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第77話:生えたよ【異世界Part】

前回のあらすじ!

さらばイヌスケ。

 これは、イヌスケと別れる前日に起こった、異世界での出来事である。


 〝シキの村〟の朝──。畑に行ってみると、一足先に来ていた農家のおばあちゃんがノギ畑を注視していた。


 おはよう、おばあちゃん。ノギの前でどうしたの?


「おお、タケタロウ。あれを見なさい」


 示された先を見てみると、一本のノギが躍るように揺れていた。


 現世のネギに該当するノギは味噌汁等に使われる香辛食材。その独特な匂いで虫等の外敵を寄せ付けず、臭み消しにも使われるノギは納豆に混ぜるととても美味しい。

 そのノギが、フラワースタンドよりも緩慢且つ腰のある動きで、風が吹いていない中、軽快に揺れながら歌い出す。


「ノゥウィズビィ♪ ヴィヴォンベッポォ♪ ア~ル~ペ~ジ~オォォォォウ♪」


 ノギにしては中々のビブラートではないか。歌唱技術については素人の身だが、素人なりにも判る上手さだ。


「おや。ニンズンまで踊り出したね」


 あ、本当だ。

 言葉に釣られて他の畑にも目を向けると、ニンズンの他にダイゴン、ブロンゴリーやカリュフラワーといった、胴体? の細い類がこぞってフラワースタンドと化していた。


「ズボッ」


 更にそこへ奇想天外を叩き込まんばかりに、ノギが地面から出てきた。

 テンションが最高潮に達した野菜たちは揺れの反動を利用して地面から飛び出すと、器用に一側転して立ち上がり、踊りと共に土埃を掃いながら、〝歩くキ●コ〟よろしく生えた足で畑を出て行ったとさ。


「あれま。歩いていってしまったねぇ」


 行っちゃったねぇ。


「流石に放ってはおけないねぇ。タケタロウや。他の収穫は任せて追いかけとくれ」


 そう言うなりおばあちゃんは作業を始めてしまったので、僕は野菜籠を腰に巻いて、野菜たちを追いかけた。


「ひやっふぅ~へべれっけぇ~♪」


 最後尾に迫る僕に気付かず野菜たちは陽気に歌う。あまりに愉そうなその様に、足が生えた以上売り物にならないし放っておいても良いのでは? とさえ思えてくる。

 しかし、おばあちゃんの言う通り無視はできない。僕は心を鬼にして、追いついた傍から鷲掴んでは次々腰籠に投げ入れる。


「ビッシィィィィイイイ‼‼‼‼‼‼」


 途端、籠に入れた野菜たちが大声で騒ぎ立て、それを聞きつけた野菜たちが一斉に僕に跳びついてきたのだ。

 鼻頭に喉仏とやられたら痛い部分を的確に突いてくるものだから堪ったものじゃない。眼球に跳びつかれないうちに籠の中の野菜を解放する。


「イエッフゥゥゥゥウ♪」


 野菜たちは勝利と再会の喜びを分かち合って、再び南東目指して歩み出した。


 もう好きにさせておこう。解いた籠紐を腰に括り直して改めて後をついていく。

 しかし、野菜たちは一向に止まる気配を見せず、〝おあぺこ〟だか〝あかぺこ〟だか〝もるぽっくん〟よろしく家畜をリズムに乗らせながら牧場前を横切った末に、遂には広場まで下ってきてしまった。


 朝の早いジジババ村人たちが「なんじゃ、なんだ?」と口々に寄ってくる。


「タケタローくん。昼市を始めるにはまだ早いぞぇ」

「売り物にしては珍しい形をしているのぅ」

「今時の野菜は自分から歩いてくるんだねぇ」


 こぞって愉快な勘違いをしていらっしゃってて笑う。説明しようもないし、このまま放っておくのもあり……やっぱやめとこう。


「カモンベイビー‼」


 と、誤解を解こうとしたそのとき、野菜たちが広場の中央でパフォーマンスを始めた。

 周囲は「おお~」と緩い歓声を上げる。


「キレの良い踊りをするのぅ」

「これが王都でやるというライブかぁ。始めて観るわい」

「儂らをオーディエンスとでも思ったのかねぇ」


 ジジババの憶測は多分当たっている。畑に居た頃よりも動きが格段に良くなっているのだ。〝客は力なり〟とはよく言ったものだが、バックスピンを披露するブロンゴリーが特に際立つよう他の野菜たちで取り囲んでいるのが魅せ方を良く理解しているようでなんか憎たらしい。


「キノキョー」


 そこへ今度は〝歩くキノキョ〟の群れが東通りの方から現れて野菜たちに加わると、少し遅れて走ってくるエっちゃんの姿が。


 おかえりエっちゃん。そっちも足がニョキッとな?


「あー、たっくんー。そうなんだよー。背負い籠から鳴き声が聞こえて、覗いてみたらニョキッてたー」


 まさか野菜以外にもニョキッていたとは。この調子だと他にも現れそうだ。


「サカナー」


 予感的中。

 山菜に立て続き、グラさんに追われる〝歩くサカナ〟が港のある南道からおはようさん。魚類ならば腕も生えてあってほしいところに足だけなのが気持ち悪いしその上生足ときたものだから最悪以外の言葉がない。


「おう、タケにエイリ。おめーらんとこも生えてきたクチか」


 やあグラさん。その様子じゃ、そっちも前触れなくやられたんだね。


「網から引き揚げた途端な。親父は他の魚が逃げんよう急ぎ保存作業中」


 一体何がトリガーなのかねぇ?

 と、二人で首を傾げていると、踊りを眺めていたエっちゃんが何かに気付く。


「あれー? よく見たら、わたしが採ってきたキノキョたち、皆傷物だー」


 言われてみれば確かに。形が歪過ぎて売れない野菜を始めとした、広場で踊っている山菜も魚介も何処かしこに傷があって商品に向かないものばかりだった。


 そこから導き出される答えは⁉


「もしかして……、廃棄されるくらいなら自分で道を切り拓こうとしてる~⁉」

「お前らは食材に何を求めてるんだ」


 無情な現実に抗う姿?


「廃棄という人生の荒波に吞まれまいと立ち向かう勇気?」

「野菜が根を上げるわ」


 根菜だけに?


「やかましいわ」

「タケタロウや~」


 あ、おばあちゃん。


「戻ってこんから来ちまったよ。野菜たちはどうなったんだい?」


 赫々鹿々(かくかくしかじか)


「傷物なら放っておいていいと思うよ。捕まえたら目を突いてくるんだろう?」


 じゃあいいか。


「ふんふ、ふんふ~ん……♪」


 野菜たちは最初のノギを先頭に、赫鹿(かくしか)に乗って王都がある北へ旅立っていった。

 まぁ、全員不格好で商品にならないから構わないけど。


 ところであの野菜たち、どこから声を出していたのだろう? 口も無ければ喉仏らしいものも見当たらなかったし、寿命の概念はどうなのだろうか……?


 まぁ、いっか。

 異世界ならあり得ることさ。僕は野菜たちの成功を願いながら、おばあちゃんと共にさっさと畑へ戻った。


 一ヶ月後──、彼らは新鋭ミュージカルグループと名を馳せるも程なくして腐敗し、森の土に還ったのは言うまでもない。



 ◇ ◇ ◇



 翌日。学校にて──。

 と言う夢を見たんだけど、志桜里さんはどう思う?


「キモッ……」


 一蹴された。

 ひぃん。

野菜は踊るもの。


次回は連休に伴い翌日投稿です。8時以降には閲覧できるようにしときますので御一読よろしくお願いいたします。

それでは、せーっの


脳 み そ 溶 け ろ

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