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第84話:喋ったよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

帰省した。

 異世界にて午前10時~12時の時間帯。

 吞気に散歩をしていたところ、道すがらの薪割りおじさんが、普段は中央広場にいる僕が歩いているのを物珍し気に声を掛けてきた。


「おうタケタロウの坊主。昼市の時間に歩いてるなんざ珍しいな」


 やぁ薪割りおじさん。『第五話:見送るよ』以来だね。こうして喋るのは初めてかな。


「なんだよ第五話って」


 4ヶ月とも言うよ。


「それを言うなら四龍月だ。まぁいいや。ところで、ニンズンは出てるかい? 今日はシチューの気分なんだ」


 あるにはあるけど、なら急いだ方が善いよ。


「どういうこってい?」


 今日は野菜以外碌に入荷しなかったみたいで、今日の昼市はさっさと終わるってさ。陳列も直ぐに終わっちゃったし、つるむ人もいないから、こうしてお散歩してるの。


「だからアラールのブチギレ声が響いてたのか。エイリとユイはどうしたんだ? あの二人とは仲良いじゃねぇか」


 シルルさんと女子会だって。女子会だから男子の僕は混ざれないの。リコちゃんコウくんは買い物するなり帰っちゃたし、グラさんとリンねぇさんも見当たらないし。


「そいつは寂しいこって。俺も女兄妹ばかりだったからよ、一緒に遊ぶなら男たちとにしなってよくおふくろにハブられたっけなぁ」


 でも、散歩は好きだよ。前に住んでた村でも暇さえあれば散歩してなんかいい感じの枝拾ってコレクションしてたし、今もしたりするし(前に住んでた村とは現世のことだが、移住してきた態で暮らしているのだ)。


「ならいいんだ。これからどうすんだ?」


 とりあえず〝なんかちょうどいい小川〟に行こうと思うよ。どうするかは着いてから考える。


「そうかい。まぁ、それでも持て余すようなら家に来な。薪割り教えてやっからよ。今の時代、薪割りは身に着けといて損はねぇぜ」


 おじさん、ありがとう。

 ニンズンを買いに広場へ向かう背中を見送り、少し歩いたところにある〝なん川〟に到着する。


 ──が、既にそこには二人の先客がいて、咄嗟に〝良い具合に生えてる茂み〟に身を隠して様子を窺う。


 川をぼんやりと眺める、グラさんとリンねぇさんの幼馴染みコンビだった。


 二人はこちらには耳を澄ませば微かに届く声量で口を動かしながら、のんびり釣りをするに適した桟橋に腰かけていた(今日は休みなのかな? どうでもいいか)。


 〝なん川〟は訪れた人々に合わせて水底の深さが変動する。背の低い子どもたちが遊びに来たら足首くらいまでの浅さになり、釣り人が来れば小魚が泳げるくらいの深さになる〝なんかちょうどいい小川〟で、今は自然浴中の二人に合わせて穏やか状態なのは遠目から見ても明らかだった。

 そのはずなのに……──、


「妙ニ静カナ水面ダナ」


 そうなんだよ。

 小川の水面は不気味に思える程シン……としていた。ぼんやり日の光を浴びるときは緩く景色を楽しむなら葉っぱが揺蕩う程に水面が穏やかになるのが〝なん川〟なのに、これほど静黙していると濁流でも起きるのではないかとさえ思えてくる。


 お?

 直ぐ傍から聞こえてきた声に周囲を見回すも、居るのは桟橋の二人のみだ。

 一体何処からの声だろう。桟橋の二人が反応を示さない辺り、極めて近い場所にいるのは明白なのに。


「コッチヤ、コッチ」


 また聞こえた。


「茂ミニ耳ヲ傾ケェナ」


 正体不明の声に従い、茂みに耳をそばだててみると──、


「オレオレ。オレヤンカ、オレヤンカ。オレハ茂ミヤンカ」


 わぁ。

 茂みが喋ったよ。


「問題ナカトヨ。茂ミダッテ喋リタインジャ」


 しかも方言がごちゃ混ぜだよ。


「セヤカテ太郎」


 うるせぇよ。


「ソレヨリ、ぐらんトりんガ未ダ川ニ居ルトチャウカ?」


 どうでもいいよそんなこと。今は茂みにお熱だよ。


「オイラハ雄ダ。ホレ雄しべ」


 モヤシだね。


「雄しべニ食欲湧イタトイウカ。物騒ナ」


 ものの例えだよ。

 じゃなくて。

 どんな存在か興味が湧いたって意味のお熱だよ。バンドのプロフィールを調べてみる感覚さ。


「言ウテ儂ハソコラ辺ノ茂ミニ過ギンゾヨ」


 一人称もぐちゃぐちゃだ。

 それと、普通の茂みは良い具合に生えてたりしないし、何より喋らないよ。


「ナレバ、井戸ト藁山、ソコノ小川ハドウナノダ?」


 〝そういうもの〟なんだよ。


「デアレバ儂トテ〝ソウイウモノ〟ジャ」


 それもそうか。

 セヤデ。と〝良い具合に生えてる茂み〟は続ける。


「世界トハ、オ主ガ思ウ以上ニ広イノダ。ナラバ、見知ラヌ土地ニ自分ノ知ラヌ存在ガオッテモ不思議デハナイノダ。逆モマタ真ナリジャ」


 慣れ親しん出る食べ物が、実はご当地グルメだったりするようなものか。

 だったら、僕が知らないだけで、他所の国では茂みが街中のファストフードを買っていたりするのかもしれない。


 ソユコトダ。と〝良い茂み〟は首を縦に振った──ように葉っぱを揺らした。


「自身ガ思ウ普通デ世界ヲ計ルノハ到底難シイ。先ズハソノ目デシカト見届ケ、ナリヲ知ルコトコソガ大切ナノダ」


 その言葉を学校で聞きたかった。


「ドウシテ不満ナノダ」


 何が悲しくて清流濁流何方にもなり得る小川の前で茂みに隠れながら、人生に大切な考え方を教授されなきゃいけないのさ。グラさんとリンねぇさんをこっそり眺めているのも相まって残念増し増しモヤシ炒めだよ。


「シカシテ、もやすぃハおかずノ嵩増シニ最適ヤ」


 今その話はしてないんだよ。


「ナラバ、コレヨリ話シ始メヨウデハナイカ。もやすぃ以外デ嵩増スナラバきゃべすヲ勧メヨウ」


 分かるけども。


「ソレハソウト──、」


 打ち切っちゃったよ。


「アノ二人ノ距離ガ縮マッタヨウニ感ジルゾ」


 わぁ、ホントだ。

 茂みから顔を出してみると、グラさんの肩に、リンねぇさんが頭を乗せていた。


 リンねぇさんがグラさんに長年想いを寄せているのはグラさん以外周知の事実だった。あの様子だと何方からともなく呼び出して告白して、遂に実ったのだろう。


 それを裏付けるように、嵐の前の静けさを孕んでいた小川は僕が見ていない間に普段の緩やかな清流に戻っていた。きっとさっきまで荒れるか否かの状態だったのは想いを受け入れてもらえるか関係が破綻するかの表れだったのだろう。


 こうなるなら、ちゃんとやり取りに耳を傾けておくべきだった。


「男女ソッチノケデ、我ニオ熱ダッタカラノウ」


 蒸し返さないでよ。

 でもまぁ、いいさ。他人様の一世一代の告白シーンを覗き見るなんて悪趣味甚だしいし、寧ろ聞き逃しといて良かったよ。


「ダガ、居合ワセテハイルデハナイカ」


 そこはほら……、気付かれる前に去っとけば無問題だよ。

 というわけで、帰るの手伝ってちょ。


 なんて、「構ヘンガナ」と承諾してくれた茂みの協力を経て、こっそりその場を立ち去ろうとしたときだった。


「! 誰か来た。隠れろ」


 と、何者の接近に気付いたグラさんが、リンねぇさんと身を隠す姿を僕は視界の端で捉えた。

 一旦足を止めて様子を窺っていると、程なくして予期せぬ来訪者が道なき道から姿を現した。


 〝ナイスタイミングで鎮座している井戸〟と〝どこからともなく現れる藁山〟だった。

 一体何しに来たんだろう?


「オヤ、マタ小川ガ荒レルカ否カニナリオッタ」


 あ、ホントだ。

 茂みが言った通り、井戸と藁山が桟橋前で向かい合う構図になった途端、小川はまたもやグラさんとリンねぇさんが結ばれる前の危険な静けさを抱いたのだ。


 もしやとは思うけど、井戸ないしは藁山が告白する流れではあるまいか。


 ……まさかね。


 そう、我ながらぶっ飛んでいる発想を可能性の話から追いやっていると──、


「イドイド。イドイドイド」

「ワラワララ。ワラララララ、ワララ」

「イドド~」

「ワララ~」

「「イッワ~~~~」」


 井戸と藁山が人間で言うところで抱き合い、井戸が藁山に身体を半分突っ込んで──、当分うぞうぞ動いてから離れると──、


 藁山の足元から藁色の小さな井戸と灰色の藁山がガサッ……と出てきたのだった。


「ワライドー」

「イドワラー」


 小藁山と小井戸は産声を上げるや否や、ムクッ……と急成長を果たして、親井戸・親藁山と示し合わすように、散開したのだった。


 チラリ、とグラさんリンねぇさんに目を向けると、二人は見てはいけないものを見てしまった顔で呆然としていて──、


 一方で、茂みは見たくないものを見てしまったかのように、全ての葉っぱを逆立てた状態で、固まっていた。


 とりあえず、この場を離れよう。

 僕は二人から死角になるよう、一向に動く気配のない茂みを盾にしつつ南通りに合流、そのまま港がある南へ下ることにした。仮に広場へ戻ったとして、後から直ぐグラさんリンねぇさんと会ってしまったら、告白現場に居合わせてしまった罪悪感と最後の衝撃映像で気まずくなること間違いなしだ。


 にしても、そっかぁ。

 ナイスタイミングで鎮座したり、どこからともなく現れていたのは、人海戦術だったんだねぇ。

井戸と藁ってすごいね。

明日も9時投稿です。

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