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第9話 打倒!県内最速ガール!

 2週間が経過した。


 翼をはじめとしたこのチームのメンバーに雅がどれだけ成長したか、試合で活躍できるように変貌を遂げたのか見せつける時がやってきた。


「おうおう、なんだか2週間のうちに2人でいちゃいちゃしてくれちゃってよ。ちゃんと雅は試合で活躍できるように開花したんだろうな?」


 ジャイアンばりの横柄な態度で翼は僕に詰め寄る。悲しいことに僕は翼より身長が低いので、文字通り見下されている状態だ。


「も……、もちろんだとも。これからみんなに披露してやるよ。……なあ雅?」


「はいっす!みんな私の変貌っぷりに半信半疑間違いなしっすよ!」


「……いや、そこは全信無疑でお願いしたいんだけど……」


「冗談っす!ちゃんとやるっすから任せてください雄大くん!」


 雅は小ボケをかましつつテンションは上々。心理的にも無駄な緊張感が無くていい感じだ。


「それで?一体どの分野でその変貌っぷりを見せてくれるんだ?打撃か?守備か?それとも走塁か?」


「打撃だ、1打席勝負。そして竜美翼、君に是非雅の相手をしてもらいたい」


 僕がそう答えると、翼は驚きをあらわにした。彼女としてはまさか自分を対戦相手に指名するなんて思ってもいなかったのだろう。


「はあ!?マジで言ってるのか!?お前、雅の打撃見ただろ?昔からコーチとか監督とかいろんな人が雅の打撃を良くしようとして失敗してきたんだ。それが2週間でお前なんかに――」


「まあやってみれば分かることだよ。――それともなんだい?もしかして翼はビビってるのか?」


「ああ!?んなわけねえだろ!やってやろうじゃねえか、県内最速ナメんなよ!」


 ちょっと柄にもなく挑発的なことを言ってみたら、案の定翼は食いついてきた。これでいい。

 ここで翼に本気を出してもらわねば意味がない。本気の翼を雅が打ってこそ、チームの皆に大きなインパクトを与えるのだ。


 すぐに対決の準備が始まった。

 マウンドには翼。さっき自分でも言っていたが、県内最速のストレートを放ってくるパワーピッチャーだ。その球威は並ではない。

 翼は投球練習をして肩を作っている。そのボールはまだ肩慣らしとは思えないくらい速い。正直、今の僕が翼の球を打てるかと言われると、『はい』と即答できる自信が無い。というより、打てないと思う。


「やっぱり早いっすねー、その辺の男子チームのピッチャーより早いかもっすね」


「……なあ、ノリで翼を対戦相手に選んじゃったけど大丈夫か?」


「大丈夫っすよ。翼ちゃんはスピードこそ最強っすけど、コントロールは正直イマイチっす。ストライクとボールがはっきりしてるんで、結構甘いところに来るっすよ」


「でもあの球威だろ?コースが甘かろうがかなり押されるんじゃ……?」


「なーに言ってんすか、それでも大丈夫なように雄大くんが私に色々コーチしてくれたんじゃないっすか。そんなに自信を無くさなくても大丈夫っすよ」


「はは……、それもそうか……」


 僕は軽く愛想笑いをする。


 雅の右打席がモノになるとわかったあと、とにかく翼のスピードボールを想定した特訓をしてきた。


 目を慣らすためにめちゃくちゃな球速が出ると有名なバッティングセンターに行ったり、バッティングピッチャーを務める僕のボールを速く見せるためにマウンドより随分前めの場所から投球したり、とりあえず出来そうなことは全部やった。

 驚くべきことに雅はそれをあっさりとこなしたので、彼女自身には物凄い経験値が入っただろう。


 ただ、こういうのはゲームなんかと違ってどれだけ成長したかが数値で目に見えるものではない。雅は自信満々だが、僕は上手くいくかずっと心配しているのだ。


「大丈夫っす、私を信じてください」


 雅はヘルメットをかぶって僕の方を見る。

 その瞳は、本当に僕らの運命を変えてしまいそうな、そんな大きなエネルギーを蓄えているように見えた。


「よーし、十分肩も暖まった。それじゃあ雅、いっちょ真剣勝負だ。もちろん手加減はしないからな」


「望むところっす、全速力のストレートをお願いするっすよ」


 準備が整った翼はロジンバッグをポンポンと手の甲で跳ねさせる。そしてそれをマウンドに投げ捨てて打席の方を向くと、その異様な光景に目を見開いた。


「……雅?お前なんで右打席に立ってるんだ?ふざけてんのか?」


「ふざけてなんてないっすよ。真面目も真面目、大真面目っす」


 翼が驚くのも無理はない。

 右利きの選手が左打ちになることはよくあるが、その逆というのはセオリー的にまずあり得ない。翼に限らず、ギャラリーとしてこの対決を見ているチームメイトですら雅の右打席にざわめいている。


「……その右打席がお前らの本気ってことか。もし打てなくてもあとで言い訳するのはナシだからな」


「もちろんっすよ。全力で来やがれっす」

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