第91話:卓球よ【現世Part】
前回のあらすじ!
感動をありがとう。
場所は変わって現世午前──。嘗て通っていた小学校敷地内より。
僕はエっちゃんと一緒に、閉校された母校の片付けに来ていた。
「いやー、ありがとね二人とも。私だけじゃ大変だからホント助かるよ」
いいよいいよ。此処は小さい方だけど、独りで片付けは疲れるだろうし、僕はお世話になったお返しをしてるだけだよ。
「困ってるときは、お互い様ですー。宿題の、いい息抜きになりますしー」
「はっは。朝から勉強とは感心感心」
とか言いながら、宿題サボりまくってるよ。泣くのは自分なのにね。
「だから後で教えてちょ」
いいよ♨
「ありがとー。……あー、デカいのあるー」
空き教室に入っていく彼女を追ってみると、思い出の品が一台淋しく鎮座していた。
「おや懐かしい、卓球台じゃないか。昔よくやったものだね」
体育では卓球一択だったもんね。野球やサッカーもやったりしたけど、なんせ二人きりだから、途中からアリの巣探してた方が愉しかったもん。
「ベーブとペレに謝れー(←野球の神さまとサッカーの神さま。凄い)」
「どれ。折角だし、久々に卓球でもしようじゃないか。片付け始めて随分経つし、気分転換にいいだろう」
いいねー。
「やりましょやりましょ~」
というわけで、台を片付けがてら屋根付き渡り廊下に運び出し、日陰で行うことに。
因みにエっちゃん、卓球歴はどれくらい?
「授業でしかやったことねー」
じゃあ、僕と同じだね。
「つっても、ほぼ卓球だったたっくんと校長さんじゃ、雲泥の差だよー。月とスッポンで、岩に嵌って溺死しちゃうよー」
殺さないでー。
「ふーむ。やり込み度的に実力差が出るんじゃあ、永利ちゃんが楽しめないな。どうしたものか」
校長先生は腕を組んで暫し唸ると、「……そうだ!」と顔を上げた。
「二人の何方かでも私に勝てたら、片付け終わりにアイスをご馳走してあげよう。駄菓子屋の手作りアイスキャンディーが格別なんだ」
「ひぃはァァァアア♪」
エっちゃんのやる気が高まった。
そうと決まればちょいと練習しようエっちゃん。校長先生は強いんだ。
「どれくらい強いのー?」
中学の体育で何度か卓球やってるじゃん。校長先生で鍛えられた所為なのかな、現役卓球部相手でも生温く感じるレベル。
「気軽にやらせてくれー」
相手は校長先生だよ、諦めな。
「ぷぃ~ん……」
ということで、少しの間、慣らしも兼ねて彼女と手合わせしてみることに。
しかし流石エっちゃんと云うべきか。陸上部にスカウトを持ちかけられるだけあって、卓越した運動能力でみるみる上達していいき、程なくして最初の対戦カードが切られる。
「先ずはわたしだ。どん……!」
対校長先生の一番手はまさかのエッちゃんだった。練習の感覚を憶えているうちにと彼女きっての志願である。
「ポムポム!」
「ペチペチ!」
「ニホ!」
「カミ!」
気付けば地元の愉快な野犬の群れが応援に駆けつけてくれていた。これほどの大盛況なら恥ずかしい姿は見せられない。
「では、始めようか」
校長先生のサーブで試合は始まった。
球を構える校長先生はやはり普段と違う雰囲気を放っていた。宛ら伝説の老兵と云えるその威圧感は一点でも取られたら最後、完全敗北だってあり得る。サーブ前から心を摘む戦いが始まっていた。
しかし、エっちゃんからは動揺が見られない。それどころか開眼しての集中モードだ。僕にはわかる。
「しゃあ!」
威勢の良い掛け声と共に球が叩かれた。ネットぎりぎりに放たれた渾身のサービスは鋭くエっちゃんの利き手逆側を跳ねる。
「ちゃあ!」
が、彼女は難なく反応し、あろうことかスマッシュで返した。流石エっちゃんと云うべきか。勉学のリソースを身体能力に極振りしてきただけある反応速度だ。
だが、校長先生はその先を行っていた。
「とぅうあ!」
「ああん」
エっちゃんが返した箇所に既に回り込んでいた校長先生がスマッシュ返し。超火力で撃ち返されてしまった彼女は反応しきれず、遠くに跳ねていった球を見送るしかなかった。
「うべー」
そのまま彼女は流れを持っていかれてしまい、11対2でボロ負けちゃったとさ。
「ほっほっほ。若い者には未だ負けないよ」
「ぷぃぃぃいいん」
お疲れ、エっちゃん。どんマイケル。
でも、おかげで大分目は慣らせたよ。あとは動きに身体を馴染ませるだけだけど……、5点取られるまでに適応出来たらいいなぁ。
「ポム、ポム」
どうしたのポム、卓球ラケット咥えてきて。もしかして付き合ってくれるのかい?
「ポム!」
ありがとうねポム。一緒に校長先生を倒そう。
ということで校長先生。先にポムとやらせてもらうよ。
「私は構わないよ。なら高さ調整しないとね」
校長先生の言う通り、ポムの背丈が卓球台に届いておらず、淵に前脚と顎を乗せている状態だった。
見ている分には愉しいが、これではサンドバッグにするばかりで楽しくない。片付け済みの椅子をいくつか持ってきて、高さと動くスペースを確保してみる。
ポム、どんなもんだい?
「ポム!」
大丈夫そうなので、早速始めてみる。
試合う以上手加減無用のポムはスピードタイプだった。右に左と翻弄するも、動物の反射神経と野山で培ったのだろう身体能力で直ぐに追いついては打ち返してくる。身体能力だけなら僕等の中で一番だろう。
けれど、そんなポムにも弱点はある。僕等と違ってラケットを咥えている以上複雑な技術を扱えず、単調な攻撃しか出来ていないのだ。
なので僕は、対校長先生で鍛えられた技術を最大限に活用し、じりじりと追い詰めていき、結果、11対4で僕は勝利を収めたのだった。
対戦ありがとうございました。……さぁ校長先生、始めようか。
「うむ。相手にとって不足なし……!」
「たっくん、頑張え~」
「ポム!」
「ペチ!」
エっちゃんと犬たちの声援を背に、僕は第一球を叩き放った。
校長先生と僕、サーブ、フォアのスマッシュ、激しいラリーの応酬が続く。数え切れないフェイントにお互いを翻弄し合い、球拾いも愉快な仲間たちを全員動員してやっと追いつくレベルの激戦と化した。
そして──、遂に10対10の分水嶺に到達した。
◇ ◇ ◇
ここからはエっちゃん視点で見てもらいましょう。
「ちょいや!」
アイスを賭けた最後の一球は、校長さんのサービスから始まった。
「ぷいやっ」
綺麗に、しかし激しく跳ねた打球をたっくんは気の抜けた掛け声で難なく返し、暫くラリーが続く。互いに攻め時を窺っているのは一目瞭然で、いつ均衡が崩れてもおかしくなかった。
そして、先に勝負を仕掛けたのはたっくんだった。
「ぺぇいっ」
ラリーが十回程行われたあたりでたっくんがスマッシュを放った。打球は校長さんの利き手逆側を跳ねるがしかし、校長さんは難なく裏面返しの構えを取る。
が、ここで誰もが予想だにしなかったことが起こる。たっくんの打球がスピンを起こし、利き手側へ大きく逸れたのだ。
「あ、できた」
たっくんもイチかバチかの攻撃だったみたい。いくら校長さんでも急遽態勢を変えるのは難しいだろうし、これは返しようがないだろう。勝負ありだ。
それでも、一筋縄ではいかないのが校長さんだった。
「ちぇすとぉ!」
校長さんは大きく横に飛んで無理矢理打球に追いつくと、スマッシュで返したのだ。意地のフォアで返された打球はたっくんの横を無慈悲に通り過ぎていく。
けれど、校長さん同様に打球めがけて飛んだ彼の執念が、受け身を取った校長さんを上回り──、たっくんは勝利をもぎ取ったのだった。
その後のアイスは格別だった。
野球・サッカー < アリの巣さがし
明日は12時~13時投稿です。
よろしくお願いします。




