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第96話:説明と準備よ【異世界Part】

前回のあらすじ!

「うっ」

「鎮魂祭ふぁね、戦争で死んひゃった人たちにふぉ祈りふる日らろー」


 帰宅後──、大急ぎで作ったサンドイッチにがっついていると、不意にエっちゃんは切り出してきた。

 鎮魂祭とはこの村特有のお祭り。近々行われるそうで、初めての参加となる僕はその説明を彼女に求め、昼食時に話してもらう約束をしていた。


 でもエっちゃん、喋るなら口の中空にしなよ。聞き取りづらいよ。


 彼女はテーブルに零れたパンくずを回収しながら口の中身を無くす。


「リグレイさんが若い頃、地上民と、地下に住んでた魔族で戦争してたんだって。冷戦状態含めると、数十年と続いそうだよー」


 魔族って……リコちゃんたち角の生えた人のこと?


「そうだよー。というかたっくん、リコちゃんたちが何なのか今まで聞いてこなかったもんねー。わたしですら聞いたのにー」


 そういう種族もいる程度にしか思ってなかったよ。田舎育ちに市内育ちも居るんだし、瞳が青かったり黒かったりするんだから、角だって些細なことじゃない?


「それもそうかー」


 ところで、どうしてまた地下に? 食べ物の育ち具合だとか、色々と不便だろうに。


「どっちを地上に住まわせるかで喧嘩したんだって。神話時代、地上民の神さまと魔族の神さまが。本にも書いてあるよ」


 ほら、と未だ手を付けていない本棚の一角から彼女が持ってきた〝神話創設〟なる本には、如何にもな神さま二人がクロスカウンターを決めていた。異世界なら魔法使えよとは思いつつも、口には出さないでおく。


 結果、地上民の神さまが勝ったんだね。そもそもの話、なんで地上を巡って争ったんだろうね。狭かったの?


「人口爆発があったってー」


 つまるところ、〝口減らし〟か。


「しょうゆうことー」


 エっちゃんはパクっとサンドイッチを一口。


 戦争とは何かしらの『不足』が度外視できなくなって勃発するものだ。土地不足なんかはその最たる例だろう。

 だとしたら、リグレイさん世代の戦争も、土地が原因だったのだろうか。


「ほうははいほー」


 彼女は口を空っぽにして、再び話し出す。


「地底は地底で細々ながらも、なんやかんやで生活してたそうだよー。ただ、リグレイさん世代で、地上の声を待ってらんない出来事があったんだってー」


 それはまた……一体何があったの?


「曰く──」

「ゴジュウゴー」


 あ?

 今のは教会の鐘に居着いている〝ジコク鳥〟の鳴き声だ。その名に相応しく、時計と寸分違わぬ正確性で時間を測れるその鳥は、朝のニワトリよろしく昼の時間帯になると事細かに経過時間を知らせてくれるのだ。

 つまり、今の鳴き声だと──、


「やばっ、昼休み終了五分前だ。まだサンドイッチ残ってるよ」


 それはいけない。今日の昼市はとっとと撤収するよう掲示板に書いてたんだ。


「わたしもさっさと片付けたーい。早く食べちゃおー」


 こうして僕等は残りのサンドイッチを口に押し込め、急ぎ午後の仕事へ飛び出したのだった。

 途中から聞きそびれた祭りの由来は、また今度訊くとしよう。



 ◇ ◇ ◇



 広場に到着すると、既に昼市の撤収作業は始まっていた。

 通常昼市は昼休みの合図たる正午の鐘と共に開かれ、二時間経ったら撤収する。だが今回は違った。

 なんと鎮魂祭は明日行われるそうなのだ。時間は夕方からなのだが、作業は早め早めに越したことはないと前倒しで準備する決まりらしい。

 まぁ、何事も事前に用意するのには賛成だ。当日に慌てて準備して致命的なエラーを見つけるよりは遥かに良い。


 ということで午後のおばあちゃん、こんにちは。


「おお、来たかタケタロウや。早速片付けを始めるよ。それが終わったら出店準備だ」


 出店?

 僕たち、出店するの?


「そういや言ってなかったね。儂は鎮魂祭には焼きトウロモコシを売るんだ」


 それは素敵。

 でも、火元はどうしてるの? 薪でも焚いてる?


「そこはこれを使うんじゃ」


 とか言って何処からともなく足元にゴトリ──と置かれた二本のそれは、なんとガスボンベだった。


「これはガスボンベと言うての。思い付きで作ったものが国王陛下に知れるなり特許を得たどころか全国生産にまで漕ぎつけたキゾロの傑作でな。貴重故祭りの時くらいしか使えぬがこれまた便利での。時代はハイテクじゃ」


 なんて素晴らしい、異世界の風情もへったくれもない。

 全くどうしてくれるのさ、そこでガスボンベを配ってるキゾロさん。


「皆助かってんだからいいだろ耳穴ホジホジ」


 うぜぇ。

 嫌いじゃない憎たらしさと共に立ち去るキゾロさんと入れ替わりに、今度はグラさんが訪ねてくる。最近よく会うね。


「おうタケ。そっちの準備済んだら他も手伝ってくれ。総出で取り掛かるぞ」


 見渡せば出店の土台があちこちに設置されている。村の催しにしては随分多いと首を傾げたが観光客でも呼ぶつもりだろうか。


「此処には結構な人数追悼に来てるぞ。今年は戦争の節目を迎えて十年目だから、例年よりも人来るぜ」


 そもそも、どうして鎮魂する日に祭りなの? 組合せとしてはミスマッチ極まりない気がするけど。

 言いたいことは分かる。とグラさんは言って続ける。


「実際不謹慎じゃないかって声は挙がったんだ。でもそれ以上に〝戦争は痛ましかったけど、今は両族こうして笑って暮らせているぞ〟って示した方が犠牲者も安心して寝られるだろうって異見の方が多かったんだ。何より当事者の希望だったしな」


 当事者って?


「あー……、こればっかりは人伝手に聞くより実際に見て知ってほしいな。じゃねえと鎮魂祭の意味がねぇ。追悼場所は分かるか?」


 村外れの集合墓地じゃないの?


「違うんだなこれが。実はあそこでやるんだよ」


 そう彼が指し示すは広場から北西に見える村外れの丘。この村に住んで彼是五ヶ月程経つが何気に行ったことがない。


「なら準備がひと段落済んだら行ってみろよ。そんじゃあ、また後でな」


 うーい。

 グラさんが立ち去ったのでおばあちゃんと撤収&準備作業を開始する。しかし、どうしてグラさんは当事者が誰なのか言い渋り、事前に追悼場所へ行くよう勧めたのか。

 まぁ、テレビで見聞きするよりも実際に足を運んだ方がどれだけ痛ましい出来事だったかより実感が湧くというもの。グラさんはそれが言いたかったのだろう。


 僕は丘の上に想いを馳せた。

神さまクロスカウンターとガスボンベの件が好きです。

明日も8~9時投稿です。

御一読いただけたら嬉しいです(感想モ有ッタラモット嬉シイデス)。

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