第65話:雌雄だよ【現世Part】
前回のあらすじ!
入れ替わりは程々に。
「イヌッ!」
入れ換わり大騒動の翌日、土曜日の河川敷──。
いつもの怒弩寿琥と適当にだらけているところへポメラニアン・イヌスケが呼んできたので、ついて行ってみると、普段屯っている高架橋の、ほら……漫画やドラマで野球ボールとか投げたりしている壁の裏側に大きなキウイが落ちていた。
キウイはスーパー等でよく売っている毛むくじゃらなフルーツ。だが、両手で抱えるほどに大きなものは初めてだ。
早速皆に見せようと両手いっぱいに持ち上げて、皆の元へ運ぶ。
小倉さん、小倉さん。キウイを拾ったよ。
「わぁ大きなキウイ。返してきなさい」
そこに落ちてたものだから、返しようがないよ。
「なら残飯枠で捨ててきなさい。最寄りのゴミ捨て場分かるか? というか残飯処理の仕方知ってる?」
せめて割ってみるくらいしてみようよ。野生の栗だって持ち帰って茹でたりするんだし……するよね?
「それは栗だから許される蛮行だ。それと都会市内に拾い食いする文化はない……ないよな、俊生?」
「ねぇよ。あっても小学生までだよ。教えを与える側が自信を無くすなよ」
「すまん」
「だが奎吾の言う通り、拾い食いは感心しないな。中身が気になる好奇心は否定しないが割ったら中からウジ虫たちがこんにちはだってあり得るぞ」
「発想がグロいよ夢に見るわ」
「ゴナン」
「〝メ〟を傾けるな」
すいません、包丁かナイフ持ってる人居ませんか?
「無視して食べようとするな。年長者として拾い食いは見過ごせないぞ」
「これで腹壊したらキウイだって泣くぞ」
「キウイー」
「なんだ今のキウイ」
「俺じゃあねぇぞ」
「知ってるよ」
「キウイー」
わぁ。
謎の鳴き声をまたも耳に捉えるや否や、キウイがむくり──と起き上がり、僕と目を合わせてきた。
なんとキウイはキウイでも〝鳥のキーウィ〟だった。
「キウイー」
……ふふっ。
「えーっと110番は……あ、充電切れてら」
不発に終わったものの、小倉さんは至極冷静に警察へ通報しようとする。
「一度あることは二度あるんだなぁと一周回って落ち着いちまった」
これが彼の期末テスト前、最後の言葉だった。
「あり得なくもない末路捏造すんな」
「それよか、そのキーウィ何処から来た? つーか何処に居た?」
知りたいなら案内するよ。こっちでーす。
怒弩寿琥の面々を引き連れて、キーウィを拾った壁裏に回る。
するとそこには──見慣れた飛空艇が鎮座していたのだった。
「ヤンバルクイナのと同じ飛空艇だな。まさかこいつも持っていたとは」
「各国そこかしこに落ちてたりするもんなのか?」
「宇宙の叡智があちこちに不時着してて堪るかよ」
「けど現に目の前にあるんだよなぁ」
「というか木下。そいつ連れてきた際に気付かなかったのかよ? こんな目立つもん」
鳥が温めている卵だって気付かない時は気付かないよ。
「開き直るなよ」
「例えとしても微妙だしよ」
だってこの状態で眠ってたんだよ?
僕がキーウィを元の位置に戻すと、飛空艇はすっぽりと体毛に隠れてしまった。
「意外と分かりづらいな」
「ならしゃあないか」
これ以上訊いたって仕方ないよね。
「お前に言ってんだよ」
「どさくさ紛れて他人事にするな」
そんな日もあるさ。明日があるさ。
「ありたくねぇよ」
「それはそうと、キーウィよ。おまえさんもどうしてこんなところに居るんだ? 帰り道分かんねぇのか?」
「キウイー」
「訊いといて悪いがさっぱり分かんねぇ」
なるへそー。
「なんで木下は分かんだよ」
昨日動物と入れ換わっ……た夢を見てから、なんとなくながら理解るの。
「夢で種族言語を超越するな」
「色々とツッコミたいがそれは後だ。先ずはなんて言ってんのか教えてくれや」
かしこまりかしこ。
キーウィくんちゃん。もう一度〝1〟から説明してくれるかい?
「キウイー」
そっかぁ。
地元で飛空艇を見つけて、夢の浪漫飛行兼世界一周を始めたは良いものの、燃料切れで此処に不時着したところへ雨に降られる〝泣き面に蜂〟コンボに不貞腐れて寝ていた──と。
「今の四文字にどれだけ詰め込んでんだよ」
「鳥の言葉って凄ぇんだなぁ」
感心するのも良いけれど、帰る当てを探してあげようよ。このままずっと野宿も大変だろうし。
「そうさな。……だったらそれこそヤンバルクイナを頼ろうぜ。飛空艇の仕組みなんざちんぷんかんぷんだが、見た感じ機体は同じだろ? なら燃料だって同じはずだ」
「だがヤンバルのやつ、遊びに来たのはつい昨日だろ。燃料費踏まえたら当分は来ないんじゃないか?」
「そんときはキーウィには俊生ん家に居候──」
「させねぇよ?」
怒弩寿琥トップ2がキーウィの衣食住を巡る討論を始めたそのときである。
「……ンバー」
遠くから馴染みのある鳴き声が聞こえてきたので振り返ると、ヤンバルクイナ当鳥が飛空艇に乗って飛んできたではないか。
「ヤンバー」
ヤンバルクイナは絶妙な加減で飛空速度を落とし、緩やかに着地する。
「なんでぇ、ヤンバルクイナ。昨日の今日でどうした?」
「ヤンバー」
「なに? 来月は〝沖縄固有種の集まり〟があるから来る日をずらすって伝えに来た?……どうしよう俺も種族言語超越しちゃった」
「奎吾も人のこと言えねぇじゃねぇか。俺も理解っちまったけども」
どうしてキーウィの言葉は理解らなくて、ヤンバルクイナのは理解ったんだろうね。
「交流してきた年月じゃね?」
「よくもまぁ冷静に分析できるな」
「お前と違って落ち着いているからな。この場に限りは他人事だし」
「この野郎」
「ヤンバー?」
「ん? ああ。あいつはキーウィだ。おまえに用があるんだってよ」
「ヤンバー」
説明を受けたヤンバルクイナは、遠くから眺めているキーウィへと近付いた。
「ヤンバ、ヤンバヤンバ」
「キウイキウイ。キウイキウイキウイ」
簡単な挨拶を交わし合い、二羽は交流を開始する。
「ヤンバヤンバ。ヤンバヤンババ、ヤンバババ」
「キウキウイ。キウイキウイ、キウキウイ」
「ヤンバ? ヤンバヤンバヤンバ。ヤンバッババンババ」
「キウイ~。キウイッキ、キウイウイ。キウ~イ~」
「ヤンバ! ヤンバヤンバヤンバッバ! ヤンバ!」
「キウイウイ? キウイキウイイ、キウイウイ!」
「ヤンバヤンバ! ヤンバー!」
「キウイキウイキウイ! キウイー!」
二羽は雌雄を決める喧嘩を始めてしまった。
「ア ニョ ッ‼」
そこへ、何処からともなく現れたアニョペリ鳥が、二羽をひっくり返したとさ。
割って入ったアニョペリ鳥は、脚をバタつかせる二羽を静かに見据え、口を開く。
「……喧嘩しているようなので割り込んでみたが、何があったのだね?」
状況を呑み込めていないアニョペリ鳥に僕は説明した。先程拾ったキウイがキーウィだったこと、キーウィの飛空艇が燃料切れを起こしてしまったこと、ヤンバルクイナと仲良くなったと思いきや仲違いして今に至ったことを赫々鹿々手短に伝えた。
「なるほどな。ならばラップをしなさい」
「はい?」
僕と怒弩寿琥と二羽と赫鹿が首を傾げる。何をもってしてラップなのだろう。
「殴り合いはただお互いを傷つけるばかり。ならばお互いの信念をラップに乗せて決着をつけるのだ。両者構えよ!」
「ヤンバー!」
「キウイー!」
「クルっと巻いてラッピングではなく歌う方だ」
訂正しながらアニョペリ鳥は、翼の中からマイクを二本取り出して、ヤンバルクイナとキーウィに手渡す。
するとそこへ、川から現れたジェットボートを運転していたエミューがギターを──、同じく川から浮上してきた潜水艦からペンギンがベースを──、道路から走ってきたバギーからダチョウがドラムを引っ提げて──バンド隊を結成したのだ。
「鳥がバンド組んだ‼」
「い、一体どうなっちまうってんだ⁉」
「おい怒弩寿琥、今しがたジェットボートが通り過ぎてって鳥がバンドしてる⁉ ……なんだその俺たちにもあった反応だなって顔!」
あまりに豪華な面々に怒弩寿琥は衝撃と興奮を隠せない。そこへ華鳥風月が加わったことで、瞬く間にライブ会場と化した高架橋下のボルテージは増々上がっていく。
「ヤンバ……!」
「キウイ……!」
両鳥はマイクを交わし合って左右に別れ、ことを構えた。
舞台は整った。
「それでは聴いてください。ヤンバルクイナVSキーウィ、演奏は『飛べない鳥はただ鳴らす』です。どうぞ」
軽快なギター演奏からバンドサウンドが鳴り響き、ヤンバルクイナがマイクを構えた。
「ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバッ。ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバッバ。ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバヤンババ。ヤンババッヤンバッヤンバッ」
ヤンバルクイナが先攻を終えて間奏に入ったところで、小倉さんが小声で聞いてくる。
「木下。俺、日常会話レベルしか理解んねぇみたいでさ、なんて歌ってるのか皆目見当もつかん。鳥語理解るってんなら、このラップも翻訳できるか?」
いや、全く。
「なんでだよ。ラップも理解っとけ」
キーウィ次第では理解るかもしれないよ。
と、返事したタイミングで、後攻のキーウィがマイクを手に取った。
「キウイキウイキウイキウイキウイキウイッ。キウイキウイキウイキウイキィウイ~。キウイキウイキウイキウイキウイキウイイ。キウイッキウイッイッイ」
じぇんじぇんさっぱりわけわかめだった。
「どうして?」
「言葉の長さじゃないか? 翻訳できた方は〝キウイー〟の四文字に対して、歌ってる方は言葉の連続だしニュアンスも違う」
「真面目に解析しないでくれ俊生脳みそ溶けるぅ あ 」
小倉さんがとろけてしまっても、歌合戦は続く。
雰囲気的に今歌っているのはBメロで──、
「ヤ~バババ~♪ ヤンバババッバヤンババッババ」
「キ~キ~キウイ~♪ キウキッキキウキッキキウキッキキウイ。キッキキッキキッキキッキキッキウイ!」
遂に二羽の激突はサビへ突入する。
「ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバッバッ! ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバッバ! ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバッバ! ヤンバヤンバヤンバヤンバヤンバババ!」
「キウイキウイキウイキウイキウイッキッ! キウイキウイキウイキウイキッキウイ! キウイキウイキウイキウイキウイッキ! キウイキウイキウイキウイキウイッキ!」
「ヤンバキウイヤンバキウイヤンバッキ! キウイヤンバキウイヤンバキウイッバ! ヤンバキウイヤンバキウイヤンキッバ! キウイヤンバヤンバキウイヤッキッバ‼」
何方からともなく始まったデュエットを終えた途端、二羽から大量の汗が流れ落ちた。そして──
ギター音が鳴り終わると同時に二羽はハグをしたのだった。
両鳥は熱い涙を流していた。全力でぶつかり合った果てに真の絆が芽生えたのは、誰から見ても明白だった。
その後、キウイはヤンバルクイナに飛空艇の燃料を分けてもらい、仲良く飛び立っていったのだった。
◇ ◇ ◇
一年後──。
「ヤンバー」
「キウイー」
「「「ヤンバルキウイー」」」
「先月、子宝に恵まれたそうだ」
「雌雄だった‼」
後に世界を代表する鳥バンドとなることは言うまでもない。
次回は4/22です。ご一読よろしくお願いします。
それでは、せーっの
脳 み そ 溶 け ろ




