第8話:ドリルよ
前回のあらすじ!
買い損ねた。
「ねえ、たっくん。午後は何処行こっかー?」
エっちゃんがそう訊いてきたのは、昼ごはんを食べ終わった午後だった。
てくてく、てくてく、あてくてく。
ぽめぽめ、ぽめぽめ、ぽぽめぽめ。
おこめこめこめ、おこめこめ。
エビバディラッセイ! エビバギタ!
ハイッ!
二人で遊びながら広場を目指していた時だった。
「ハイ!」と万歳したまま、エっちゃんを見る。
えー?
決めてないのー?
「決めてないよー」
午後も、村回ろうって、言ったのにー?
「言ったのにだよー」
そっかー……。
じゃあ、考えながら行こっかー。計画なんて立てても、計画通りに行くことはあんまりないし。計画通りに進めたならラッキー程度に考えて、行き当たりばったりの瞬間瞬間を楽しむのさ。それが人生というものさ。
「深いねー」
深ーい。
「あー。エイリおねぇちゃんだー」
声がした方を見ると、眼の白黒が反転している角の生えたチミスケ女の子が駆け寄ってきていた。気付けば僕たちは、広場まで来ていた。
「おー。リコリコー」
リコリコって言うのかー。
「わたし、リコだよー」
そっちかー。
……そんなこともあるよねー。
「ないよー」
心を読まれてしまった。
こやつ、できる。
「おーい。コウくんもこっち来なよー」
リコぼんぬが、遠くから僕たちを見ていた、チミスケ男の子に声をかける。
「…………おー……」
男の子はぼんやりのんびりと返事をすると、歩き出した。
とことこ。
とことことことこ。
とことことことことことこ。
とこ。
ぴたっ。
速度ものんびりだった。
あっはっは。と愉しくなって、コウくんの頭をかいぐりかいぐりと撫でる。
僕、この子、好きかもー。
「アッハッハッハッハ」
かいぐりかいぐりとエっちゃんもコウくんを撫で回す。「わたしもー」とリコちゃんも、僕らのあとに続く。
コウくん、愛されてるんだね。
「ねーねー、エイリおねぇちゃん。この人、だれー?」
リコちゃんが、えっちゃんに訊く。
「たっくんだよー。最近、引っ越してきたんだよー」
昨日だよ。
あと、竹太郎だよ。
「たっくんさーん」
「…………ろー……」
たっくんで定着してしまった。コウくんに至っては、「ろ」だし。
まあ、いっか。
「たっくんさん、なんで手ぇ、上げてるのー?」
リコちゃんが僕の万歳姿を見て首を傾げる。そういえば、万歳したままだった。
遊んでたからだよー。
「どんな遊びー?」
こんな遊びー。
僕はエっちゃんと遊びを再現する。どんな遊びかは、ご想像にお任せします。
ぽめぽめ、ぽめぽめ、ぽぽめぽめ。
おこめこめこめ、おこめこめ。
エビバディラッセイ! エビバギタ!
ハイッ!
……では、どうぞ。やってみよう。
リコちゃんとコウくんも後に続く。どんな遊びかは、ご想像に(略)。
ぽめぽめ、ぽめぽめ、ぽぽめぽめ。
おこめこめこめ、おこめこめ。
エビバディラッセイ! エビバギタ!
ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!
ハイハハハイハイ! ハイハイ!
「他の遊びがいい」
あじゃぱあ。
計九回「ハイッ‼」ったリコちゃんに真顔で飽きられてしまった。
じゃあ、何するー?
「かくれんぼするー」
いいねー。
やろうやろう。
「だったらもっと人集めよー。無駄に大規模にしよー」
エっちゃんがくだらない悪ノリを企て始める。そういうの、嫌いじゃない。
「あれー? コウくんはー?」
リコちゃんが周囲を見回して、コウくんの姿が見当たらないことに気付く。
あら、ホント。コウくん、何処行っちゃったのかしら?
もしかして、もう隠れちゃったのかもー?
「…………おー……」
そんなことを言っていたら、コウくんがリンねぇさんを連れて戻ってきた。
「…………ん……」
リンねぇさんが右手、繋がれてない方を挙げる。
「…………おー……」
コウくんは、リンねぇさんの手を「ふぇっ」と放すと、のこのこと、今度は港の方へと歩いて行ってしまった。
………………。
……ああ、そっかー。
リンねぇさんとコウくんって、姉弟なんだねー。
「そうだよー」
「そうなのー」
「…………ん……」
「…………おー……」
「そうだぞ」
エっちゃん、リコちゃん、リンねぇさん、コウくん、グラさんの順で返事をする。
やっぱりそうか。歩き方といい、喋り方といい、リンねぇさんが出てきて、グラさんが断言してくれたのでようやく確信する。
…………おや……?
もう一度、皆を見る。
エっちゃん。
リコちゃん。
リンねぇさん。
コウくん。
コウくんに手を繋がれているグラさん。
…………。
……コウくん。戻ってくるの、早くねー?
頭に疑問符を浮かべていると、エっちゃんがトントンと肩を叩いてきた。
「かくれんぼしてれば、分かると思うよー」
かくれんぼの最中に、コウくんの謎が明らかになるってことだろうか?
「…………おー……」
そんなこんな考えていると、コウくんは、グラさんをリンねぇさんの横に並ばせると、また「ふぇっ」と手を放った。
すると、リンねぇさんの頬が少しだけ、周りが気付くか気付かないかって感じながら、ほんのりと赤くなった。
……あー。なるほどー。
「それで合ってるよー」
「合ってるよー」
心の声、聞こえないでー。
まあ、いいけど。
「なんだなんだ。皆して集まって」
今度はユイねぇさんが突然現れた。その手はもちろん、コウくんに繋がれている。
もう、なんなん?
「いえーい。無駄に大人数ー。コウくん、ナイスー」
「ないすー」
「……すー」
「…………おー……」
エっちゃん、リコちゃん、少し遅れて、リンねぇさんが、一番誘うのが難しいであろうユイねぇさんを連れてきたコウくんとハイタッチする。
「で? エイリ、こんな集まって何すんだ?」
「かくれんぼだよー」
「それは、お前の提案か?」
「リコリコだよー」
「だったらいいわ」
「わたしだったら、どうなってたのー?」
「とりあえずチョークスリーパーかけてから、始めるな」
「それでも、付き合ってくれるんだねー」
「俺なら、コブラツイストだな」
「なんで、技、仕掛けてからなのー?」
チョークスリーパーって、どんなやつなの?
「…………ん……」
リンねぇさんが、「こいこい」と手招きする。教えてくれるらしい。
「ん……」
近付くと、「回れ右」のジャスチャーをされる。
「ん」
ぐえー。
リンねぇさんに背を向けると、彼女は僕の喉に腕を回し、苦しくない程度に締め付けてきた。もう片方の腕でしっかり固定しているから、外せそうにない。
なるほど。これがチョークスリーパーかー。
…………。
首絞めで、よくねー?
「…………おー……」
チョークスリーパーごっこをしていると、コウくんが僕の横を通って、リンねぇさんの後ろに回り込んだ。
途端、僕の視点が高くなり、くるくると左に回転を始めた。
エっちゃん。僕、今どうなってんの?
「コウくんに、リンねぇごと持ち上げられて、回転してるよー」
なんでー?
「コウくんが楽しいから、じゃないかなー?」
そうなのかー。
「帰っていいか?」
「帰っちゃだめー。コウくん、やめてー。ユイさん、帰っちゃうー」
リコちゃんがコウくんを制止させる。
「じゃあ、さっさと始めるぞ。ジャバラエでいいか?」
コウくんが僕とリンねぇさんを下ろすと、グラさんが仕切り出す。みんながグーの手を出す。何のことかと思えばじゃんけんのようだ。
「ジャンボラベベジポ! アルパラピョー!」
この世のものとは思えないふざけ抜かした音頭だった。
あいこだった。
仕切り直して、もう一度。
「ジャ(略)!」
「…………おー……」
「コウくんが、探す方だねー」
リコちゃんの言葉に「おー」とコウくんを返事をする。
「じゃあ、コウくん。私たち、隠れるから、六十秒、目ぇつぶっててねー」
「…………おー……」
エっちゃんの説明に、コウくんは返事をすると、くるくると、その場で回転を始めた。回転はどんどん速くなっていって、やがてドリルのようになった。ドリルってこんな感じなのかなーって速度になった。
そしてコウくんは、地面に埋まった。頭のてっぺんまで、しっかりと埋まった。
あれなら不正を働くこともできないし、地面の中だから耳の澄ましようもない。完全にノーハンディの状態で探すことになる。
「おー……、おー……」
感心しているうちに、コウくんは数え始めた。
「逃ぃげろー」
「きゃー」
エっちゃんとリコちゃんを皮切りに、皆が逃げ出した。僕も後に続く。
さあ、初めてのかくれんぼの始まりだ。
(この振動はエイリさんのだ。これはリコちゃん、これはねーたん、これは……)