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第89話:土日よ【異世界Part】

前回のあらすじ!

老龍其ノ二と任侠と。

 ──石材そっちだったかー?

 ──こっちにも頼むー。一輪車は止めとけー。

 ──地割れに嵌るなよー。


 マッチョッチョによるウンカイさんバックドロップ後──、僕は村大工に混じって港の復旧工事に勤しんでいた。

 港の破損度は一輪車が地割れに嵌って動きにくいと常軌を逸していた。何せ明らかに柔道最重量級のウンカイさんが空から着地してきて生成されたクレーターで地盤が脆くなったところに加え、港を荒らされた怒りバフを得たマッチョッチョのバックドロップが決定打となったのだから当然っちゃ当然だった。

 さて、そのマッチョッチョはというと。


「貴方──、今回の破壊は少々度が過ぎていませんか?」

「……はい」

「何も怒るなとは言いません。ふと場を離れた矢先に仕事場にクレーターを作られ挙句更に暴れられそうだったら誰だって腹を立てます。ですが止めに入っといて余計に悪化させてしまっては元の子もありませんよ」

「うす……」


 奥様基、グラさんのお母さんの仁王立ちに、大人しく正座していた。怒鳴るでもなく相手の感情に寄り添った上での諭しも相まって、あんなにしゅんとしているマッチョッチョを見るのは何気に初めてかも知れない。

 とまぁ、彼はいずれ復旧に加わるとして──、


「そこの人の子よ。この木材は倉庫行きか? あ、桟橋用ね」

「おい姉弟。なんかこうパパっと棲み処直せねぇのか? おまえの国、色々建築してんだろ?」

「私は鍛冶師であって建築士ではないのだよ。一緒くたにしないでくれたまえ」

「──わぁ、この木の龍さん、資材凄ぇ運んでくれるぅ」

「ガハハ! 多勢と一緒に身体を動かすのも愉しいもんじゃのう!」


 なんやかんやで、割と早い段階で現場に馴染んでいたのだった。

 オボロさんたち龍は当然ながら自然の中で暮らしている。故に人里の暮らし方に理解が及ばず「なんでわざわざ直してんだ? 棲み処替えりゃいいだけなのに」「ねー?」となる展開を懸念していたが、杞憂に終わって何よりだ。


 それはそうとウンカイさん。頭大丈夫かい? たんこぶは出来てないっぽいけど。

 バックドロップを喰らって尚平然と働くウンカイさんに訊けば、彼は快活に笑う。


「心配無用! ワシの身体は鉄で出来ているからの! まぁバックドロップされるとは想像もつかなかったがの」


 生物なのに鉄なの?


「厳密に言うと、摂取した金属と鉱石を外郭──所謂皮膚に表面化してるんじゃ。故に余程の打撃でなくばかすり傷さえつかんわい」


 金属の身体だから〝金〟龍なんだね。


「おお、ワシが七龍だって知っとったか」


 木龍のモクレンさんが来た辺りで、金→土→日の順に到着するやつだなって。流石にそろそろ集まりそうだし。

 皮膚に現れるのは金龍ならではの体質だったり?


「不思議と観測順に集まるんじゃこれが。──で、ワシだけの特色かというと、食べたものを身体に反映させる生物は他にもおるにはおるが、ワシほど色濃く反映されるもんはおらんそうじゃぞ」


 その分体重とか凄そうだね。金属の身体だし。


「体重か。量ったことはないが……あのスキンヘッド五人分あるんじゃないか? ほら、ワシをバックドロップした男」


 あの人、自分の五倍の体重持ち上げたのか。


「それはそうと坊よ」


 木下竹太郎だよ。


「キノシタよ。あの男、昔は冒険者とかだったりするか?」


 冒険者だったなんて聞いたことないなぁ。


「俺は漁師一筋だ‼」


 聞こえてたよ。


「ほう! 特別戦いに身を投じておらずしてワシを持ち上げてみせたか‼」


 魚獲ってるうちに鍛えられたんでしょ。前なんか海に引きずり込んだっていう大魚を素手で引き揚げたみたいだし。


「つまり我流か! 鍛えればホルスト殿も押し動かせる身となるのではないか?」

「おいおいダンナ。それはいくらなんでも買い被りが過ぎるだろ。あのジイサンと比べれば此処に居るやつ全員チビだぜ?」


 そんなに大きいの? ホルストさんとやら。


「土の爺さまは生物の域を裕に超えてるからねぇ。もうそんじゃそこらの交易船だって可愛く思えてくるよ」


 確か大きすぎて島になっちゃったんだっけ? 前に聞いたことがあるよ。


「背中に樹木が自生した結果だね。本人は気にしてないっぽいけど」


 生物が棲みつくくらいなんだから、きっとこのくらいの日陰ができるくらい大きいんだろうね。


「そうそう。ちょうどこのくらいの日陰で村が覆われるくらい──……」


 尻切れトンボで口を噤んだ驟雨さんに合わせて海に顔を向けてみると──、



 島のような甲羅を背に抱えた亀? が村を目指して、海から歩いてきていた。



 比喩でもなんでもなく、本当に島が迫ってきていた。正に蟻と巨象と言えるその巨体のあまり、ゆっくりと動いているにも拘らず、此方向かって前進する度に海が波立っている。

 その亀が、顔を内海に突っ込んできた辺りで立ち止まったとき──、港の日陰は一層濃くなった。太陽の位置が低かったら、きっと辺り一帯夜になっていただろう。

 それと、相対してみて分かったことといえば──、僕等と亀が〝蟻と巨象〟どころか〝蟻とシロナガスクジラ〟の体格差……、世界地図で例えるならオーストラリア大陸が自由に海を闊歩しているものと言っても誇張ではない気がする。

 漁師さんたちが呆然と見上げる中、亀は岩壁のような口を開き、地響きのような一声を上げる。


「久しいのぅ、七龍の者たちよ。また顔を合わせられてわしは嬉しいぞ」

「ようホルスト。流石に内海までは入ってこれなかったか」

「顔までが限界だな。これ以上近付けば村を壊す。もう追われとうない」

「昔滅茶苦茶追いかけられたもんな。海を歩く島とかって学者共に」

「調べさせろと付き纏ってなぁ。あの時は散歩もままならなかった」


 ホルストさんとオボロさんはうんうんと頷き合う。オボロさんも嘗て、腕試し目的の冒険者や学者集団に度々棲み処を訪ねてこられてウンザリしていたと言っていたから、ホルストさんの過去は他人事ではないのだろう。


 じゃあ今は大丈夫なの? すっごい人前に出てきちゃってるけど。


「うん? お主、人の子か。堂々話しかけてくるとは肝が据わっておるのぅ」


 木下竹太郎です。どうぞよろしく。


「ホルストだ。して、こうして人前に赴いている訳だが、この村に限りは迫られる心配はない」


 どうして?


「ゴゼルといったか? そやつとオボロが旧知の仲故、わし等が訪ねてきても、「ゴゼルの知り合い」と気にせんでくれるのだ。……ああ、それならリリとやらも同様であるのぅ」


 そういやボドゲ仲間だったね。オボロさんと村長。


「わしはこの通り背に生命を抱えている故、人化けの術を使えんがのぅ。あれは見てるだけで面白いから好きだぞ。オボロたちも実に愉しそうに騒ぎ立てるし」


 それを世間は〝友情崩壊〟という。


「なんと。オボロたちはボドゲの度に喧嘩していたのか?」

「違うぞホルスト。あれはそういうコミュニケーションだ」

「〝友情崩壊〟と書いて〝喧嘩を愉しむ〟と読むんだよ土の爺さま」

真剣(マジ)喧嘩だったら棲み処吹き飛んじまうよオジキ」

「なんだカルムよ! ホルスト殿に未だ挑まぬは人里の損壊気にしてと申すか‼ 周囲気にせず勝負仕掛けるお主にしては珍しいと思った‼」

「流石にそれくらいの良識はあるよダンナ。オレをなんだと思ってんだ」

「戦闘狂」

「悪名留まるを知らぬ火龍の坊主」

「先日も挑んできた冒険者を焼き倒したと風の噂で聞いたぞ」

「竹太郎、ごにょごにょ──……レッツゴー」

 アh「言わせねぇよ?」


 防がれた。

 と、オボロさん直伝の純然たる悪口が未然に終わったところで、


 グウゥゥゥウウうう……。


 と、地鳴りのような腹の音が、ホルストさんから鳴り響いたのだった。


「ああ、そうだ。人の子等よ。何か食べ物は無いか? 今日は此処へ来がてら食べようと思うたのだが、未だ満たせておらんのだ」


 今日は不漁だって言ってたから、期待できないよ。


「通りで碌に群れが居なかったわけだ。わしが来るのに勘付き、遠くへ逃げてしまったかのうぅ」

「てめぇの仕業かァァァアアア‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

「むぉ、うるさ」

「スゲェ。オジキが首縮めた」

「土の爺さまが怯むの超久しぶりじゃない?」

「カルムの火球が目に入ったとき以来じゃな」

「やはりあの男、戦士として鍛え直すべきではないか? 是非とも手合わせ願いたい!」

「俺は漁師一筋だ‼」


 だってさ。


「残念!」

「うるさいなぁ」

「誰だ今の聞き覚えある声」

「上から聞こえたよ」

「オジキの頭上からだ」


 皆でこぞってホルストさんの頭上に注目すると、


「とう!」


 と、少年な人影が後光を差しながらクルクルと宙に飛び出して、


「ファ~……」


 鬱陶しいセルフ効果音に合わせて神々しく炎を纏ってみせる小憎らしい演出をしつつ、


「ふんっ」

「ぎゃぁぁぁああ……」


 ホルストさんの鼻頭まで落下してきた辺りで強めの鼻息を吹かれて村の彼方へ飛んでいったとさ。

 しかも、山なりに飛んでいくよう角度を付けて。


「なんかイラッときてつい」


 それでいいと思うよ。


「頭に居座られといて気付かんかったのかホルストお主」

「居着かれるのは慣れとるから気にせんかったわい。同志たちだって虫がついても別に気にせんだろう?」

「俺は嫌だぞ。火山地帯って滅多にいないが、目に止まられてからでえっ嫌いだ」

「おお。モクレン殿がすこぶる嫌そうな顔で身を反らしてる」

「樹木と一体化しといて虫嫌いなの木の爺さま?」

「二度と森に帰るなお前……──、殴るな殴るな根の先っちょを振り回すな」


 まぁまぁ。ところで、さっきの人は探しに行かなくていいのかい? 村に落ちたっぽいけど重傷だろうし。


「大丈夫だろうヒノワのことだし。放っといてもそのうち帰ってこなけりゃいい」


 帰ってくるんじゃなくて?


「あいつの言動ガキガキしいんだよ。出来れば儂等が適当に駄弁って帰路に着くまで村のどっか埋まっててほしい」


 せめて待ってあげなよ。30秒で良いからさ。


「そこは2~3分にしてやりんさい。儂が言うのもなんだけど」

「タロウ少年、何気に鬼畜だね。見た目にそぐわず」

「生物皆、見た目が全てじゃないということさ」


 あ、帰ってきた。

 当然のように会話に混ざってきた声の方を向くと、先の鼻息の餌食になった少年即ちヒノワさん即ち七龍最後の一角──日龍が衣服の汚れを掃いながら歩いてきていた。


「ホルストくん酷くないかい? 僕に気付かないどころか虫呼ばわりなんてさ。いつ気付くかなって黙ってみてたけど、そんなに僕影薄い」

「うん」

「酷ぉ」

「おいヒノワ。文句言うよりも先に何か言うことがあるんじゃないか?」

「ああ、そうだったね。皆久しぶり! 兄上皺増えた?」

「よぉ弟。相変わらず生意気にガキクセェな」


 弟とな。

 立ち並ぶ二人を見比べてみる。

 オボロさんの長い年月をかけて叡智を培ってきただろう老龍な見た目に対し、ヒノワさんは如何にも小中学生なガキンチョだった。ハッキリ言って、祖父と孫と偽られてもまかり通る。

 オボロさん年の離れた兄弟居たんだね。


「別に離れておらんぞ」


 でも弟さん、僕くらいの見た目だよ?


「こいつは細胞を活性化させる力の持ち主でな。老化が進む度に自発的に輪廻転生しやがるんだよ。この見た目だが儂とは百くらいしか違わん」

「だってしわくちゃになるなんて嫌だもん! いつまでも若々しくいられるなら日龍の力はフルに活かすに越したことないじゃん!」

「乞う宣って生物の在り方を全力で否定する愚弟なんじゃ」

「僕の兄上、僕への悪口は事欠かないんだ。少年は真似しちゃ駄目だよ」


 気が向いたら憶えとくよ。


「既に手遅れだこの子!」

「つーかヒノワよ」

「なんだいカルム」

「今回久々にオレたちを呼び出したわけだけどよ、結局何用だよ? オレ何も聞かされてねぇぞ」

「これでしょうもなかったら暴徒化間違いなしだよ日龍くん」

「前はダイヤモンド拾った如きでワシ等を呼び出して海に蹴り落とされてたの。しかも食べてみればただの硝子だったわい」


 ダイヤモンドが如きなの?


「儂等龍は宝石の類は興味薄いんじゃ。海人の統治者たる驟雨と鉱石が主食のウンカイはともかく、自慢する者もおらんし」


 なら如きだね。


「ふっふっふ……。前回の反省を活かし、今回は宝石関連じゃないよ! 前の僕と思ったら大間違いさ!」

「とか言いつつどうせツチノコ見つけたとかだろ? ナマコ弄る方が余程有意義じゃわ」

「え、ナマコって何? 今この場にある?」

「早速脱線してねぇでさっさと言えや。そんでボコらせろ」

「そう見下してられるのも今のうちさ! 驚きすぎて腰を抜かすなよ!」


 と、威勢よく啖呵を切ったヒノワさんが何処からともなく取り出したのは随分大きな石だった。


「親知らず抜けた♨」


 ボコられた。


「待ってお願い足蹴にしないで拘束しないで持ち上げないで投げないでホルストの口の中はもう嫌だぁぁぁあああーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

『七龍の集まり』終わり。

明日は12時代投稿です。よろしくお願いします。

次回、大騒ぎ。

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