第83話:地元よ【現世Part】
前回のあらすじ!
帰省する。
その後、席はなんやかんや直ぐに見つかり、ポテチを摘まみながら地元県中心部駅へ到着した僕らは集落行きのバスを乗り継いでいったのだが、道の駅でトイレ休憩を挟んでいると、四ヶ月ぶりの声を聞いた。
「あら、そのモチャモチャした癖毛……──やっぱり竹太郎くんだわ」
お、秋山さん。
声を掛けてきた秋山さんは、僕が育った集落で働く看護師のおばちゃん。地元出身の医者のおじいさんと診療所を二人で切り盛りしている凄い方だ。
やぁ秋山さん。春以来だね。入院中はお世話になりました。
「いいのよそんなの。登紀子さんから聞いてはいたけど、今日が帰省日だったのね」
そうなの。
にしても、集落以外で会うなんて初めてじゃない? 買い出しの帰り?
「そうなのよぉ。ほら、集落のお店ってどうしても品数少ないじゃない? だから買うなら町にってなっちゃうのよねぇ。自家用車必須だわぁ」
買い物バックを両手両肩に食い込ませる秋山さんの言う通り、集落にはスーパーほどの店舗が無く、数を買うならそれなり揃っている此処まで自動車を走らせねばならない。そんな非利便性な部分も地元をほとんど出た例がなかった要因だった。
ところで……──。と秋山さんはエっちゃんに視線を移す。
「隣の子はどなた? 新しく引っ越してくるって子は聞いてないはずだけど」
エっちゃんだよ。今住まわせてもらってるじいちゃんの友達のお孫さんだよ。地元に興味あるって、ついてきたの。
「はじめまして、エっちゃんです。又の名を桐山永利です」
「まぁ、そうだったの。私ったらてっきりガールフレンドかと思っちゃったわ」
気が早いよ秋山さん。隣に女の子で彼女だったら、遥ねーちゃんだってそうなるよ。
「遥ちゃんは姉みたいなもんじゃない」
違いない。
「ところで、あとどれくらいで着く感じかしら? ほら、バスって安全第一だから」
彼是一時間くらいだよ。
「バスだけあって、まだまだ掛かりそうねぇ……そうだわ!」
秋山さんは妙案が浮かんだような顔で提言してくる。
「良かったら私の車に乗ってかない? バスだとどうも落ち着かないだろうし、賑やかな方が私も愉しく帰れるわ。一時間分のバス代も浮くし、どうかしら?」
それはいい考えだ。
ということだけど、エっちゃんはどう?
「余ったお金、どうすればいいー?」
「お菓子に変えてしまえばいいと思うわ。ここの道の駅、手作りパンが美味しいのよ」
「じゃあ、乗るー」
ということで相互理解を得られた僕らは早速バスの運転手さんに事情を説明して賃金の支払いを済ませた後に秋山さんの車にお邪魔させてもらい、集落目指して最寄り町を後にした。
◇ ◇ ◇
そして、車に運ばれる事45分──。
「二人ともぉ。大盛山集落が見えてきたわよぉ」
運転席の秋山さんに言われて車窓から外を覗いてみれば、久しぶりの故郷が顔を出していた。期間にすれば僅か4ヶ月離れただけなのに随分と懐かしい。
「たっくんの地元、どうして大盛山って言うのー?」
あの山見えるかい? 他の山より一際大きい山。
「あれだけ、変に盛り上がってるねー」
だから大盛山なの。昔此処で荒ぶってたっていう巨人があそこに湖が出来るくらいの土を盛って根城にしてたんだって。
「だいだらぼっち、みたいだねー」
現滋賀県の土を掘った跡が琵琶湖になって、その土が富士山になったってやつだね。もしかしたら親戚かもね。
「実際は、断層運動で、琵琶湖になったらしいけどねー。前にテレビで言ってたー」
身も蓋もないよエっちゃん。科学的にはそうかもだけど、妖怪が携わってたっていいと思うよ。
「その心は?」
愉しい。
「じゃあ、だいだらぼっちが掘った所為で、断層運動が起こったことにしよう」
混ざっちゃった。
まぁ、いっか。
「それはそうと、あの木何の木~?」
だいだらぼっち何処行った。
「もういいやー」
なんてこったい。
木への好奇心に負けただいだらぼっちを憐れみながら、桃の木だよと説明する。
「じゃあ、あっちの木は~?」
栗の木だよ。
「なら、あっちの木はあぁぁぁああ」
どうしたんだい?
「曲がり角の先だったけど、通り過ぎちゃった」
それじゃあ、柿の木かどうか、答えようがないね。
「じゃあ、降りて教えてー」
真に~?
僕は構わないけど、家までまだまだあるよ。
「わたしは構わないよー。降りる予定のバス停は、もう超えてるしー」
それもそうか。
というわけで秋山さん、ここいらで降ろしてもらってもいいですか?
「大丈夫だけど……本当にいいのぉ? 此処からだとかなり歩くことになるわよぉ?」
「あっちゃこっちゃ見る気だから、オッケーだよー。バスより早く着けた分、のんびり歩くよー」
だってさ。
「なら余計なお節介だったわね。どうぞごゆっくりぃ~」
ということで、僕らは道半ばで秋山さんとお別れし、改めて帰路に着いたわけだが、コミュニティの狭い集落の昼間なので、知り合いにうじゃうじゃ会うのは当然で。
「おやタケちゃん、久々だね。帰省ついでに野菜持ってきな」
横須のおばちゃん、どうもありがとう。
「おぉ、帰ってたか竹太郎。どれ、ニンジン見繕ってやるから待ってろ」
精が出るね、坂東のじいさま。ありがたく頂戴します。
「ふがふが……。久しいのうタケシタ・キタロウ」
誰だよキタロウ。
「目玉お●じの息子じゃよ」
そうじゃないよ。
「ネコ娘は第5期が一番じゃ」
知るかよ。
なんてやり取りを道すがら繰り返しているうちに、気付けば両手がお裾分けの野菜でいっぱいになってしまった。
ぶっちゃけ、すげぇ重い。
「流石に休む時間、欲しいねー……」
野菜を半分持ってくれているエっちゃんが弱音を吐く。異世界で毎朝登山して山菜を収穫している彼女が音を上げるのは珍しいことだ。
手伝ってもらっている以上彼女に無理はさせたくない。じいちゃんばあちゃんに連絡入れて、何処か休める場所を探そう。
と言っても、辺りは見渡す限りの畑だった。ベンチなんて気の利いたものあるはずもないし、だからと地べたに座るのは憚られるし、何より夏の炎天下は熱中症が怖い。
ならばせめて日陰のある場所が望ましかった。付近にある日陰場といえば……──。
「わー。学校だー」
なんて思考を巡らせていたら聞こえたエっちゃんの声に、目線を上げると、懐かしい校舎が見えてきたところだった。
僕が春まで通ってた小学校だね。今年で廃校になっちゃったけど。
「もう入れないのー?」
どうだろう? 卒業から4ヶ月経つけど、まだ解体してないっぽいし、かと言って町と違って業者が直ぐ来れる場所でもないし。校長先生はまだ出入りしてるんじゃないかな?
「校長先生以外は、もういないのー?」
いないねぇ。低学年のときは他にもいたけれど、中学年に上がる際に家の介護で辞めちゃって、それからは校長先生が実質担任だったようなもんだね。校長先生元気かな?
「だったら、会いに行ってみよー。もしかしたらいるかもだし、涼めるよー」
そう言ってエっちゃんはもう真ん前まで迫っていた校門をさっさと潜っていく。母校でもないのに随分大胆な。
まぁ、休憩場所にはこの上なく打ってつけだ。仮に業者に鉢合わせたとしても、いざとなったら卒業生の顔を立ててもらって退散しよう。
そんな感じで彼女を追いかける形で敷居を跨ぐと、早速懐かしいふくよかつるっぱげほのぼの顔おじいさんを机溢れる校舎前に見つけた。
「おや、竹太郎くんじゃないか」
学校用具を出し入れしていた光郎校長が、僕らに気づくなり、肩に掛けたタオルで顔の汗を拭いながら歩いてくる。再会するのは実に3ヶ月ぶりだ。
「久しぶりだね。こうして会うのは君が卒業して以来か。中学校では元気にやっているかね?」
元気にやれてるよ。こうして友達も出来たし。
「ほう、隣の子は友達だったか。三ヶ月ちょっとで彼女とはと、校長先生早とちりしてしまったよ。初めまして、私、光郎言います。今年の春まで小学校の校長してました」
「桐山永利ですー。たっくんの居候先の孫ですー」
「ほう! 桐山って、桐山永治郎くんのとこかい?」
「知ってるんですかー?」
「知ってるも何も、竹太郎くんのおじいさん共々、学生時代の同級生だったんだ。いやはや、こんなに大きくなって」
「わたしと会ったこと、あるんですかー?」
「画像でだけどね。入学式シーズンに、君のおじいさんから小学校入学式の画像が送られてきたんだよ。孫の小学校デビューって爺バカしてるのが目に見える文章を添えて」
「目に浮かぶー」
ところで校長先生。ノムさんは元気?
「元気だよ。今は息子さん夫婦の家でのんびり暮らしているそうだ」
なら良かった。随分お年を召していたからね。
「たっくん、ノムさんってだれー?」
養護教諭の野村さん。入学した時点でかなりおばあちゃんだったの。よくアメちゃんくれたよ。
「うらやまー」
「そうだ竹太郎くん。キミに会いたがっていた子たちが今日来てるんだ。おーい!」
校長先生が呼ぶと、校舎裏から二匹の犬がドドドド駆けつけてきた。
「ポム!」
「ぺチ!」
あ、ポムとぺチだ。
二匹の名前はポムとぺチ。此処、大盛山集落の何処かに棲んでいる人懐こい野犬の兄妹だ。特徴を挙げるとすれば、凛々しい顔立ちのポムは近くに寄ってくるなりうだうだ腹を見せてきて、柔らかい面持ちのぺチは出会い頭に太腿に鼻を突っ込んでくる。
二匹とも、遥ねーちゃんと同じ、地元の数少ない友達だ。
「わー。ニホンオオカミだー」
えー?
エっちゃんが名に上げたニホンオオカミは1905年を最後にいなくなった絶滅種。胴に対して足と耳が短いのは一致するが、だったらコーギーだってニホンオオカミだ。
ということだけどポムとぺチ。君たちはニホンオオカミなのかい?
「ノンノンノン」
「チガウチガウ」
だってさ。
「そっかぁ」
疑惑が晴れたところで小学校の校庭を借りて、僕らはサッカーを始めた。二匹揃ってドリフト走行を活かしたドリブルで翻弄してくるスタイルは昔と変わらずで、物理的な距離が空いても関係は変わらないのだと示唆してくれているようで嬉しくなる。
「ニン!」
「オカ!」
二人と二匹でボールを追いかけていると、二匹と一緒に暮らす仲間たちが続々と校庭へ参入してきた。やがてその数はチーム対抗戦が出来る程に増えていき、終にはご近所さんがお茶を片手に観戦するに至った。
久々の故郷は今日も平和だった。
犬と仲良くなりたかった。
明日は9時投稿です。




