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第62話:前前前よ【異世界Part】

前回のあらすじ!

低気圧頭痛ってキツイよね。

 異世界より──。


「たっくんさ~ん」


 いつもの広場にて、普段通りの商品陳列に励んでいると、コウくんが話しかけてきて、周囲の人々はギョッと目を皿にした。


 コウくんはお姉さんのリンねぇさんに似て、滅多に喋らない子だった。言葉を発しはするものの、「おー……」「おー……!」「おー……?」の三段階活用が基本形の少年である。

 即ち、コウくんが文章になる話し方をするのは、思わず目を瞠るほどに極めて珍しい現象だった。


 だが、彼は構わず喋り続ける。


「今日のおススメは何ですか~?」


 ホウェン草がお買い得だよ。旬でたくさん採れたんだ。


「じゃあ、ホウェン草のオムレツ作る~。一束くださ~い」


 へい、毎度。


「ホウェン草って、今が時期なの~?」


 大体そうだよ。他には9月~翌年2月が収穫の狙い目だよ。


「へー」


 コウくんは興味無さ気にホウェン草を手提げ籠に詰めた。


 それにしてもコウくん──、今日は凄い喋るね。トークデーか何かなの?


「わたし、コウくんじゃないよ~」


 え~?


「わたし、リコだよ~」


 真に~?

 と、首を傾げたところで、手提げ籠が目に入る。


 本当だ。よく見たら、リコちゃんが使ってる手提げ籠だ。

 それに──、口の形もコウくんの〝△〟じゃなくてリコちゃんの〝▽〟だし、口調もリコちゃんの口調だった。


 ということは、君はリコちゃんだ。


「リコだよ~」


 コウくんは得意気に腰に手を当てた。


 いやはや、すっかり騙されたよ。コウくん、リコちゃんの真似上手だね。


「? わたし、リコだよ~?」


 コウくんは頭上に〝?〟を浮かべる。議題が堂々巡りになってしまった人に見られる反応だ。今回の場合だと、物真似クオリティに感心されたのが納得いかなかったっぽい。

 要するに、物真似ごっこを終える気はまだ当分先みたいだ。


 これは失敬。ところで、君がリコちゃんなら、コウくんは何処に居るんだい?


「あそこだよ~。お~い、コウく~ん」

「おー……」


 野菜無人販売処と対角線上に居たリコちゃんが、コウくんの返事をしながらとてとて寄ってきた。


「ろー……」


 うん。コウくんだね。

 僕を「ろー」と呼んでくるのは、コウくんだけだもんね。

 ……ああ、成る程。物真似を終えなかったのはリコちゃんも参加していたからか。

 リコちゃんが止めてないのに、勝手に止めちゃ酷だものね。

 それにしても……、リコちゃんもコウくんの真似美味いね。万年おねむ瞼から間延びした口調までそっくりだ。


「おー……?」


 リコちゃんは「ちょっと何言ってるか分かんない」の顔でぬぼっと僕を見上げた。

 あぁ、やっぱり。リコちゃんもコウくんの真似を絶賛続行中だった。


 現状を整理してみたけれどなんだか頭が混乱してきた。二人の遊びについていけない自分がいる。


「たっくんさん、どうしたの~?」

「おー……?」


 頭を抱える僕へ畳みかけるように、リコちゃんモードのコウくんと、コウくんモードのリコちゃんが心配そうに覗き込んでくる。


 しっちゃかめっちゃかだった。

 もう駄目だ。


「コウくん、もう()めよ~。たっくんさん、分かんなくなってる~」

「おー……」


 二人は僕の心境を察してくれたのか、真似合いごっこの終了を宣言した。ありがたいやら、申し訳ないやら。


「それじゃあ、キゾロおじいちゃんのところ行こ~」

「おー……」


 リコちゃん口調のコウくんが名を出した〝キゾロおじいちゃん〟とは道具屋の店主だ。

 しかし……一体どうして道具屋へ向かう必要があるのだろう?


「それは()めてからお話しするよ~」

「おー……」


 心の声、聞こえないでー。て、あ。


「どうしたの~?」

「おー……?」


 二人が振り返ったところには、ちょうど広場を立ち去ろうとする金髪リーゼント吞気フェイスのおじいさんが居た。

 道具屋のキゾロさんだった。


「あ~。キゾロおじいちゃんだ~」

「……! おう、リコとコウとタケタロウでねぇか。でぃでぃでぃでぃでぃでぃでぃ♪ でぃ~でぃっ♪ でぃ~でぃ♪ おうおう、お呼びでっか~?」

「キゾロおじいちゃん。わたしたちを元に戻してくださ~い」

「おー……!」

「おうおう、了解~! ぺいっ」


 キゾロさんは懐から木製のステッキを取り出すと、そこからぺけーっと光芒を放ち、二人に浴びせたのだ。


「わー」

「おー……」


 ステッキが光を終息させたところで、リコちゃんからリコちゃんののほほん元気な声が、コウくんからコウくんのぼんやり元気な声が発せられた。


 二人とステッキを交互に見やり、ようやく事態を吞み込めた。


 キゾロさん。もしかしてそれ、入れ換わりステッキってやつ?


「おう、そうでい。怪我が治ったからよう、リハビリがてら作ったった」


 すごぉい。

 入れ換わり、僕にも使えたりするの?


「もちろん出来るでぃ。へいっ」


 キゾロさんがスイッチを入れると、ステッキから眩い光が放たれた。

 光は僕に触れると、あっという間に全身を覆った。

 更に光は留まることを知らず、広場をはみ出る勢いでどんどん拡がっている。


 ねぇ、キゾロさん。光の範囲広くね?


「おっといかん。出力最大にしとった」


 真に~?


「床間に~」


 スイッチを切ろうにも時すでに遅し。村は入れ換わり光線に包み込まれた。


 ◇ ◇ ◇


 上空より──。

「なんじゃあれは?」


 謎の光が村を中心に最寄りの山まで埋め尽くしていくのを、〝月龍(げつりゅう)(オボロ)〟は捉えた。


 ◇ ◇ ◇


 光が収まり目を開けてみると、僕は森に移動していた。

 更には、周囲の木々が異様に大きくなっていた。というより、僕の目線が低い。


 どういうこったと水たまりを覗き込むと、角ウサギの顔が映っていた。


 あれ〜?

 もしかして、動物と入れ換わってる〜?


 なんてこったパンナコッタ。入れ換わりステッキの効力は村の外まで及んでいたのか。

 このままだと、僕同様村人と入れ換わった動物たちがパニックを起こしちゃう。早いところ村に戻って僕を見つけねば。


 と、先の行動を決めたところで、不意に水面が暗くなった。


「やぁ、竹太郎」


 見上げると、〝七龍日(しちりゅうび)〟の一角──タツさんこと(オボロ)さんが空から僕を見下ろしていた。


 オボロさん。久しぶり。ひと月ぶりくらいだね。


一龍月(一ヶ月)超えたかの? それより、村が光っとったが、ありゃなんじゃ?」


 僕は事の経緯を説明すると、オボロさんは呆れ交じりのため息をついた。


「また彼奴か。この前だって騒ぎを起こしたばかりだったと言うに」


 前は何をしでかしたの?


「そういやお主当時おらんかったの。お主が村に居着くふた月前、風呂場に革命を! と作ったシャワーホースなるものを暴走させて村中を水浸しにし、果てには儂の住居にまで水がぶっ飛んできたのだ。後でキゾロが生贄に捧げられたが丁重にお断りした」


 麓から山頂までとは恐れ入った。


 聞けば、キゾロさんは様々な道具を取り扱う職種故に知識豊富な発明家でもあった。しょうもない発明をしては純粋無垢な子どもたちをダシに村を巻き込む遊びに発展させてやがる傍迷惑(な死に損ない)おじいさんだそう。


 ならば尚更、今回は悠長にしていられない。早急に帰らなきゃ。


「お主を見つけた以上、儂も手伝おう。そうと決まれば止めに行くぞい」


 行こう、行こう。

 龍人形態へのメタモルフォーゼを終えたオボロさんと一緒に、僕は移動を開始した。


 ──ところで、オボロさん。僕がウサギさんになってるの、どうして見抜いたの?


「魔力で見たんじゃよ。姿かたちが変われども、個が内に秘めたる魔力ばかりは変えられんから、ケモノになろうが唐草(からくさ)になろうが魔力を見れば一目瞭然じゃ。強者は魔力をも誤魔化せるがの」


 なるへそー。

 それで奇遇にも見つけたウサギさんが僕だと見抜いて話しかけてきたんだね。


「左様。それはそうとお主、儂の呼び方〝オボロ〟じゃったっけ?」


 この前嘆いてたじゃん。村長の〝タツさん〟呼び矯正し損ねたって。


「気遣いありがとさん。ほれ、抱えてやるから早う行くぞ」


 ぴょんこっこ跳ねるの楽しいよ?


「歩幅の調整がまだるっこしいんじゃよ。また別の機会に入れ替わっとくれ」


 うーい。

 僕はオボロさんの脇に抱えられ、改めて森をあとにした。


 ◇ ◇ ◇


「わぁ、地獄絵図ぅ」


 村に着いて開口一番──思わず吐いた言葉はあっさりと喧騒に吞まれた。


 村は奇行種化した村人で大騒ぎとなっていた。僕同様動物と入れ替わってしまったと思われる一部の村人が老若男女問わず四つん這いで蠢いている。事情を知らない者からすれば気でも触れたかと慄かれても仕方ない光景だ。

 それを鎮静化しようと、人と人とで入れ替わるに済んだらしい村人たちが懸命に縄を持って追い掛け回している最中だった。


 オボロさんも失笑を禁じ得ず、ありのままの感想を述べる。


「へっへっへ。道具一つで阿鼻叫喚になろうとは、人間とはつくづく愉快なものよのう」


 正直、他人事に見てる自分が居るよ。んふふふふ……。


「お主は笑っとる暇ないじゃろう。さっさと身体を探すぞ」


 う~い。


「おや? タツさんではないか」

「うん?」


 お?

 聞き馴染みのある若い女性の声に、オボロさん共々左を見ると、長身金髪ショートのユイねぇさんが、びったんびったん跳ね散らかすおっちゃんを押さえつけていた。

 流石ユイねぇさん。村近辺の暴れモンスターを相手取る狩人の腕は伊達じゃない。

 けれど……、ユイねぇさん、タツさんと馴染みあったっけ?


「もしやその魔力、ゴゼルか。女子と入れ換わっとったか」

「その通りじゃ。こちらの現状も察しとるようじゃの」


 ああ、なるほど。ユイねぇさん㏌村長か。この村でオボロさんと交流あるの、村長と東門番のリグレイさんとリリさん? だけっぽいしね。


「おや? そのウサギ……もしかしてタケタロウか?」

「話が早くて助かるわい。〝フルグレイの魔導士〟の名は廃れとらんの」


 異名が付く辺り、相当有名なんだね。


「にしてもゴゼルよ。心なしか活き活きしとらんか? 何か買った?」

「そうなんじゃよ! もう身体が軽いったらなんの! 腰を気にせんで良いのは何十年ぶりか‼ キゾロも中々ええもん作るわい、偶に菓子折りと引き換えに貸してもらおうかの?」


 村長はユイねぇさんの身体で何回もバク転を決める。

 でも村長さん。貸してもらうにしても、入れ換わってくれる人に当てはあるの?


「言うな‼‼‼‼‼」


 現実は無情だった。


「今後の野望は後にせんか。見た限り、人と入れ換わった動物に難儀しとるようだが、どれ、見かけた手前、協力してやるわい」

「そりゃあ助かる。ではキゾロのやつを捕まえてもらおうかの」

「何? キゾロの小僧居ないのか?」

「騒ぎになったと認めるなり逃げた‼」


 ああ、そうだった。

 キゾロさんは村一番のトラブルメーカーである。加えて重ねてきた発明(事件ともいう)数故か生来の性格故か説教嫌いときて事件を起こすだけ起こしてバックレてしまう悪癖を持っているときた。この前だって「人力車が自力で動くよう魔力を放出する筒付けてみた!」とか言って荷台を星の彼方にするなり持ち主と鬼ごっこおっぱじめていたし。

 正直アラールのマッチョッチョの方が改善の余地があるんじゃないかとすら思う。


「だがゴゼルよ。お主は魔法に関しちゃそこらの連中より使えるじゃろう。肝心の腰も今は壊れとらんのだし、さっさとワプって捕らえればよかろう」

「そうしたいのは山々じゃが、ご覧の通り、村の者と入れ換わってしもうた動物たちがパニクッとるんじゃ。人の身体でなりふり構わず暴れるし、無事な者たちと抑え込もうにも補助魔法で手一杯なんじゃよ。何より──」


「ブっヒヒーン‼ ヒッヒィィィイイン‼‼‼‼‼」


「また来たぞォ!」

「退避ィ‼」


 聞き慣れた大声に振り返ると、アラールのマッチョッチョ㏌馬疑惑が村人を追い掛け回していた。四つん這いなのにえげつない速度で気持ち悪い。


「儂が居なくなった傍から、あやつに村を破壊し尽くされかねん」

「だったら仕方ないな。キゾロの場所は?」

「西通り……いや、北西辺りに行ったやも知れぬ。キゾロと道具どっちも確保じゃぞ。どっちかでも欠けたらいかん」

「あい分かった。竹太郎、しっかり掴まっておれ」


 オボロさんは僕を抱え直し、軽やかに駆けだした。

 僕は広場の喚き叫ぶ声を後ろ耳に聞きながら、広場を去るしか出来なかった。


「村長! 助けてェ‼」

「ほれ馬公! 儂の睡眠魔法で眠らせ──うわぁドリフト走行で避けるゥ⁉」

「ヒッヒィィィイイン‼‼‼‼‼」


 ◇ ◇ ◇


「あそこが村の北西か? 竹太郎よ」


 西通りに駆け込んで暫く進んでいたら、馬牧場の柵が見えてきた。

 馬牧場は僕の勤め先たる農家のおばあちゃん家の真向かいに位置している。ほとぼりが冷めたらおばあちゃんの安否も確認したいな。


「まどろっこしいわい。跳び越えるぞ」


 オボロさんはホップステップと洒落こんで地面を強く踏み込み、滑らかな跳躍で柵内に着地した。

 そこで、僕たちは目にしたのだ。


「トリトトリトリトリリリトッリ(納屋の天井裏に隠れてやがった)!」

「ウシウシウシ! ウッシウシシ(柵前に陣取れ! 絶対逃がすな)!」

「ウママウママママ(体力使わせて潰せ)!」

「メエェェェェェェエエエエエ(キエェェェェェェエエエエエ)!」

「嫌ァァァアお助けェェェェエエエエ‼‼‼‼‼」


 疾うに見つけられていたキゾロさんが、家畜と入れ換わった村人に追い掛け回されている無様な制裁現場を!


「……混ざってくる?」


 うん。

 下ろしてもらってぴょんこっこ。動物集団に加わった僕は、隙を見計らってドロップキックを決め込んでやったとさ。

63・64話が地続きなので4/9・10も投稿します。普段と違うけどよろしくお願いします。

それでは、せーっの


脳 み そ 溶 け ろ

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