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第94話:新婚よ【異世界Part】

前回のあらすじ!

現世のお祭り。

 そういやグラさん。新婚生活どうですか?


「新婚生活ぅ?」


 異世界、シキの村・中央広場にて──。

 みんな大好き昼市を回っていると、独り買い物をしているグラさんが居たので、僕は思い切って訊いてみた。


 グラさん、リンねぇさんと笑撃の交際0日婚して、彼是一週間じゃないや一龍週経つわけじゃん。


「ブチ転がすぞこの野郎」


 まぁまぁそんなこと言わずに。昼市の良き肴に聴かせてくださいな。


「人の私生活を肴にするんじゃねぇや。しかし新婚生活か……」


 グラさんは腕を組んで空を仰ぐと──、暫し黙考してから言い切った。


「めっっっっっっっっちゃ良い……!」


 すっげぇ溜めて、言い切った。


「なんつーのかな。今迄は親父にお袋と暮らしてたわけだけどよ、仕事から帰ってきてリンと「ただいま」「おかえり」し合ったり食卓囲って飯食ったり並んで床に着く度に、結婚したんだなぁって感慨深くなるんだよ。あとリンが研いだ包丁で魚捌くのめっちゃ楽しい」


 リンねぇさん、料理苦手なの?


「どうして俺が捌いているとリンが料理下手になるんだ」


 なんとなく女性ってだけで料理得意なイメージなんだよ。僕とエっちゃんでご飯作り合ってるのに不思議だよね。


「お前等の食卓事情は知らんが、人類が生涯抱える謎の偏見だよな。別に苦手ってわけじゃねぇぞ? ただ火加減が鍜治場基準なもんだから火を使うとロックンロールしがちなだけだ」


 高火力職の弊害だね。


「でも食材は危なげなく切れるんだ。対して俺には小骨抜きまで拘る分野菜と肉はもういいや適当でになりがちだ」


 ロックンロール。


「ロックンロールで微妙に分かるの、なんか腹立つな」


 あ、山帰りのユイねぇさん。


「よぉユイさん。今日は魚が多く獲れたんだ。新婚祝に金落としてけぇ」

「その口車乗ってやるよ。今朝仕掛けた罠に大物がかかってくれて機嫌が良いんだ」

「毎度ぉ」


「ところでグラン」

「なんすか」

「リンはお前とつるむ度に好き好きキャッキャハート飛ばし散らしてたけど、グランはいつからリンを好きになったんだ? 思えばお前が好きの波動出してるところ全然思い付かねぇなって最近気付いてよ」

「アンタ好き好きキャッキャハートなんて言う柄じゃあないだろ」

「中指立てるぞてめぇ。いいから答えろ。気になって寝付け悪くなってんだ」

「他人の恋愛事情に健康を委ねんなや。つっても、リンのことはガキの頃から好きでしたよ?」

「マジで?」


 真に~?

 それは意外だ。リンねぇさんが隣に立っても身体が入れ換わった際に二階部屋へ連れ去られても至極冷静だったのに、あれで内心キャッキャしていただなんて、とてもじゃないが信じられない。


「嘘ついても仕方ねぇだろ。具体的な時期はともかく十二歳なってるかどうかの時点で、あぁ、リンが隣に居ると落ち着くなぁ、これからも一緒に居てぇなぁって、少なからず居心地の良さは感じてたぜ」


 リンねぇさんがアピりまくってる間に、グラサンはじっくり好意を育んでいたんだね。

 だから安直にキャッキャらないで二階部屋からもランナウェイしたんだね。窓をロックンロールにぶち破ってまで。


「リンの身体で無茶しちまったが、そういうこった。なのにお前等ときたら徒に騒いで勝手に事を進めてくれやがって」


 どのみち、二人がくっつくのは時間の問題だったんだし、別にいいんでない?


「元々独り立ちできるくらいの貯金出来たから告ったんだし、頃合い見て求婚する気でいたんだよ。お前等に急かされる筋合いねぇや」


 割と真面目に申し訳なくなってきた。


「ということでちょうどそこを歩いてる全ての元凶キゾロのジジイをぶっ飛ばそうかと思います。おらジジイ歯ぁ食いしばれ!」

「えー何々オイラなんかした⁉」

「俺の人生設計を狂わせたんじゃぁぁああ!」

「びぎゃぁぁあああ!」


 と、悲鳴を上げながらも、しかしキゾロさんは器用にドロップキックの勢いを完全に殺してグラさんを静かに地面へ寝かせると、悪ガキ走法で逃げ去りましたとさ。


「逃げんなや!」


 これは恥ずかしい。殺意を込めて放った蹴りにも関わらず完全に相殺されてしまったグラさんの顔は林檎のように真っ赤っ赤。これにはエっちゃんもキャッキャ大笑いだ。


「いつから居たエイリ貴様ァ‼」

「好き好きキャッキャ、好きキャッキャァァア~」


 青筋を立てて迫ってくるユイねぇさんに、エっちゃんはランナウェイした。

 エっちゃんは異世界転移したときから姉のように慕ってるというユイねぇさん弄りに余念がない。ユイねぇさんも甘えられてると分かってるからこそ青筋を浮かべながらも生易しい頭ぐりぐりに抑えてあげてるのだろう。

 そのエっちゃんが、器用にぐりられるままグラさんに質問を投げる。


「でもさグラにぃ、なんで今だったのー?」

「主語を言え」

「どうせ付き合うんだったら、リンねぇの部屋に持ち帰られたときにキャッキャすれば良かったんじゃないのー? あれから二龍月しか経ってないんだしー」

「あんな大騒ぎのどさくさになし崩しでシたかねぇよ。寧ろなんでそんな知識持ってんだよそこに驚きだわ」

「じいちゃんの本棚に、スケベなのあったー」

「今すぐ捨ててこい!」

「昨日捨てたよー。もうボロボロで、読めたもんじゃなかったしー」

「ならよし」


 ねぇエっちゃん。うちの本棚、そんなのあったっけ?


 僕が住んでるエっちゃんの家は、元々はアフノさんに交易を教えた翁が所有していたものである。彼が亡くなって間もなく移住したそうなので家の中身はほぼそのままで、本棚は僕も良く利用しているし、なんな粗方読み終えてるからこそスケベ? な本は見かけなかった筈だ。

 対して彼女は、ぐりぐりから上手く逃れ、じっとり距離を詰めてくると、僕に耳打ちしてくる。


「しーちゃんの本に、スケベなのがあったのー」


 これは内緒ねー。と、彼女は口留めに人差し指を唇に当ててくると、またぐりられに戻ったのだった(そのまま逃げればいいのに)。


 しーちゃんとはエっちゃんと小学校から続く現世の友達だ。彼女は乱読家のようで、初めて会ったときだって古本屋の帰り道だと相当数の本を所有していて、その際に勧められたBLとやらにはキャッキャなシーンが確かにあった(今更だがどうやって買ったのだろう?)。


 だが、当然ながら現世の存在をグラさんたち異世界の住人は知らない(オボロさんやアメノコ等の一部を除く)。故に前家主さんが所有していたことにしたのだろう。


 つまるところ、前家主さんのキャッキャ本所有はとんだでっち上げだ。僕も別世界の情報を出す際は「夢で見た」で帳尻を合わせたりするが今回のそれは前家主さんがただただ不憫だ。


「きっと、許してくれるよー」


 君が言う言葉じゃあないんだよ。夢に出られて怒られな。


「なんだエイリ、今現在私にぐりられてるときに怒られることしたのか」

「してないよー」


 したよ。


「どっちだよ」

「こらこらユイ、何エイリの頭をぐりっているの」


 あ、アフノさんだ。

 押し問答を繰り広げる中へ、赤毛のアフロが割って止めに入る。世界を巡る交易商人たる彼が返ってくるのは実に二龍月ぶりだ。


「アフノさん、久しぶりー。帰宅早々だけど、どうか助けてー」

「止めないでくださいアフノさん。私はこいつをぐりる責任があるんです」

「先ずはエイリから聞くわ。平等を期すためにタローくんに説明してもらいましょう。一体何があったの?」


 内容は伏せるけど、さっきの会話に嘘混ぜてたの。ぐりぐりは余興。


「たっくんの裏切りものー!」

「嘘は人として良くないわね。ユイ、レッツゴー」

「ぎゃべぇー」


 こうしてエっちゃんがおかわりされて前家主さんの無念が果たされた中、グラさんとアフノさんは何事もなかったように会話を始める。


「というかホントに久々っすね。仕事も一区切りついたんすか?」

「いんや。貴方が海鳩郵便に出した結婚報告がつい最近届いてね、ちょうど近くに来てたから祝いの言葉をね。ご結婚おめでとうございます」

「これはどうもご丁寧に。お忙しいところありがとうございます」

「新婚生活はどう? 今日で七日くらい経ってるけど、ちゃんと家具は揃えた?」

「地道に揃えてるところっすね。何せ早まりに早まった結婚だったんで、資金とか碌に集められてませんもん」

「人生の大きな転機なんだし、幾ら用意しててもボロが出るものよ。ほら、リンちゃん呼んできなさい。結婚祝いに一つ買ってあげるから大工のところ行くわよ」

「マジすかあざす! おーいリン!」


 漢気ぃ。

 最高にロックンロールなアフノさんにグラさんは頭を下げると、あっという間にリンねぇさんを連れて戻ってきて──、


「アフノさん、グラにぃリンねぇ。わたしたちも、ついてっていーい?」


 いざ行かんとした時、エっちゃんが同行を求めたのである。


「わたしん家、外の物置の扉が開かなくなってきてんのー」


 そういやそうだったね。あまりの重さに、壁に足ひっ付けても動かないくらい。


「それは大変ね。なら一緒に行きましょう。グランたちもいいわね?」

「別に構わんが、立てつけ相談は俺らの後にしてくれよ。アフノさんの自由時間だって長くねぇんだし」

「うーい」


 ということで、特段用事のないユイねぇさんを除いた僕たちは連れ立って、大工さん家に行く運びになったとさ。

新婚って色々ありそうだよね。

明日は9時投稿です。どうぞよろしく。

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