、死の恐怖がトシャの頭を、酷く蝕んだ。
刹那、ワニが青い血飛沫をあげ、破裂し、推進が止まる。
顔に体験したことが無いような激しい風圧がかかり、圧倒される。
……………………何が起こった?
現在どうなっているのかは分からない、だが、俺はこのとき見惚れていた。
風に舞う桜の花びらのように現れ、巨体を軽々吹き飛ばし、青い血飛沫にまみれて尚美しく見えるその少女に。
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次回!物語は次なる展開へ!