表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/101

第88話:木金よ【異世界Part】

前回のあらすじ!

マユゲドリは動く。

 ──クソボケェーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼。


 魚をひったくったマユゲドリに漁師さんたちが弾丸の如き投石を行う中、何食わぬ顔で三分の七龍と漁網を修繕しながら、僕はある質問を驟雨(シュウウ)さんにしてみる。


 ところで驟雨さん、さっきから発展だ歩み寄るだ言ってるけど、なんか大役任されてるの?


「大役も何も一国の主だからね。先代世代がやらかした系の」


 真に~?

 思わず顔を上げる僕に、オボロさんがぼそりと捕捉する。


「こいつ、海底国家の跡取り娘。父親世代は人間嫌い」


 ホンマに~?

 驟雨さんはこんな気さくなのに~?


「時代が時代だからねぇ」


 驟雨さんはカラカラと笑い、漁網の修復を進めながら器用に続きを語る。


「その当時、うちの住民が遊泳していたところを無法者に狩られちゃって、それにブチギレた先代将軍と家臣がこれでもかと地上を荒らしまわったんだけど、結果的に無関係の地上民を大勢巻き込んじゃったんだ」


 最終的にお互い様になっちゃったわけだね。

 というか、何処かで聞いたことある気がする。

 ……ああ、そうだ。海人さんから聞いた話と同じなんだ。


「あ、なんだ。私たちの諸事情知ってたんだね」


 船に乗ってたら被害者さんの弟さんに会ったの。三龍月のとき。


「三龍月……ギダングルとやらが率いるチンピラ集団を検挙したときか」


 そうそう。弟さんも地上との関係改善求めてたっけ。


「そうなんだよ。だからこそ、リリくんが地上民と魔族の架け橋になったのは、まさに〝渡りに追い潮〟だってことさ」


 そのチャンス、掴めると良いね。


「掴んでみせるさ」


 ふふっ──と、驟雨さんと微笑みあったところである。


「マツゲー」


 愉しい鳴き声に見上げてみると、今度は海の向こうからマツゲドリ(睫毛がバサバサに生えた鳥。絵面が五月蝿くて好き)が飛んできたではないか。

 しかし、頭に血が上った漁師さんたちは、今逃げられたばかりのマユゲドリと見間違えたようで──、


「調子乗って戻ってきやがったぞ!」

「落とせ落とせ!」

「焼き鳥にしてやらぁぁあ‼」


 先程よりも一回り大きい石を用意して、投擲を再開したのだった。


「マツゲー!」


 だが、マツゲドリは冷静だった。声色は荒らげていても、流麗な動きで投石を器用に躱している。

 とはいえ、流石にとばっちりが過ぎるので、助け舟を出す。


 おじさんたち落ち着きなよ。あれはマツゲドリであって、マユゲドリじゃないよ。

 後ろから止めに入ってみるが、それでも海の男たちは止まらない。


「それでも鳥には代わりないんじゃぁーーー‼」

「ここで見せしめとかんとまた盗りに来やがるんだよぉ!」

「鳥だけに?」

「爺さんは黙って直してろ‼」


 でもさ……──、あの鳥もう何か持ってるよ。


「「「え?」」」


 一旦投石を止めた漁師さんたちと一緒に改めて見上げてみれば、マツゲドリは随分と大きな木の実を運んでいた。


「マツゲー」


 それが地に差し掛かったところで港に落とされると──、


 ──ムクムクっ、ビキキッ、べげげげげ……。


 急速に成長したと思えば、龍頭の老人になったとさ。


 龍頭の老人は樹木のような身体をしてた。というよりも、樹木そのものに見えなくもない見た目をしていた。

 その龍人はどっしり構えた樹木の如く、微動だにしない。


 そこへ先陣を切って声を掛けたのが、「へー、やーっと終わったわい」と漁網を修繕し終えたオボロさんだった。


「よぉモクレン。お前も着いたか。遠路はるばるご苦労さん」


 モクレンさん──と呼ばれたその方は、オボロさんの声に微かに反応を示した。


「…………」

「ヒノワ? あいつ主催のくせに未だ来てねぇんだよ。どっか寄り道してんじゃね?」

「…………」


 モクレンさんは何も言わずに右手を前に出すと、ゆっくりと中指を立てた。


「おいジイサン。〝くたばれバカヤロウ〟なら左手中指だぜ」


 するとそこへ物申してきたカルムさんの言葉に従い、モクレンさんは左手でファックし直して──、


「違うよ火龍くん。左手は好感を示すだから、右手で良いんだよ」


 驟雨さんの意見に一瞬硬直してから両中指を立てて──、


「どっちにしろ『くたばれバカヤロウ』じゃぞ」


 身も蓋もない真実がオボロさんから語られたそのとき、生えてきた荒ぶる樹木に三龍は吊し上げられたとさ。

 当然、僕も巻き込まれた。

 植物の中心に木蓮さんを残して。


 折角なので宙吊りのまま、同じく逆さとなっている七龍たちに訊いてみる。


 オボロさん、この人って……──。


「こやつはモクレン。見た通り、七龍の木龍じゃ」


 やっぱりか。

 樹木な見た目に植物を扱う力、何より月龍→火龍→水龍ときたら次は木龍がセオリーだろう。


 オボロさんの手短な説明に、今度は驟雨さんが肩掛けを落とさないようにしつつ付言する。


「ご覧の通り木の爺さまは、自然を意のままに操れる御方でね。此処いら一帯程度なら容易いよ」


 じゃあ、あそこら辺の森を見て明らかなくらい一瞬で成長させることも出来るの?


 なんて言いながら東方面を見てみると──、森全体が音もなく500m程上に伸びたと思えば、目を擦っている間に元に戻ったとさ。


 凄ぉい。

 それはそうと僕……──、頭に血が上ってきたよ。


「儂も厳しくなってきたな。おぅいモクレン、そろそろ下ろし……寝たなコイツ」


 マジで〜?


「こやつは自然との繋がりを深めたあまり、樹木と同化しかけていての。巷では第二の御神木と呼ばれとるとさ」


 生き仏さまになりかけてる感じか。


「モクレンさ~ん! 下ろして~‼ ……駄目だな、起きない」

「こいつ叫ばれても聞こえないタイプなんじゃよ。これも樹木と同化してる影響での、気配以外の五感が鈍くなってるんだと」


 じゃあ、どの距離なら聞こえるの?


「隣でぼそぼそ喋った方が寧ろ反応する」


 対して僕等とモクレンさんは荒ぶる樹木で距離が離れている。これは困ったぞ。

 きっとこのまま僕等はモクレンさんが起きるまで宙ぶらりんになって、熟した赤林檎みたいになってしまうんだ。


 ……ふふっ。


「おぅい、お前等ぁ!」


 と、林檎になった自分を想像して笑っていたら、村人の一人が広場に続く道から走ってきた。


「そんなに慌ててどうしたんだね地上民くん。髪でも切った?」

「お、分かる? 前髪をちょこっと──どころじゃねぇんだよ!」

「わっかりやすいノリツッコミじゃのう。してなんだというのだ?」

「なんかよぉ! こぉんなデッケェ岩みてぇなやつが村目指して転がってきてるって、北門の門番が騒いでてよォ!」

「結論だけ申せ」

「方角的にこっち来る!」


 と、村人の口から語られた直後、一瞬だけ空が暗くなったと思えば──、


 黒い肌の大巨漢が降ってきて、轟音とともに港の地面を派手に陥没させたとさ。


「おっといかん。人里では陰部を隠すのが筋らしいのう」


 クレーターの中心で急ぎ道着の下を履くその人は柔道家と力士を合わせて2で割ったような恰幅の良い男性、極道だったらオジキ若しくはダンナと呼ばれているタイプ。


 とまぁ、龍が集っているタイミングで港をこれ程までに破壊する超パワーの持ち主が現れたとくれば、誰を訪ねてきたかなんて火を見るよりも明らかだろう。


「あぁなんだ、ウンカイか。遅刻しやがってこの野郎。道混んでた?」


 ほらやっぱり。七龍側の人だった。


「久しいなオボロ殿! 人間の道は狭くてのう、転がれる道がまぁ少ないのでな! 村入口近くにある丘から大ジャンプしてみた!」

「それはそうと金さん。私たち下ろしてちょ。火龍くんもやられちった」


 驟雨さんの声に確認すればあらホント。カルムさんは「んー! んぅーっ‼」と樹木から伸びた蔦で口を塞がれていた。道理でさっきから声が聞こえなかったわけだ。

 火も吹かないあたり、きっと口呼吸じゃないと火力を出せないのだろう。現に塞がれた口から見える炎はちらつくように漏れるばかりで樹木を燃やせていない。


「ガハハ、挑む前にやられてしもうたかカルムよ! お主は口から吸わんと満足に吹けんからのう! どれ、最寄りから助けちゃるから待ってろ!」


 ちょっとした答え合わせと共にウンカイさんは、ブチブチィ──! とオボロさんに巻き付いたツタを容易に引き千切ってみせた。燃やせない密度の樹木というのに、凄まじい剛力だ。


「ありがとうなウンカイ。あーしんど」

「ありがとうございます金さん。うへぇ、まだ頭ぼんやりする」


 ウンカイさん、どうもありがとう。

 皆して解放してくれたウンカイさんに感謝を述べる中、


「あざっすダンナ。そして死──!」


 カルムさんはお礼を言った傍からモクレンさんに殺意の炎を向けた途端、言い切るも叶わず顔面めり込み樹木突きを喰らって文字通り仰天しましたとさ。


「これが〝天を仰いで(つばき)す〟だぞ竹太郎。真似すんなよ」

「モクレンさんが気配と殺意に敏感なの忘れたのかい? 感情任せの攻撃は火龍くんの悪い癖だよ」

「これまたこっぴどくやられたのう! モクレン殿にはまだまだ敵わぬか?」

「だーっ‼」


 口々に言葉で突き刺していると、カルムさんは爆炎を周囲に放ちながら復活する。


「じゃかあしいわてめぇ等! ちょっとオチてりゃ好き放題言ってくれやがって‼ 俺が本気出しゃあ圧勝なんじゃボケェ‼‼‼‼‼‼」

「負け惜しみにしか聞こえないよ火龍くん」

「七龍の威厳無くなるから止めてくんない? この……竹太郎、ちょいと耳貸しんさい。ごにょごにょごにょ……──レッツゴー」


 この七龍の恥さらしがぁ。


「ジェェェエエエエエェエエエエエエエエ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


 作詞作曲・火龍のカルム

 とっとと~ シバくよこのやろう。

 土煙(つちけむ)~ 出てるぞクソガキ(マジで~?)

 だ~い好きなのは~(ぴっぴぷ、ぴっぴぷ)


「ば~か共のクビィィィいぃいぃいいイイイ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


 無敵と思われた〝攻撃意思を向けられたら姿が消える魔法〟の意外な欠陥を知り衝撃を覚える僕を余所に、走る際に生じる土煙を頼りに、理性をかなぐり捨てて追いかけてくるカルムさんからオボロさん共々逃げ回っていたら、


「よいしょお!」


 ウンカイさんが間に割って入ってきて、カルムさんを止めてくれたのだった。


「まあ待てカルムよ! 怒っていては先の二の舞だぞ。先ず深呼吸してみてはどうだ!」

「どけダンナ! あいつ等火祭りにしねぇと気が済まねぇ! 邪魔するならあんたからぶっ飛ばすぞ!」

「おお、久々に手合わせするか⁈ 相手しちゃるわい!」

「よろしくお願いしまぁぁぁぁああす‼‼‼‼‼‼」


 と、カルムさんが拳に炎を纏い、ウンカイさんに跳びかかったとき。


「おお?」


 ウンカイさんのお腹に、彼の背後から日焼けした剛腕が回されたと思えば──、



「先ず港直せぇぇぇぇぇええええ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」



 顔中に青筋を浮かべたアラールのマッチョッチョが、ウンカイさんをバックドロップしましたとさ。


 港は崩壊した。

最近のトレンドは爺にファックさせることです。

明日も9時投稿です。御一読よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ