第78話:テス勉よ①【現世Part】
前回のあらすじ!
野菜が躍る姿って愉しいですよね。え、見たことない? ……踊らない地域なんだなぁ。
「さて皆さん、来週より亜如校はテスト期間に入ります」
七月上旬、帰りのHRにて──。
教壇に着くなり前振りなく宣告した薫先生に、クラスは非難轟々だ。
──せめて心の準備させろー。
──心臓に悪いことを鑑みていただきたい。
──愚の骨頂だよね。
静粛に、と薫先生は手を叩いて騒がしくなった場を諫める。
「まぁ、テストが終わったら三者面談が終わり次第夏休みです。ここが踏ん張りどころですよ」
夏休み。
先程の顔は何処へやら。魅力的なワードにクラスメイトたちはあっという間に色めき立った。
──ばあちゃん元気にしてるかなぁ。
──水着買ってプール行きましょ!
──俺部活の遠征合宿だよチクショウ!
「あぁ、それと。赤点の方には夏休み中に補講受けてもらいますからね」
そこへしれっと投下された爆弾発言に、えぇ~っ⁉ とクラス一同からブーイングが上がる。
──折角の夏休みに学校なんてやってらんねぇですよ!
──補講日程次第じゃ、恒例の家族旅行できなくなっちゃうでゴワス!
──誰だよゴワス。
「先生だって嫌ですよ。ただでさえ少ない社会人の休み返上して仕事だなんて。互いに楽し合う為にも早めにテスト範囲決めてきたのでどうぞ頑張って下さい」
配布されたテスト範囲表にざっと目を通す。かなりの量だが決して理不尽ではない、勉強嫌いでも「いい加減な勉強はできないが油断しなければ補講回避ワンチャン……」そんな感じだった。
その筈なのだが、エっちゃんはというと、
「………………」
全身に〝絶望〟を纏い、開眼状態で硬直していたのだ。
そんな負のオーラを右半身で感じたのだろう志桜里さんが、一瞥するなりギョッと目を瞠る。
「どうしたの桐山さん。凄い目ぇ開いちゃってるわよ」
「凄い顔色悪いよ、みたいに言わないでー。ぷぃぃぃいん」
「木下くん、この子一体どうしちゃったわけ? 貴方一番つるんでるでしょ?」
力ない〝ぷぃぃぃいん〟に早々に見切りをつけ、志桜里さんは僕に返答代行を求めてくる。
エっちゃんはね、ミノタウロスの次に勉強が嫌いなの。四月のテストだって二日連続ほぼ徹夜漬けで辛うじて赤点回避くらいにはね。
「それであの日、木下くんが桐山さん引きずってきたわけね。納得」
そういう桐山さんはどうなの? 随分と落ち着いてるけど。
「そりゃあだって、全部授業でやったところだし、復習とか怠ってなかったらどうにかなるでしょ。口頭説明しかしてないやつはともかく」
字書くの遅い人には嫌がらせだよね、板書しないの。僕も走り書き苦手だからそこは諦めるしかないや。
「あ、私の理科と四ノ山先生の国語は板書からしか出しませんよ。面倒くさいですし」
よっしゃこらぁ。
「……とか言ってるけど、私のノートでよければ写しとく? 小テストの傾向からして社会の下司陀とか板書してないクソガキ問題出しまくってくるわよ」
よろしくお願いしやす!
これで不安要素は排除できた。あとはどう勉強するかだが、例年通り一人でやってもいいけれど、折角なら別の勉強方法も試してみたい。
と、脳みそ捏ね繰りまわしたところに、ある妙案が浮かんだ。
そうだ志桜里さん。ノート写させてもらいがてら、一緒にテスト勉強しないかい? 皆で見張り合えばサボり防止にもなるし。
「本音は?」
誰かとテスト勉強してみたいです。
「だったら桐山さんを徹底的にしごくわよ。この子小テスト毎回赤点寸前だし」
というわけでエっちゃん。皆で勉強会するから、そこで頑張ろうね。あと魂戻そうね。
──どうか楽しかったままで終わらせて。
「天使招いてないで帰ってきなさい。木下くん、力尽くでいくわよ」
合点承知。
志桜里さんも染まったなぁ。超常現象に律義にリアクションを取っていた時期の彼女を懐かしみながらエっちゃんを強制生還させた後、各々で参加者を募った結果、
「ごめんね。一人の方が集中出来るんだ」
「すまん。志桜里と二人ならともかく、複数人だと遊びたくなっちまうんだ」
「今日は用事があるので残れないですしおすし」
こぞって断られた僕らは切なさを引き連れながら図書室に向かったのだった。
がしかし、肝心の図書室はおびただしい人混みに溢れていた。
空席を探しに行った志桜里さんが中から戻ってくるなり、八の字眉で首を横に振る。
「ダメね。端から端まで埋まってる。本棚によじ登ってまで教科書開いてる始末よ」
あじゃぱあ。
皆考えることは同じというわけか。
席が空くのを待つ時間も勿体ないし仕方がない。別の場所を探そう。
……! そうだお二方。図書館はどうだろう。市内散策で見つけたんだけど、図書館内に自習室なる素敵な場所が……──。
「あそこは午後になると近所の大学生で埋まりきってるわよ。入ろうとすると視線が痛かったし」
へぇん。
地元民の志桜里さんが言うのなら間違いないのだろう。
ちらりと時刻を見ると帰りのHRから既に十五分経過している。普段なら問題集20頁は進められている時間を立ち往生に費やしてしまっている現状だ。
複数人での夢は捨てきれないが、これ以上は時間が惜しい。悔しいが今日は見送ってエッちゃんと二人で勉強
「──だったら、家でやらなーい?」
え?
思わぬ提案に僕と志桜里さんは揃って、発言主──桐山永利に視線を注ぐ。
「私んち、来客多いから、出入りルール緩いのー。おっきい道からは外れてるし、どうかなー?」
僕と志桜里さんは顔を見合わせる。
彼女の言う通り、桐山家は大通りから結構離れた場所にある分騒音は少ない。確かに勉強処にはもってこいだ。
でも一応、電話はしとこうね。
「じゃ、早速聞いてみるねー」
と、エっちゃんは吞気な手付きで携帯を操作すると、程なくして通話を始める。
「あ、婆ちゃーん。今から家でテスト勉強会したいんだけど、友達連れてっていい? ……うん、うん、わかった。じゃあね。………………ハァ」
通話を終えるや否や。彼女は酷く気落ちした表情で肩を落とした。
ということは──
「お客さんいないから大丈夫だって♪ あ、脛痛い。踵やめて」
勉強会の神髄は〝教え合う〟ではなく〝見張り合う〟だと思う。
次回の投稿は翌朝8時です。御一読よろしくお願いします。
それでは、せーっの
脳 み そ 溶 け ろ




