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第95話:ベイビーよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

新婚ロックンロール。

 大工さんの職場へ向かうと、リコちゃんとリィネさん親子──、あとなんかコウくんが居た。


 リコちゃん・リィネさん母娘が和気藹々と受付のおばちゃんと団欒している傍らで、コウくんは〝何となくついてきたけど手持ち無沙汰のあまりひたすら電化製品を眺めているオジサン〟状態になっていた。


 分かるよコウくん、君の場合は好きな子を見かけただけど、帰り道のジュース目当てで家電屋についていったら思った以上に退屈だったからね。


 そのコウくんが僕等に気付き、「おー……」と声を上げると、談笑に花を咲かせてた母娘も振り返ってくる。


「あー、アフノさんたちだー」

「あらアフノさん、お久しぶりです。帰ってきてたんですね」

「グランたちに家具を贈ろうと立ち寄ったのよ。そっちも何か新調?」

「赤ちゃん用ベッドを買い直しに。リオの雷魔法がベッドの柵壊しちゃって……」


 この異世界では赤ちゃんの時点で魔法を使えるらしい。色々と制御が難しい時期な分、異世界の親御さんは骨が折れてそうだが、対してアフノさんは意外そうな反応を見せる。


「ちょっと待ってもう魔法発現してるのあの子? 早くない?」

「今日の朝、バチバチってなったんだよー」

「朝ごはん食べてたらお漏らし感覚で発現しちゃって、今夫が〝魔封じの輪〟手配しに王都へ行ってます。まさかこんな早く発現するなんて思いませんでした……」


 リオくんというより赤ちゃんの魔法発現は想定外──それが両者の見解のようだ。

 それがどれだけ異例の事態なのか、詳しく聴いてくれたのはグラさんだった。


「赤ん坊で魔法発現って珍しいんすか? コウは2歳発現でしたけど」

「魔法は発現する子しない子がいるけど、基本的には1~3歳以降で発現するの。リコが発現しなかった側だし、リオもまだ三龍月だから油断したわ……」


 常識を覆しているどころの話じゃなかった。


「九龍月も塗り替えるとか学会ものじゃないすか。こうなったら〝魔封じの輪〟ももう妊娠してる段階で用意した方善いっすね」

「え~⁉」


 とかなんとかグラさんが遠い未来の話をしている最中、リコちゃんが突如驚きの声を上げた。


「リンお姉ちゃん、妊娠してるの~⁉」

「おー……⁉」


 幼児二人は愉快な勘違いをしていらっしゃる。


「気が早いぞお前たち。近い将来そうした方が善いって国から推奨されるかもねって話をしてるのであってリンが妊娠してるわけじゃあないんだ。リン、そっちからも姉として言ってやってくれ」


 だがしかし、コウくんと視線を交わすリンねぇさんは特に注意するでもなく──、


「……ぽっ」


 顔を赤らめるだけであった。


「未だ存在しない未来を想像するな。ここでキゾロのジジイに復活されて見られでもしたら誤解拡散待ったなしだぞ」

「何々なぁに? オイラがどうかした?」

「お呼びでない! コウ! ロケット頭突き‼」

「お──っ」

「びぎゃぁぁあああ‼」


 凄まじい風と共に発射されたコウくんのロケット頭突きに、キゾロさんは店外へ飛ばされてしまった。


 コウくんのロケット頭突きは声を発するよりも速い速度だった。いくら老齢不相応に頑丈なキゾロさんでもあれをお腹に諸に受けた以上、当分は眠ってくれるだろう。


「危ねぇなこの野郎! オイラが避けてたらコウのやつ森まで吹っ飛んでたぞ‼」


 ──なんて思っていた時期がありました。


「なんで無事なんだよジジイ! 暇なら帰って日龍大工でもしてろよ!」

「万が一の為に腹筋して鍛えてたんだよ! 今は発明の気晴らしに散歩中だ! それはそうと悩み事か⁈」

「アンタの存在そのものが悩みになってきてるわこの騒動運搬業者!」

「そんなにオイラが村の中心ってか。へへっ……」

「怖っ⁉」


 自意識過剰にも程がある。何処を切り取ってそう斜め上の解釈をしたのか僕には皆目見当も付かない。


「で、結局何でこんな集まってんだ? はいアフノ」

「いきなり正気に戻るな」

「リオくんに発現した魔法が赤ちゃんベッド壊しちゃったんですって」

「あらま。随分早い発現だな。リオ坊ってことは雷か? 父親も雷だしな」

「ですです。急に放電しちゃって柵が駄目になっちゃいまして」

「だったら後でオイラのとこ来な。防電グッズ作ってやる」


 具体的にはどういったものなのだろうか。


「角防止カバーみたいなもんだ。カバー自体が避雷針的な役割を果たしていてな。放電した傍から吸収って寸法よ。魔法防止なら〝魔封じの輪〟が鉄板だが、付けっぱなしは身体の成長に毒だし、赤ん坊にネックレスなんざしようものならパックンチョだ。安くしとくぜ?」

「よろしくお願いします」


 即決ぶり大根だった。


 いいのリィネさん? 今回のキゾロさんは至って真面目だけど、キゾロさんだよ?


 当人が決めるべき相談事であるが、何せ相手は発明する度しょうもない大惨劇を引き起こしてきたキゾロさんだ。一応の意見を述べてみると──、


「タケタロウくん」


 と、リィネさんは僕の肩に手を乗せてきて──、


「子育てはね、お金で解決できるものなら藁にも縋りたいものなの」


 だってさ。


「そんじゃオイラは先に帰ってるぜ。支払いは落ち着いたらでいいからな」

「じゃあ先ずはリオのベッド運びますか。アフノさん、そこんとこお時間貰えます?」

「少しなら大丈夫よ。大工さん、赤ちゃんベッド出来るまで後どれくらい掛かる?」

「もう出来てるぜドハハハハ」

「次元でも超えてきた?」

「ドハハハハ」


 ということで、新調したての赤ちゃんベッドを運び込む流れとなった。

 キゾロさん宅を経由して、リコちゃん宅を目指していると、道中にあるリコちゃんの祖父母宅からちょうど祖父リグレイさんがリオくんを抱えて現れる。肝心のリオくんが見当たらないと思っていたが、彼が預かっていたようだ。


「うっ。うっ」

「おお、外をねだられ出てみれば、ベッドを買えたのだな。運んでくれてありがとう」


 祖父と弟の姿を確認するなり、リコちゃんが一足早く二人のもとへ駆けつける。


「リオー、ただいまー」

「あ、こらリコ。迂闊に近付いちゃあ」

「あー」

「ぎにゃあ」


 リグレイさんの警告が届く前にリコちゃんが触れようとした途端──、リオくんは欠伸代わりに放電し、リコちゃんはすっ転んだのだった。


 対して、リグレイさんはピンピンしている。


「私はほら、息子の漏電で慣れてるから」


 と言った瞬間、リオくんの極細雷がリグレイさんの鼻腔を突いた!


「ぶぎゃあ!」


 後ろにズッコケると共に、リオくんを明後日の方向へ放り投げてしまった。

 これにはリグレイさんでも堪ったもんじゃない。電気耐性持ちでも粘膜を刺激されたら誰だってああなる。


「ぎゃあー‼」とリィネさんが走り出す。エっちゃんも反射的に駆け出していた。

 僕もグラさんリンねぇさんアフノさんと運んでいたベッドを急ぎ下ろす。しかし如何せん低空投法なもので既にリオくんは地面に激突寸前。誰もが最悪を想像した。


「お──っ!」


 ──そのとき、突風を起こしながら横を飛び過ぎていったコウくんが、間一髪で赤子を掬い上げたのだった。


 Uターンしてきたコウくんをこれでもかと皆で撫でまわしていると、リグレイさんが防電カバーに「む?」と目をつける。


「リィネよ、柵の先端に付いているのは何だ? ……防電カバー? だったら今試してみなさい。家に持ち運んでから効きませんでしたより、此処で駄目かどうか調べた方がリカバリーも楽だぞ」


 というリグレイさんのアドバイス通りに、リオくんに雷を打たせてみることに。


「リオ。ちょっとバリバリやってみてくれない? お母さんが指差してるところにバリバリって」

「うー」


 リィネさんが促すも、しかしリコちゃんの腕に抱かれているリオくんは目を点にするばかり。そりゃそうだ。赤子が一発で言うことを聞くならこの世に育児ノイローゼなんてない。

 その後も何度か指示するが、雷を放つ気配を一向に見せないので、僕等も促進を試みることに。

 最初に名乗りを挙げたのはグラさんだった。


「お漏らし感覚で雷出したって言ってただろ。お漏らしっつったら衝動的だから、衝動といったら笑いだ。──ばぁっ」

「へへぇ」

「可愛いなぁ」


 次は僕にやらせてちょ。目的をすっかり忘れてほっこりしているグラさんを退け前に出る。


 先程のお漏らし理論でいけば、お漏らしとは何らかの衝撃でも催してしまうものだ。ならばとにかく動かしてみるのは如何だろうか。


 というわけで、全力ゆりかごをやってみる。バレエダンサーのようにワルツを踊り、バレリーナにするようにリオくんを天高く掲げるなり思いつく限り動いてみる。


「スヤァ」


 寝たよ。


「普段は寝付け悪いのに……!」

「どうすんのこれ? 流石に無理矢理起こすのは忍びないわよ?」

「おー……」


 どしたのコウくん?

 意図せぬ睡眠に困り果てているところへコウくんが不意に近寄ってきたと思えば──、


「おー」

 リオくんのおへそに指を突っ込んで──、


「うっ」

 リオくんは僕の腕の中で放電しましたとさ。


 ぎゃー。


「たっくん、痺れたー」

「いかんいかん。早く私に渡しなさい」


 あびばべばびば。

 全身を電気が駆け巡る中、どうにかリオくんをリグレイさんに託す。


「たっくん、だいじょうぶー?」


 エっちゃんが心配して顔を覗いてくるが、正直危なかった。あと少しリオくんを渡すのが遅れていたら意識が飛んでたかもしれない。なんなら三割飛んでた。


「では、出し方も分かったし試すとしよう。リオ、失礼」

「うっ」


 ほっぽり出されてたベッドに寝かせられたリオくんから雷が放出され、ベッドが雷に包まれる。しかし──、


「おおっ?」


 防電カバーは見事に雷を吸収し尽くして、ベッドを守ったのだった。

 周囲から「おおっ」と感嘆の声が上がる。


「大丈夫そうだな。キゾロ殿もいい仕事をするじゃないか」

「正直ちょっと見直した」

「キゾロさん、やるー♪」

「まともな成功を見れる日が来るだなんて……!」


 皆口々に褒めているものの、言葉の節々からは「あのキゾロが、だと……⁉」なんて含みを感じ取れる。今迄の発明がどれだけ空回っていたのかがよく分かる。

 それでも、キゾロさんの発明品が役に立つ代物には違いない。これにはリィネさんもほっと胸をなでおろす。


「あぁよかった。皆ありがとう。鎮魂祭までに間に合ってよかったわ」


 鎮魂祭?

 村を挙げての一方的な結婚披露宴に苦言を呈したグラさんが発していた言葉だ。名称からして祭りなのだろうが、賑わいがお約束の祭りに鎮魂とはこれ如何に?


「そっか、タローくんは初めてね。毎年この時期にやる催し物なの」


 具体的には何するの? お墓参り?


「ご名答よタローくん。地域によっては鎮魂だけだとかって違いはあるけど、この地にこそかの──」

「サンジュー」

「あら?」


 唐突に聞こえてきた鳴き声に、アフノさんは言葉を遮る。

 鳴き声がしたのは教会からだった。

 教会の鐘には〝ジコク鳥〟が棲んでいる。ジコク鳥はその名の通り〝時刻〟を司っており、彼若しくは彼女の鳴き声を基準に僕たちは昼市を開いたり、仕事に戻ったりしているのだ。


 そして、今の鳴き声を変換すると、昼休みの残り時間は「三十分」だ。


「あらやだ、もうそんな時間? 私仕事途中だから此処に居れるの昼休みいっぱいまでなのよ。ごめんねタローくん、急がなきゃだし、続きはエイリにでも聞いてちょうだい。グラン、リン、行くわよ」

「うっす。ではお疲れっした」

「バーイ」


 喋ったぁ。


「だってさ。ということで、お昼ごはん食べながら、説明するねー」


 しくよろー。


「じゃあ、わたしたちも行こっかー。早くしないと、食いっぱぐれるー」


 あ……、待ってエッちゃん。

 制止に脇目も振らず我先にと走り出すエッちゃんを、僕は追いかけて追いかけて……。


 やっと追いついたときにはもう家だった。


 ねぇエッちゃん。物置の戸はどうすんの?


「え?」


 物置の戸が開け閉めしにくいって相談しようって話だったじゃん。流石に今からだとお昼ご飯食べる時間無くなるし、鎮魂祭とやらで暫く相談する暇ないよ?

 これを聞いてエっちゃんは──、玄関にゴンッ……と頭を押しつけて、


「…………えーん」


 すっかり忘れて突っ走ったことを静かに嘆いたのだった。


 あーあ……ぺんたらぱっかっぴー。

ベイビーは可愛いね。


明日も8~9時投稿です。

どうぞよろしくお願いします。

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